AI半導体の供給制約、製造から先端パッケージングへ CoWoSとABFが不足
2026年7月29日 11:41
AIインフラを計画する企業にとって、供給上の最大の制約は半導体製造から先端パッケージングとIC基板へ移りつつある。CoWoSの組み立てには52〜78週間、ABF基板にはさらに16〜24週間かかっており、2027〜2028年の導入計画には早期の供給確保が重要になる。ただし、需要や供給不足の規模には業界推計やアナリスト予測も含まれる。
■ボトルネックは半導体製造からパッケージングへ
半導体業界では長年、ファウンドリーがトランジスタの微細化を進め、十分な量のウエハーを製造し、人工知能(AI)の急増する需要に対応できるかが懸念されてきた。しかし、世界の半導体基板メーカーの中でも戦略的に重要な位置を占める企業のCEOによると、そのボトルネックは、AIインフラの計画で十分に織り込まれてこなかったサプライチェーン上の工程へ移った。
オーストリアのAT&S Austria Technologie & Systemtechnik AGでCEOを務めるマイケル・メルティン氏は、マレーシアからNikkei Asiaの取材に応じ、「ボトルネックは移った。もはや半導体製造ではなく、パッケージングだ」と語った。
ウィーン証券取引所に上場するAT&Sは、IC基板と高性能プリント基板を製造する。基板や接続材料、プロセッサー下部の配線など、先端AIアクセラレーター内で半導体ダイ同士を接続する物理的な土台を供給している。メルティン氏によると、現在の需要は業界の供給能力を大きく上回っている。
■すべてのAIチップが通るCoWoS工程
現在のAIアクセラレーターは、単一のシリコンダイではない。NVIDIAのBlackwellやRubin、AMDのMIシリーズ、Google、Amazon、Metaが開発するカスタムASICは、演算を担うロジックダイ、データ転送用の広帯域メモリー(HBM)、入出力部品など、複数のチップレットを高精度に組み合わせた構造である。その接続を可能にするのが、TSMCの先端パッケージング技術「Chip on Wafer on Substrate(CoWoS、カウオス)」だ。
CoWoSでは、GPUのロジックダイとHBMスタックを、インターポーザーと呼ばれる受動型のシリコン接続基板上に並べる。TSMCの技術資料によると、インターポーザーにはシリコン貫通電極(TSV)と呼ばれる微細な銅充填チャネルが設けられ、従来のプリント基板配線では実現できない毎秒テラバイト級のメモリー帯域を可能にする。これは現代の大規模言語モデルの実行に必要なデータ転送速度である。組み立てたチップとメモリーは、AT&Sが製造する有機基板に搭載され、サーバー基板へ接続される。
CoWoSを経なければ、正常に製造された3ナノメートルのウエハーも、機能するAIチップにはならない。長い製造工程の最後にある必須工程であり、その供給枠が埋まっている。
TSMCの魏哲家(C.C. Wei)CEOは6月の年次株主総会で、CoWoSの生産能力について「極めて逼迫しており、2026年末まで売り切れている」と説明した。CoWoS組み立てのリードタイムは52〜78週間に達しており、現時点で発注するAIチップ設計企業は、多くの場合、2028年半ばより前の納品を合理的には期待できないという。
TSMCはCoWoSの月産能力を、2024年末の約3万5000枚から2026年末には13万枚へ引き上げる計画で、2年足らずで約4倍に増やそうとしている。それでも同社の予測では不足する。2026年の需要は年間約100万枚と推定される一方、供給はその約80%にとどまる。
■NVIDIAが世界のCoWoS能力の約6割を確保か
供給が需要に追いつかない大きな理由の一つが、NVIDIAへの割り当ての集中である。同社は2026年の世界のCoWoS能力の約60%に相当する約59万5000枚を確保していると推定される。TSMCの生産ラインに加え、第三者のパッケージング企業であるAmkorとASEの補完的な能力も含む。
NVIDIA、Broadcom、AMDの上位3社を合わせると、全能力の推定85%以上を占める。資金力のある新興企業やAmazon、Googleのハイパースケーラー向けASIC開発チームを含む比較的小規模な企業は、残りの能力を争うことになる。
価格にも供給不足が表れている。先端パッケージング価格の上昇率は、基礎となるウエハー価格の2〜4倍に達している。従来はダイ1個当たりのコストを軸に競争してきたサプライチェーンとしては、異例の逆転現象である。
■ABFは約95%を1社が供給
