NVIDIA、AIファクトリーの現地導入を最短14日に DSX PODを2027年初頭に提供へ

2026年10月23日 18:30

NVIDIAは2026年10月21日、ドイツで開催したGTC Berlinで、AIファクトリーをモジュール式コンテナ内に構築するリファレンス設計「DSX POD」を発表した。同社によると、製造拠点で統合・検証を済ませることで、整備済み施設への現地導入期間を約6カ月から最短14日に短縮できるという。パートナー各社は2027年初頭の世界展開を予定している。

■統合作業を顧客施設から製造拠点へ

DSX PODは、NVIDIA Vera Rubinを基盤とするAIファクトリー一式を、パートナーがコンテナ内に構築するための設計だ。コンピューティング、ネットワーク、ラック間の配線、ラック単位の電力供給、液冷配管を製造拠点で統合し、機能を検証してから出荷する。

納入先では、準備済みの電力、冷却、ネットワークなどの基盤インフラへ接続する。最短14日という期間の対象は、このように受け入れ条件が整った施設での導入工程だ。設置先の電力容量や冷却設備、ネットワークの整備は、別途計画する必要がある。

Vera Rubin NVL72は、Vera CPU 36基とRubin GPU 72基を組み合わせるラック規模のシステムである。NVIDIAはVera Rubinの量産を進めており、その供給網には30カ国、350以上の工場にまたがるパートナーが参加しているとしている。

DSX PODの提供パートナーには、Anduril、Armada、Bull、Crusoe、DayOne、Dell Technologies、Delta、Eaton、Foxconn(Ingrasys)が名を連ねる。GIGABYTE、HPE、Lenovo、Pegatron、Quanta Cloud Technology(QCT)、Schneider Electric、Vertiv、Wistronも参加する。

Dellも10月21日、「Dell Modular Data Center with NVIDIA DSX POD」を発表した。演算、ストレージ、ネットワーク、ラック単位の電力供給、液冷を含むコンテナ型の設計で、2027年初頭の提供を予定する。

専門メディアStorageReviewによると、発表時点でNVIDIAはDSX POD当たりのラック数、演算能力、価格を公表していない。導入を検討する企業にとっては、パートナー製品の具体的な構成と、施設側の受け入れ条件が選定のポイントとなる。

■冷却と電力配分を一体で設計

DSX PODを支えるNVIDIA DSXは、演算、ネットワーク、ストレージ、ソフトウェア、電力、冷却を一体で設計するAIファクトリー向けプラットフォームである。施設の設計から運用までを対象とし、設備とIT機器を連携させる。

NVIDIAによると、Vera Rubinインフラは冷却液温度が最大45℃の完全液冷に対応する。DSXのリファレンス設計では、冷却液を閉ループで循環させ、屋外のドライクーラーから空気中へ放熱する。水を蒸発させて熱を逃がす冷却塔と比べ、施設冷却に伴う水の消費を抑える仕組みだ。

同社は、2ギガワット規模の設備で従来の冷却塔方式と比べ、1日当たり5400万リットルの水を節約できる可能性があると試算している。施設冷却用の水消費をほぼゼロに近づける設計で、暑い時期に補助的な機械冷却が必要になるかは設置地域の気候に左右される。

運用面では、電力配分を最適化する「DSX MaxLPS」、電力網の状況に消費電力を合わせる「DSX Flex」、デジタルツインによるシミュレーションを担う「DSX Sim」を用意する。「DSX OS」はインフラ管理を、「DSX Exchange」はIT機器と施設設備の情報連携を担い、検証済みのインフラ構成を示すDSX Reference Designも含む。

DSX MaxLPSは、確保した電力枠の中でGPUやラック、ワークロード間の電力配分を動的に調整する。NVIDIAの発表では、LambdaがHGX B200システムで行った概念実証で、一定の電力枠内におけるクラスタ全体のトークン処理量が24%、利用できるGPU容量が19%増えたという。

NVIDIAとNscaleの共同評価では、アイスランドのGB300 NVL72システムで、確保した電力枠を264.4キロワットに固定し、管理対象GPUを140基から192基へ増やした。NVIDIAの技術ブログによると、GPU数は37.1%、正規化した合計処理量は49.2%増加した。測定された総消費電力は166.2キロワットから198.9キロワットへ増えており、利用可能な電力枠をより多く計算処理に振り向けた結果である。

