マスターカード、AIエージェント決済「AP4M」の早期アクセス開始―x402基盤で少額・高頻度決済に照準
2026年10月22日 11:23
米決済大手マスターカード(Mastercard)は2026年10月20日、AIエージェント向け決済基盤「Agent Pay for Machines(AP4M)」の開発者向け早期アクセスを開始した。企業があらかじめ設定した権限と予算に従い、エージェントがデータやAPI、計算資源などの料金を支払う仕組みだ。
サンフランシスコのCloudflare Connectでは、エージェントが調査と画像生成のサービスを利用し、2社に計9回支払うデモも披露された。2026年10月時点ではパイロット段階で、一般商用提供の開始時期は公表されていない。
■買い手・売り手向けAPIとサンドボックスを提供
早期アクセスでは、サービスを購入する側と提供する側のAPIの初版に加え、開発ツール、サンドボックスと呼ばれる検証環境、開発者向け文書を提供する。Mastercardは、エージェント間の商取引を構築・テストする開発者に参加を呼びかけている。
公開に先立ち、Cloudflare、Ant International、AIsa、Base、BVNK、Coinbase、Hypeとの間で、一連の取引を通した実証を行った。今後の開発計画には、顧客やパートナーによる試用結果と要望を反映する方針だ。
AP4Mの初回発表は2026年6月10日だった。当初の参加企業・支援企業は30社超で、OKX、Stripe、Ripple、Aave Labs、Adyen、Checkout.comなどが名を連ねた。
Mastercardの最高プロダクト責任者ジョーン・ランバート氏は6月の発表で、AP4Mが「AIビジネスモデルが一斉に花開くための条件をつくる」と述べた。同社は、高頻度かつ少額の取引を通じて、企業がエージェント向けのサービスを販売する事業機会を見込んでいる。
■調査購入と画像8点の生成で、計9回の支払い
Cloudflare Connectでのデモでは、マーケティング代理店Hypeが、プロテインバーの発売キャンペーンを企画する仕事と予算をエージェントに与えた。Decryptによると、会場ではランバート氏が実演を披露した。
エージェントはDiscovery Serviceで登録済みのAP4Mサービス提供者を探し、AIsaによるソーシャルメディア調査と、Cloudflare AI Gatewayを通じたキャンペーン画像の生成を組み合わせる計画を提示した。Hypeが資金の使用を承認すると、エージェントが調査を購入し、続いて画像8点を生成した。
Mastercardによると、デモでの支払いは計9回で、提供者は独立した2社、承認した予算は1つだった。提供者ごとに個別のアカウントやAPIキーを用意したり、請求書を処理したりする手順を省き、使った分だけ支払った。
同社は、エージェントを動かすプラットフォームの例としてAmazon Bedrock AgentCoreを挙げている。決済要求にはCloudflare Monetization Gatewayを使い、サービス側が支払いを求めると、エージェントが署名済みの支払証書を作成する流れを示した。
■HTTP 402と署名済み支払証書を使う仕組み
AP4Mは、Coinbaseが開発したオープンな決済プロトコル「x402」を基盤とする。名称の由来はHTTPステータスコード「402 Payment Required」で、HTTPの標準仕様では将来の利用に向けて予約されてきたコードだ。
x402では、有料のリソースにアクセスしたクライアントに対し、サーバーがHTTP 402とともに金額、受取先、対応ネットワークなどの支払条件を提示する。クライアントは支払いを認可する署名付き情報を添えて再要求し、サービス側が検証・決済の処理を進める。
2026年10月時点のx402 V2の仕様では、支払条件にPAYMENT-REQUIRED、クライアントの支払情報にPAYMENT-SIGNATURE、決済結果にPAYMENT-RESPONSEというHTTPヘッダーを使う。支払方式によって、個別に決済する方法や、認可を先に確認して後からまとめて精算する方法を選べる。
Mastercardが説明するAP4Mの流れでは、企業が仕事と支出上限を承認し、エージェントがその範囲内でデジタル署名付きの支払証書を発行する。提供者は証書を検証してサービスを届け、受け取った証書をまとめて後から精算できる。
この認可・検証はブロックチェーン外、すなわちオフチェーンで行う。サービスの利用ごとにオンチェーン決済の完了を待つ処理を分離し、まとめて精算することで、少額・高頻度の取引に伴う処理や費用を抑える設計だ。
■権限管理と複数の決済経路を組み合わせる
AP4Mの基本機能は、エージェントの認証、権限設定、取引、決済の4つに分かれる。Mastercardによると、企業が設定した承認ルールと支出制限をプログラムで適用し、認証済みの参加者同士が取引する仕組みを整える。
Fortuneによると、Mastercardは権限の記録先としてPolygon、Solana、Baseなどのブロックチェーンを選んだ。取引の参加者が、エージェントに与えられた権限を検証するための情報として使う。
今回のデモでは、Coinbase Developer Platformがエージェントへの資金供給に使うウォレット基盤を提供し、Baseがオンチェーン決済のネットワークを担った。BVNKはエージェントのウォレットとして、Mastercard Global Money Platformを使い、買い手・売り手双方の支払いと精算を法定通貨またはステーブルコインで処理したという。
Mastercardは、売り手が希望する通貨、トークン、決済経路で代金を受け取れると説明している。Global Money PlatformはBVNKと共同で2026年10月15日に発表したもので、法定通貨とステーブルコインの機能を単一のAPIでつなぐ。
