難病アミロイドーシスを光で治療 東大らの研究
2025年8月30日 20:37
タンパク質は、アミノ酸を長く繋いだあと、最後にきちんと折りたたまれて完成する。アミロイドとは、そのタンパク質を作る過程で折りたたみ方を間違えてしまった結果、不溶性で繊維状になったものである。
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アミロイドは体内で分解されにいため蓄積されやすく、毒性が高い。体内の組織などに沈着することで様々な病気を引き起こすが、蓄積により起こる疾患は、アミロイドーシスと呼ばれる。現在は症状を抑える治療や、進行を止める治療法で対応している状況だ。
アミロイドーシスには全身に起こるものや、体の一部に起こるものなどが存在する。東京大学らの研究チームは、全身性の疾患「トランサイレチンアミロイドーシス」(以下、ATTRアミロイドーシス)の原因となるアミロイドを分解し、毒性を消去にすることに成功した。
この研究は、東京大学大学院薬学系研究科の金井求教授と山根三奈特任助教らの研究グループが、熊本大学、筑波大学、京都大学、和歌山県立医科大学、杉村会杉村病院、富山大学らの研究グループと共同で行なった。その成果は7月29日、「Journal of American Chemical society」に掲載された。
トランサイレチンは、体内でビタミンAや甲状腺ホルモンを運ぶ役割を持つ重要なタンパク質である。これが何らかの原因で毒性のあるアミロイドとなってしまうことで、心臓や腎臓をはじめ体内に蓄積する。その結果心不全などにより命を落とすこともある難病だ。
遺伝的な要因と加齢が関係していると言われており、高齢化社会において今後重要な問題となってくる可能性も考えられる。
研究グループは、アミロイドのみを認識し結合する触媒を開発。この触媒が結合したアミロイドに生物透過性が高い橙色光を当てると、アミロイドが「光酸素化」し、無毒化することが明らかになった。
この光酸素化の反応により正常なタンパク質を傷つけないため、副作用のリスクが最小限に抑えられることが期待できる。またこの光触媒反応は、ATTRアミロイドーシス患者の心臓アミロイド繊維も無毒化し、塊を作りにくくしたことから、臨床での応用にも期待できる。
さらに研究グループは、TTRアミロイドーシスの病態を現時点で忠実に再現できる唯一のモデル動物と言われている線虫を用いて、この光触媒の効果を確認した。アミロイドにより運動機能が低下していた線虫に光と触媒で治療を行なったところ、その運動機能が有意に回復した。
この結果より、アミロイドが蓄積しすでにアミロイドーシスの症状を起こしている状態でも、毒素であるアミロイドを分解することで症状を改善できるという、新たな治療の可能性が示唆された。
これまで、アミロイド疾患者にとって、アミロイドの形成を防いだり、症状の進行を遅らせる治療法しかなく、一度進行してしまった症状を無くしたり元に戻すことはできないと考えられてきた。だが今回の研究チームによる新たな発見により、すでに進行してしまったアミロイドーシスにおいても、機能を回復できる治療法の開発が期待される。そして、アルツハイマー病などの他のアミロイド疾患の治療にも応用される可能性に期待したい。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)