S&P500とオルカンの「2本持ち」は分散にならない? 米国比率82%になるポートフォリオの実態
2026年7月22日 17:34
新NISA(少額投資非課税制度)の普及に伴い、個人投資家の間で圧倒的な人気を誇るのが、米国株に連動する「S&P500」と、世界の株式に投資する「全世界株式(通称:オルカン)」である。どちらも信託報酬が極めて低く抑えられたインデックスファンドであり、長期の資産形成における有力な選択肢として紹介されることが多い。しかし、この2つの投資対象について、それぞれの仕組みや実態、コスト構造を正しく理解した上で選択できているだろうか。単に「米国一択」や「全世界への分散」というイメージだけで判断すると、思わぬ落とし穴に直面する可能性がある。
■「全世界」の実態と米国市場への高い依存度
オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式〈オール・カントリー〉)は、日本を含む先進国23カ国・地域、および新興国24カ国・地域の計47カ国・地域を投資対象とする。これを聞くと、世界中に満遍なく分散投資されている印象を受けるが、その実態は大きく異なる。三菱UFJアセットマネジメントが公表した2026年6月30日時点の月次レポートによると、同ファンドの国・地域別実質組入比率において、米国は63.0%と全体の6割強を占めている。また、対象指数であるMSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI)の構成比でも、2025年9月末時点で米国が64.7%に達している(交付目論見書より)。
このように、全世界株式と銘打っていても、投資資金の6割以上は米国市場に配分されている。組入上位銘柄には、NVIDIA、Apple、Microsoft、Amazon、Alphabetなど、米国の巨大テクノロジー企業が並び、これはS&P500(eMAXIS Slim 米国株式〈S&P500〉)の組入上位銘柄とほぼ重複する。したがって、オルカンを保有していても、値動きは米国株の動向から強い影響を受ける。オルカンとS&P500の大きな違いは、米国以外の国・地域に約4割の分散が効いているか、それとも米国のみに100%集中しているかという点にある。オルカンがマザーファンドを通じて実質的に投資している株式の銘柄数は2,416銘柄(2026年6月30日時点の月次レポート、丸めは約2,400銘柄)に及ぶが、時価総額加重型であるため、米国の大型株、とりわけ上位の巨大テクノロジー企業の値動きから強い影響を受けやすい。
■信託報酬の精緻な比較と「その他費用」の盲点
投資信託を長期保有する上で、運用管理費用(信託報酬)は重要な判断要素となる。オルカンの信託報酬率は年率0.05775%(税込)以内、S&P500は年率0.08140%(税込)以内と、上限率ベースではオルカンの方が低い。
さらに、両ファンドは純資産総額の増加に応じて段階的に信託報酬率が引き下がる「受益者還元型信託報酬率」を採用している。2026年7月14日時点で、オルカンの純資産総額は約13.07兆円、S&P500の純資産総額は約12.54兆円に達しており、いずれも国内公募投資信託の中で最大級の規模を誇る。この純資産総額を基に、各区分ごとの料率を適用した「加重平均信託報酬率」を計算すると、実質的な負担額のイメージが鮮明になる。
例えば、評価額100万円を1年間保有した場合(評価額が年間を通じて一定だったと仮定)のコストを試算してみよう。上限率ベースで計算すると、オルカンは年約578円、S&P500は年約814円となり、その差は年約237円である。しかし、2026年7月14日時点の純資産総額を適用した加重平均信託報酬率(オルカン:約0.0575%、S&P500:約0.0764%)で計算すると、信託報酬部分の年間負担額はオルカンが年約575円、S&P500が年約764円となる。この場合、両者の差は年約189円にまで縮小する。
