100万円保有でコスト差は年約189円?オルカンとS&P500の信託報酬を徹底比較

2026年7月25日 14:45

新NISAの普及に伴い、個人投資家の間で圧倒的な支持を集めるインデックス投資信託。その代表格である「オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式〈オール・カントリー〉)」は、これ1本で世界中の株式に投資できる手軽さが魅力とされている。しかし、その投資実態やコスト構造について、正確に把握できているだろうか。本稿では、オルカンの詳細な仕組みを「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」との比較を交えて解説し、投資家自身が確認すべき判断軸を整理する。

■全世界株式の「米国化」という実態

オルカンは、MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI)に連動する投資信託であり、日本を含む23の先進国・地域と24の新興国・地域(計47カ国・地域)をカバーしている。マザーファンドを通じて実質的に投資している株式の銘柄数は2,416銘柄(2026年6月30日時点の月次レポート)にのぼり、文字通り全世界に分散投資を行っているように見える。

しかし、その中身を詳細に見ると、特定の国への偏りが大きいことに気づく。ファンドの国・地域別実質組入比率において、米国株式が占める割合は63.0%(2026年6月30日時点の月次レポート)と、全体の6割強に達している。なお、対象指数であるMSCI ACWIの国・地域別構成比においても、米国は64.7%(2025年9月末時点)を占めており、指数構成比とファンドの実質組入比率は現金や先物等の影響で完全には一致しないものの、いずれも米国株が圧倒的な主役である事実に変わりはない。

組入上位銘柄には、NVIDIA、Apple、Microsoft、Amazon、Alphabetなど、米国の巨大テクノロジー企業が並ぶ。日本株の比率は約5%にとどまり、これに英国、カナダ、中国、台湾、フランス、インドなどが続く構成だ。このように、全世界に分散しているとはいえ、オルカンの値動きは米国株の動向に強く左右される実態がある。米国のみを対象とするS&P500との違いは、米国以外の約4割の国・地域にも分散されている点にあるが、オルカンにおける米国株部分とS&P500の構成が完全に一致するわけではない点にも留意が必要だろう。

■信託報酬の仕組みと100万円あたりのコスト試算

オルカンとS&P500のもう一つの注目点は、極めて低い信託報酬である。オルカンの信託報酬率は年率0.05775%(税込)以内、S&P500は年率0.08140%(税込)以内と設定されている。さらに、両ファンドは純資産総額に応じて段階的に信託報酬率を引き下げる「受益者還元型信託報酬率」を導入している。

オルカンの受益者還元型信託報酬率は、5,000億円未満の部分に0.05775%、5,000億円以上1兆円未満の部分に0.05764%、1兆円以上の部分に0.05753%が適用される。純資産総額が約13.07兆円(2026年7月14日時点)に達しているオルカンでは、これらを加重平均した信託報酬率は年率約0.0575%(税込)となる。上限率である0.05775%との差は年約0.0002ポイント(100万円あたり年約2円)であり、1兆円以上の部分の料率が一律である。1兆円以上の部分には0.05753%が適用されるため、純資産総額がさらに増加すると、ファンド全体の加重平均料率は0.05753%に近づく。

一方、S&P500の区分はより細かく、1兆円未満の部分に0.08140%、1兆円以上3兆円未満の部分に0.07700%、3兆円以上5兆円未満の部分に0.07590%、5兆円以上10兆円未満の部分に0.07579%、10兆円以上の部分に0.07568%が適用される。純資産総額が約12.54兆円(2026年7月14日時点)の現在、加重平均した信託報酬率は年率約0.0764%(税込)となる。

ここで、評価額が年間を通じて100万円で一定だったと仮定し、1年間の保有コスト(信託報酬額)を比較してみよう。目論見書記載の上限率で計算した場合、オルカンは年約578円(100万円×0.05775%)、S&P500は年約814円(100万円×0.0814%)となり、その差は年約237円である。一方、現在の純資産総額を基にした加重平均信託報酬率で計算した場合、オルカンは年約575円(100万円×約0.0575%)、S&P500は年約764円(100万円×約0.0764%)となり、差額は年約189円に縮小する。

