インフィニオンとウルフスピード、200mm SiCウエハ供給契約 EV・AI電源向け需要に対応
2026年10月20日 13:32
半導体製造のインフィニオン テクノロジーズ(Infineon Technologies)と米ウルフスピード(Wolfspeed)は2026年10月15日、直径200mmの炭化ケイ素(SiC)ウエハに関する複数年供給契約を発表した。既存の150mm基板による供給関係を200mmへ移行し、電気自動車(EV)、再生可能エネルギー設備、AIデータセンターの電源インフラ向け需要に対応する。
SiCは、電圧や電流を変換・制御するパワー半導体の材料だ。AI設備の消費電力が増える中、電力変換時の損失を抑える用途への期待も高まっている。今回の契約は、インフィニオンの200mm製造への転換と、基板調達先の拡充を支える。
■200mm化でチップ当たりのコスト低減へ
直径200mmのウエハは、150mmに比べて円としての面積が約78%大きい。面積比は200の2乗を150の2乗で割った約1.78となる。同じ大きさのチップを製造する場合、1枚から切り出せる数を増やせるため、チップ当たりの製造コストを抑える余地が広がる。
実際に得られる良品チップ数やコストは、結晶の欠陥密度、ウエハ周辺部の利用範囲、加工工程の歩留まりにも左右される。大口径化の効果を引き出すには、品質を保ちながら量産工程を安定させることが重要になる。
SiC単結晶の代表的な製造方法は、原料を昇華させ、種結晶上で再結晶化する昇華法(PVT法)だ。2000℃を超える高温での結晶成長や欠陥の制御が必要となる。大口径化と品質向上を進めることは、従来のシリコン製パワー半導体とのコスト差を縮め、用途を広げるうえで重要だ。
インフィニオンの最高執行責任者(COO)、Alexander Gorski氏は、両社の20年にわたる供給関係を基盤に、高品質な200mm基板の調達を拡充すると説明した。同社は、供給網の安定性を高め、将来の成長に対応する柔軟性と拡張性を確保する狙いを示している。
今回の発表では、契約金額、具体的な供給数量、複数年契約の正確な年数は明らかにされていない。両社は2018年2月に150mm SiCウエハの長期供給契約を結び、2024年1月には生産能力の予約を含む契約の拡大・延長を発表していた。
■EVに加え、AIデータセンターの電源も成長分野に
調査会社Yole Groupの2026年の予測によると、パワーSiCデバイス市場は2025~2031年に年平均約20%で成長し、2031年には約110億ドルに達する見通しだ。EVに加え、再生可能エネルギー、蓄電設備、充電インフラ、AIデータセンターなどが成長を支えるとしている。
Yole Groupは、自動車が引き続き最大の売上分野となる一方、AIデータセンター向けの高効率電源も新たな需要源になると分析している。同社のアナリスト、Ahmad Abbas氏も、AIデータセンターの台頭が、EVや再生可能エネルギー、蓄電用途と並んで市場の多様化を促すとの見方を示した。
SiCの代表的な結晶構造である4H-SiCは、バンドギャップが約3.26電子ボルトで、シリコンの約1.12電子ボルトより広い。絶縁破壊電界はシリコンの約10倍で、高い耐圧を保ちながら電流を流す際の抵抗を小さく設計できる。こうした特性は、高電圧の電力変換回路での損失低減や小型化に役立つ。
ルネサス エレクトロニクスが2026年に公表した技術解説では、AIシステムのラック電力は供給企業によって約50~300kWに達するとされる。高密度な設備ほど、電力変換で失われるエネルギーや発熱を抑える意義が大きい。電力網からサーバーまでの各変換段階で、電圧や周波数に合った半導体材料を使うことが重要になる。
インフィニオンは2026年2月時点で、AIデータセンター向け電源関連売上高を2026年度に約15億ユーロ、2027年度に約25億ユーロと見込んでいた。8月の決算説明会では、2026年度は16億ユーロ(約2850億円)を超える見通しを示した。この事業は、シリコン、SiC、窒化ガリウム(GaN)を組み合わせた電源製品群で構成される。
Wolfspeedの2026年度第4四半期決算発表によると、同年度のAIデータセンター関連売上高は前年度の2倍超となり、第4四半期は前四半期比で約20%増えた。同社は、自動車市場などの短期的な逆風に対応しながら、AIデータセンターを含む成長分野への展開を進めている。
■再建を経たWolfspeed、米政府から条件付き融資枠
ノースカロライナ州ダーラムに本社を置くWolfspeedは、2025年6月30日に米連邦破産法11条に基づく再建手続きを申請した。同年9月29日に手続きを終え、総債務を約70%削減したと発表した。申請時に示した債務削減計画の規模は約46億ドルだった。
再建にはルネサスも参加した。ルネサスの2025年6月の発表では、再建完了時の発行済株式総数の38.7%に相当する普通株式などを受け取る計画だった。Wolfspeedの開示資料によると、規制当局の承認を受け、2026年1月29日にルネサスへ1685万2372株を発行し、関連する株式決済に伴う資本計上額は約2億9200万ドルとなった。