ただし、ここで示した数値はあくまで信託報酬のみの比較である。実際に投資家が負担する総コストには、信託報酬のほかに売買委託手数料や監査費用、海外保管費用などの「その他費用」が加わる。これらを合計した「実質コスト」は、当該期間の運用報告書が作成されて初めて確認できる。そのため、信託報酬だけの僅少な差(100万円あたり年約189円)をもって、総コストの優劣を安易に断定することは避けるべきである。S&P500では証券貸付を行った場合、得られた品貸料の一部が追加の運用管理費用となる。ただし、証券貸付によって得た収益の残余はファンドに帰属するため、この規定を単純なコスト増と捉えるのではなく、貸付収益控除後の運用効果を確認する必要がある。
■為替変動の影響と「2本持ち」の落とし穴
両ファンドに共通する大きな特徴として、「為替ヘッジを原則として行わない」という点がある。これは、円建ての基準価額が、投資先株式の現地価格だけでなく、外国為替相場の変動に直接的な影響を受けることを意味する。
具体的な計算例を挙げると、外貨建て株式の現地価格が全く変動しなかったとしても、外国為替市場で1ドル=150円から135円へと10%の円高が進んだ場合、その米ドル建て部分の円換算評価額は約10%減少する。S&P500は投資対象のほぼ全てが米国株式(米ドル建て資産)のため、ドル円相場の動きがそのまま基準価額に反映される。一方、オルカンも米国株が6割強を占めるためドル円の影響を強く受けるが、日本株(約5%)や米ドル以外の通貨建て資産も含むため、ファンド全体に対する為替の影響は多角化されている。近年の円建てリターンには歴史的な円安進行によるプラスの効果が大きく寄与しており、株価上昇のみによるものではない。将来的に円高に振れた場合、基準価額を押し下げる要因となることは十分に想定される。
また、個人投資家の間でよく見られる投資行動として、「どちらが良いか決められないため、オルカンとS&P500を半分ずつ保有する」という手法がある。一見すると、全世界に分散しながら米国株の成長性も取り入れる「バランスの良い分散投資」に思えるが、これには数値上の盲点が存在する。オルカンの米国比率を約63%と仮定した場合、両ファンドを半分ずつ保有すると、ポートフォリオ全体における米国株の比率は単純計算で約82%(=63%×0.5 + 100%×0.5)に達する。つまり、投資家が意図している「分散」とは裏腹に、極めて米国株に偏ったポートフォリオが形成されてしまう。2つのファンドを組み合わせる際には、表面的なファンド名だけでなく、実質的なアセットアロケーション(資産配分)がどう変化するのかを冷静に見極める必要がある。
■判断軸別の整理
資産形成において、オルカンとS&P500のどちらが適しているかは、個々の投資家の投資哲学やリスク許容度によって異なる。一概にどちらか一方が優れていると断定することはできない。読者が自身の状況から逆算して最適な選択を行うための判断軸を以下に整理する。
まず、米国一国に対する集中リスクを回避し、将来的にどの国や地域が台頭してもその成長の恩恵を享受できるような、広範な国・地域への分散を重視する読者には、オルカンが選択肢として考えられる。
次に、世界最強の経済国であり、イノベーションを牽引し続ける米国の主要企業の成長力に資金を集中させ、より高いリターンを追求することを重視する読者には、S&P500が選択肢として考えられる。
また、日々の運用管理費用において、提示されている信託報酬率の上限値そのものが最も低いファンドを選択することを重視する読者には、オルカンが整合的と考えられる。
一方で、純資産総額の増大に伴う信託報酬率の段階的な低減効果(受益者還元型の幅広さ)を重視する読者には、S&P500が整合的と考えられる。
米ドル一通貨への依存度を下げ、複数通貨に為替エクスポージャーを分散することを重視する場合は、オルカンが選択肢として考えられる。ただし、多通貨化によって円換算上の為替変動が必ず小さくなるとは限らない。
このように、それぞれのファンドが持つメリットとデメリット、そして投資実態は大きく異なる。自身の取れるリスクの大きさと、世界経済の将来に対する見通しを照らし合わせ、どちらの特性が自己の投資方針に合致しているかを慎重に見極める必要がある。
※本記事は、マーケットに関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。掲載内容は作成時点の情報に基づいており、その正確性、完全性、将来の成果を保証するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。