心血管リスク評価はBMIから腹囲併用へ、26万人の研究が示す「中心性脂肪」の重要性
2026年8月13日 23:19
健康診断で体重やBMIが正常範囲でも、心血管疾患のリスクを十分に把握できていない可能性がある。約26万人を中央値20年間追跡した大規模研究では、BMIで普通体重または過体重に分類された人でも、腹囲やウエスト・ヒップ比が高い場合、調査対象となった心血管疾患や死亡の多くでリスクが15〜50%高いことが示された。
研究結果は、BMIだけでなく、腹囲やウエスト・ヒップ比といった中心性脂肪の指標を組み合わせることで、個人の心血管リスクをより詳しく評価できる可能性を示している。ただし、今回の研究は観察研究であり、腹囲の大きさと心血管疾患との因果関係を直接証明したものではない。
■BMIの死角:脂肪の分布を捉えられない理由
BMIは、体重(kg)を身長(m)の2乗で割って算出する指標である。19世紀に集団の体格を記述する統計的な尺度として考案され、その後、過体重や肥満を判定する簡便な指標として医療や公衆衛生で使われるようになった。
BMIの大きな限界は、体内のどこに脂肪が蓄積しているかを区別できず、脂肪組織と筋肉量の違いも反映できない点にある。身長、体重、BMIが同じ2人でも、体脂肪の量や分布は異なる場合があり、それに伴う健康リスクも同一とは限らない。
腹腔内で肝臓や腸などの周囲に蓄積する脂肪は、内臓脂肪と呼ばれる。内臓脂肪組織は、皮膚の下に蓄積する皮下脂肪とは代謝上の性質が異なり、遊離脂肪酸や炎症に関与する物質の放出を通じて、インスリン抵抗性、脂質異常、慢性炎症などと関連する。
一方、腹囲やウエスト・ヒップ比は内臓脂肪を直接測定するものではないものの、腹部の脂肪蓄積を推定するための実用的な指標となる。BMIが正常範囲でも、こうした指標が高ければ、BMIだけでは捉えにくいリスクが存在する可能性がある。
■約26万人・中央値20年間の追跡調査
研究には、複数の大規模な長期研究のデータを統合する「Cross-Cohort Collaboration」の15コホートから、研究開始時点で冠動脈疾患のない成人259,388人が参加した。研究者らは、開始時の腹囲(WC)、ウエスト・ヒップ比(WHR)、BMIと、その後に生じた心筋梗塞、脳卒中、心不全、心房細動、冠動脈疾患、心血管疾患、各種死亡などとの関連を分析した。追跡期間の中央値は20年だった。
米国心臓病学会(ACC)によると、BMIで普通体重に分類された参加者のうち、5%は腹囲が高く、18%はウエスト・ヒップ比が高かった。過体重に分類された人では、それぞれ39%と40%だった。
BMIで普通体重または過体重に分類されながら、腹囲またはウエスト・ヒップ比が臨床上高い範囲にあった人は、これらの指標が低い範囲にある人と比べ、調査対象となった9種類の心血管・死亡アウトカムの多くでリスクが15〜50%高かった。
反対に、BMIで肥満に分類された参加者のうち、9%は腹囲が低く、45%はウエスト・ヒップ比が低かった。BMIでは肥満でも腹囲が低い人は、BMIが普通体重で腹囲も低い人と比べ、多くのアウトカムで統計的に有意なリスク上昇が認められなかった。全死因死亡については、リスクが有意に低かった。
研究のシニアオーサーで、ジョンズ・ホプキンス大学シッカローネ心血管疾患予防センターの臨床研究ディレクターを務めるMichael J. Blaha氏は、「腹囲とウエスト・ヒップ比は、従来のBMIの閾値で定義されたリスクを再分類するようだ」と述べた。
「臨床的には普通体重と判定されても、中心性脂肪が多くウエスト・ヒップ比が高い人では、多くのアウトカムでより高いリスクとの関連がみられた」としている。
■BMIだけに注目すべきではない
『Journal of the American College of Cardiology(JACC)』編集長で、イェール大学医学部教授のHarlan M. Krumholz氏は、研究結果について「BMIだけに注目するのをやめるべき時だ」と述べた。
Krumholz氏は、「数十万人が参加した大規模コホート研究のデータは、BMIが正常とみなされる人でも、腹囲とウエスト・ヒップ比が心血管リスクに関する重要な情報を提供することを示している。脂肪がどこに分布しているかは重要であり、これらの簡単な測定を日常的な心血管リスク評価に組み込むべきだ」としている。
