韓国科学技術院のヒューマノイドv0.9、35kgを押し20kgを持ち上げる全身協調を実演

2026年10月21日 12:30

韓国科学技術院(KAIST)のDRCD Labは2026年10月19日、研究用ヒューマノイド「KAIST Humanoid v0.9」の実演動画を公開した。Interesting Engineeringによると、最大35kgの物体を押し、最大20kgを持ち上げる動作を披露した。搭載した視覚システムを使い、全身の動きと物体操作を組み合わせる取り組みだ。

■脚・胴体・腕を協調させて物体を動かす

動画の題名は「Whole-Body Locomanipulation with KAIST Humanoid v0.9」。ロボットが物体を動かし、文字ブロックを「KAIST」と並べる様子を収めている。Humanoids Dailyによると、物体操作にはロボット自身の視覚情報を利用している。

「全身ロコマニピュレーション」は、移動しながら物体を扱うために、脚、胴体、腕の動きや接触を協調させる技術を指す。物体を押す際は、腕に作用する反力を受けながら姿勢を保ち、必要に応じて足を踏み替える。腕の力と歩行時のバランスを合わせて考える必要がある。

35kgの押し動作と20kgの持ち上げは、それぞれ異なる作業で示された数値だ。床に置いた物体を押す場合、必要な力は物体の質量に加え、床との摩擦や接触状態によって変わる。持ち上げる場合は、物体の重量を支えながら姿勢を維持する必要がある。

搭載視覚は、操作対象の位置を捉え、その情報を動作の調整に使う役割を担う。ブロックの配置は、対象を認識する処理と、体を動かして力を加える処理を一つの作業の中で結び付ける実演となっている。

■高速移動の研究から上半身の操作へ

DRCD Labは、KAIST機械工学科のHae-Won Park准教授が率いる研究室だ。研究室の公式サイトは、KAIST Humanoidを動的な移動のための実物大ヒューマノイドと説明し、独自のアクチュエーターシステムを特徴に挙げている。

2026年3月には、先行する「KAIST Humanoid v0.7」の屋外実演が公開された。韓国の通信社ニューシスによると、身長165cm、重量75kgで、時速12km以上の走行に加え、ムーンウォークやサッカーボールを蹴る動作を披露した。モーター、減速機、制御器などの中核部品は独自に設計したという。

Interesting Engineeringによると、v0.7は準ダイレクトドライブ方式の駆動系と、独自設計の3K複合遊星歯車機構を採用している。また、研究チームは視覚情報に頼らず、関節や機体の状態を捉えるセンサー情報を使った不整地移動にも取り組んできた。Park氏は、中核部品とAI制御の双方を自前で確保した点を成果として挙げていた。

v0.9では、こうした移動技術に腕を使う操作が加わった。Humanoids Dailyによると、腕の開発にはKAISTのRAILABが協力した。同研究室は、機械工学科のJemin Hwangbo准教授が率いており、脚型ロボットの学習制御や全身操作を研究している。

RAILABの公式資料によると、ヒューマノイド開発ではKAIST内の研究室に加え、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のBiomimetic Robotics Lab、Rainbow Roboticsとも連携している。韓国の産業通商資源部の支援を受け、機敏な移動、障害物回避、自律的な両腕操作を目指す研究だ。

■強化学習と人の実演から操作を学ぶ

Interesting Engineeringによると、KAISTはv0.9の物体との相互作用技能を、深層強化学習と人の実演に基づく学習によって開発したと説明している。強化学習は、動作の結果に応じた評価を使って制御方法を学ぶ手法で、人の実演は作業の進め方を学ぶための手掛かりになる。

移動と操作を組み合わせる研究では、対象に力を加えたときの機体の動きまで含めて学習することが重要になる。物体の重さや摩擦、接触位置によって必要な姿勢や力が変わるためだ。視覚情報と機体の状態を使い、作業中の変化に対応する制御が求められる。

DRCD Labでは、実演データからロボットの動作を生成する「DynaFlow」も研究している。研究チームの公開資料によると、微分可能なシミュレーターを、データから動作を生成するフローマッチングモデルに組み込む仕組みだ。ロボットの状態を記録したデータから、その状態を生み出す操作入力も推定する。

