解明が進みつつある太陽系外からの訪問者「ボリソフ彗星」の謎

2019年10月11日 21:47

 2019年8月30日に発見されたボリソフ彗星は、2017年に飛来したオウムアムア以来の太陽系外天体として注目されているが、発見から1カ月以上が経過し、徐々にその正体が明らかになってきた。

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 ボリソフ彗星が太陽系外からやってきた証拠は、その異常なほどの移動速度にある。9月12日の時点で太陽から4億2千万kmの位置を秒速42km、時速に換算すると約15万kmの速度で移動中であったが、この値は2017年のオウムアムアの秒速39kmを超えている。

 ちなみに代表的な惑星の公転速度は、金星が秒速35km、地球が秒速30km、火星が秒速24km、木星が秒速13kmというように太陽からの距離が遠くなるほど小さな値になる。太陽からの距離が地球の1億5千万kmよりもはるかに遠い4億2千万kmにあって、秒速42kmという値を示すボリソフ彗星の速さは際立っている。

 現在までの観測で明らかになっている最も重要なポイントは、見た目が太陽系由来の彗星とよく似た平凡なもので、構成元素の分析結果も太陽系由来の彗星と大きな違いがないことである。

 大きさは800mから3.2km程度と推測され、太陽に最も近づく12月8日においても肉眼で確認できるには程遠い明るさにしかならない。オウムアムアの形が非常に奇妙なものであっただけに、やや期待外れの感もあるが、太陽系由来の彗星が宇宙のどこにでもある平凡な存在であることが分かっただけでも、収穫ではある。

 ポーランドの科学者たちによりボリソフ彗星がどこからやって来たのかについての解析が行われ、約100万年前にクリューゲル60連星系の付近(5.4光年以内)を、時速1万2千kmというゆっくりとした速度(現在の10分の1以下)で移動していたことが、公表された。ただし、この結果には懐疑的な意見も多く、信憑性について結論が定まるのはまだ先の話である。

 太陽系外由来天体の過去の軌跡を探るのは、過去のあらゆる天体の位置を特定できることが前提になり、極めて困難な作業である。過去の位置が特定できる恒星は地球のごく近傍にあるものに限られることも、問題解明を難しくしている。

 南米チリでは現在、大型シノプティック・サーベイ望遠鏡(LSST;口径8.4mの可視光赤外線望遠鏡)を建設中で、完成すれば1年に1個程度の太陽系外天体の発見が可能になる。実は太陽系外天体の飛来は、われわれがこれまで発見できなかっただけで、それほど珍しいことではない。

 今後、太陽系外天体の観測が日常的に可能になれば、もしかすれば、別の宇宙の知的生命体が建造した人工天体を発見し、その由来を追跡して他の宇宙文明の痕跡を見つけ出すことができる日が来るかもしれない。ボリソフ彗星のニュースに接し、そんな空想に胸を膨らませているのは私だけだろうか。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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