【視点】Apple新CEOはAI時代をどう戦うか―ターナス氏の製品重視姿勢と9月イベント
2026年9月2日 23:24
米アップル(Apple)の最高経営責任者(CEO)に就任したジョン・ターナス氏は、従業員向けの最初のメモで、目前の製品発表と、その先にある開発中の製品への期待を強調した。ハードウェア部門を率いてきた同氏の経歴とAppleが開発していると報じられる製品群を踏まえると、新体制では端末、半導体、センサーとAIを一体化した製品づくりが一段と重要になりそうだ。
最初の大きな節目は、米国時間9月9日、日本時間10日午前2時から開かれる新製品発表イベント「Surprise and shine.」となる。Appleは発表製品を明らかにしていないが、iPhone 18 ProシリーズやApple初の折りたたみ式iPhoneなどが登場すると報じられている。
■製品への期待を前面に出した就任メモ
ターナス氏は2026年9月1日付で、ティム・クック氏の後任としてAppleのCEOに就任した。Appleで25年にわたり製品開発に携わり、直近ではハードウェアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントとして、iPhone、Mac、iPad、AirPods、Apple Watchなどの開発を監督してきた。
9to5MacとMacRumorsが報じた従業員向けメモで、ターナス氏はクック氏への敬意と、同氏がエグゼクティブチェアマンとして残ることへの感謝を表明した。そのうえで、翌週に控えた製品発表を「驚異的な発表」と表現し、すでに開発中の製品や、今後生み出される製品への期待を示した。
短いメモだけで新CEOのAI戦略全体を確定することはできない。それでも、政策や経営指標ではなく製品を中心に据えた書き出しは、エンジニアとしてキャリアを重ねてきたターナス氏らしい姿勢を表している。
同氏はCEO就任に合わせてXのアカウントも開設し、「hello」とだけ投稿した。プライバシーや政策上の主張にもXを使ってきたクック氏とは異なり、ターナス氏が社外に向けてどのような発信を行うかは、まだ見えていない。
■9月のイベントでは折りたたみiPhoneが焦点
Appleは9月9日にクパチーノで新製品発表イベントを開催する。日本時間では9月10日午前2時からとなり、Appleのウェブサイト、公式YouTubeチャンネル、Apple TVアプリで配信される予定だ。
複数の報道では、iPhone 18 ProとiPhone 18 Pro Maxに加え、Apple初の折りたたみ式iPhoneが発表される可能性が指摘されている。「iPhone Ultra」と呼ばれるとの予想もあるが、製品名を含め、Appleから正式な発表はない。
折りたたみ式モデルについては、本のように横へ開く形状を採用し、外側に約5.3~5.5インチ、内側に約7.6~7.8インチのディスプレイを備えるとの情報がある。チタン製フレーム、電源ボタン一体型のTouch ID、A20 Proチップなどの搭載も予想されている。
イベントではApple Watch Series 12、Apple Watch Ultra 4なども発表候補に挙がっている。ただし、日本での製品名、発売日、価格、販売方法は明らかになっていない。折りたたみ式モデルが日本でも同時に発売されるかどうかも未確定である。
今回のイベントはターナス氏にとって、CEO就任後初の大規模な製品発表となる。折りたたみ式という新しい形状が利用者にどのような価値をもたらすのか、AI機能を端末体験にどう組み込むのかが、発表の重要な見どころになる。
■センサーを通じてAIに周囲の状況を伝える
Appleが検討していると報じられる将来の製品には、共通した方向性がある。カメラやマイクなどのセンサーを使い、利用者の周囲にある視覚情報や音声をAIの入力として活用する構想だ。
Bloombergの報道によると、Appleはカメラを備えたAirPods、スマートグラス、衣服やネックレスに装着できる小型端末などを開発している。いずれも単独でiPhoneを置き換えるのではなく、iPhoneと接続し、Siriが利用者の置かれた状況を理解するための情報を補う製品として検討されているという。
