AzureがAMDのオープン規格ラック「Helios」を大規模採用、Nvidiaのインフラ独占に挑む

2026年7月22日 18:07

MicrosoftとAMDは、AIインフラにおける提携の全面的な拡大を発表した。Microsoftのクラウドサービス「Azure」において、AMDのオープン規格ベースのラックスケールAIシステム「Helios」を大規模に導入する。この動きは、Nvidiaが独自規格「NVLink」で支配するAIインフラ市場において、オープンな相互接続規格「UALink」の普及を後押しし、特定のベンダーへの依存を打破する戦略的な一歩とみられている。

■提携拡大の背景と戦略的意義

AMDとMicrosoftは、AIインフラにおける提携の全面的な拡大を発表した。Microsoftのクラウドサービス「Azure」において、AMDのHeliosラックスケールソリューションを大規模に導入する。この決定は、Heliosを有望な競合製品から、ハイパースケーラーに実証されたプラットフォームへと引き上げる、本番規模の包括的なコミットメントとなる。

この発表のタイミングは極めて意図的だ。サンフランシスコのモスコーニ・センターで現地時間2026年7月23日(木)に開幕するAMDのカンファレンス「Advancing AI 2026」を控えており、同日午前9時30分(日本時間7月24日金曜午前1時30分)にはリサ・スーCEOによる基調講演が予定されている。AMDが7月20日に発表した公式声明によると、Microsoftによるこの決定は、単なるプレビューではなく、確定した導入宣言として届けられたという。

この提携の戦略的意義は、単なる顧客獲得にとどまらない。AMDとMicrosoftは、Heliosが採用しているオープン規格の相互接続仕様を策定した「UALinkコンソーシアム」の創設メンバーである。このグループは2024年5月に設立された。したがって、AzureによるHeliosの採用は、単に一ハイパースケーラーがGPUベンダーを選定したという話ではない。Nvidiaの独自規格である「NVLink」ファブリックが依然としてラックスケールのAI市場を支配するなか、オープンな相互接続規格を共同執筆した2社が、自ら設計したアーキテクチャの有効性を同じ調達サイクル内で実証したことを意味している。

■「Helios」のスペックとオープン規格「UALink」の重要性

HeliosはAMD初となるラックスケールのAIシステムだ。CES 2026で公開された仕様によると、72基のInstinct MI455X GPU、第6世代のEPYC Venice CPU、Pensandoネットワーキング、そしてROCmソフトウェアスタックを搭載し、液冷方式を採用したOpen Compute Project(OCP)準拠のシャーシに収められている。各MI455Xは432GBのHBM4メモリを搭載しており、1つのHeliosラック全体で31TBの広帯域メモリ(HBM)を確保している。これにより、複数のシステム間でテンソル並列処理を行うことなく、単一のラック内で数千億パラメータ規模のモデルの重みと推論キャッシュを保持することが可能になると報じられている。

AMDの公表値によると、HeliosラックはFP4精度で2.9 exaFLOPS、FP8精度で1.4 exaFLOPSの推論演算性能を誇る。ただし、これらはAMD独自の数値であり、第三者機関によるMLPerfベンチマークなどで確認されたものではない。リサ・スーCEOによる木曜日の基調講演では、これらの数値が実際の運用環境で維持されるかどうかが注目される。

Heliosの構造的な強みは、ピーク時のスループットそのものよりも、GPU同士を接続する技術にある。Heliosのスケールアップファブリックは、Nvidiaの独自規格「NVLink」に対抗するオープン規格「UALink-over-Ethernet」で動作する。2026年後半の初期デプロイメントにおいて、AMDはネイティブのUALinkスイッチシリコンではなく、Broadcomと共同設計したイーサネットスイッチファブリックを採用している。これは、Astera Labsなどのパートナーが開発中の専用UALinkスイッチが2027年まで量産体制に入らないためだ。この実装の詳細は重要である。AMDが主張するラック内帯域幅の合計260TB/sという数値は、スペック上はNvidiaのNVLink72(259TB/s)に匹敵するが、AIトークンが専門化されたサブネットワーク間を絶えず移動する「Mixture-of-Experts(MoE)」モデルアーキテクチャにおける実際のルーティング性能は、公開されたベンチマークではまだ検証されていない。

