Visa Direct、USDCの事前積み立てを商用化 Inyo経由で24時間の資金補充に対応
2026年10月20日 19:37
Visaは2026年10月15日、送金サービス「Visa Direct」でステーブルコインを使った資金の事前積み立てを商用提供へ移したと発表した。最初の提供事業者となるInyo Globalを通じ、利用条件を満たす企業は、米ドル連動型ステーブルコイン「USDC」で国際送金の原資を24時間補充できる。
今回の機能が変えるのは、送金を行う企業側の資金管理だ。受取人への現地通貨での支払いを維持しながら、銀行営業時間外にも原資を準備できる選択肢を加える。
■Inyoの既存APIから利用する新たな資金供給手段
Inyo Globalは、銀行、送金事業者、フィンテック企業、決済会社などに決済インフラを提供している。Visaによると、同社のプラットフォームはVisa Directを活用し、180カ国以上への国内・国際送金に対応する。
Inyoは今回、USDCによる事前積み立てを自社プラットフォームに統合した。顧客は既存のAPI、すなわちシステム間を接続する仕組みを通じて、国際送金の原資をほぼリアルタイムで補充できる。
Inyo Globalの共同創業者兼最高製品・技術責任者、Robson Dantas氏は、従来から使われているInyoのAPIで、24時間利用できる新たな資金供給手段を提供すると説明した。Visa Directのグローバル責任者、Vira Platonova氏も「ステーブルコインの次の章は普及だ」と述べ、パートナーとの取り組みが実運用につながっているとした。
Visa Crypto Labs責任者のCuy Sheffield氏は10月15日、Xへの投稿で、Inyo Globalを最初の提供事業者として事前積み立てが本番稼働したことを歓迎した。Visaは、Platonova氏が10月18〜21日にラスベガスで開催されるMoney20/20 USAの複数セッションで、ステーブルコインによる資金移動について議論するとしている。
■銀行営業時間に左右される資金管理を柔軟に
事前積み立てとは、受取人への支払いに先立ち、決済に必要な資金をネットワーク側に用意しておくことだ。例えば5カ国の労働者に計1000万ドル(約15億8000万円)を支払う企業なら、支払い予定に合わせて原資を確保し、送金に伴って減る残高を補充する必要がある。
従来の銀行送金で補充する場合、送金経路の営業時間や締め切り、休日によって資金が使える時刻が左右される。東南アジアで支払い需要が高まる時間に、原資を送る米国側の銀行が営業時間外という状況も起こり得る。
企業はこうした時間差に備えて余裕資金を置くが、その分だけ運転資金が拘束される。給与、ギグワーカーへの報酬、保険金など、支払いが特定の曜日や月末に集中する業務では、需要に合わせて原資を補充できることが資金管理の柔軟性につながる。
USDCを使う方式では、企業が対応するブロックチェーンを通じて送金原資を供給し、その資金をVisa Directの支払いに充てる。ブロックチェーンは銀行の営業日程とは別に稼働するため、週末や夜間にも資金を移せる。受取人は、従来の支払い経路を通じて現地通貨を受け取る。
USDCの発行元Circleによると、USDCは現金と流動性の高い現金同等物で全額を裏付け、米ドルと1対1で償還する仕組みを採用する。準備資産には短期米国債や米国債を担保とした翌日物の取引などが含まれる。
Visaは、必要な時に資金を供給する方式によって、あらかじめ置く法定通貨残高の削減や、流動性管理の効率化を目指している。補充の機会が増えれば、企業は銀行の休業期間を見越した余裕資金を見直しやすくなる。
■2025年の試験導入から商用提供へ
Visaは2025年9月30日、SIBOS 2025でVisa Directのステーブルコイン事前積み立ての試験導入を発表した。対象は、国境をまたぐ資金管理を行う銀行、送金事業者、金融機関だった。
VisaのCommercial and Money Movement Solutions部門を率いるChris Newkirk氏は当時、国際決済が長年にわたって古いシステムに依存してきたと指摘した。Visaは、自社ネットワークとブロックチェーンのプログラム可能な性質を組み合わせ、送金原資の供給を柔軟にする方針を示していた。
同年11月12日のWeb Summitでは、受取人のステーブルコインウォレットへ直接支払う別の試験プログラムも発表した。企業は法定通貨で原資を用意し、受取人はUSDCなどの米ドル連動型ステーブルコインで受け取ることを選べる。Visaの日本語発表でも、クリエイターやギグワーカーなどへの送金用途が紹介された。
事前積み立てが送金企業の資金管理を扱うのに対し、ウォレット向け支払いは受取人が受け取る資産の選択肢を広げる。2026年1月14日にはBVNKが、Visa Directの試験プログラムで、ステーブルコインによる資金供給と受け取りを支える提携を発表した。