筆頭著者のZeina A. Dardari氏も、BMIが正常範囲または過体重の範囲にある人を含め、中心性脂肪の増加を把握することが重要だと指摘した。
「BMIだけに依存すると、幅広い心血管アウトカムでリスクを誤って分類する可能性がある。一次予防の場で心血管リスクを評価する際には、BMIの区分を問わず中心性脂肪の分布を考慮することを臨床医に勧める」と述べている。
■肥満の評価はBMI単独から変わりつつある
BMIの限界をめぐる議論は新しいものではない。BMIは個人の体脂肪量や脂肪分布を直接測定する指標ではなく、筋肉量などの体組成も区別できない。また、適切な判定基準は年齢、性別、民族的背景などによって異なる可能性がある。
こうした限界を踏まえ、肥満の評価方法を見直す動きが進んでいる。『Lancet Diabetes & Endocrinology』が2025年1月にオンライン発表した臨床的肥満の定義に関する国際委員会の報告は、BMIを個人の健康状態を判断する単独の診断指標ではなく、スクリーニング指標として位置づけた。
同委員会は、BMIに加えて、腹囲、ウエスト・ヒップ比、ウエスト・身長比など、年齢、性別、民族的背景に応じた妥当な身体計測指標を少なくとも1つ用い、過剰な脂肪蓄積を確認することを推奨した。ただし、BMIが40を超える場合は、実務上、過剰な脂肪蓄積があるとみなせるとしている。
また、過剰な脂肪があっても臓器機能が保たれている状態を「前臨床的肥満」、過剰な脂肪によって臓器や組織の機能低下、または日常生活上の大きな制限が生じている状態を「臨床的肥満」と区別した。肥満の存在と、肥満による疾患の診断を分けて考える枠組みである。
今回のJACC研究は、この流れを補強する大規模な縦断データとなる。BMIの区分と中心性脂肪の指標が一致しない人を長期間追跡し、腹囲やウエスト・ヒップ比を追加することで心血管リスクの分類が変わり得ることを示した。
この結果は、BMIが正常範囲でも代謝異常を伴う場合がある「代謝的肥満正常体重(MONW)」と呼ばれる状態とも関連する。ただし、MONWの定義や判定基準は研究によって異なるため、その割合には大きな幅がある。
■腹囲とウエスト・ヒップ比の測り方
腹囲とウエスト・ヒップ比は、伸縮しない柔らかい巻尺があれば測定できる。ただし、測定位置や姿勢が異なると数値が変わる可能性があるため、同じ方法で繰り返し測ることが重要だ。
腹囲の標準的な測定方法は機関によって異なる。世界保健機関(WHO)の手順では、一番下の触知できる肋骨の下端と、腸骨稜の上端との中間点に巻尺を水平に当てる。一方、米国国立心肺血液研究所(NHLBI)の手順では、腸骨稜の上端付近で測定する。
いずれの方法でも、立った状態で腹部をリラックスさせ、通常の呼気の終わりに、巻尺が水平であることを確認する。巻尺は皮膚を圧迫しない程度に密着させる。へその位置は分かりやすいが、標準的な測定位置とは一致しない場合がある。
ウエスト・ヒップ比は、腹囲を臀部の最も広い部分で測ったヒップ周囲径で割って算出する。例えば腹囲が80cm、ヒップ周囲径が100cmなら、ウエスト・ヒップ比は0.80となる。
WHOが示してきた中心性肥満の目安の一つは、ウエスト・ヒップ比が男性で0.90以上、女性で0.85以上である。ただし、リスクを判定する適切な閾値は、性別、年齢、民族的背景、測定方法などによって異なり得る。
米国のNHLBIが示す腹囲の基準では、男性は102cm超、女性は88cm超で、2型糖尿病、高血圧、心血管疾患などのリスクが高まる可能性があるとされている。これは米国の成人を主な対象として示された基準であり、あらゆる集団に一律に適用できる診断値ではない。
2020年に『BMJ』に掲載された72件の前向きコホート研究、計252万8,297人を対象とするメタアナリシスでは、腹囲が10cm大きくなるごとに、全死因死亡リスクが全体で11%高いことと関連していた。男女別の解析では、男性で8%、女性で12%高かった。ただし、腹囲と死亡リスクの関係は単純な直線ではなく、年齢やほかの要因によっても異なる。
■研究が証明できないこと