CoWoSの能力不足と基板材料の不足は関連しているが、構造的には別の問題であり、後者はある意味でさらに深刻だ。CoWoSは専門設備の少なさと新設に要する長い期間によって制約されるが、時間と資本を投じれば増設できる。これに対し、高性能AIチップの基板に使われる重要な絶縁材料「Ajinomoto Build-up Film(ABF)」は、味の素ファインテクノが世界市場の約95%を供給している。
味の素は、うま味調味料で知られる日本の食品・化学企業である。その子会社が、NVIDIAのGPU、AMD Instinctアクセラレーター、高性能ネットワークASICの基板に使われる材料を供給している。
AIアクセラレーターの複雑化に伴い、パッケージングの層数は3層から11層へ増えた。このため、チップの数量が増えなくても、チップ1個当たりのABF消費量は大幅に拡大した。結果として、ABFの需給差は生産能力の拡大を上回るペースで広がっている。
味の素は2026年5月、基板メーカーに対してABFフィルムを約30%値上げし、同年第3四半期から新価格を適用すると通知した。日本のレゾナックと三菱ガス化学による銅張積層板材料の同様の値上げも重なり、IC基板サプライチェーン全体にコスト圧力がかかっている。基板メーカーにとって、ABFフィルムの30%の値上げは完成基板価格の3〜6%上昇につながる。
業界予測では、ABFの供給不足は2026年下半期に約10%、2027年に約21%へ拡大し、AIチップの大型化と多層化が続けば2028年には40%を超える可能性がある。完成済みABF基板のリードタイムは16〜24週間で、2027年まで同水準が続くと予想されている。
Samsung Electro-MechanicsはABF基板の生産ライン拡張に12億ドル(約1968億円、1ドル=164円換算)を投じると発表したが、量産開始は2027年第3四半期になる見通しだ。味の素も岐阜県に3カ所目のABF生産施設を計画している。土地取得への投資額は12億円(約730万ドル)で、完成目標は2032年である。それでもアナリストは、需給差が縮小に転じる前に拡大すると予測する。原文に記載されたドルなどの換算値は2026年7月26〜27日時点で、概算である。
台湾の主要基板メーカー3社、Unimicron、Kinsus Interconnect、Nan Ya PCBはフル稼働しており、年末までその状態が続くとみられている。
■AT&S、AI時代の基板供給に28億5000万ドルを投資
供給制約が続く中、AT&SはAI時代の有力な基板パートナーになるため、28億5000万ドル(約4674億円、1ドル=164円換算。25億ユーロ超)を投じている。同社の株価は、市場がこの戦略を評価していることを示している。
メルティン氏がCEOに就任した2025年初め、AT&Sの株価は約13ユーロ(約15ドル、約2460円)だった。当時の同社は、前任者の下で進めた拡張に伴う厳しい局面を経験していた。その後、マレーシア・クリム工場に15億〜20億ユーロ(約17億1000万〜22億8000万ドル、約2804億〜3739億円)を投じる拡張計画を発表。2026年6月には株価が過去最高の約200ユーロ(約228ドル、約3万7392円)に達し、時価総額は約75億8000万ユーロ(約86億4000万ドル、約1兆4170億円)となった。
この拡張は、AMDと、AT&Sが社名を公表していない別のテクノロジー企業による長期供給契約に支えられている。業界関係者は、2社目をIntelとしている。AT&Sの2025〜2026年度の連結売上高は18億ユーロ(約20億5000万ドル、約3362億円)で、為替調整後では前年度比21%増となった。
AT&Sはクリム工場の生産能力が立ち上がるのに合わせ、米国の大手テクノロジー企業を少なくとも5社、顧客にすることを目指す。同時に、中国・重慶工場も拡張し、モバイル・消費者向け分野の別の顧客層に対応する。
■基板メーカーも設計初期から共同開発へ
メルティン氏は、AIブームによってチップ設計企業とパッケージング供給企業の関係にも構造的な変化が生じ、業界はまだ十分に適応できていないと主張する。同氏はNikkei Asiaに対し、「協力し、考え、共同のロードマップを持たなければならない」と語った。
従来の半導体サプライチェーンで、パッケージング企業は主にコモディティーの供給者だった。仕様を受け取り、受注に応じて製造し、主としてコストと歩留まりで競争していた。しかしメルティン氏によると、このモデルはもはや機能しない。
AIアクセラレーターでは、メモリー、ロジック、入出力部品を高密度な2.5D・3D構成で集積し、単一基板上のチップレット数を増やしている。このため、通信密度と電力供給に対する要求が基板自体の主要な設計制約となる。基板は受動的な支持体ではなく、チップアーキテクチャーを構成する要素になった。
