アンソロピックIPO、最大5500億円を日本で募集―AI巨額調達、米国勢だけでは賄えず
2026年11月3日 09:59
生成AI「Claude」を開発する米アンソロピック(Anthropic)は11月2日、米国での新規株式公開(IPO)の一環として、日本の投資家に最大35億ドル(約5530億円)相当の株式を販売する計画を届け出た。AI開発をめぐる資金調達競争の激化を受け、企業がウォール街以外にも販路を広げている実態が浮き彫りになった。
調達資金は運転資金、営業費用、設備投資に充てる。届け出では、IPO全体の規模や企業評価額は示されていない。
■「米機関投資家だけでは賄えない」
ロンドン大学クイーン・メアリー校とキングス・カレッジ・ロンドンで金融学の客員講師を務め、ヘッジファンドのパロマー・キャピタル・マネジメントを創業したパトリック・ボイル氏は、今回の海外展開について、テクノロジー業界に資金を供給する投資家に複数の資金需要が競合している状況を反映したものだと指摘する。
ボイル氏は「この規模の案件は、米国の機関投資家だけに頼ることはできない」と述べた。米機関投資家は「大手テクノロジー企業のほかの資金調達で、すでに手いっぱいの状態にある」という。このため、株式の販売網づくりが取引の中核になっている。
投資銀行は、必要な資金をすべて米国内の機関投資家が供給すると想定するのではなく、複数の市場で買い手候補を探す必要がある。ボイル氏は「日本は当然の選択肢だ。成長を求める貯蓄の規模で世界有数の市場であり、日本の家計や機関投資家は数十年にわたり国際投資の大きな担い手となってきた」と語った。
さらに「AIは世界で最も人気の高い成長ストーリーであり、日本には自然な需要がある」と述べた。
日本での株式販売はみずほ証券が取りまとめる。ゴールドマン・サックス、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、モルガン・スタンレーMUFG証券などが申し込みの受け付けを担う。
■SpaceXの前例に続く
今回の日本向け販売計画は、米テクノロジー企業の株式売り出しに対する日本の需要が試された大型案件に続くものだ。6月に実施された米SpaceX(スペースX)のIPOは総額750億ドル(約11兆9000億円)を調達し、このうち日本の投資家には22億ドル(約3480億円)分の株式が割り当てられた。ボイル氏は「国際的な発行は、最も注目度の高い超大型IPOにとって標準的な手法になった」と述べた。
SpaceXは、各国の金融仲介業者を通じて個人投資家に株式を届けるモデルも示した。ボイル氏は、Anthropicの日本での販売戦略をその延長線上にあるとみている。「これほど多額の資本が必要な場合、手の届く厚い貯蓄の層にはすべてアクセスし、各市場で現地の仲介業者を使って個人投資家に届ける」と同氏は話した。
■巨額の支出計画
資金調達の背景には、巨額の支出需要がある。Anthropicが11月2日に公表した改訂版のIPO届出書によると、2026年第3四半期(7〜9月期)の売上高は170億ドル(約2兆6900億円)、純損失は233億ドル(約3兆6800億円)だった。純損失の大半は、同社の転換社債の評価額上昇に伴う会計上の費用によるものである。
同社はまた、計算資源とインフラ関連で総額8954億ドル(約141兆円)の支出契約を結んでいることを開示した。このうち700億ドル(約11兆1000億円)は今後12カ月以内に支払期限を迎える。
■債券市場でも同じ構図
ボイル氏は、投資家層の拡大を求める同様の動きは、テクノロジー企業による複数の通貨や市場にまたがる借り入れにも表れていると指摘する。「債券市場でも同じパターンが見られる」と同氏は述べた。
ボイル氏は、事業拡大の資金調達手段として、債権者からの借り入れと株主への持ち分売却の二つを区別する。そのうえで、どちらの場合も資金需要の規模の大きさが、企業に調達先の拡大を促しているとの見方を示した。「Anthropicの日本での株式販売は、同じ論理の株式版だ。金額がこれほど大きければ、手の届く厚い資本の層にはすべてアクセスすることになる」