米国の中国関連コネクテッド車規制法案、15%出資基準でメルセデスベンツも対象の可能性
2026年9月7日 00:18
米自動車業界は、中国と関係するコネクテッド車や関連技術に対する現行の行政規制を恒久的な連邦法とするよう、米議会に求めている。一方、上院委員会が審議した法案には、対象国の企業などによる出資・支配が15%を超える自動車メーカーも規制する条項があり、Mercedes-Benzが対象となる可能性が指摘されている。法案は成立しておらず、規定の修正を含めて今後の審議が必要となる。
■米自動車業界、恒久的な法規制を要請
米自動車業界団体のAlliance for Automotive Innovation(AAI)は9月3日、米議会指導部に書簡を送り、中国に関連するコネクテッド車、ハードウェア、ソフトウェアの販売、輸入、製造を恒久的に規制する法律を、第119議会が終了するまでに制定するよう求めた。
書簡の宛先は、Mike Johnson下院議長、John Thune上院院内総務、Hakeem Jeffries下院院内総務、Chuck Schumer上院院内総務の4人である。AAIにはGeneral Motors、Ford、Toyota、Volkswagen、Hyundai、Honda、Stellantis、Mercedes-Benzなど、米国で事業を展開する主要自動車メーカーが参加している。
AAIのJohn Bozzella会長兼CEOは、中国の産業政策や補助金、知的財産、安全保障上の懸念を挙げ、中国メーカーが欧州、オーストラリア、東南アジア、メキシコ、南米などで事業を拡大していると主張した。中国メーカーによる米国での本格的な乗用車販売はまだ始まっていないとして、参入前に恒久的な制度を整えるよう促している。
■現行規則が対象とするコネクテッド車
コネクテッド車は、携帯通信、Wi-Fi、Bluetooth、衛星通信などを通じて、車外のネットワークや機器と情報をやり取りできる車両を指す。通信機能は、ナビゲーション、遠隔操作、運行管理、緊急通報、OTAによるソフトウェア更新などに利用される。
こうした車両は位置情報や車両の作動状況などを扱い、搭載する装置によっては車内外の映像や音声も処理する。車外との通信経路やソフトウェア更新の仕組みに第三者が不正にアクセスした場合、データの流出や車載システムへの干渉につながる可能性がある。このため米政府は、外国の敵対勢力と関係する通信機器やソフトウェアを、安全保障上のリスクとして規制している。
米商務省産業安全保障局(BIS)は2025年1月、中国またはロシアと一定の関係を持つコネクテッド車と、その通信システムに使われるハードウェアやソフトウェアを対象とする最終規則を公表した。規則は同年3月17日に発効している。
現行規則では、中国またはロシアの管轄・支配などと関係するメーカーによるコネクテッド車の販売や、対象ソフトウェアを搭載した車両の販売が2027年型から制限される。対象となる車両接続システムのハードウェアについては、2030年型以降を中心に輸入規制が適用される。
BISは一般認可や個別認可の制度も設けており、対象企業はガバナンス、技術、データ管理などを踏まえた審査を受けられる。行政規則であるため、将来の政権が内容を改定する余地があり、AAIは法律によって規制を恒久化するよう求めている。
■上院法案は委員会を通過
上院ではBernie Moreno上院議員とElissa Slotkin上院議員が2026年4月、「Connected Vehicle Security Act of 2026」(S.4429)を提出した。上院商務・科学・運輸委員会は7月22日、修正を前提とする代替案を付して法案を本会議へ送ることを決めた。
公表されている提出時点の法案は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮を対象国とし、これらの国に由来するコネクテッド車、関連ソフトウェア、ハードウェアの輸入、製造、販売、再販、州際通商への投入などを規制する内容となっている。
法案では、自動運転システムの判断や制御を直接可能にする機械学習モデルなども対象ソフトウェアに含めている。違反時の民事制裁金は、取引1件につき150万ドル、または取引額の5倍のうち高い方を下限とする。
下院ではJohn Moolenaar下院議員とDebbie Dingell下院議員が、同名の対応法案(H.R.8730)を提出している。ただし下院法案も成立しておらず、上下両院で同一内容の法案を可決したうえで、大統領の署名を得る必要がある。