スマートグラスは写真や動画用のカメラに加え、周囲の状況をSiriに伝えるセンサーを備える可能性がある。初期モデルにはレンズ内の表示機能を搭載せず、音声を中心に操作する構成が想定されている。カメラ付きAirPodsについても、写真撮影より周辺状況の認識を主な目的とする低解像度センサーを採用すると報じられている。
こうした製品では、「入力、解読、出力」という情報処理の構造が重要になる。センサーが周囲の情報を取得し、端末上またはクラウド上のAIが内容を解釈し、Siriが回答や機器操作として出力する。スマートフォンの画面内にとどまらず、利用者が見聞きしている状況をAIとの対話に取り込む発想である。
一方、これらは未発表の開発計画であり、製品化の時期や最終的な仕様は変わる可能性がある。特に衣服などに装着する小型端末は初期段階にあり、開発が見直される可能性も報じられている。
■Apple Siliconが支えるオンデバイスAI
AppleのAI製品戦略を支えるもう一つの要素が、自社設計のApple Siliconである。MacやiPad向けのMシリーズでは、CPUやGPUなどがユニファイドメモリと呼ばれる共通のメモリ領域を利用する。
CPU側のメモリとGPU専用メモリが分かれた構成では、処理内容によって両者の間でデータを転送する必要がある。ユニファイドメモリでは複数の処理装置が共通のデータを扱えるため、転送の重複を抑えやすい。十分なメモリ容量を備えたMacでは、この構造を利用して大規模なAIモデルを端末上で動かすこともできる。
もっとも、ユニファイドメモリだけでクラウド処理が不要になるわけではない。利用可能なモデルの規模や処理速度は、メモリ容量、帯域幅、演算性能、モデルの量子化方法、ソフトウェアの最適化など複数の条件によって変わる。
Appleは8月、同社初の2nmチップとなるM6を発表した。同社発表では、M6は最大170GB/sのユニファイドメモリ帯域とデュアル16コアNeural Engineを備える。M5 Ultraを搭載するMac Studioは最大512GBのユニファイドメモリに対応し、数千億パラメータ規模の大規模言語モデルを端末上で実行できるとしている。これらの性能値はAppleによる測定や説明に基づく。
iPhone 18 Proシリーズなどへの搭載が予想されるA20 Proについても、2nmプロセスを採用するとの見方がある。実現すればiPhone向けチップとしては初の2nm世代となるが、A20 Proの仕様は正式発表前である。Apple全体で最初の2nmチップという位置付けは、すでに発表されたM6に当たる。
TSMCのN2プロセスは、従来のFinFETに代わってナノシート型トランジスタを採用している。微細化による性能や電力効率の改善は期待できるが、スマートフォン用AIアクセラレーターとしての実際の性能や競合製品に対する優位性は、最終的なチップ設計と製品の検証を待つ必要がある。
■端末内処理とGoogleのAIモデルを組み合わせる
AppleのAI戦略は、ハードウェアとオンデバイス処理だけで完結しているわけではない。負荷の軽い処理を端末上で実行する一方、より高度な処理にはクラウド上のモデルを使う構成を採っている。
AppleはGoogleのGeminiモデルをSiriやApple Intelligenceに利用する提携を進めている。報道では、Apple向けに調整された大規模モデルの利用料として、年間約10億ドルをGoogleに支払うとされている。契約の詳細な金額やモデルの技術仕様について、両社がすべてを公表しているわけではない。
外部モデルの採用には、大規模モデルの開発成果を早期に製品へ取り込める利点がある。その一方で、利用量の増加に伴う計算コスト、モデル提供企業への依存、Apple製品としての差別化をどう維持するかが経営上の課題になる。
Appleにとって重要なのは、基盤モデルの規模だけで競うことではない。iPhone、Mac、AirPodsなどの端末、独自半導体、OS、クラウド処理を一体として設計し、外部モデルを利用する場面でもAppleの製品体験やプライバシー保護の仕組みを維持できるかが問われる。