金融機関との決済実証も進んだ。Lloyds Banking Groupは2026年9月30日、Visaとの7日間の実証で計75万ドル(約1億1900万円)の決済債務をUSDCで精算したと発表した。同社によると、週末を含めて資金は1時間未満でVisaに到着し、既存の決済業務にステーブルコインを組み合わせた際の速度や透明性、運用手順を検証した。
■Visaと関連事業者が広げるステーブルコイン基盤
Visaは2026年7月16日、金融機関やフィンテック企業向けに「Visa Stablecoin Platform(VSP)」を発表した。Visaが管理する環境でステーブルコインへのアクセス、保管、償還などを扱い、当初はOpen Standardが導入した「Open USD(OUSD)」への対応から始める。
8月5日には、機関向けデジタル資産インフラを提供するzerohashがVisaとの提携を発表した。対象となるVisa Direct顧客向けに、ステーブルコインによる事前積み立てと支払いを支える取り組みである。同社によると、その技術・規制対応基盤は数十のブロックチェーンやステーブルコインを扱う。
zerohashの創業者兼CEO、Edward Woodford氏は、同社のインフラがMorgan Stanley、Marqeta、Worldpayなどを支えていると説明した。Visaとの提携については、企業の事前積み立てや流動性管理を柔軟にし、受取人の資金アクセスと受け取り方の選択肢を広げる狙いを示している。
シカゴを拠点とするzerohashは、2025年9月にInteractive Brokers主導のシリーズD-2で1億400万ドル(約164億円)を調達した。Blockworksによると、この際の評価額は10億ドル(約1580億円)だった。欧州子会社は2026年5月18日、オランダ中央銀行から電子マネー機関(EMI)の認可を取得したと発表し、MiCA認可を持つ企業として初めて、欧州銀行監督機構の関連指針に沿った電子マネー認可を得たとしている。
Inyoも、自社グループのInyoXがステーブルコインサービスを提供すると説明している。Inyoの既存サービスには銀行送金のほか、Visa DirectやMastercard Sendを利用したカードへの支払いなどがあり、今回の機能はその中に新たな資金供給の選択肢を加える。
■USDCの取引規模と市場の見通し
Circleの2026年第2四半期決算によると、同四半期のUSDCオンチェーン取引高は14兆8000億ドル(約2340兆円)で、前年同期比151%増だった。2026年6月末の流通額は733億ドル(約11兆6000億円)だった。
Visaは2026年9月8日公表の資料で、ステーブルコイン決済額の年換算ペースが200億ドル(約3兆1600億円)を超えたと説明した。また、2026年度第2四半期には、ステーブルコインと連携するカードプログラムが世界で160件超稼働していたとしている。
The Blockの2025年10月14日付報道によると、William Blairのアナリストは、国境をまたぐ企業間決済の対象市場を約20兆ドルと推計し、Circleの成長機会に注目した。同日の同媒体の報道では、BernsteinはUSDCの供給額が当時の約760億ドルから2027年末に約2200億ドルへ増え、ステーブルコイン市場の約3分の1を占めると予測していた。
Visa Direct全体は、カード、銀行口座、デジタルウォレットを含む180億超の送金先に、195超の国・地域で接続する。今回の商用化は、そのネットワークを利用する企業に対し、送金原資を準備する方法を広げる動きとなる。
■提供条件と米国の制度整備
USDCによる事前積み立ての利用可否は、顧客の資格や地域によって異なる。導入を検討する企業は、Visaや取引先の窓口を通じて、自社の送金先や契約条件に応じた提供範囲を確認する必要がある。Visaは、追加の資金移動用途にもステーブルコイン機能を広げる方針を示している。
米国では、決済用ステーブルコインの発行者を規律するGENIUS法が2025年7月18日に成立した。同法は、成立から18カ月後と、主要な連邦監督当局が最終実施規則を公表してから120日後の、いずれか早い日に施行される。2026年9月30日の連邦官報は、施行予定日を2027年1月18日としている。
The Blockによると、財務省と主要な連邦監督当局は2026年7月18日の規則策定期限までに一式の最終規則を整えられなかった。その後も制度整備が続き、連邦準備制度理事会(FRB)は9月24日に準備資産や資本要件などの規則案を公表した。9月30日には、州の監督制度の認定手続きを定める暫定最終規則が発効した。
GENIUS法は、認可・承認を受けた発行者の枠組みや、少なくとも発行残高と同額の準備資産を持つ義務を定める。また、発行者が保有者に対し、ステーブルコインの保有・使用・保持だけを理由に利息や利回りを支払うことを禁じる。事前積み立ての商用化と並行して、発行者や関連事業者の運用を具体化する規則整備が進んでいる。
元記事: Visa Direct Moves USDC Prefunding Into Production: Stablecoin Closes Banking-Hours Gap