NokiaとNVIDIA、商用GPUベースAI-RANを発表 周波数利用効率2倍を目標

2026年7月19日 15:56

Nokiaは7月15日、NVIDIAと組んで商用GPUベースのAI-RANプラットフォームを発表した。通信事業者がすでに保有する周波数から引き出せる容量を将来的に2倍にすることを目標に掲げるが、100%超の改善は2028年に向けたロードマップ上の目標であり、実運用で確認された数値ではない。パイロット導入は2026年末、商用提供は2027年を予定している。

■GPUを使うAI-RANで、既存周波数の活用効率向上を狙う

Nokiaは7月15日、自社のanyRANソフトウェアとNVIDIAのAerial AI-RANコンピューティング環境を組み合わせた、業界初の商用GPUベースAI無線アクセスネットワーク(AI-RAN)プラットフォームを発表した。狙いは、通信事業者がすでに保有する周波数から取り出せるスペクトル容量を2倍にすることにある。

Nokiaが示した効率目標は、管理された試験環境で20%超の改善をすでに実証し、2027年に50%、2028年に100%超を目指すというものだ。100%の改善とは、追加の周波数帯を取得したり既存の無線機を置き換えたりせずに、同じ免許済み周波数で実質的に2倍のトラフィックをさばけることを意味する。

Futurum Groupのアナリスト、Nick Patience氏は、Nokiaのロードマップ目標はEricssonがすでに商用展開している数値の約5〜10倍の規模だと指摘している。Nokia幹部は、その差について、固定機能のシリコンでは支えにくい、より計算量の大きいアルゴリズムを動かすためだと説明した。

■Ericssonと異なるのは、AIをどこで何のチップで動かすかだ

両社の最も大きな技術的な違いは、AI処理をどこに置き、どの種類の半導体で動かすかにある。EricssonのAI in RANソフトウェアは、過去20年にわたりRANハードウェアを支えてきたASICベースの既存ベースバンドチップと、エネルギー効率の高いAI推論向けに独自のtensor poolアクセラレーターを備えた新しいMassive MIMO無線機で動作する。大半の事業者は追加ハードウェアを必要とせず、同社によれば稼働中ネットワークで最大10%のスペクトル効率改善、最大20%の下りスループット向上を実現している。導入先として、SoftBank、Bell Canada、SK Telecom、Rogersが確認されている。

一方、Nokiaのプラットフォームは、計算強度とアーキテクチャの両面で踏み込みが深い。anyRANソフトウェアは、ベースバンド内でNVIDIAのCUDAベースGPU上で動作する。これはデータセンターのAI学習を支えるプログラマブルな並列計算ハードウェアと同じ系統のものだ。CUDAアーキテクチャは、ユーザー、アンテナ層、ビーム、周波数チャネルにまたがる同時並列処理を可能にし、固定機能ASICでは同等の計算強度で実行しにくい処理を担える。

Futurumの分析によれば、この構成で使える具体的なアルゴリズムには、従来のチャネル推定をニューラルネットワークモデルで置き換える深層学習ベース受信機や、与えられた無線環境でシャノン限界により近く動作できる非線形チャネル推定技術が含まれる。いずれも、現行のASICベースバンドでは計算コストが高すぎる処理だという。

■効率改善は条件次第で大きく変わる

Futurumが伝えたプラットフォーム説明会で、Nokia幹部は、効率改善の大きさはフロントホール分割構成、無線チャネル条件、セル負荷、ユーザー移動性によって大きく変わると認めた。最大の恩恵を受けるのはネットワーク全体というより、密集し高負荷な都市部セルだという。

2028年の100%超という数値は、NVIDIAと共同開発中のアルゴリズムに基づくロードマップ目標であり、実際の商用ネットワークで得られた結果ではない。Nokiaは、どのフロントホール分割構成でこの目標を達成できるのかを公表していない。

無線ユニット(RU)と分散ユニット(DU)の間のフロントホール分割は、GPUがどこまで信号処理を担えるかを左右する。上位レイヤー寄りの分割ではGPUやASICが物理層処理をより多く担える一方、下位レイヤー寄りではその範囲が限られる。

■導入方法は3通り、ソフトウェア層は共通

Nokiaは、事業者ごとに既設設備や移行時期が異なることを踏まえ、共通のanyRANソフトウェア層の上で3つのハードウェア導入モデルを用意した。

すでにNokiaのAirScale基地局基盤を使っている事業者向けには、NVIDIAの高速計算機能を既存ハードウェアに追加するGPU駆動の容量増強プラグインユニットを提供する。ベースバンド全体を置き換えずに拡張カードで対応する方式だ。この経路では、MarvellのAI高速化マーチャントシリコンにも対応し、NVIDIA以外の選択肢も用意する。

新規に容量を増やしたい事業者や、より柔軟な配置を求める事業者向けには、Nokiaが業界初と位置づけるGPU搭載のスタンドアロンAI-RANノードを投入する。4G、5G、将来の6Gワークロードを単一プラットフォームで支え、単独設置、クラスタ構成、AirScaleとの併用による統合論理基地局としての運用が可能だとしている。