このように、信託報酬に限れば、現在の加重平均料率は上限率を下回り、両者の差はさらに小さくなる。ただし、これらは信託報酬のみの試算であり、売買委託手数料、有価証券取引税、監査費用、海外保管費用などを含む総費用とは異なる。なお、「総経費率」には売買委託手数料や有価証券取引税が含まれないため、比較に際しては運用報告書の「1万口当たりの費用明細」も確認する必要がある。また、S&P500では有価証券の貸付を行った場合、品貸料の49.5%(税抜45.0%)以内の額が運用管理費用に加算される仕組みもある。その他費用によって両者の総コスト差が拡大または縮小する可能性があるため、信託報酬だけで最終的なコスト効率を断定せず、各期の運用報告書で総経費率や費用明細を確認する必要がある。


■為替ヘッジなしがもたらす為替変動リスク

両ファンドに共通する重要な特徴として、外貨建資産に対する為替ヘッジを原則として行わない点が挙げられる。これは、円建ての基準価額が、投資先株式の現地通貨建て価格の変動だけでなく、為替相場の変動からも直接的に影響を受けることを意味する。なお、オルカンに含まれる日本株部分(約5%)については、円換算に伴う直接的な為替影響は生じない。

具体的な影響を試算してみよう。仮に米ドル建て株式の価格が全く変動しない状況で、1ドル150円から135円へと10%の円高が進んだとする。この場合、米ドル建て資産の円換算評価額は、為替変動とほぼ同等の約10%減少することになる。

S&P500は実質的な投資対象の大半が米国株であるため、株価が一定という単純化した前提では、ドル円相場の変動がファンド全体の円換算評価額にほぼ同じ方向・大きさで影響する。一方、オルカンも米国株が6割強を占めるためドル円の影響を強く受けるものの、日本株や米ドル以外の外貨建て資産(ユーロやポンド、新興国通貨など)も内包しているため、ファンド全体への影響は一律ではない。近年の円建てリターンには、世界的な株高だけでなく、歴史的な円安進行によるプラスの効果が含まれていたことを認識しておく必要がありそうだ。

■「半分ずつ保有」に潜む米国集中の盲点

投資家の間でしばしば見られるのが、「オルカンとS&P500のどちらが良いか決められないため、半分ずつ購入して分散を図る」というアプローチである。一見すると、全世界への分散と米国の成長性の双方を取り入れたバランスの良い選択肢に思えるかもしれない。しかし、その実態は「米国へのさらなる集中投資」である。

オルカンの米国株式比率を約63%(2026年6月30日時点の実質組入比率)とし、S&P500の米国比率を100%として、両ファンドを50%ずつ保有した場合を単純計算してみる。オルカン経由の米国比率は31.5%(63%×0.5)、S&P500経由の米国比率は50.0%(100%×0.5)となり、ポートフォリオ全体の米国比率は合計で81.5%(約82%)に達する。

このように、半分ずつ保有したポートフォリオでは、全体の約82%を米国株が占めることになる。これは、オルカン単体(約63%)よりもはるかに米国への依存度を高めた状態である。「2つのファンドに分けた」という安心感とは裏腹に、米国市場の動向やドル円の為替リスクに対して敏感なポートフォリオが構築されている事実に注意を払う必要がある。


■判断軸別の整理

オルカンとS&P500のどちらを選択すべきか、あるいはどのように組み合わせるべきかについては、一概にどちらが優れているかを断定することはできない。今後も米国が世界の株式市場を牽引し続けるか否かは不確実だからである。投資家は、自身の投資スタンスやリスク許容度に応じて判断する必要がある。以下に、読者が自身の状況から逆算するための判断軸を整理する。

国や地域の分散効果を最優先に重視する読者には、オルカンを選択することが整合的といえるだろう。米国株が6割強を占めるとはいえ、残り約4割で欧州や日本、新興国など約47カ国・地域に幅広く分散投資ができるため、特定の国が長期的に低迷するリスクを和らげる効果が期待されるからである。

米国を本拠とする大型企業の利益成長やイノベーション力、株価上昇を重視する読者には、S&P500を選択することが整合的と考えられる。米国の主要500社に投資を集中させることで、米国の経済成長の恩恵をダイレクトに享受することを目指すアプローチとなる。

信託報酬やその他の保有コストの絶対的な低さを重視する読者には、両ファンドの加重平均信託報酬率や実質コストの推移を注視することが整合的と考えられる。加重平均ベースではオルカンが約0.0575%、S&P500が約0.0764%(いずれも2026年7月14日時点)と僅かな差ではあるが、長期の積立投資においてコストの最小化を徹底したい場合は、これらの微細な差異や、運用報告書に記載される「その他費用」を含めた実質コストの動向を定期的に確認する必要がある。

※本記事は、マーケットに関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。掲載内容は作成時点の情報に基づいており、その正確性、完全性、将来の成果を保証するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。

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