今回の研究では、腹囲とウエスト・ヒップ比を追跡開始時に1回だけ測定している。このため、その後の体重や腹囲の変化が、心血管リスクにどう影響したかは評価できない。追跡中に腹囲が減少または増加した人も、開始時の測定値に基づいて分類されている。
また、データには身体活動、食事、肥満に関する遺伝的リスクの情報が含まれていなかった。研究で確認された関連の一部には、腹囲と相関する未測定の生活習慣や生物学的要因が影響している可能性がある。
観察研究であるため、腹囲やウエスト・ヒップ比の高さが心血管疾患を直接引き起こしたと断定することもできない。また、腹囲を減らすことが、今回示された数値と同じ程度に心筋梗塞や脳卒中のリスクを低下させるとも結論づけられない。
腹囲とウエスト・ヒップ比は、内臓脂肪を直接測定する方法ではない。CTやMRIを使えば脂肪の位置や量を画像として評価できるが、費用や設備、検査負担などの点から、一般的なスクリーニングに広く用いることは難しい。
同じ腹囲の人でも、皮下脂肪と内臓脂肪の割合や腹腔内での脂肪分布は異なる可能性がある。このため、腹囲だけで個人の心血管リスクを診断するのではなく、血圧、血糖、脂質、喫煙歴、家族歴などと合わせて評価する必要がある。
■健診や診察で確認したいこと
今回の研究は、BMIだけでは個人の心血管リスクを十分に捉えられない場合があり、腹囲やウエスト・ヒップ比を追加することで評価を補える可能性を示している。
もっとも、腹囲やウエスト・ヒップ比が基準を超えたことだけで、心血管疾患や肥満と診断されるわけではない。測定方法による誤差や集団ごとの基準の違いもあるため、数値が気になる場合は、自己判断だけで結論を出さず、健康診断や医療機関でほかのリスク要因と合わせて確認することが適切だ。
研究チームとJACC編集長は、腹囲などの中心性脂肪の指標を日常的な心血管リスク評価に取り入れるよう呼びかけている。BMIを廃止するというより、BMIだけに依存せず、複数の指標で体脂肪の量と分布、健康への影響を評価することが重要になる。
■注目ポイントQ&A
●心疾患のリスク評価において、腹囲とBMIの違いは何ですか?
BMIは身長に対する体重の比率を示しますが、脂肪と筋肉を区別できず、脂肪が体のどこに分布しているかも分かりません。腹囲とウエスト・ヒップ比は内臓脂肪を直接測定するものではありませんが、腹部の脂肪蓄積を推定する実用的な指標です。今回の研究では、BMIにこれらの指標を加えることで、心血管リスクの分類が改善する可能性が示されました。
●BMIが正常でも心疾患のリスクが高いことはありますか?
はい。今回の研究では、BMIで普通体重に分類された参加者のうち、18%はウエスト・ヒップ比が高く、5%は腹囲が高い範囲にありました。BMIで普通体重または過体重でも、腹囲やウエスト・ヒップ比が高い人は、これらの指標が低い人と比べ、多くの心血管・死亡アウトカムで15〜50%高いリスクと関連していました。ただし、これは集団を比較した統計上の関連であり、個人の発症確率をそのまま表す数値ではありません。
●心血管リスクの上昇を示す腹囲はどのくらいですか?
米国NHLBIの基準では、男性で102cm超、女性で88cm超がリスク上昇の目安とされています。WHOが示してきたウエスト・ヒップ比の目安は、男性で0.90以上、女性で0.85以上です。ただし、適切な閾値は民族的背景、年齢、性別、測定方法などによって異なります。基準を超えたことだけで病気と診断されるわけではないため、ほかのリスク要因と合わせて医療機関で評価することが大切です。
●なぜBMIは今も使われているのですか?
BMIは身長と体重だけで簡単に計算でき、集団の傾向を調べたり、追加の評価が必要な人を見つけたりするスクリーニング指標として有用だからです。一方、個人の体脂肪量や脂肪分布、健康状態をBMIだけで判断することには限界があります。2025年に発表されたLancet委員会の報告も、BMIを単独の診断指標ではなくスクリーニング指標として用い、必要に応じて腹囲などを追加するよう推奨しています。
元記事: Elevated Waist Size Means 50% Greater Heart Risk Even With Normal BMI, Study Finds