AI半導体需要でTSMCが設備計画を拡大 装置必要量は半年で1.9倍
2026年9月6日 15:10
AI向け半導体の需要拡大を受け、TSMCが2026年の顧客需要に対応するために必要と見積もる半導体製造装置の量は、2026年7月までに2025年末時点の想定の約1.9倍へ増えた。同社は台湾と海外で約20の半導体工場を同時に建設しているが、それでも顧客需要を十分に満たせていないという。
供給能力の拡大には、先端プロセス向けの製造装置、先端パッケージング能力、それらを収容する工場を並行して整備する必要がある。TSMCによると、急速な建設計画の拡大に伴い、台湾と米国では建設人材の不足も課題になっている。
■装置必要量の見積もりが半年で1.9倍に
TSMCのシニアバイスプレジデント兼副共同最高執行責任者であるCliff Houは、台北市で開催されたSEMICON Taiwan 2026のCEO Summitで、装置需要の変化を明らかにした。
TSMCが2025年末に算定した2026年向けの装置必要量を1とすると、その見積もりは2026年第1四半期に1.5倍へ引き上げられ、7月には1.9倍に達した。Cliff Houは、半導体業界での約30年の経験を振り返り、これほど需要が大きく増え、見通しが頻繁に変化する状況は経験したことがないとの認識を示した。
1.9倍という数字は、装置購入額や実際の発注額が一律に1.9倍になったことを示すものではない。2026年の顧客需要に対応するため、TSMCが必要と判断した装置量の見積もりが、2025年末時点から約90%増えたことを意味する。
TSMCは台湾で13、海外で5~6の工場を建設しており、世界全体では約20工場を同時に整備している。従来、同時に建設を進める工場は4~5カ所程度だったといい、現在はその4~5倍の規模で計画を進めている。それでも、顧客から求められる生産能力を十分に確保できていないという。
■2026年の設備投資を600億~640億ドルに引き上げ
TSMCの2026年第2四半期の売上高は402億ドル(約6兆2712億円、1ドル=156円換算)となり、米ドルベースで前年同期比33.7%増加した。台湾ドルベースの増収率は36.0%で、粗利益率は67.7%だった。
旺盛な需要に対応するため、同社は2026年の設備投資見通しを従来の520億~560億ドルから600億~640億ドルへ引き上げた。円換算では約9兆3600億~9兆9840億円となる。従来見通しの上限と新たな見通しの上限を比較した引き上げ幅は約14%である。
設備投資の70~80%は先端プロセスに充て、残りを特殊プロセス、先端パッケージング、テストなどに振り向ける計画だ。TSMCは2026年通年の米ドル建て売上高についても、前年比で40%をやや上回る成長を見込んでいる。
TSMC会長兼最高経営責任者のC.C. Weiは、AI関連の半導体需要が2029~2030年にかけても堅調に推移するとの見方を示している。一方、生産能力の増強には長い時間を要するため、すべての顧客需要に応えられる状態になるまでには時間がかかるとの認識も示した。
■EUVと先端パッケージングの能力増強
先端半導体工場では、空気中の微粒子を厳しく管理するクリーンルームに加え、超純水、特殊ガス、化学薬品などを安定して供給する専用設備が必要になる。微細加工への振動の影響を抑えるため、建屋や製造装置には高度な防振設計も求められる。
先端プロセスで重要な装置の一つが、極端紫外線を使ってウエハー上に微細な回路パターンを形成するEUV露光装置である。ASMLのEUV装置は波長13.5ナノメートルの光を使用し、先端ロジック半導体の微細な層の形成に用いられる。
半導体の製造工程ではEUVだけでなく、深紫外線を使うDUV露光装置も併用される。ASMLは2026年の生産能力を、Low-NA EUVで約65台、DUV液浸露光装置で約130台としている。
ASMLは顧客による能力拡張計画の加速を受け、2027年にLow-NA EUVとDUV液浸露光装置の生産能力をそれぞれ約30%増やす方針だ。2028年についても、そこからさらに約30%拡大する可能性を検討している。
同社は2026年通年の売上高を430億~450億ユーロと予想している。TSMCを含む半導体メーカーの需要拡大が、装置メーカー側の生産能力やサプライチェーンの増強にもつながっている。
AIアクセラレーターでは、ウエハー上に回路を形成する前工程だけでなく、演算用のロジック半導体と広帯域メモリーを接続する先端パッケージングも重要になる。
