シーメンスとNVIDIA、AIで基板の生産準備を効率化 工数を最大85%削減と発表

2026年10月21日 12:30

シーメンスは2026年10月19日、ドイツ・エアランゲンのエレクトロニクス工場で、NVIDIAと共同開発した新たなAIソリューションを公開した。基板の検査準備や生産計画にAIとデジタルツインを活用し、変化に柔軟に対応できる自律型製造拠点の構築を進める。

同社によると、新しいプリント基板の仮想的な生産準備によって、エンジニアリング工数を最大85%、市場投入までの期間を最大40%削減できるという。生産計画では、AIエージェントが複数の案を作成し、実行前に工場のデジタルツインで検証する仕組みを導入している。

■実工場で進めるAIの共同開発

今回の取り組みは、両社が2026年1月のCESで発表した「産業用AIオペレーティングシステム」構想の一環だ。シーメンスのローランド・ブッシュCEOとNVIDIAのジェンスン・ファンCEOは、設計から製造、運用、サプライチェーンまでをAIでつなぐ方針を示していた。

両社は、エアランゲンを最初のモデルケースとして、完全AI駆動型の適応的な製造拠点を展開することを目指している。1月の発表以降、同工場の実際の生産環境でアプリケーションを共同開発・試験し、10カ月未満で最初の新たなAIソリューションを開発したという。今後数カ月には追加の用途も計画している。

エアランゲン工場は1971年に設立され、従業員は約1000人。産業・インフラ向けのパワーエレクトロニクスや自動化技術を製造し、10年以上にわたって、操業しながら新たなデジタル製造技術を試験・開発・導入してきた。

2026年10月のシーメンス発表では、生産、物流、品質検査、保守で100超のAIアルゴリズムが稼働している。同工場は2024年、世界経済フォーラム(WEF)の先進製造拠点ネットワークに選定され、ドイツ・アンベルク、中国・成都に続く同社3番目の「デジタル灯台工場」となった。

■試作基板を待たずに検査を準備

工場で製造するドライブや周波数変換器の中核となるのが、部品を実装したプリント基板だ。製品の構成が変われば、検査システムも新しい基板に対応する必要がある。従来の品質検査準備は、試作基板ができるのを待って画像認識システムを訓練し、検査装置を手作業で設定していたため、数週間を要していた。

新しい手法では、基板のデジタルツインから写実的な画像を生成し、画像認識システムの訓練に使う。デジタルツインは製品や設備を仮想空間に再現するモデルであり、設計段階の情報を検査準備にも利用できる。これにより、実物の試作基板が用意される前から準備を進められる。

シーメンスは、この仮想生産準備について、エンジニアリング工数を最大85%、新しい基板の市場投入までの期間を最大40%削減できると説明する。検査用の訓練データ生成には、NVIDIAのワールドモデル「Cosmos」を活用している。

NVIDIAでフィジカルAIシミュレーションを担当するバイスプレジデントのレヴ・レバレディアン氏は、試作前の検査システム訓練と、現実の生産を変更する前の計画検証を、長年の協業を工場へ持ち込む例として挙げた。両社は、こうした用途を通じて、他の工場にも展開できる自律工場のモデルを構築しようとしている。

■AIが計画案を作り、デジタルツインで検証

生産計画では、設備の能力、材料の在庫、納期、生産ラインの状況を同時に考える必要がある。エアランゲンでは、従来は担当者が経験をもとに調整していたこの作業を、AIエージェントが支援する。

新しい受注が入ると、エージェントは複数の生産シナリオを自動生成する。あらかじめ定めた重要業績評価指標(KPI)に基づいて各案の影響を担当者に示し、実行前には生産施設全体のデジタルツインで案を検証する。

シーメンスによると、この一連のエージェント型生産計画によって、最大20%のコスト削減が可能になるという。新規受注、材料不足、顧客要求の変更に応じて、計画をより柔軟に見直せることも狙いだ。

技術面では、「NVIDIA Factory Operations Blueprint」が生産計画を作成するAIエージェントを支え、「NVIDIA Omniverse」のライブラリが、実工場のデータを使った仮想検証を担う。検査用データを生成するCosmosと合わせ、用途の異なる技術をシーメンスの産業用ソフトウェアや製造ノウハウと組み合わせている。

■仮想モデルと現場データをつなぐ基盤

両社の協業の土台にあるのは、オープンなデジタルビジネスプラットフォーム「Siemens Xcelerator」とOmniverseの連携だ。シーメンスは、製品設計、生産、現場の運用データをつなぎ、仮想環境で改善案を試してから現場へ反映する仕組みを構想している。

シーメンスが従来から説明するデジタルツインの仕組みでは、機械、電気・電子、ソフトウェアなどの情報を統合し、現場のデータをモデルの改善に取り込む。Omniverseは、3Dデータを連携させるUniversal Scene Description(USD)を基盤に、製品や生産環境の可視化・シミュレーションを支える。