長期的な構造的メリットは、大規模な調達を行うMicrosoftにとって極めて重要だ。NvidiaのNVLinkスイッチは同社から独占的に購入する必要があり、他社製ファブリックとの互換性はない。一方、オープンなイーサネット物理層(PHY)規格に基づくUALinkは、複数のハードウェアパートナーから調達できる。Heliosを採用することは、MI455XのHBM4メモリレイアウトがNvidiaのサーバーシャーシと互換性のない独自の2,048ビットルーティングインターポーザーを使用しているため、プラットフォームへの依存は生じるものの、相互接続レイヤー自体は単一ベンダーに縛られない設計となっている。

■Azureが導入する3つの新しい仮想マシン(VM)ファミリー

Microsoftのコミットメントは3つのワークロードカテゴリに及び、それぞれに専用のVMシリーズが割り当てられている。

1つ目の「ND MI455X v7」シリーズは、現代のAIサービスを支える推論、推論型検索、エージェント型ワークロードをターゲットにしたHelios搭載の推論プラットフォームだ。価格やVMあたりのGPU割り当て、提供地域などの詳細は未発表である。AMDは2026年後半にMicrosoftへのHeliosシステムの出荷を開始する予定で、AzureでのVM提供は統合と検証作業を経た後、多くの地域で2027年初頭になるとみられている。

2つ目の「Azure HDv2」は、エージェント型AIやデータパイプライン処理向けに共同設計された、CPU負荷の高いオーケストレーションや前処理を行うためのシリーズだ。各インスタンスは約500個の物理EPYC Veniceコア、4TBのRAM、32TBのローカルNVMeストレージ、および400GbpsのAzure Boostネットワーキングを提供する。EPYC Veniceは、TSMCの2nmナノシートプロセスを採用した初のハイパフォーマンスコンピューティング向けプロセッサであり、マイクロアーキテクチャの改良前段階でもトランジスタレベルでワットパフォーマンスが向上しているという。

3つ目の「Azure HXv2」は、半導体設計(EDAシミュレーション)や科学技術計算をターゲットにしている。5GHz以上の動作クロックを持つ176個のEPYC Veniceコアを搭載し、前世代比でコアあたりのアドレス可能キャッシュが50%増加、最大4TBのRAMと800GbpsのInfiniBand接続を提供する。半導体設計ツール大手のSynopsysはすでにHXv2のロードマップに統合されており、同社の製品開発最高責任者であるシャンカール・クリシュナムーシ氏は、クラウド規模でのEDAワークロードの実現について期待を寄せている。

これらのVMファミリーに加え、AMDのPensando DPUが、ネットワークやストレージ、仮想化処理をオフロードするMicrosoftの「Azure Boost」レイヤーに深く統合されることも確認された。これにより、AzureのAI計算スタックのすべての機能レイヤー(GPUアクセラレータ、CPUオーケストレーション、DPUネットワーキング)にAMDのシリコンが採用されることになる。

■相互接続アーキテクチャが規模の競争を左右する理由

MicrosoftとAMDがUALinkを推進する重要性は、コストや柔軟性だけにとどまらない。ハイパースケーラーのインフラチームが、単一ベンダーの相互接続規格に数百メガワットものデータセンター容量を割り当てるべきかを評価する際、問題となるのは価格だけではない。プラットフォーム全体を解体しなければ物理的に交換できないコンポーネントに対して、ベンダーが一方的な価格決定権を持ち続けるかどうかが問われるのだ。

Nvidiaのアーキテクチャにおいて、そのコンポーネントに該当するのがNVLinkである。これはNvidiaが独占的に販売するカスタムシリコンであり、同社製GPUをラックスケールで導入する際には必須となる。一方、2025年に公開仕様として批准され、2026年4月に更新されたUALinkは、規格に準拠したあらゆるハードウェアをサポートする。MicrosoftとAMDはこの仕様策定を主導しており、Azureによる同規格採用システムの導入は、UALinkコンソーシアムがまさに目指していたエコシステムの検証そのものである。

現在AzureのNDシリーズVMで大規模な推論を実行しているユーザーにとって、将来的には「ND MI455X v7」が同じプラットフォーム上で選択肢に加わることになる。また、エージェント型AIインフラを検討している組織にとって、HDv2が提供する高密度のEPYC Veniceコアは、GPU重視のクラスターで発生しがちなオーケストレーションのボトルネックを解消する手段となる。現時点ではどちらも予約は開始されていないが、調達計画の検討フェーズはすでに始まっている。

