ソニー「XYN」、個人向けプランを日米などで提供―写真から仮想制作向け3DCGを生成

2026年11月5日 12:40

ソニーは2026年10月27日、「XYN(ジン)」の空間キャプチャーソリューションを更新し、個人のプロクリエイターや小規模な制作チームも利用できる料金プランとオンライン決済を導入した。日本、米国、カナダで購入でき、日本の有料プランは月額3300円(税込)からとなる。

撮影した実在の空間や物体をクラウドで3DCG素材に変換し、バーチャルプロダクションなどに活用するサービスだ。今回の更新では、小道具や自動車などのオブジェクト生成に対応し、撮影から生成、表示までの機能を拡充した。

■ロケハンの写真を制作素材に変える

XYNの空間キャプチャーソリューションは、撮影支援アプリ「XYN Spatial Scan Navi」、クラウド生成アプリ「XYN Spatial Scan」、表示用の「XYN Spatial Renderer Plugin」で構成される。2026年4月に法人向け提供を開始し、今回、クレジットカードによるオンライン購入を導入して利用者を広げた。

Scan Naviは、対応するソニーのαシリーズとiPhoneを接続して使用する。ARのガイドで必要な撮影位置や角度を示し、撮影状況を可視化することで、3DCG化に必要な画像を集めやすくする。

2026年11月4日時点の公式仕様では、対応スマートフォンはiPhone 15、16、17、18の各Pro/Pro Maxで、iOS 18以降が必要となる。生成用の画像は、Scan Naviで撮影したものに加え、別のカメラで撮影した画像を直接取り込むこともできる。

10月の更新で追加された「オブジェクト:アシストモード」は、被写体の大きさに応じてスキャン範囲を指定し、一定の距離を保ちながら周囲を撮影できるよう案内する。背景となる空間に加え、物体全体を多方向から撮影する作業を支援する機能だ。

画像をクラウドにアップロードすると、ソニー独自の「XYN Venusアルゴリズム」が3DCG素材を生成する。実在の場所を写真からデジタル素材にする工程が加わることで、ロケハンは撮影場所を選ぶ作業に加え、スタジオで再利用する背景を収集する機会にもなる。

■3DGSが支えるリアルタイム描画

この仕組みの基盤となる3D Gaussian Splatting(3DGS、ガウシアンスプラッティング)は、複数の写真から写実的な3次元シーンを再構成する技術だ。Inriaやマックス・プランク情報学研究所などの研究者が2023年に発表した論文は、1080pで毎秒30フレーム以上の高品質な新規視点画像の生成を報告した。

代表的な3DGSでは、シーンを数百万個の3次元ガウシアンの集合で表現する。それぞれが位置、不透明度、形や向き、大きさを表す共分散行列、見る方向によって変わる色を表現する球面調和関数の係数を持つ。

描画時には、これらを画面上に投影し、GPUで奥行き順に色と不透明度を合成する。Neural Radiance Fields(NeRF)の基本的な方式が視線上の多数の位置でニューラルネットワークを評価するのに対し、3DGSは明示的に保持したガウシアンを描画することで計算を効率化する。

LEDウォールを背景にして撮影する現場では、カメラの動きに応じて背景を更新する必要がある。ソニーのRenderer Pluginの公式仕様は、NVIDIA RTX 6000 Ada相当以上を推奨し、4K/30fpsまたはフルHD/60fpsでのリアルタイム再生を掲げている。

■Venus HでHDR制作にも対応

ソニーによると、Venusアルゴリズムは反射や光沢、透明感を含む質感や遠景の描写に対応する。今回の更新では、生成する物体の範囲を指定でき、PCや対応スマートフォンでの表示から、大型LEDウォール向けの素材制作まで用途を広げた。

「Venus H」は、細かな枝葉や遠景などの詳細表現を重視した生成アルゴリズムだ。2026年7月23日公開のXYN Spatial Scan v1.1.0では、S-Gamut3.Cine/S-Log3で撮影した画像からのHDR向け素材生成に対応した。この処理に使う画像はHEIF形式で取り込む。

ソニーが案内するHDRワークフローでは、撮影、生成、表示の各工程でカラープロファイルをそろえる。撮影素材の広い階調と色情報を活かして生成し、Renderer PluginでUnreal Engineの作業用色空間に変換して表示する仕組みだ。

生成データはPLYのSplatフォーマットで出力する。表示には対応するレンダラーやプラグインを利用し、Unreal Engine、Disguise RenderStream、Aximmetryなどの制作環境へ組み込める。

2026年11月4日時点の公式仕様では、Renderer Plugin v1.0.0はUnreal Engine 5.4~5.6、v1.1.0は5.4~5.7に対応する。PRONEWSによると、Aximmetryとの連携は2026年9月4日に発表されている。10月の更新では、Unreal Engine上でのスプラット編集や処理、ちらつきの抑制なども強化した。

■国内料金とトークン消費量

2026年11月4日時点の国内月額料金は、Freeが無料、Creation 500が3300円、Creation 2000が1万1108円、Creation 2000 + Rendererが3万4494円で、いずれも税込となる。大規模制作向けには個別見積もりのCustomプランも用意する。