TSMCのCoWoSは、複数のシステム・オン・チップや広帯域メモリーを一つのパッケージに統合する2.5次元パッケージング技術である。高密度の配線によってロジック半導体とメモリーを接続し、高い演算性能とメモリー帯域を引き出す役割を担う。
CoWoSは2012年に量産が始まり、生成AIの普及に伴って需要が一段と拡大している。先端パッケージング施設にも専用の製造装置や生産環境が必要になるため、TSMCはウエハー製造能力と並行して、パッケージング能力の増強を進めている。
■台湾と海外で約20工場を同時建設
TSMCは台湾で13、米国、日本、ドイツなどの海外で5~6の半導体工場を建設している。約20工場を同時に整備する計画は同社にとって異例の規模であり、建設資材、製造設備、人材を複数の地域で確保する必要がある。
米アリゾナ州では、TSMCが2026年7月16日に1000億ドルの追加投資を発表し、米国で計画する投資総額を2650億ドル(約41兆3400億円)へ引き上げた。追加投資では、2ナノメートル以降の技術に対応する半導体工場を4棟増設する計画である。
これにより、アリゾナ州では半導体工場10棟、先端パッケージング施設2棟、研究開発センターを整備する計画となった。第1工場は2024年末からN4技術による量産を行っている。第2工場は建設を終え、3ナノメートル技術による量産を2027年に始める予定だ。
2650億ドルは複数年にわたる投資計画の総額であり、すでに全額が支出されたことを意味しない。新たに発表された施設について具体的な建設・稼働日程は示されておらず、実際の建設ペースは市場環境や顧客需要に応じて決まる。
■半導体製造装置市場も拡大
業界団体SEMIによると、世界の半導体製造装置売上高は2026年に前年比23.2%増の1659億ドルへ拡大し、2028年には2295億ドルに達する見通しである。
このうちウエハーファブ装置の売上高は、2025年の1169億ドルから2026年に1439億ドルへ増え、2028年には2000億ドル規模に達すると予測されている。先端ロジックに加え、広帯域メモリーに関連するDRAMや先端メモリーへの投資が市場拡大を支える。
AI需要の影響はウエハー製造工程にとどまらない。SEMIは2026年の半導体テスト装置売上高を153億ドル、組み立て・パッケージング装置売上高を67億ドルと予測している。演算用半導体と広帯域メモリーを組み合わせる製品が増えるなか、テストや先端パッケージングへの投資も拡大する見通しだ。
TSMCが示した装置必要量の上方修正は、ASMLのほか、成膜、エッチング、検査などの装置を供給する企業にも影響する。TSMCの調達計画が大幅に増えれば、装置メーカー側も製造能力、部品調達、人員を前もって増やす必要がある。
■台湾と米国で建設人材が不足
能力拡張を進めるTSMCにとって、製造装置と並ぶ課題が工場建設を担う人材である。Cliff HouはSEMICON Taiwanで、台湾と米国の双方で建設人材が不足しているとの認識を示した。
半導体工場の建設には、一般的な建築技術に加え、クリーンルーム、超純水設備、化学薬品や特殊ガスの供給設備、防振構造などに関する専門知識が必要になる。建屋の完成後も、製造装置の搬入や据え付け、各種供給設備との接続、動作確認などに人員を要する。
装置メーカーが生産能力を増やしても、工場建設や装置設置に携わる人材を同じ速度で増やせるとは限らない。複数の国と地域で建設を同時に進めるTSMCにとって、人材の確保と配置は生産能力拡張の進展を左右する要素となる。
■AI半導体の供給拡大には時間
TSMCが装置必要量の見積もりを1.9倍に引き上げたことは、当初計画した生産能力では2026年の顧客需要に十分対応できないと判断したことを示す。もっとも、装置の必要量が増えても、生産能力が同じ比率で直ちに拡大するわけではない。
半導体の供給能力を広げるには、建屋の建設、電力や水などのインフラ整備、製造装置の生産と設置、製造工程の認定、量産立ち上げを順に進める必要がある。AIアクセラレーターでは、先端プロセスによるウエハー生産と先端パッケージングの双方を増強することが重要になる。
TSMCは設備投資を増やし、台湾、米国、日本、ドイツで建設計画を進めている。ASMLも露光装置の生産能力を拡大する方針を示した。それでも、新しい工場や装置が実際の量産能力として立ち上がるまでには時間がかかるため、AI向け半導体の供給能力をめぐる制約は当面続く可能性がある。
元記事: TSMC Equipment Demand Doubled, But Fab Construction Workers Are Running Out