MastercardによるBVNKの買収は2026年8月3日に完了した。3月17日の買収契約発表では、条件付き対価3億ドル(約474億円)を含め、買収額を最大18億ドルとしていた。
■x402の共通仕様づくりと利用実績
Linux Foundationは2026年4月2日、Coinbaseからのプロトコル提供を受け、x402 Foundationを設立する計画を発表した。7月14日に正式稼働と提供完了を発表し、その時点で会員は40組織に達した。
会員にはVisa、Mastercard、American Express、Stripe、Google、AWSなどが含まれる。財団は、特定企業に依存しない運営の下で、HTTPを使った決済の共通仕様を育てる役割を担う。
Coinbase Developer Platformの公開文書によると、2026年10月時点で、同社のCDP FacilitatorはBaseとSolanaだけで累計1億件超、総額2800万ドル(約44億2000万円)の決済を処理した。Facilitatorは、サービス提供者に代わって支払情報の検証や決済を行う機能だ。
有料デジタルサービスでは、提供者ごとにアカウント、APIキー、前払い残高、請求契約などを管理する必要が生じやすい。AP4Mが狙うのは、タスクの進行に応じてエージェントが利用先を選び、共通の認可と決済の仕組みを使って料金を支払う形だ。
■Visa、Stripe、Googleも関連基盤を整備
Visaは2025年10月14日、Cloudflareと共同開発したTrusted Agent Protocolを公開した。CloudflareのWeb Bot Authを活用し、加盟店がエージェントの身元や取引に関する情報を確認するための仕組みである。
Cloudflareは同月、Mastercard、American ExpressともWeb Bot Authの活用に取り組むと発表した。枠組みへの意見提供には、Adyen、Checkout.com、Circle、Fiserv、Microsoft、Nuvei、Shopify、Webflow、Worldpayが参加した。
Stripeは2026年3月18日、Tempoと共同で策定したMachine Payments Protocol(MPP)を発表した。Stripeの実装ではステーブルコインのほか、カードや後払い決済にも対応する。TempoはStripeとParadigmが共同で育成した決済向けブロックチェーンで、アクセスキーに支出上限を設定する仕組みも備える。
Googleは2025年9月にAgent Payments Protocol(AP2)、2026年1月にUniversal Commerce Protocol(UCP)を発表し、5月のGoogle I/Oでも両者を軸とする構想を紹介した。UCPは商品発見から購入後の対応までをつなぐ共通仕様で、AP2は利用者の指示や購入承認を暗号署名付きの記録にする。
UCPの技術評議会には、2026年4月にAmazon、Meta、Microsoft、Salesforce、Stripeの代表者が加わった。各社は、エージェントがサービスを見つける機能に加え、取引権限の確認や支払いのための基盤を整えている。
■外部コンテンツに埋め込まれた指示への備え
決済機能を持つエージェントでは、外部コンテンツを通じて行動を誘導する「間接プロンプトインジェクション」が重要なセキュリティ課題になる。Webページの不可視テキスト、HTMLコメント、メタデータなどに埋め込まれた指示を、エージェントが利用者からの指示のように扱うことで生じる。
Googleは2026年4月、Common Crawlの公開Webアーカイブを調べた結果を公表した。このアーカイブは毎月20億〜30億ページ規模のスナップショットを提供しており、Googleの調査では2025年11月から2026年2月にかけて、悪意ある分類の検出が相対的に32%増えた。
Forcepointの研究チームは、決済機能を持つエージェントを狙った指示も報告している。PayPalの送金先と操作手順を指定する例や、メタデータと説得的な文言を組み合わせ、Stripeの決済リンクへ誘導する例を確認したという。
Forcepointは、別の複数のサンプルに共通する記述から、共有された攻撃テンプレートやツールの利用を示唆している。OWASPも、大規模言語モデル向けアプリケーションの2025年版リスク一覧で、プロンプトインジェクションを「LLM01:2025」に位置付けている。
支出上限は、エージェントに与える金銭的な権限を限定する。一方、外部の指示に誘導されれば、その上限内で本来の目的と異なる支出が生じ得るため、決済権限の確認と、支出目的・支払先の確認を組み合わせることが重要になる。
■国際展開では発行・決済に関する規制も確認
ステーブルコインを使う国際的なサービスでは、対象市場や発行者、資金を管理・移転する事業者の役割に応じた規制の確認が必要になる。AP4Mはカード、口座、ステーブルコインを組み合わせる構想であり、採用する決済経路によって検討事項も変わる。
米国では2025年7月18日にGENIUS法が成立し、銀行系に加えて、許可を受けたノンバンクなども対象とする決済用ステーブルコインの枠組みを定めた。米通貨監督庁は2026年10月21日、所管する発行者などへの実施規則を公表し、同法と規則の施行日を2027年1月18日としている。
EUの暗号資産市場規則(MiCA)は、資産参照トークンと電子マネートークンに関する規定が2024年6月30日、その他の主要規定が同年12月30日から適用された。開発者や導入企業は、利用する資産と決済サービス、提供地域を具体化したうえで、該当する発行・認可・サービス提供の要件を検討する必要がある。
元記事: Mastercard Opens Developer APIs for AI Agent Payments Built on x402 Protocol