月払いの場合、Creation 500には毎月500トークン、Creation 2000とCreation 2000 + Rendererには毎月2000トークンが付与される。Freeの付与分は0だが、500トークンを3300円(税込)で追加購入して生成機能を使える。有料プランでは、加入プランと購入量に応じて追加購入の割引がある。

米国向けの月額料金は、同日時点でCreation 500が20ドル(約3160円)、Creation 2000が67.32ドル(約1万600円)、Creation 2000 + Rendererが209.05ドル(約3万3000円)となる。公式料金ページでは、米ドルとカナダドルの表示価格に地域の税金を含まず、決済時に計算すると案内している。

トークンは、素材生成時に消費する共通の利用単位だ。ソニーは入力画像110枚の場合の目安として、ベーシック品質で約150トークン・約15分、エンハンスド品質で約200トークン・約30分、アドバンス品質で約1700トークン・約1時間、エクストリーム品質で約2000トークン・約3時間を示している。

同社はアドバンスとエクストリームを300インチ以上のディスプレイ向けに位置付ける。消費量や生成時間は画像枚数、解像度、品質などの設定で変わるため、制作予算は表示先と品質設定を決めて見積もる必要がある。トークンの有効期限は付与日から6カ月で、月払いに加えて割引のある半年払いも選べる。

Renderer Pluginの商用版を含む定額プランはCreation 2000 + Rendererだ。ほかの3プランにはUnreal Engine用の透かし付きトライアル版が用意される。全プランに15GBのストレージが付属し、FreeのScan Naviは最大3プロジェクト、撮影ガイド最大200枚となる。

■撮影現場と教育機関が見いだす用途

撮影監督のエリック・“ウルフィー”・ウォルフォードは、ソニーの発表で、撮影が難しい場所をデジタル素材として保存し、LEDボリュームやグリーンバックのステージに持ち込める点を評価している。再撮影に備えてロケ地を記録しておく用途も挙げた。

ウォルフォードは、木星の衛星を舞台にした短編映画「Europa」でも撮影監督を務めた。南カリフォルニア大学のEntertainment Technology Centerが公開した制作資料によると、同作はカルバーシティーのSony Innovation Studios Stage 7で撮影され、Pixomondoが制作を支援した。バーチャル美術にはSony Torchlightなどが参加した。

テキサスA&M大学Virtual Production Instituteのバーチャルプロダクションスーパーバイザー、ジャスティン・カークホフは、ソニーの発表で、歴史的建造物や場所を特定時点の姿で保存する用途を紹介した。大学キャンパスの変化を記録するなど、映像制作以外への活用も見込んでいる。

同大学によると、同研究所は米国初の同種の機関で、第88回テキサス州議会から教職員や設備のために2500万ドル(約39億5000万円)の資金を受けた。大学の予算資料には、ソニーがカメラや技術者などを提供する協力関係も記載されている。

テキサスA&M大学が2024年に公表した紹介記事は、2023年の世界のバーチャルプロダクション市場を29億7000万ドル(約4690億円)としている。また、専門誌VFX VoiceはEpic Gamesの説明として、Unreal Engineを使うLEDステージが2019年の3カ所から2022年後半には300カ所超へ増えたと報じた。制作環境の広がりに合わせ、背景素材を効率的に準備するツールも登場している。

■競合製品と次の研究テーマ

スペインのVolingaも、写真などから生成した3DGS素材を制作現場で扱うツールを提供する。同社の導入事例にはNetflixの「ベルリンと白貂を抱く貴婦人」と、CBS/Paramount制作の「Fire Country」シーズン4がある。Pixotopeは2026年4月、Volingaのプラグインへの対応を発表した。

動きのある被写体を扱う4D Gaussian Splattingの活用も進む。専門メディアRadiance Fieldsによると、Framestoreは映画「スーパーマン」で、両親のホログラム表現を約30ショットに使用した。同社が公開した技術解説では、撮影した演技を3次元素材として扱う制作工程を紹介している。

バーチャルプロダクション向けの再照明研究もある。ブリストル大学の研究者らが2026年5月に公開した論文は、LED背景の画像情報を使い、シーンの見え方を固定成分と照明によって変化する成分に分ける手法を提案した。背景画像を編集して再構成したシーンの照明を調整し、ポストプロダクションでの作業を支援する研究だ。

XYNは、撮影支援、クラウド生成、素材の表示までをソニーのツールでつなげる点に特徴がある。ソニーはNAB Show 2026で、XYNで生成した背景のCrystal LED VERONAへの表示や、カメラトラッキングシステム「OCELLUS」によるバーチャルプロダクションのデモを紹介した。

今後は2026年末までに、開発中の機能やアルゴリズムを試せる「Lab apps」の展開を始める計画だ。ソニーはクリエイターからのフィードバックを、機能改善と今後の開発に反映するとしている。

元記事: Sony XYN Brings Real-Time Gaussian Splatting to US Virtual Production Stages

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