ターナス氏の下で想定されるハードウェア重視の方向性と、Googleのモデルを利用するクラウド戦略は相反するものではない。端末やセンサーが利用者の状況を取得し、処理内容に応じて端末内のモデルとクラウド上のモデルを使い分けることが、AppleのAI体験の中核となる。
■クック氏は政策対応を引き続き支援
クック氏はCEO退任後も、Apple取締役会のエグゼクティブチェアマンとして同社に残る。Appleの公式発表では、世界各国の政策立案者との関係を含む一部業務で、引き続き会社を支援すると説明している。
この役割分担は、製品開発の経験が豊富なターナス氏が製品と技術に集中する一方、クック氏が長年築いてきた政府や規制当局との関係を支える体制とみることができる。
Appleは米司法省から、スマートフォン市場における競争を阻害したとして反トラスト法訴訟を起こされている。2026年7月には、Appleと司法省が早期の和解協議を行っていると報じられたが、合意に至る保証はなく、公判期日も設定されていない。
欧州連合では、デジタル市場法への対応も続く。Appleは、iOS 27およびiPadOS 27で提供する新しいSiri AIについて、EUでの提供を延期すると発表している。Mac向けのmacOS 27とVision Pro向けのvisionOS 27では提供する予定であり、AppleのAI機能全体がEUで利用できないわけではない。
製品開発に加え、競争政策、AIガバナンス、プライバシー、各国の通商政策にどう対応するかは、新CEOにとって避けられない課題となる。クック氏との役割分担が実際の意思決定や対外発信でどのように機能するかも注目点だ。
■クック時代の成長とAIを巡る課題を継承
クック氏がCEOに就任した2011年当時、Appleの時価総額は約3500億ドル、年間売上高は約1080億ドルだった。Appleの公式発表によると、CEO交代を発表した2026年4月時点の時価総額は約4兆ドルに達し、2025会計年度の売上高は4160億ドルを超えた。
クック氏の在任中にはApple Watch、AirPods、Apple Vision Proといった新しい製品カテゴリーが登場し、サービス事業も年間売上高1000億ドルを超える規模へ成長した。MacではIntel製プロセッサからApple Siliconへの移行を実現し、端末、半導体、OSを垂直統合する体制を強化した。
一方、生成AIへの対応、とりわけSiriの刷新では遅れが生じた。AppleはWWDC 2024で、個人情報や画面上の内容を理解してアプリを横断的に操作するSiriの機能を発表したが、提供時期を延期した。
米国では、こうした機能の広告表示を巡る集団訴訟について、Appleが2億5000万ドルを支払う和解案に合意した。Appleは不正行為を認めていないが、AI機能の発表内容と実際の提供時期を一致させることは、利用者からの信頼を保つうえで重要な課題となっている。
■新CEOの方向性を示す最初の製品発表
9月のイベントで発表される製品の多くは、ターナス氏のCEO就任以前から開発されてきたものだ。それでも、各製品をどのような言葉で位置付け、折りたたみ式という新たな形状やAI機能の価値をどう説明するかは、新体制の方向性を読み取る材料になる。
Appleが目指しているとみられるのは、最先端の基盤モデルを単独で保有することだけではなく、端末、半導体、センサー、OS、クラウドモデルを組み合わせ、利用者の状況に応じて動くAI体験を構築することだ。
その戦略が成功するかどうかは、未発表製品の数ではなく、実際に提供される機能の完成度、価格、プライバシーへの配慮、外部モデルを含む運用コストによって決まる。9月のイベントは、ハードウェア開発を率いてきたターナス氏が、これらの要素をAppleの製品としてどうまとめるのかを示す最初の機会となる。
元記事: Ternus Bets Apple Wins AI Through Hardware, Not Models: Day One Sets Strategy