相場展望7月24日号 米国株: 米国企業も関税で減益企業が増加、相場の流れに変化の兆し 日本株: トランプ関税合意で約3兆円負担増、企業・雇用支援が必要
2025年7月24日 13:49
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)7/21、NYダウ▲19ドル安、44,323ドル
2)7/22、NYダウ+179ドル高、44,502ドル
3)7/23、NYダウ+507ドル高、45,010ドル
【前回は】相場展望7月21日号 米国株: トランプ氏の財政と金融政策が、米国経済に致命傷リスク 日本株: 日本人の持つ美意識を、石破首相に望みたい
●2.米国株:米国企業も関税で減益企業が増加、相場の流れに変化の兆し
1)米国でも関税が企業収益に負の影響を与え始めた
・欧米の自動車会社ステランティス、自動車関税が導入された北米の4~6月期の出荷台数は前年同期比▲25%の大幅減となった。ステランティスは、米国のジープ、ダッジ、クライスラーと、イタリアのフィアット、フランスのプジョーが統合した会社である。
・GMも減収減益の企業決算を公表した。
・消費者は関税が価格転嫁されて価格上昇した自動車の購入意欲が減少した。
2)相場の流れが変わりつつある兆し
・7/22、エヌビディアなどハイテク株が売られ、ディフェンシブ銘柄が買われる。
・半導体関連企業の7~9月期見通しが「慎重」になってきている。ハイテク関連株が売られ、消費・医薬が買われるように流れが変わる兆しが出てきた。
●3.米国、フィリピンに19%関税、米国は無税で輸出、首脳会談で合意(ロイター)
1)4月に示した関税率17%⇒7月に20%を通告⇒今回19%で合意。19%はインドネシアと同水準、ベトナムとは20%で合意している。
●4.パウエル議長解任なら米国30年債利回り+0.5%超上昇へ=ドイツ銀(ブルームバーグ)
1)ドイツ銀行のストラテジストはリポートで「パウエル議長の解任は、金融政策の一段の緩和を意図したものと受け止められ、インフレ期待やリスクプレミアムを押し上げるはずだ」と分析した。
●5.元FRB議長ら、トランプ氏によるパウエル氏への圧力に懸念表明(時事通信)
1)トランプ氏は、パウエルFRB議長に債務利払い負担を減らすために、大幅利下げを要求し、「すぐに辞任すべきだ」と公言してはばからない状況だ。
2)バーナンキ氏とイエレン前議長は7/21、「金融政策が、政府の借入の手助けに使われているとの認識されれば、かえって市場金利の上昇を招く」と警告した。
3)トランプ氏の肝いりの大型減税関連法で、米国財政赤字は2034年度までに▲約3兆4,000億ドル(約500兆円)増加すると見込まれている。
●6.バイオジェン、関税導入に備え米国内製造拠点に20億ドル追加投資へ(ロイター)
●7.米国GM、4~6月期は減収減益、関税影響で利益▲11億ドル下押し(ロイター)
1)利益は▲32%減の41⇒30億ドルの黒字だった。
2)7~9月期は関税の影響でさらに下振れ見通しで、2025年12月通期で純利益は▲40~▲50億ドルの下振れ影響がある。
●8.欧州自動車大手ステランティス、1~6月期で▲3,960億円の赤字、関税影響(共同通信)
1)1~6月期は▲23億ユーロの赤字で、前年同期+56億ユーロの黒字から悪化した。
2)トランプ米国政権の高関税措置により、カナダとメキシコにある工場の操業を停止したことなどが響いた。
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)7/21、上海総合+25高、3,559
2)7/22、上海総合+22高、3,581
3)7/23、上海総合+0.44高、3,582
●2.三菱自、中国でのエンジン事業撤退、車両に続き、需要低迷受け (共同通信)
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)7/21、祝日「海の日」で休場
2)7/22、日経平均▲44円安、39,774円
3)7/23、日経平均+1,396円、41,171円
●2.日本株:トランプ関税合意で約3兆円の負担増、企業・雇用支援の支援が必要
1)参院選で与党過半数割れ、政権再編の期待感は?