■電力網との協調と運用管理

DSX Flexは、電力会社の要請、電力需給に応じた需要調整、電力価格に合わせて、AIワークロードの消費電力を調整する。系統電力に加え、敷地内の再生可能エネルギーや蓄電設備も協調させる構想だ。

NVIDIAによると、Emerald AI、EPRI、Nebius、英国のNational Grid、NVIDIAによる初期試験では、模擬的な電力系統の変動に応じ、Blackwell Ultraクラスタの消費電力を最大40%削減したという。その間も重要なワークロードは継続した。こうした調整は、AIファクトリーが電力網の需給調整に参加するための手段になる。

DSX OSでは、3つのコンポーネントが開発者プレビューとして提供される。「NVIDIA Config Manager」はネットワーク構成を自動化し、「NVIDIA Rack Management Service」はラック単位の電力、機器情報、ファームウェア、スイッチを管理する。「NVIDIA Cluster Readiness Engine」は分散ワークロードでクラスタを検証し、障害が生じたノードの特定を支援する。

■基板・検査・光接続の供給能力を拡張

NVIDIAは同じGTC Berlinで、AIインフラ向けの製造能力を増強する計画も発表した。IBIDEN、Samsung Electro-Mechanics、Unimicronとの契約などを通じ、同社製品向けの半導体パッケージ基板の供給能力を今後3年間で2.5倍にする計画だ。

日本のイビデンには、2026年中に締結・発表された契約に基づき、数十億ドル規模の生産能力予約前払いを行う。NVIDIAによると、大野工場の生産能力を現状の3倍に拡大する計画を支援し、追加能力は2028年第1四半期から立ち上がる見込みである。

Samsung Electro-Mechanicsは、韓国の既存拠点の能力を供給するとともに、世宗と釜山での施設更新・新工場整備を進める。Unimicronの台湾におけるKF基板増産にも予約契約を通じて協力し、2027年第2四半期からの能力追加と2028年半ばの全面稼働を見込む。

半導体検査では、NVIDIAは2026年から2027年に総能力を倍増させる計画だ。King Yuan Electronics(KYEC)への11億ドル(約1730億円)の予約前払いで米国の新施設・設備を支援し、2027年4月の量産対応開始を目指す。シンガポールの拡張拠点は同年2月の量産対応開始を予定する。

Siliconware Precision Industries(SPIL)とは、台湾の光エンジン製造能力を2027年半ばまでに15倍にし、2028年末までにさらに倍増する計画を示した。対象となるコパッケージドオプティクスは、スイッチの半導体パッケージ近くに光接続機能を組み込み、電気信号の伝送距離を短くして接続の電力効率を高める技術である。

DSX PODの提供開始目標は2027年初頭で、基板の追加能力はその後も段階的に立ち上がる。導入計画では、製品の納期、施設の準備、供給能力の拡張を、それぞれの工程として確認することが重要になる。

■OpenShellでエージェントの実行と監視を分担

NVIDIAは、AIエージェント向けの「OpenShell Reference Architecture」も公開した。既存のOpenShell実行環境ソフトウェアを基礎に、モデルの推論、エージェントによるツール操作、動作監視を組み合わせる設計である。

モデル処理にはVera Rubinを、エージェントの実行制御やツール利用にはVera CPUを使う。BlueField-4 DPUでは「NVIDIA Sentry」を動かし、エージェントの実行側とは別の処理系で継続的に動作を監視し、ポリシーを適用する。API呼び出しやコード実行などに、企業が定めた境界を設ける構成だ。

NVIDIAは、境界を越えようとしたエージェントをSentryがミリ秒単位で隔離・停止でき、処理可能なエージェント数を最大20%増やせるとしている。また、Vera Rubin NVL72によるエージェント型ワークロードで、メガワット当たり30倍の処理量を掲げた。いずれも同社発表の性能値である。

対応環境として、Canonical、SUSE、Red HatによるLinux・Kubernetes基盤、Microsoft Execution Containersを用いるWindows、AWS、Google Cloud、Microsoft Azureを挙げる。エッジ向けにはRTX Spark、DGX Spark、DGX Stationへ展開する。フアンCEOは発表文で「AIの能力と安全性は、ともに進歩しなければならない」と述べた。