■15%基準がMercedes-Benzに波及
法案をめぐる最大の争点の一つが、対象国との資本関係を判断する基準である。提出時点の法案は、対象国の企業などが直接または間接に、持ち分、議決権、取締役会の代表その他の支配指標の15%超を保有・支配する自動車メーカーも、規制対象としている。
この条項をそのまま適用すると、ドイツのMercedes-Benz Groupが対象となる可能性がある。同社の2026年3月末時点の株主構成では、中国国有の自動車大手BAIC Groupが議決権の9.98%を保有する。Geely創業者のLi Shufuも、投資会社Tenaciou3 Prospect Investmentを通じて9.69%を保有しており、両者を合計すると19.67%となる。
上院商務・科学・運輸委員会のTed Cruz委員長は7月の審議で、Mercedes-Benzを禁止することは想定していないとの考えを示し、法律の成立前に規定を変更する必要があると述べた。法案提出者のMoreno氏も、同社が規制への対応や商務省の認可を検討できるとの見方を示している。
このため、Mercedes-Benzが米国市場から排除されることが決まったわけではない。委員会通過後も条文の確定や本会議での審議が残っており、15%という基準の引き上げや、定率基準とは異なる安全保障審査の導入などが検討課題となっている。
■個別認可を得たVolvo Cars、認められなかったPolestar
現行のBIS規則では、企業の本拠地や車両の組立地だけでなく、所有・支配関係、ソフトウェア、通信機器、データ管理の仕組みなどが判断材料となる。対象国と資本関係がある場合でも、BISの個別認可を得られる可能性がある。
中国のZhejiang Geely Holding Groupが過半を保有するVolvo Carsは2026年5月、米商務省から個別認可を得たと発表した。同社によると、ガバナンス、技術、データセキュリティについて米政府機関と協議した結果、米国でコネクテッド車の輸入・販売を継続できることになった。
一方、同じくGeely系のPolestarは同年6月、2027年型以降の車両を販売するための認可をBISから得られなかったと明らかにした。既存在庫の販売や既存顧客へのサービスは継続するものの、2027年型以降の新車販売はできないとしている。
これらの事例は、中国系資本の比率だけで結果が自動的に決まるのではなく、企業統治や技術構成、データ管理を含む個別審査が実際の市場参入を左右することを示している。新たな法案で固定的な出資比率を導入すれば、この認可制度との関係をどのように整理するかも課題となる。
■脅威の中心はデータと遠隔接続
規制を支持する側は、中国の国家情報法や企業に対する政府の影響力を踏まえ、中国と関係する通信システムやソフトウェアが米国内の車両に組み込まれれば、データへのアクセスや遠隔操作のリスクが生じると主張している。
一方、コネクテッド車を利用した中国政府主導の大規模な諜報活動が米国で確認されたわけではない。現在の規制は、実際に発生した事件への事後対応というより、車両の通信経路や更新機能が外国政府の影響下に置かれる可能性をあらかじめ抑える予防的な措置という性格が強い。
携帯通信モデムは車両と外部ネットワークを結び、OTA更新は車載ソフトウェアを遠隔で変更する。こうした入力、通信、更新、制御の経路を誰が管理しているかが、規制の中心的な論点となっている。
■法案成立までには不確定要素
S.4429は上院委員会での審議を通過した段階であり、上院本会議で可決されたわけではない。今後は上院本会議での可決に加え、下院での審議、両院間の条文調整、大統領の署名が必要となる。
AAIは、第119議会が終了する前に法制化するよう求めているが、Mercedes-Benzにも影響し得る15%基準をどのように修正するかは固まっていない。規制対象となる企業や技術の線引き、個別認可の条件、現行のBIS規則との整合性も、今後の審議で詰める必要がある。
米自動車業界と議会には、中国メーカーの参入や安全保障上のリスクに備える一方、米国内で既に事業を展開するメーカーを意図せず規制することのない制度設計が求められている。
元記事: Chinese Vehicle Ban Bill Cleared Committee: Mercedes May Be Its First Casualty