三菱商事の撤退で、気になる洋上風力発電の行方
2025年9月4日 12:41
●三菱商事が洋上風力発電から撤退
三菱商事は8月27日、秋田県と千葉県沖の計3海域で計画していた洋上風力発電を取り止めると発表した。
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武藤経産相は、「撤退は日本の洋上風力に後れをもたらす。洋上風力全体に対する社会の信頼を揺るがしかねない」と、遺憾の意を表明。千葉県の熊谷知事と秋田県鈴木知事も「振り回された。納得できない」「極めて遺憾」と語っている。
港湾整備費用などを負担した自治体からは、裏切られたとの怨嗟の声と、国策でありながら撤退することに対する批判の声が上がっている。
洋上風力発電を取り巻く環境は、今後も厳しさを増していきそうなニュースである。
●洋上風力発電のメリット・デメリット
洋上風力発電には、温室効果ガスを排出しない自然エネルギーというメリットがある。
陸上風力発電と比べると、地形や風向きに影響されず、景観も損ねない。住民への騒音問題にもならず、比較的安定した発電が可能である。
現在の主流は、風車を支える構造物を海底に埋め込む着床型だ。基礎部分の工事費用や海底ケーブルの敷設費用など初期投資に費用がかかり、塩害や強風対策などのランニングコストも必要だ。
1kWhあたりのコストは、陸上に比べて1.5倍かかるとの試算がある。
建設時の騒音や水質への影響によって、生態系への影響も懸念され、漁業への影響も懸念される。
●海外でも見られる撤退 今後の風力発電の行方は
米国や欧州も、入札による落札者の撤退が23年後半から相次いでいる。インフレや金利上昇により事業継続が困難な上に、電力の売値を引き上げられないことも要因となっている。ただ撤退に対する批判の声は、そこまで大きくない。
建設コストのかかる洋上風力発電は、インフレの影響がさらに大きくなる。洋上風力発電のためにさらに電気代が高騰するなら、本末転倒である。
日本政府は、着床式洋上風力発電だけでなく、20240年までに海に浮かべて海底のアンカーで固定する浮体式と含めて、30-45GW(ギガワット)を賄う予定だった。これは3000万人~4500万人分の電気使用量に相当する。
陸上発電は、洋上発電に比べて設置コストがかかることや、メガソーラー同様に環境破壊への批判が大きく頭打ちである。
8月29日には、トランプ米政権が12の洋上発電プロジェクトに対する6億7900万ドル(約998億円)の政府助成金を打ち切ることを発表した。
今回の撤退は、三菱商事の問題だけでなく、世界的な洋上風力発電への逆風を象徴するものとも言えるだろう。(記事:森泰隆・記事一覧を見る)