SAPはJoule Studioランタイムとの統合を進める。ServiceNowは同日、長時間にわたって作業を実行する個人向け企業用エージェント「Arc」の一般提供を開始した。ServiceNowによると、Super Intelligence Control Towerで定めたポリシーをOpenShellで適用し、AI PassportとOpenShell・Sentryの連携は将来のリリースで提供する予定だ。同社は、アクセス権の取り消しをソフトウェアとハードウェアへ約1秒で反映する仕組みを説明している。

インフラではDell、Cisco、HPE、Lenovo、Supermicroが参加し、クラウドではCoreWeave、Crusoe、Lambda、Nebius、Nscale、Oracle Cloud Infrastructure、Vultrなどと導入に取り組む。セキュリティ製品では、1Password、Check Point、CrowdStrike、Cisco、F5、Fortinet、Microsoft、Okta、Palo Alto Networks、TrendAI、Zscalerが対応を進めている。

■T-Mobileが商用網でAI-RAN通話

通信分野では、T-Mobileが米ワシントン州ベルビューで、NVIDIAが世界初とする商用ネットワーク上のAI-RAN通話を実施した。Aerial RAN Computer(ARC)サーバー、NokiaのCUDA対応RANソフトウェア、大規模MIMO無線機、既存の5Gスタンドアロンコア、商用スマートフォンを使用した。

AI-RANには、無線アクセスネットワークの処理とAIサービスを、共通のGPUベースの計算基盤で動かす発想がある。Elisaはフィンランドの5G無線フィールド環境で、音声、モバイルデータ、映像分析をARC上で同時に実行した。NVIDIAは、この試験が2027年の商用AI-RANサービスに向けた取り組みを後押しするとしている。

BTは2027年に英国バーミンガムで実網試験を予定する。Deutsche Telekomはボンとオウルの研究施設で検証を終え、2027年のフィールド試験を計画している。OrangeはARC上でNokiaの5Gソフトウェアを試し、周波数利用効率とエッジサービスを評価する。

NVIDIAはARCの新構成「MGX 2U」「MGX 4U」も発表した。RTX PRO 6000 Blackwell Server Edition GPUを搭載し、CPUにはx86とVeraの選択肢を設ける。Dell、QCT、Supermicroが対応サーバーを提供する予定で、発表では出荷日を示していない。

■欧州の産業AIとデータ主権

GTC Berlinは10月20日の研修と、21~22日の会議・展示で構成され、基調講演はTempodrom、会議・展示はSTATION-Berlinで開催された。ストレージ企業VDURAの開催前の案内では、来場者を6000~1万人と見込んでいた。産業向けAIやロボティクス、自らのデータと計算基盤を管理するソブリンAIが主要なテーマとなった。

NVIDIAの発表によると、フアン氏は会議に先立ち、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相と産業AIの活用について対談した。ドイツ政府とNVIDIAは、製造業の知識とAIを組み合わせ、フィジカルAI向けモデルなどの共同取り組みを進める方針を示した。

フアン氏は2025年6月の産業AIクラウドに関する発表でも、製造業には製品を作る工場と、それを動かす知能を作る工場という「2つの工場」が必要になると説明していた。製造現場とAIの学習・推論基盤を並行して整備するという構想が、欧州での提携の背景にある。

Deutsche Telekomのミュンヘンの産業AIクラウドは、10億ユーロ(約1760億円)規模の提携として2025年に発表され、2026年2月4日に正式稼働した。同社によると、Blackwell GPU 1万基を備える。GTC Berlinでは、ロボット本体、分散したエッジ、中央のクラウドに処理を分担する取り組みも紹介された。

規制面では、欧州委員会によると、EU AI法は2026年8月2日に原則適用が始まった。一部の高リスク用途に関する規則は2027年12月2日、規制対象製品に組み込まれる高リスクAIの規則は2028年8月2日から適用される。企業には、用途に応じた記録、監督、セキュリティなどの管理体制が求められる。

工場で統合した計算基盤を運び込み、設置先の設備へ接続するDSX PODは、自ら保有・管理するAIインフラを構築する選択肢になる。2027年初頭の提供に向けては、施設の受け入れ準備、パートナー製品の仕様と納期、運用時の電力・冷却条件が、計画を具体化する焦点となる。

元記事: NVIDIA Cuts AI Factory Deployment to 14 Days With DSX POD at GTC Berlin

関連記事

最新記事