DynaFlowの研究では、生成した操作入力を四足歩行ロボットGo1で実行し、さまざまな歩容を再現した。人などの動きを参考にする際、関節の位置や姿勢だけでなく、実機を動かす力や操作入力まで考慮するという課題に取り組んでいる。実演データと物理モデルを結び付ける研究として、ロボットの技能獲得を考える手掛かりになる。

■20kgの実演と韓国の2028年開発目標

韓国では、産業通商資源部の主導で「K-Humanoid Alliance」が2025年4月10日に発足した。同部の発表によると、企業や大学など約40団体が協力協定に署名した。KAISTも参加し、ロボット向けAIモデルや中核技術の開発を進める枠組みだ。

同部が示した2028年までのロボット開発目標は、重量60kg以下、50以上の自由度、20kg以上の可搬重量、秒速2.5m以上の移動速度を柱とする。v0.9で示された20kgの持ち上げは、この可搬重量目標と同じ数値に当たる。大学の研究実演と、産業界が目指す開発水準を見比べる一つの接点となる。

政策面では、韓国政府が2026年8月、ヒューマノイドの産業基盤育成に2030年までに計2兆3000億ウォン(約2740億円)を投入する方針を公表した。2027年には国産ヒューマノイド250台を購入し、大学や国の研究機関などに配備する計画も示した。研究課題と組み合わせ、導入先での活用を促すとしている。

部品供給にも注目が集まる。Goldman Sachs Researchは2026年6月、自動車産業で蓄積したモーター、センサー、制御装置、精密工学の技術が、韓国企業のヒューマノイド部品供給を支えると分析した。特にアクチュエーターを、既存の自動車部品技術と共通点のある分野に挙げている。

■物体の重さと試験条件を合わせて読む

移動と操作を組み合わせる研究は、世界各地で進んでいる。テキサス大学オースティン校などの研究チームが公表し、国際会議IROS 2026に採択された「VOFA」は、その一例だ。Booster T1ヒューマノイドが搭載視点の認識を使い、最大17kgの物体を目標位置へ押したと報告している。

VOFAは、視覚情報から指令を出す上位の制御と、物体の重さや摩擦の違いに対応する下位の全身制御を組み合わせる。v0.9の35kgは質量の数値では17kgの約2倍になる。押す作業の評価には、こうした質量とともに、床の摩擦、物体の形状、移動距離、ロボットの体格などを合わせて見る必要がある。

Boston Dynamicsも、Atlasによる全身を使った物体操作を公開している。同社によると、重量物の持ち上げ学習では、物体の重さや接触条件を変え、GPU上で数百万時間分のシミュレーションを並列実行した。製品版Atlasについては、Hyundaiを最初の顧客とし、2026年に同社のRobotics Metaplant Application Centerへ機体群を出荷する予定を示している。

共通の条件で能力を評価する取り組みも進む。Silicon Valley Roboticsによると、2026年12月6~9日に米カリフォルニア州サンタクララで開かれる第25回IEEE-RASヒューマノイドロボット国際会議では、「Loco-Manipulation Challenge」が予定されている。移動や物体操作を同じ試験課題で評価することは、個別の実演から研究分野全体の進展を読み取る助けになる。

■独自の駆動系と長年の研究蓄積

全身で物体を扱う能力は、学習アルゴリズムだけでなく、関節を動かす駆動系にも支えられる。準ダイレクトドライブ方式は、高トルクのモーターと比較的小さい減速比を組み合わせる構成だ。外力で関節が動くバックドライバビリティや力制御のしやすさなどを考慮でき、脚型ロボットや接触を伴う操作の設計で重要になる。

KAISTのヒューマノイド研究は、2000年代初頭のKHR-1や、その後のHUBOへとさかのぼる。2015年には、KAISTチームのDRC-HUBOがDARPA Robotics Challenge決勝で優勝した。競技では、車両の運転、ドアの開閉、工具の使用、障害物の通過など、災害対応を想定した作業が課された。

v0.9の実演は、脚で移動する能力を、周囲の物体に働き掛ける作業へ広げる取り組みだ。搭載視覚で対象を捉え、姿勢を調整しながら押したり持ち上げたりする一連の動作は、機構、認識、学習制御を組み合わせる研究の進展を示している。

元記事: KAIST Humanoid Pushes Objects Up to 77 Lbs While Walking, No External Cameras

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