・石破首相になって、衆院選・都議会選・参院選と自民党は大敗が続いたのが要因となり、石破首相の責任を問う声が噴出している。石破氏から、「日本をこういう方向にもっていく」という目標を聞いたことがない。
・こういう状況になっても、「首相の座」にこだわり退陣を否定している。過去、麻生・安倍首相時代に選挙で大敗するたびに、石破氏は「退陣要求」してきた。そういう人物だっただけに、選挙での大きな連敗を受け、「当然、退陣」するものと思われていた。「潔い」人との評価が色落ちした。
・前任の岸田氏も「首相になってやりたいことがある」のではなく、「首相になりたかった人」であった。「失われた日本の30年」どころでなく「失われた日本が永続」しそうだ。戦後の昭和の時代は高度成長期にあり、国民は「総中流家庭」で豊かさを謳歌した。ところが、今や、生活保護世帯が持続的に増える「一部の富裕層と多くの低所得者層」の国になってしまった。世界のGDPの18%を占めていた日本は、今や数%と落ちぶれた。
・日本再生の夢を語れ・現実化できる人物の政権の登場が待たれる。
2)トランプ高関税の影響が出始めるか、4~6月決算と7~9月見通しの発表に注目
・トランプ関税は、4~7月は相互関税10%、自動車関税が27.5%課されている。自動車関税は従来が2.5%のところ、トランプ関税で25%追加された。それが8月以降は、相互関税15%、自動車関税15%が課される。トランプ自動車関税25%を半分の12.5%+従来の2.5%=15%。鉄鋼・アルミの50%のトランプ関税は変わらず。
・米国への輸出関連企業は8月から負担が増す。一方、米国への自動車輸出関連企業は、8月から負担軽減する。関税を販売価格に転嫁できるか? 注視していきたい。
3)トランプ高関税交渉合意、相互関税4月24%⇒25%⇒15%、自動車25%⇒15%
・合意への期待が低かったため、トランプ大統領の発表はやや上向きのサプライズとなり、短期的な安心材料となった。
・関税交渉合意で、経済指標が大影響を受けた。
・日経平均は一時+1,520円高
・10年国債利回りは1.593%と前日比5.99%急伸
・合意の内容
・相互関税4月24%⇒25%⇒15%、自動車25%⇒15%
自動車関税25%⇒12.5%に従来関税2.5%を加算して15%
・米国への投資 5,500億ドル(約80兆円)
アラスカの液化天然ガス(LNG)事業
・コメは既存のミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で米国産のコメの輸入量を増やす。
ミニマムアクセスは、コメに高関税を課す代わりに、年約77万トンを無関税で輸入する仕組み。
・防衛、鉄鋼・アルミは含まれず、今後も協議を継続。(日本政府説明)
・ロイターによると、
ボーイング社製航空機100機購入
米国産コメの輸入量を75%増やす
米国企業のとの防衛費を年間140億ドル⇒170億ドルの増額
も盛り込まれた。
なお、赤沢大臣は「防衛費は合意に含まれず」と述べている。トランプ氏は7/23、SNSに「数十億ドルの防衛装備品の購入に合意」と投稿している。
4)日本の関税負担増額は約3兆円(年間)・2024年ベースで換算
・日本の関税負担増 輸出額 関税率 追加関税額
2024年日本輸出総額 107兆8,791億円
米国向け輸出総額 21兆2,947億円
内、自動車・部品額 7兆2,000億円 12.5% 9,000億円
その他輸出額 14兆0,947億円 15.0% 2兆1,142億円
増加する関税額 3兆0,142億円
5)関税交渉合意で、景気・雇用悪化への待ったなしの支援策立案と実行が必要
・トランプ関税の日本・GDPへの影響だが、野村総合研究所の試算では、
・交渉が不調の場合、GDPは▲0.85%低下
・関税が15%に場合、▲0.55%
の押し下げ効果があるという。
今回の合意で、日本の経済成長が▲0.55%程度、下押しすることになる。
・関税率が15%に押し下げた効果は大きいが、それでも新たな関税負担が年約3兆円のしかかってくる。
・体力のない中小企業などにとって、厳しい試練が待ち受けている。政府はトランプ関税で経営が厳しくなる企業への金融・構造変革など支援策の策定・実行が必要になる。雇用も転身含めたきめ細やかな対応が必要である。
●3.米国自動車業界団体、日本との貿易合意に「悪いディール」と懸念を表明 (ロイター)
1)GM、フォード、クライスラーの親会社ステランティスなどでつくる米国自動車貿易政策評議会(AAPC)は7/22、米国と日本の貿易合意について懸念を表明した。同合意では、日本に対する自動車関税が15%に引き下げられる可能性がある。一方、カナダとメキシコからの輸入には25%の関税が課されている。
2)AAPCのブラント会長は、
・「米国製部品をほとんど含まない日本からの輸入車に、米国製部品を多く含む北米製自動車よりも低い関税を課すいかなる合意も、米国の産業と自動車労働者にとって悪いディールだ」と述べた。トランプ大統領は8/1に、メキシコに対する関税を30%、カナダには35%に引き上げると警告している。
3)GMは関税の影響で4~6月期の利益が▲11億ドル押し下げた。ストランティスは現段階で▲3億ユーロの損失、下期には損失が拡大すると予想。
●4.相互関税合意に対する日本の反応(NHK)
1)石破首相、「日本・米国が力を合わせて、世界に役割を果たしていく」と述べた。「対米黒字国で最も低い数字」と、米国との関税交渉で成果を強調。(ロイター)
2)赤沢・経済再生相はXに、「任務完了」と投稿した。
●5.日米関税交渉で合意「相互関税15%」、トランプ氏「車・コメ解放」(ロイター)
1)トランプ米国大統領は7/22、日本との貿易交渉で大規模な合意を締結したと、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿して「15%になる」と表明した。
2)「おそらく史上最大の取引だ」とした上で、日本が米国に5,500億ドルを投資して、利益の90%を米国が受け取り、数十万人の雇用が創出されると主張した。さらに、日本が自動車やトラック、コメ、一部の農産物を含む市場アクセスを開放すると述べた。
3)トランプ氏の投稿には日本への自動車関税25%の緩和については触れられていない。
4)関係者によると、トランプ氏は7/22、日本側の関税交渉担当である赤沢亮正・経済再生相とホワイトハウスで会談した。
●6.財務省の概算要求方針案、物価高など重要政策で経費削減なく+20%増の方向(NHK)
1)これまで増額の条件としてきた、経費の削減は求めない見込み。
●7.トヨタ、インドネシアの工場で電気自動車の生産を始めると発表(NHK)
■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)
・2607 不二製油 業績好調
・2801 キッコーマン 業績堅調
・6955 FDK 業績堅調
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