3つ目は、クラウドネイティブ構成を目指す事業者向けの選択肢で、業界標準のCOTSサーバーをエコシステムパートナー経由で使うAI-RAN導入モデルだ。ハードウェア層でのベンダーロックインを避ける、オープンなサプライチェーンを目標に掲げる。

■販売はサブスクリプション型、価格詳細は未公表

商用モデルはハードウェア売り切りではなくサブスクリプションとなる。Nokiaによれば、事業者は新しいAIアルゴリズム、効率改善、機能追加を継続的なソフトウェア更新として受け取れ、新機能のためのハードウェア刷新は不要になる。

価格の詳細は明らかにされていない。FuturumのPatience氏によると、Nokiaは新しいAI-RAN機能を固定の単価ではなく、価値ベースのサブスクリプションモデルで販売すると確認しており、今後数カ月で詳細が示される見通しだという。

■9社が関与、日程が公表されているのはT-Mobile USのみ

Nokiaは、AI-RANプラットフォームに関与するティア1通信事業者として、T-Mobile US、Vodafone、BT、Orange、Deutsche Telekom、SoftBank、NTT DOCOMO、Elisa、Indosat Ooredoo Hutchisonの9社を挙げた。北米、欧州、日本、東南アジアにまたがる顔ぶれで、複数地域と規制環境にまたがる関心の広がりを示している。

ただし、Futurumの分析では、公開された導入時期が確認できるのはT-Mobile USだけだ。2026年にフィールド試験、2027年に商用開始、2028年に大規模展開という日程が示されている。他の8社は関与しているが、具体的なマイルストーン日は公表されていない。Nokiaは、自社のAI-RANソリューションについて、2026年末にパイロット導入を開始し、2027年に商用提供を始めるとしている。

なお、T-Mobile USはEricssonのAI in RANソフトウェアでも試験を進めている。2026年5月時点で、同社の5G Advancedネットワーク上で約10%のスペクトル効率改善と最大15%の下りスループット向上を示しており、全面的な商用展開は2026年第3四半期を目標としていた。大手通信事業者では複数ベンダーと並行して検証を進める例が珍しくない。

■基地局を分散AI計算基盤に変えるという構想

この発表の意味は、単なる効率改善率そのものより、モバイルインフラの将来像に何を示すかにあるのかもしれない。NokiaのCEOであるJustin Hotard氏は発表時に「AI-RANはネットワークをインテリジェントにし、AIを物理世界へ拡張し、6Gへのソフトウェアアップグレード経路を含めて通信事業者が既存インフラからより多くを引き出せるようにする」と述べた。NVIDIAのCEO、Jensen Huang氏も「無線アクセスネットワークは次のAIインフラであり、RANを地球規模のAIコンピューターへ変えていく」と語っている。

この考え方では、基地局のベースバンド処理装置がデータセンターAIと同じCUDAプログラマブルGPUで動くことで、セルタワーは単なる無線設備ではなく、分散計算インフラのノードになる。Nokiaは、無線処理と並行して第三者のAIワークロードをセルサイトで動かす構想を示しており、統合センシング、産業自動化向けエッジAI推論、密集都市環境でのロボティクス協調といった用途を挙げている。実現すれば、通信事業者が売るものは接続性から分散コンピューティングへと広がることになる。

この点が、無線性能を最適化しても基地局そのものの定義は変えないEricssonのAI-on-ASICアプローチとの大きな違いだ。もっとも、この拡張プラットフォーム構想が商用規模で事業者収益につながるのか、また専用ASICに比べたGPUの消費電力増を正当化できるのかは、2026年のパイロット導入で検証が始まる論点になる。

■NVIDIAの10億ドル出資が示す戦略性

今回の立ち上げは、単なる技術提携から生まれたものではない。2025年10月、NVIDIAはNokiaに10億ドルを出資し、同社株の約2.9%を取得した。Nokiaはこの取引の一環として1株6.01ドルで1億6638万9351株の新株を発行している。出資額を円換算すると約1620億円(1ドル=162円換算)となる。

Nokiaは、調達資金をNVIDIAアーキテクチャ上での5Gおよび6G向けRANソフトウェア開発の加速に充てるとしていた。NVIDIAにとっては、モバイルインフラの次のアーキテクチャサイクルに深く関与する足場を得た形だ。

この出資によって、AI-RANプラットフォームは両社にとって単なる製品提携ではなく、戦略的な賭けとして位置づけられる。Nokiaの2026年通期の比較可能営業利益見通しは20億〜25億ユーロで、第1四半期は光ネットワークとAIクラウド需要の強さで中央値を上回る進捗だという。同社は7月23日に第2四半期および通期業績を発表予定で、今回のAI-RAN発表がその1週間前に行われた点も注目される。投資家は、AIネイティブ戦略が話題作りにとどまらず受注につながっているかを見極めようとするはずだ。