■AMDがリードする領域と、Nvidiaが依然として優位な領域

メモリ容量の面では、AMDの優位性は極めて現実的かつ重要だ。Heliosは1ラックあたり31TBのHBM4を搭載しており、NvidiaのVera Rubin NVL72の20.7TBと比較して約50%のリードを保っている。1兆パラメータ規模のモデルの重みとKVキャッシュを単一ラック内に保持する必要がある最先端の推論環境において、この差はワークロードを1ラックで処理できるか、2ラック必要とするかを分ける決定的な要因になり得る。

しかし、ラックレベルでの生のFP4演算性能においては、NvidiaのVera Rubin NVL72が3.6 exaFLOPSを記録し、Heliosの2.9 exaFLOPSを上回っている。さらにFP8精度での学習ワークロードにおいては、Vera Rubinの2.5 exaFLOPSに対し、Heliosは1.4 exaFLOPSにとどまり、その差はさらに広がる。このため、Heliosは推論に最適化されたプラットフォームであり、大規模なモデル学習においてNvidiaに直接対抗するものではないと分析されている。

一方で、消費電力はAMDに軍配が上がる。Heliosの消費電力が1ラックあたり約140kWであるのに対し、Nvidiaの現行世代システムであるVera Rubin NVL72は約190kWから230kWを消費すると報じられており、電力密度の制約に直面しているデータセンターにとってこの差は無視できない。

■ROCmエコシステムの成熟度と実際の導入への影響

ハードウェアのスペック比較はあくまで机上の計算にすぎない。開発者やインフラ調達担当者にとっての実質的な問いは、AMDのソフトウェアスタックが、Nvidiaが18年間築き上げてきたCUDAの先行優位性にどこまで迫れるかという点だ。

2026年現在の率直な評価として、PyTorchやvLLMを使用した標準的なLLM推論において、ROCmベースのAMD製GPUは、同等クラスのNvidia H100に対して約90〜95%のスループットを達成している。2026年5月にリリースされたROCm 7.2.4は、PyTorch 2.7.0において実験的段階ではなく、正式なプライマリ計算バックエンドとしてサポートされている。

ただし、特定のワークロードにおいては依然としてギャップが存在する。Nvidiaの最適化推論エンジンである「TensorRT-LLM」に相当する機能はROCmには存在しない。また、NvidiaのHopperテンソルコアから高いスループットを引き出す「FlashAttention 3」はアーキテクチャ固有の技術であり、AMDでは利用できない。企業が長年かけてチューニングしてきたカスタムCUDAカーネルの移植には、その複雑さに応じて最小限から大規模なものまで、相応の移植コストが発生する。2026年6月に発表された分析によると、Nvidiaのソフトウェアエコシステムの優位性は、最適化された本番環境において30%から99%の追加のハードウェア性能に匹敵すると推計されている。

AMDが企業顧客に提示する論理は明確だ。AI計算支出において推論ワークロードの割合が最も急速に成長しており、2026年時点のほとんどの本番推論においてROCmは十分な実用性を備えているということだ。そして、現在のクラウド市場においてAMD製ハードウェアが提示する、同等性能のNvidia製品に対する15〜30%のコスト優位性は、ソフトウェア移行に伴う摩擦を補って余りあるものであると主張されている。

■市場の反応と今後の見通し

この発表を受けて、7月20日の取引時間中にAMDの株価は約5%上昇し、一時528ドル(約8万6,064円、1ドル=163円換算)の年初来高値付近に達した。アナリストらも目標株価を引き上げており、ローゼンブラットは目標株価を490ドル(約7万9,870円)から665ドル(約10万8,395円)に引き上げ、8月4日の決算発表を控えた半導体銘柄のトップ推奨に挙げた。UBSも、CPUおよびGPUのロードマップの強さを評価し、目標株価を670ドル(約10万9,210円)から700ドル(約11万4,100円)に引き上げた。キーバンクのジョン・ビン氏も目標株価を725ドル(約11万8,175円)に引き上げ、AMDのAI向けGPU売上高が2026年に168億ドル(約2兆7,384億円)、2027年には485億ドル(約7兆9,055億円)に達すると予測している。ゴールドマン・サックスもこれに先立ち、目標株価を640ドル(約10万4,320円)に引き上げていた。

