「dog my cats」とは? 奇妙な表現の背景にある19世紀アメリカ英語の事情
2025年12月14日 20:21
英語には、一見なんのことかわからない変わった表現が少なくない。今回取り上げる「dog my cats」もそんなイディオムの一つだ。無理やり直訳すれば「私の猫を犬にしろ」とでもなるが、もちろんそんな意味ではない。
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現代の日常会話においてはほぼ使われない古い表現だが、よく使用されていた当時の社会状況を知る手がかりにもなるため紹介したい。
■dog my cats
「dog my cats」は、19世紀のアメリカ南部や中西部で使われた、驚きや意外感を示すときに使われた感嘆表現だ。「まさか」「本当に?」といった意味に近い。
またたとえば、「I’ll be damned if~(~なんてクソみたいな話あるか)」のような怒りや呆れを込めた悪態を、婉曲的に表現した形として使われることもあった。
こうした婉曲表現を、英語では「minced oath」と言う。これは本来、「God damn my eyes」や「God damn my soul」のように、神を持ち出して強い悪態や罵りを表現するところを、別の語に置き換えて弱めた表現のことを指す。
19世紀のアメリカ社会では、宗教的な価値観が強く、公の場で神名や「damn」のような罵り語を直接口にすることを避ける風潮があった。そのため日常会話においても、感情が高ぶったときでもきつい表現を避ける工夫が発達したのである。
「dog my cats」もその流れに属する。「dog」は「damn」と語感が似ていることが理由だが、「cats」は「eyes」や「soul」のような自分の身の一部を示す語の代わりとして置かれた。なぜ「cats」なのかと不思議に思うが、「猫」という意味的な理由はない。語呂がよく無害な語ということで選ばれたのだろう。
■文学作品での用例
この表現が有名になったのは、Mark Twainの『The Adventures of Huckleberry Finn(ハックルベリー・フィンの冒険)』(1885年)やO. Henryの短編『Memoirs of a Yellow Dog(黄色い犬の回想)』(1910年)などの文学作品に用いられたことも大きい。
たとえば前者の場合、ハックと旅をする黒人奴隷のJimが、物音を確かに聞いたと主張する場面で「Dog my cats ef I didn’ hear sumf’n.」と言う。
これは、標準英語に直すと「Dog my cats if I didn’t hear something.」となり、「絶対に聞いたぞ」「聞き間違いなんかじゃない」という強い確信を意味する。
現在、実際の会話ではまず使われない表現だが、古いアメリカ南部の口語を再現した文学作品や、古風な響きをあえて狙ったユーモラスな文脈では目にすることもあるだろう。
ただ「minced oath」自体は、現代英語にもたくさんある。たとえば、「Hell」の代わりの「Heck」、「God」の代わりの「Gosh」や「Gee」などは今もよく耳にする婉曲表現だ。(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る)