Microsoftの企業ソフトに英規制強化案 乗り換え障壁とAIの選択肢が焦点

2026年10月20日 11:43

英国競争・市場庁(CMA)は2026年10月16日、Microsoftの企業向けソフトウェアのエコシステムを「戦略的市場地位(SMS)」に指定する案を公表した。PC向けOSなど5分野での強い地位や、顧客が他社製品へ乗り換える際の障壁を踏まえた暫定判断だ。

指定案への意見提出期限は11月13日午後5時(英国時間、日本時間14日午前2時)。CMAは2027年2月13日までに最終判断を下す予定で、指定された場合は、競争を促すための個別ルールを検討できる。

■指定対象は企業ソフトのエコシステム

CMAは2026年5月14日に調査を開始した。対象としたのは、PC向けOS、生産性ソフトウェアスイート、セキュリティソフトウェア、サーバーOS、リレーショナルデータベース管理システムの5分野である。これらを構成要素とする企業向けソフトウェアのエコシステム全体について、SMS指定の要件を満たすとの暫定評価を示した。

CMAによると、Microsoftの企業向けソフトウェアは英国の100万超の企業・公共機関が利用し、月間利用者は約2000万人に上る。Word、Excel、Outlook、PowerPoint、Teams、Copilotに加え、セキュリティ製品やサーバー、OSが日々の業務を支えている。

The Registerによると、Microsoftは指定案に示されたCMAの見解に同意しないと表明した。同社はCopilotを含む製品がオープンで相互運用可能であり、顧客は競合サービスと併用して、自らに適した製品を選べると説明している。

CMAが同時に公表したロードマップは、指定後に追加の証拠を集め、介入の必要性を検討する領域を示すものだ。主な焦点は、競合AIとの競争条件、セキュリティ製品の組み合わせ販売と統合、ソフトウェアを稼働させるクラウドの選択肢である。

■SMS制度で可能になること

SMSは、2024年デジタル市場・競争・消費者法(DMCC法)に基づき、2025年1月1日に始まったデジタル市場競争制度の入口となる指定だ。EUのデジタル市場法と同様に大手デジタル企業の市場地位に着目しつつ、英国ではCMAが対象活動や競争上の問題に応じた措置を設計する。

指定には、英国と関連するデジタル活動について「実質的かつ定着した市場支配力」と「戦略的重要性を持つ地位」が必要となる。売上高の条件は、英国で10億ポンド(約2110億円)超、または世界全体で250億ポンド(約5兆2800億円)超だ。CMAはMicrosoftが両方の売上高基準を上回ると暫定的に判断した。

戦略的重要性は、事業の規模、他社による利用の広がり、隣接分野へ市場支配力を拡大できる地位、他社の事業活動に大きな影響を及ぼせる地位などから評価される。SMS指定は、こうした市場地位を踏まえ、将来に向けた競争促進策を検討するための制度である。

指定後、CMAは法定要件に従い、拘束力のある「行動要件」や「競争促進介入」を導入できる。行動要件への違反には、世界売上高の最大10%の制裁金を科す権限がある。実際の義務は、対象企業の活動や確認された問題に応じて定められる。

Microsoftへの調査は、この制度に基づく4件目のSMS調査となる。Googleは2025年10月に検索サービス、GoogleとAppleは同月にそれぞれのモバイルプラットフォームで指定された。CMAは2026年6月3日、Google検索に対し、出版社などがAI機能でのコンテンツ利用を管理できるようにする行動要件を課した。

■統合の利便性と乗り換えコスト

Microsoftの製品群は、導入、管理、セキュリティ対策をまとめやすい。CMAの指定案も、顧客が製品間の連携、既存のITスキルを生かせること、調達や取引先管理の負担軽減、まとめ買いによる割引を評価していると説明する。

一方、CMAは、技術的な統合の制約や組み合わせ販売が、他社への移行を難しくしていると暫定的に評価した。電子メールをExchange、文書共有をSharePoint、会議をTeams、セキュリティをDefenderで運用する環境では、一つの製品の変更が他の業務やシステムにも及び得る。

移行には、データの移し替え、アプリケーションの再設定、従業員の再教育、業務継続のための調整が伴う。CMAは、Microsoft製品との連携を前提とした他社製業務アプリも移行障壁になり得ると指摘している。取引先や利用者が同じ製品を使うことで生まれる利便性も、既存環境を維持する動機になる。

費用面では、競合製品を導入しても既存のMicrosoftライセンスと機能が重複したり、契約全体の割引を失ったりする可能性がある。CMAは、こうした条件が競合企業による顧客獲得を難しくし、Microsoftへの競争圧力を弱めるとみている。製品の単体価格に加え、組織全体の契約や連携を含む負担が重要になる。

具体例として、英国のキリングホール地方議会はCMAへの提出資料で、Teamsを十分に利用するためにMicrosoftのホスト型メールサービスなどを追加購入する必要が生じたと訴えた。議員9人と事務職員1人の計10人について、予定していなかった年間1100ポンド(約23万2000円)の費用が発生すると説明している。

■クラウドの選択を左右するライセンス条件

今回の調査には、CMAが2025年7月に完了したクラウドサービス市場調査の論点も引き継がれている。同調査では、Microsoftのソフトウェアライセンス慣行が、クラウドサービスを提供するAWSとGoogleの競争力に悪影響を及ぼしていると判断した。

焦点の一つは、顧客が既存のソフトウェアライセンスをクラウドへ持ち込む条件である。Microsoftの「Listed Providers」にはMicrosoft自身、Amazon、Google、Alibabaが含まれる。一方、Azureでは、対象となるWindows ServerやSQL Serverのライセンスを保有する顧客が、Azureハイブリッド特典による割引を利用できる。