Robert Feurle氏は2025年5月1日にWolfspeedのCEOへ就任した。Micron Technology、インフィニオン、ams OSRAMなどで幹部職を経験しており、同社の製造基盤を生かした収益性の改善と財務基盤の強化を進めている。
2026年10月7日、Wolfspeedは米国防総省から、戦略資本局(OSC)を通じて最大15億ドル、満期30年を想定する条件付き融資コミットメントを受けたと発表した。同省は「戦争省(Department of War)」も副次的な名称として使用している。資金は米国内のSiC材料やワイドバンドギャップ半導体の開発・生産を支え、GaNのエピタキシャル成長能力の拡充や耐放射線性技術の開発にも充てる計画だ。
Wolfspeedの米証券取引委員会への提出資料では、融資は最大4段階に分けて実行する想定で、デューデリジェンス、最終契約、政府承認などが条件となる。同社側には原則として総額7億5000万ドル以上の適格な資金拠出が求められ、うち1億5000万ドル(約237億円)は第三者への株式発行による資金調達を段階的に行う。残る6億ドル(約948億円)には、承認条件に応じて余剰資金や債務の株式化なども算入できる。
融資実行に合わせ、政府へ完全希薄化後ベースで合計7.5%相当の株式を取得できるワラントを段階的に発行する案も含まれる。Wolfspeedは、2022年に開設したニューヨーク州のMohawk Valley工場を世界初の200mm SiC工場と位置付けており、ノースカロライナ州の材料製造拠点と合わせて米国内の生産基盤を構成している。
■クリムとフィラッハで進む200mm製造
インフィニオンの200mm SiC製造の主要拠点が、マレーシアのクリム第3工場(Kulim 3)だ。同社は2024年8月8日に第1フェーズを正式に開設し、世界最大かつ最も競争力のある200mm SiCパワー半導体工場を目指すと発表した。今回の基板調達拡充は、クリムを含む製造網を支える。
マレーシアの報道機関Free Malaysia Todayは、開設時の工場敷地を35エーカー、約14万1640平方メートルと報じた。同報道によると、計画では4000人の雇用を創出し、そのうち1500人が高付加価値の職種となる見込みだった。
2024年の開設時に示された投資計画は、第1フェーズの20億ユーロ(約3560億円)に、第2フェーズの最大50億ユーロを加えた総額最大70億ユーロだ。インフィニオンは、市場需要と顧客の購入コミットメントを踏まえて段階的に能力を拡張する方針を示している。
同社が2023年に発表した計画では、この追加投資とクリム、オーストリア・フィラッハ両拠点の200mm化により、2030年に年間約70億ユーロのSiC売上高を生み出す能力を目指していた。当時は2020年代末の世界SiC市場を約200億ユーロと想定し、2030年までに30%の市場シェアを獲得する目標を掲げていた。
クリムとフィラッハは、技術や工程を共通化する「One Virtual Fab」の考え方で連携する。インフィニオンは2025年2月、フィラッハで製造した200mm SiC技術による最初の製品を同年第1四半期に顧客へ提供すると発表した。基板調達の拡充と両拠点での生産立ち上げを組み合わせ、量産規模とコスト競争力を高める構えだ。
■複数国調達と通商政策の動き
インフィニオンは、複数の供給企業と国・地域からSiC基板を調達する戦略を採る。2023年5月には中国のSICC(山東天岳先進科技)との契約を発表した。当初は150mmウエハと結晶塊を対象とし、200mmへの移行も支える内容だった。SICCは2025年8月20日に香港取引所へ上場している。
中国では、2017年施行の国家情報法第7条が、組織や個人に法律に従った国家情報活動への協力を求める。2021年のデータ安全法は、国家安全保障や犯罪捜査のため、承認手続きを経て行われる当局のデータ取得への協力を規定する。また、サイバーセキュリティ法は、重要情報インフラの運営者が中国内の事業で収集・生成した個人情報や重要データについて、国内保存などの義務を定めている。
米通商代表部(USTR)は2024年12月23日、中国の半導体産業政策を対象とする通商法301条調査を開始した。調査範囲には、SiC基板など半導体製造に使うウエハへの政策の影響も含めた。USTRは2025年12月、中国の政策が米国の通商に負担や制限を与えると判断し、対応措置を決定した。
この措置では、対象となる中国製半導体への新たな追加関税率を当初0%とし、2027年6月23日に引き上げる方針を示した。引き上げ後の税率は、少なくとも実施30日前までに公表するとしている。適用される品目や輸入先によって、通商措置は調達コストを左右する要素となる。
AI電源やEV向け需要への対応には、製造能力の拡張とともに、基板の品質、供給の安定性、調達コストの管理が重要になる。インフィニオンとWolfspeedの200mm契約は、複数国からの調達を続けながら、大口径SiCの量産を支える供給基盤を広げるものだ。
元記事: AI Data Centers Join EVs as SiC Demand Engines in Infineon-Wolfspeed 200mm Wafer Deal