実際の生産に役立つ検証を行うには、対象となる設備や工程の挙動を適切にモデルへ反映することが重要になる。画像検査でも、合成画像と実画像の外観の差は、学習したモデルの性能に影響する。こうした「ドメインギャップ」は、合成データを現場で活用する際の研究課題であり、実画像による評価が検査モデルの調整を支える。

同工場には、AIを展開する手順を標準化する取り組みもある。シーメンスが2026年に公表したAWSとの事例では、最初の画像検査用途の導入に5〜6カ月かかった一方、共通の構成を再利用した後続用途では2〜5日で実装できたという。現場機器とクラウドをつなぐ共通基盤によって、用途を増やす際の作業を減らしている。

■物流ロボットでもフィジカルAIを試験

エアランゲンでは、周囲を認識して現実の環境で行動するフィジカルAIの試験も進んでいる。シーメンスと英国のロボティクス企業Humanoidは2026年4月、NVIDIAの技術を使って開発した車輪型ヒューマノイド「HMND 01 Alpha」を同工場で試験したと発表した。

ロボットは物流エリアで、容器をつかみ、運び、所定の位置に置く作業を担った。発表では稼働時間が8時間を超えたとされ、1時間当たり60回の容器移動、自律的なつかみ・配置の成功率90%超という目標も達成したという。

シーメンスは、生産システムや無人搬送車とのデータ交換、機械や作業者との工程の同期を支える基盤として、Siemens Xceleratorの製品群を位置付けている。デジタルツイン、認識機能、制御、通信、搬送機器の管理を組み合わせ、ロボットを工場全体の作業へ組み込む考えだ。

同工場は、自社技術をまず自ら使う「カスタマーゼロ」の役割も担う。シーメンスとNVIDIAは、互いの技術を自社のシステムや業務へ導入し、その経験を外部顧客向けの製品やサービスに生かす方針を掲げている。

■他工場への展開と欧州の産業競争力

1月の提携拡大では、NVIDIAがAIインフラ、シミュレーションライブラリ、モデル、フレームワークなどを提供し、シーメンスは数百人規模の産業用AI専門家とハードウェア・ソフトウェアを投入するとした。物理学の博士号をエアランゲン・ニュルンベルク大学で取得したブッシュ氏が率いるシーメンスは、自社工場を共同開発の現場として活用している。

両社の発表によると、CES 2026の時点でFoxconn、HD Hyundai、KION Group、PepsiCoが構想の一部機能を評価していた。既存設備や扱う製品が異なる工場へ広げるには、現場データの接続、モデルの整備、運用手順の調整が重要になる。

シーメンスの取締役でDigital Industriesを率いるセドリック・ナイケ氏は、10月19日の発表で、エアランゲンの年間生産性向上率を7%と説明した。またロイターによると、同日の説明では、製造業の自動化率を現在の30〜40%から、AIを使って70〜80%へ引き上げる目標を示した。高賃金の国でも製造業の競争力を維持する手段として、AIによる生産性向上を位置付けている。

シーメンスはエアランゲン拠点の変革に5億ユーロ(約890億円)を投資し、2030年まで拡張を進める。公表済みの整備計画には、物流・サービス・柔軟な自動化のための施設や、パワーエレクトロニクスの開発・イノベーション拠点、生産スペースの拡充が含まれる。

■産業AIの普及を支える政策と規制

今回の公開は、10月20〜22日に開催されるNVIDIAの「GTC Berlin」に先立って行われた。同イベントでは、21日にファン氏の基調講演が予定されている。

NVIDIAによると、ファン氏は10月19日、ベルリンの「Invest in Germany Summit」でフリードリヒ・メルツ首相と産業AIの活用について対談した。同日、ドイツ政府とNVIDIAはフィジカルAIに関する共同意向宣言に署名し、ドイツの製造・工学の知見とAI技術を組み合わせる協力を進めるとした。

欧州での展開では、用途に応じた規制への対応も必要になる。EUのAI法は、対象製品の安全部品として使われ、第三者による適合性評価が必要となるAIなどを高リスクに分類する。欧州委員会が示す2026年10月時点の日程では、産業機械などの規制対象製品に組み込まれる高リスクAIへの規則は2028年8月2日から適用される。

エアランゲンで進む取り組みは、検査の準備、生産計画、物流という異なる業務を、仮想検証と現場のデータでつなぐものだ。長年デジタル化を進めてきた同工場の経験を、設備構成や運用条件の異なる拠点へどう展開するかが、今後の焦点になる。

元記事: NVIDIA, Siemens Prove Autonomous Factory AI Needs No Prototypes; Erlangen Engineering Down 85%

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