■市場で2位のNokia、だが比較ベンチマークはまだない

2026年6月公表のJuniper Researchの分析によると、NokiaはグローバルRAN市場でEricssonに次ぐ2位に位置している。AI-RANは、その差を縮めるための最も重要なアーキテクチャ上の一手といえる。

ただし、効率改善の主張がEricssonの既存商用展開より5〜10倍大きいという事実は、NokiaのロードマップとEricssonの現在の出荷実績との隔たりでもある。インフラ投資を判断する事業者は、この差を慎重に見極めることになる。

現時点では、どちらの方式にも独立した第三者ベンチマーク比較はない。O-RAN Allianceは、ベンダー間のAI-RAN協調向けとしてNokiaが提案するE3インターフェース仕様を業界標準として採用するか、それともNokia独自拡張にとどまるかを評価している。この結果は、Nokiaが掲げるオープン性がマルチベンダー環境でも維持されるかを左右する。

Disruptive Analysisのアナリスト、Dean Bubley氏は2026年2月、Nokiaの分散AIエッジ計算の主張は、十分な商業的成功に至らなかったモバイルエッジコンピュートの過去の議論を想起させると指摘していた。事業者は、こうした懐疑的な歴史的材料も踏まえて採用を判断するとみられる。

■NokiaのAI-RANは何をどう変えるのか

このプラットフォームの中核は、基地局のベースバンド信号処理を従来担ってきた固定機能ASICを、NVIDIAのCUDAベースGPU計算に置き換える点にある。従来のRANでは、ASICが設計時に焼き込まれたアルゴリズムで受信信号を処理していた。効率と省電力性に優れる一方、新しいチップなしにはアルゴリズムを変えられない。NokiaのAI-RANでは、GPU上でAI駆動アルゴリズムを動かし、ソフトウェア更新だけで新しい信号処理手法を展開できる。

効率改善の仕組みは無線プロトコルスタックの複数層にまたがる。上りでは、深層学習ベース受信機がニューラルネットワークを使ってチャネル状態を推定し、従来の線形推定よりも高い精度でユーザー信号を分離する。これにより、ノイズや干渉で失われるはずだった信号品質を回復できる。下りでは、AI駆動のビームフォーミングとスケジューリングアルゴリズムがユーザーの位置を予測し、アンテナ構成をほぼリアルタイムで最適化することで、各送信が実際に達成できるシャノン限界への近さを高める。

同時に多くの高需要ユーザーを抱える高密度な都市セルでは、こうした改善が積み重なりやすい。逆にいえば、すべてのセルで一律に同じ改善が得られるわけではない。

■注目ポイントQ&A

●NokiaのAI-RANは6月に発表されたEricssonの方式と何が違いますか?

どちらもRANにAIを取り込む点は同じですが、使う半導体と狙うアーキテクチャが異なります。Ericssonは既存のASICベースベースバンドと新しいMassive MIMO無線機上でAIを動かし、GPUは不要です。すでに15件超の商用ネットワークで動作し、最大10%のスペクトル効率改善と最大20%の下りスループット向上を示しています。NokiaはNVIDIAのCUDAベースGPUをベースバンドに使い、より計算量の大きいアルゴリズムを動かすことで、2028年までに100%超のスペクトル効率改善を目指しています。ただし、商用提供は2027年からです。

●『スペクトル効率を2倍にする』とは、利用者や通信事業者にとって何を意味しますか?

スペクトル効率は、一定の周波数幅で1秒あたりどれだけ多くのデータを送れるかを示す指標です。100%の改善は、同じ免許済み周波数でおおむね2倍の通信量を処理できることを意味します。周波数不足が容量制約になっている高負荷な都市セルでは、追加の周波数取得なしに資産価値を高める効果があります。利用者にとっては、混雑した場所での速度向上や性能安定化につながります。ただし、Nokiaが実際の商用ネットワークで100%を達成できるかは未確認で、2026年のパイロットで検証が始まる見通しです。

●NokiaのAI-RANが成功すると、基地局は単なる無線設備ではなくなりますか?

NokiaとNVIDIAはその方向を明確に打ち出しています。CUDAベースGPUを載せた基地局は、無線信号処理だけでなく第三者のAIワークロードも実行できる分散計算インフラのノードになる、という構想です。用途としては、統合センシング、産業自動化向けエッジAI推論、ロボティクス協調などが挙げられています。一方で、こうした分散コンピュートの構想が実際の収益につながるかは未確定で、今後2年ほどで検証される論点です。

●NokiaのAI-RANはいつ利用可能になり、どの通信事業者が確認されていますか?

Nokiaは2026年末にパイロット導入を開始し、2027年に商用提供を始める予定です。公開された具体的な導入日程が確認されているのはT-Mobile USだけで、2026年にフィールド試験、2027年に商用開始、2028年に大規模展開という流れです。Vodafone、BT、Orange、Deutsche Telekom、SoftBank、NTT DOCOMO、Elisa、Indosat Ooredoo Hutchisonも関与企業として挙げられていますが、個別の導入時期は公表されていません。

元記事: Nokia and NVIDIA Launch First GPU-Based AI-RAN, Targeting Double Spectrum Capacity

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