AT&Sのような基板メーカーは、設計の初期段階から参加し、チップ設計企業と材料仕様、層数、配線形状を共同開発する必要がある。メルティン氏は以前、IC基板の複雑さを「80階建ての超高層ビルに配線し、その複雑さを数百万倍にしたうえで、小さな平面デバイスに圧縮するようなもの」と表現した。
この変化は競争環境にも大きな影響を与える。顧客と共同開発関係を築き、機密性の高い共同ロードマップを維持できるパッケージング企業は、距離を置いた受託製造企業より構造的に有利になる。また、新規参入企業には製造規模だけでなく、顧客と密接に連携できる技術力も求められるため、参入障壁は高まる。
■増産には2〜4年、在庫調整では解消できず
2026年第1四半期までに、供給制約は半導体だけでなく、特殊ガス、電力部品、先端光学部品、冷却・熱管理インフラへ同時に広がった。複数の品目が同時に不足し、リードタイムは20週間から、最も制約の厳しい品目では128週間超に達している。
アナリストと業界幹部は、今回の不足は、2021〜2022年のパンデミック期の供給逼迫後に起きた半導体の供給過剰とは構造的に異なるとみている。当時は余剰チップがサプライチェーン内で消化され、在庫調整によって需要と供給が再均衡した。
現在不足しているABFフィルム、特殊ガラス繊維布、先端基板は製造時に消費され、流通在庫が積み上がっていないため、同じ方法では解消できない。一方、ハイパースケーラーの需要は複数年にわたり設備投資として確約されており、需要シグナルを弱めるような消費者需要の正常化も見込まれていない。
供給を是正するには新たな生産能力が必要だ。ABFフィルム、IC基板、CoWoSパッケージング設備が、投資決定から量産に至るまでには2〜4年かかる。
Microsoft、Google、Amazon、Metaと競合各社が数千億ドル規模の設備投資を投じるデータセンター、学習クラスター、推論サーバーは、増産に数年を要し、少数の高度な専門メーカーが支配し、すでに限界稼働しているサプライチェーンに依存している。半導体自体は製造されていても、それを完成品にするパッケージと基板は、しばしば不足している。
■注目ポイントQ&A
●CoWoSとは何ですか。なぜAIチップのボトルネックになるのですか?
CoWoSは「Chip on Wafer on Substrate」の略で、AIプロセッサーとHBMを単一の高性能ユニットとして物理的に接続するTSMCの先端パッケージング技術です。これを経なければ、製造済みのAIチップダイを出荷可能な製品にできません。専用設備や施設、工程の整備には数年を要します。Silicon Analystsの割り当てトラッカーによると、NVIDIAが利用可能な能力の約60%を確保しているとされ、AIチップ企業の需要がTSMCの急速な能力拡大を上回っています。
●ABFとは何ですか。誰が製造していますか?
Ajinomoto Build-up Film(ABF)は、パッケージ化したAIチップと回路基板をつなぐ有機基板内部の絶縁層です。現代のチップに必要な微細な銅配線を可能にし、現在のIC基板製造では代替が難しい材料です。味の素ファインテクノが1990年代に開発し、1999年に初めて商用化しました。競合企業が専門的な化学技術を競争力のある規模で再現できていないため、同社は世界市場の約95%を占めています。
●先端パッケージングの納期はどのくらいですか?
NVIDIA以外の多くの顧客では、CoWoSの組み立てに52〜78週間、ABF基板にさらに16〜24週間かかっています。現在AIインフラを計画する企業やクラウド事業者は、シリコン製造の期間とは別に、パッケージングと基板の供給網が納期を少なくとも1〜2年延ばす前提で考える必要があります。このため、2027〜2028年の導入に向けて、現在の供給契約が重要になります。
●AT&Sはどのような企業ですか?
AT&S Austria Technologie & Systemtechnik AGは、オーストリア・レオーベンに本社を置くIC基板・高性能プリント基板メーカーです。マレーシアのクリム、中国の重慶、オーストリアのレオーベンに主要生産拠点を持ち、AI向け先端IC基板を大量生産できる数少ない企業の一つです。チップアセンブリーとサーバー基板の間に置かれる物理基板を製造しており、適格な供給企業がなければ、製造済みシリコンを出荷可能なAIアクセラレーターにできません。
元記事: AI Supply Crisis Moves Upstream: Advanced Packaging Becomes the Binding Constraint