中国製ヒューマノイド、世界生産の9割超占めるも現場投入は約1割
2026年9月3日 22:21
中国メーカーがヒューマノイドロボットの世界生産を主導している。市場調査会社Interact Analysisによると、2025年の世界生産台数は2万台を超え、中国メーカーの割合は90%以上に達した。一方、明確な業務用途を持つ現場に投入された機体は全体の約10%であり、量産規模の拡大を継続的な商業利用につなげられるかが次の焦点となっている。
中国政府は2026年、工場やサービス現場などでロボットを訓練する取り組みを本格化させた。年末までに100以上の価値の高い応用シナリオを整備し、1万台規模の展開に対応できる能力を構築する方針である。これは1万台すべての商業運用を義務付けるものではなく、実環境での検証、データ収集、通常運用へ移行するための基盤づくりを目指した政策だ。
■量産から取引へ軸足を移すWRC
北京で8月19日から23日まで開催された「世界ロボット大会(WRC)2026」には373社が参加し、3,000点を超える製品が展示された。311点の新製品が披露され、今回はバイヤーと供給企業を結び付ける「調達デー」も設けられた。中国のロボット産業が技術展示だけでなく、具体的な用途や取引先の開拓へ軸足を移そうとしていることを示す構成だった。
会場では、CASBOTのロボット4体によるバンド演奏や、Li-Gong LiDian F1による機械部品の分解、仕分け、運搬、再組み立てなど、多様なデモが披露された。こうした実演は運動制御や複数工程の連携を示す一方、一定の条件を整えた展示環境での能力である。実際の導入では、長時間の安定稼働や作業変更への対応、費用対効果まで含めた評価が必要になる。
WRCと一部日程が重なった世界ヒューマノイドロボット競技大会では、移動能力の急速な進歩も示された。北京ヒューマノイドロボット・イノベーションセンターのTiangong Ultraは、大型ロボットの100メートル決勝を8.64秒で走った。これはロボット競技としての記録であり、人間の競技記録とは走行条件や機体特性が異なるものの、高速二足移動の制御技術が大きく向上していることを示している。
■世界生産の9割超を占める中国メーカー
Interact Analysisによると、2025年の世界のヒューマノイドロボット生産台数は2万台を超え、2024年の2,000台未満から約10倍に増えた。中国メーカーはその90%以上を占めた。
ただし、生産された機体の大半は研究開発、ロボット学習用のデータ収集、教育、エンターテインメントに使われた。明確な業務シナリオを持ち、商業価値を生み出す産業用途への投入は約10%だった。産業用途も前年の100台未満からは大きく増えたが、2025年末時点では短期間の実証実験や小規模な管理環境での運用が中心だった。
同社は、大規模な商業利用に向けた主要課題として、自律動作、十分な作業効率と成功率による投資回収、複数タスクへの汎化能力を挙げている。現在のシステムは、この3要素を同時に満たすことが難しい。
中国メーカーの中でも、UnitreeとAgiBotは有力な量産企業となっている。Unitreeの上場資料では、2025年1~9月のヒューマノイドロボット関連売上高のうち、研究・教育分野が70%以上を占め、産業用途は1割前後だった。生産規模の拡大が、そのまま工場での継続稼働台数を意味するわけではないことが分かる。
■政府の目標は「1万台導入」ではなく展開能力の構築
中国の工業情報化部と国務院国有資産監督管理委員会は2026年6月、「人型ロボット・具身知能実景訓練特別行動」を開始した。製造、サービス、特殊作業の現場を利用してロボットを訓練し、年末までに100以上の価値の高い応用シナリオを選定するとともに、1万台規模の展開能力を形成することを掲げている。
対象地域の省級当局には、産業、サービス、特殊作業のうち少なくとも2分野を含む実地訓練拠点を選定することが求められる。中央政府が管理する国有企業にも、それぞれの業界に即した重点シナリオの選定が求められている。
政策の中心は、地方政府や国有企業に完成品を一律購入させることではない。利用企業、ロボットメーカー、部品・アルゴリズム企業、研究機関などが共同体をつくり、実際の職務に合わせて作業能力を検証する仕組みである。政府文書は、出資や融資、保険に加え、ロボットをサービスとして利用するRaaSなどの事業モデルも促している。