8月4日に予定されているAMDの2026年第2四半期決算発表は、Heliosによる収益貢献度を測る最初の機会となる。第1四半期のデータセンター部門の売上高は前年同期比57%増の58億ドル(約9,454億円)に達しており、第2四半期の総売上高見通しは約112億ドル(約1兆8,256億円)と案内されている。

ただし、Heliosが収益に本格貢献するのは2026年後半から2027年にかけてであり、直近の第2四半期業績への影響は限定的とみられる。AMDは2026年後半に出荷を開始する予定だが、2026年分のHBM4生産枠はすべてハイパースケーラー向けに割り当てられており、年内はエンジニアリングサンプルを除き、一般向けの供給は制限される見通しだ。

MicrosoftによるHeliosの採用は、すでに発表されているMeta(最大6ギガワット分のAMD製GPUの導入を表明し、うち1ギガワット分を今年のHeliosラックに割り当てる計画)、OpenAI、Oracle、Tata Consultancy Servicesなどの顧客リストに加わる強力な実績となる。

木曜日の基調講演では、リサ・スーCEOがHeliosの導入スケジュールやROCmエコシステムの進捗に加え、次世代の「MI500」アーキテクチャの仕様について初めて詳細を明らかにすると期待されている。モスコーニ・センターでの現地参加登録はすでに満席となっており、基調講演の様子はAMDの公式YouTubeチャンネルでライブ配信される予定だ。

■注目ポイントQ&A

●AMD Heliosとは何ですか?通常のGPUとどう違いますか?

AMD Heliosは、72基のInstinct MI455X GPU、EPYC Venice CPU、Pensandoネットワーキング、ROCmソフトウェアスタックを統合した液冷式のラックスケールAIシステムです。単体のGPUを購入するのとは異なり、相互接続、演算、ネットワークが一体となって設計されたプラットフォームです。競合するNvidiaのVera Rubin NVL72との最大の違いは、Nvidiaの独自規格「NVLink」ではなく、オープン規格の「UALink-over-Ethernet」を採用している点です。これにより、特定のベンダーへの依存を避けることができます。

●AzureでのAMD Heliosの提供開始時期はいつですか?開発者は今何をすべきですか?

AMDは2026年後半にMicrosoftへのHeliosの出荷を開始する予定ですが、Azureでの「ND MI455X v7」VMシリーズの一般提供は、検証作業を経て2027年初頭になる見込みです。CPU重視の「HDv2」および「HXv2」も2026年後半に予定されています。現在AMDインフラを評価したい開発者は、Azure上の既存の「ND MI300X v5」シリーズを利用できます。将来のHelios移行に備えるには、推論パイプラインが特定のCUDA専用ライブラリ(TensorRT-LLMやFlashAttention 3など)に依存しないよう、ポータブルな構成にしておくことが推奨されます。

●オープン規格の相互接続は、本当にNvidiaの独占を崩せますか?

構造的には、オープン規格であるUALinkの仕様は公開されており、複数のベンダーが対応スイッチを製造できるため、Nvidiaの独占に対抗する力を持っています。ただし、2026年後半の初期システムでは、専用のUALinkスイッチチップが2027年まで量産されないため、イーサネット技術をブリッジとして使用します。また、NvidiaのCUDAが持つ18年の先行優位性は依然として強力であり、ハードウェアの互換性だけで即座にシェアが覆るわけではありません。しかし、MicrosoftとAMDが共同でこの規格を推進していることは、長期的な競争において重要な布石となります。

●2026年時点で、開発者にとってROCmはCUDAと比べてどうですか?

PyTorchやvLLMを使用した標準的な大規模言語モデル(LLM)の推論において、最新のROCmはNvidia H100の約90〜95%の処理能力を達成しています。2026年5月にリリースされたROCm 7.2.4は、PyTorch 2.7.0で正式なバックエンドとしてサポートされています。ただし、TensorRT-LLMやFlashAttention 3、あるいは独自のカスタムCUDAカーネルを使用している場合は、移植作業が必要になります。標準的なモデル構成であれば、15〜30%とされるコストメリットを考慮すると、十分に実用的な選択肢となります。

元記事: Azure Bets on AMD Helios Open-Standard Rack to Break Nvidia Infrastructure Lock-In

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