この取り組みでは、移動軌跡、力と位置の制御、作業手順などを記録した高品質なデータセットの構築も重視されている。ロボットを現場に置くだけでなく、運用中に得られるデータを制御モデルの改良につなげ、再び現場で検証する循環を形成する狙いがある。
■実環境のデータがモデル改良の鍵
ヒューマノイドロボットの学習では、カメラなどのセンサー情報、言語による指示、関節や手の動作を結び付ける必要がある。現場では、物体の位置や形、照明、人の動き、設備の配置などが変化するため、あらかじめ用意された動作を再生するだけでは対応できない。
VLA(Vision-Language-Action)モデルは、視覚情報と言語指示からロボットの動作を生成する仕組みである。特定の作業を別々にプログラムする方法より柔軟な制御を目指しているが、学習時と異なる設備や物体に遭遇すると、動作の成功率が下がることがある。
実際の工場や倉庫で得られるデータは、こうしたモデルを改善する材料になる。把持に成功したか、物体を落としたか、人や障害物をどのように回避したかといった記録を蓄積できれば、特定の現場への適応を進められる。中国の実地訓練政策は、このデータ収集と検証の規模を政府主導で拡大する取り組みとも位置付けられる。
■当面の導入先は構造化された作業環境
現在のヒューマノイドロボットが導入しやすいのは、作業位置と手順が明確な固定工程、管理された倉庫、危険区域や狭い場所での点検などである。環境の変化を限定できれば、必要な学習データを絞り込み、動作の再現性を高めやすい。
AgiBotは、Longcheer Technologyのタブレット生産施設で、部品の供給や取り出し、仕分けなどにG2ロボットを投入している。UBTECHもWalker S2を自動車や物流分野に展開している。ただし、受注や工場への搬入は、継続的な稼働や生産性向上が確認されたことと同義ではない。
商業利用では、作業速度だけでなく、成功率、停止時間、保守費用、設備変更への対応力を含めて評価する必要がある。人間より遅い作業でも、夜間や危険な環境で安定して動ければ価値を生み出せる場合がある。反対に、高速な動作を短時間示せても、頻繁な調整や人の介入が必要であれば、費用対効果は低下する。
Interact Analysisは、ヒューマノイドロボット市場の本格的な商業化の転換点を2032年ごろと予測し、2035年には年間出荷台数が70万台を超えるとみている。この予測は、自律性や信頼性、作業効率の向上に加え、安全規則や産業標準の整備が進むことを前提としている。
■米国では外国製ロボットの新モデルを規制
米連邦通信委員会(FCC)は2026年7月28日、外国で生産された高度ロボット機器を国家安全保障上の「Covered List」に追加した。対象にはヒューマノイドや四足歩行型などの移動ロボットが含まれる。
規制は中国企業だけを名指ししたものではなく、原則として外国製の該当機器に適用される。新しい対象モデルは、米国で輸入、販売、流通するために必要なFCCの機器認証を取得できなくなる。一方、すでに認証を受けたモデルの販売や利用には直ちに影響せず、一定の条件を満たす製品には承認を受ける仕組みも設けられている。
このため、中国メーカーが米国で新モデルを展開する際には大きな制約となるが、米国市場がすべての中国製ロボットに対して全面的に閉鎖されたわけではない。既存モデル、新モデル、条件付き承認の対象を区別して影響をみる必要がある。
■量産力を商業価値に変えられるか
中国のヒューマノイドロボット産業は、部品供給網と量産能力の面で世界を先行している。競技会や展示会では、二足歩行、物体操作、複数工程の連携といった技術の進歩も目に見える形で示されている。
次の段階では、実際の業務でどれだけ長く安定して働き、生産性や安全性の向上につなげられるかが問われる。評価すべき指標は、製造台数や受注額だけでなく、継続稼働時間、作業成功率、人の介入回数、導入企業による追加発注などへ移っていく。
中国政府の実地訓練政策は、量産されたロボットに具体的な作業環境を与え、データを蓄積する機会を広げる。そこで得られる成果が実証実験にとどまるのか、企業が費用に見合う価値を認めて継続導入する段階まで進むのかが、中国のヒューマノイドロボット産業の商業化を左右する。
元記事: China Builds Humanoid Robots Faster Than Any Factory Can Actually Use Them