利用するクラウドや契約条件によって、既存ライセンスを活用できる範囲や追加購入の必要性が変わる。The Registerは2025年3月、Azure以外の大手クラウドでWindows Serverを利用する費用が、条件によってAzureの最大4倍になると報じた。ライセンス条件は、ソフトウェアをどこで稼働させるかを決める際の費用に影響する。

CMAの2025年の最終報告書によると、英国のIaaSとPaaSの市場売上高は2024年に105億ポンド(約2兆2200億円)だった。CMAは市場全体への影響を例示するため、価格が十分に競争的な市場より平均5%高いと仮定すると、顧客の年間負担は約5億ポンド(約1060億円)増えると試算した。

クラウドライセンスを巡っては、競争法専門家のマリア・ルイーザ・スタージが、英国企業約6万社を対象とする集団訴訟を起こしている。原告側の弁護団が示した請求規模は最大21億ポンド(約4430億円)で、競合クラウド上のWindows Server利用について、ライセンスの卸売価格や再購入条件を通じて顧客が損害を受けたと主張する。

英国競争控訴審判所は2026年4月21日、集団訴訟としての手続き進行を認めた。Microsoftはこの判断への上訴許可を申請し、審判所は5月20日にこれを拒否した。審判所の事件記録によると、同社はその後、控訴院に改めて許可を求めている。

■Copilotと企業向けプランの競争条件

CMAは、企業向けソフトウェアでAI機能が増え、業務を実行するエージェント型AIへの移行が進む点に注目している。ロードマップでは、顧客が必要なAI機能を自由に選べるか、競合AI事業者がCopilotと公平な条件で競争できるかを検討する。

MicrosoftはSecurity CopilotをMicrosoft 365 E5とE7に含め、対象顧客へ段階的に展開している。既存のSecurity Copilot利用顧客への展開は2025年11月18日に始まった。付属する利用容量には条件があり、同社の案内では、有料ユーザー1000人につき月400セキュリティコンピューティングユニット、月最大1万ユニットとしている。

E5では、業務用アプリと連携するMicrosoft 365 Copilotを追加ライセンスとして提供する。2026年5月1日に提供を開始したE7は、E5、Microsoft 365 Copilot、Agent 365、Microsoft Entraスイートを組み合わせたプランだ。セキュリティ向けAI、業務支援AI、エージェント管理、ID・アクセス管理をまとめて提供する構成になる。

日本向け公式価格は2026年10月20日時点で、Teamsを含むE5が1ユーザー当たり月額相当8995円、E7が1万4842円である。いずれも年間契約・年払い、税別だ。Teamsなしのプランは、E5が7713円、E7が1万3560円となっている。

海外向けの価格資料では、Teamsを含むE5は2026年7月1日に月額57ドル(約9010円)から60ドル(約9480円)へ改定された。Microsoftが示すE7の価格は月額99ドル(約1万5600円)で、構成製品を個別購入した場合の合計117ドル(約1万8500円)を下回る。製品をまとめることで調達費用を抑えられる一方、競合製品の採用には、既存契約で利用できる機能との重複も考慮することになる。

The Registerによると、Open Cloud Coalitionの上級顧問ニッキー・スチュワートは、2026年5月の調査開始時に、迅速で明確な結論を求めた。同団体にはGoogleも参加しており、Microsoftは以前、Googleのロビー団体と評していた。スチュワートは、Microsoftのライセンス慣行への対応が、公平な競争条件と長期的な投資につながると主張している。

■クラウド移行の改善と海外での動き

CMAはSMS調査と並行して、AWSとMicrosoftが2026年3月に示したクラウド利用の改善策を監視してきた。10月16日の更新では、事業者を切り替える顧客のデータ転送料金の撤廃や、複数クラウドを併用する場合の料金引き下げなどが進んだと説明した。

改善策には、Googleを手始めとする競合とのデータセンター接続、顧客や競合が相互運用性の改善を求める仕組み、移行時の技術作業を自動化するAIツールも含まれる。CMAはさらに、クラウド間のID・アクセス管理や、移し替えやすい構成でシステムを展開・移行する際の障壁に取り組む方針だ。2027年春に進捗を評価する予定である。

日本では公正取引委員会が2026年3月4日、Microsoftなどに対する独占禁止法違反の疑いで審査を開始したと公表した。競合クラウドでソフトウェアやサービスを使う際の利用条件が対象で、日本マイクロソフトへの立入検査も実施した。公取委は第三者から情報や意見を募集している。

米国では、Bloombergの報道を伝えたロイターによると、FTCが2026年2月までの数週間にMicrosoftの競合企業へ民事調査要求を送り、AI、セキュリティ、ID管理ソフトウェアの組み合わせ販売などについて情報を求めた。クラウドと企業向けソフトウェアにまたがる競争条件への関心が広がっている。

Data Center Dynamicsによると、ブラジルのCADEも2026年1月、Microsoftのクラウド向けライセンス慣行に関する調査を開始した。スイスの競争委員会事務局は同月15日、Microsoft 365などのライセンス値上げについて予備調査を公表した。各当局は、それぞれの制度と対象市場に基づいて調べている。

■意見募集と最終判断までの手続き

CMAは、指定案に加えて、市場支配力の評価、顧客データ分析、顧客調査、介入候補のロードマップを公開した。企業、公共機関、競合ベンダーなどの関係者は、11月13日午後5時までに、公式の協議ページまたは電子メールで意見を提出できる。

提出資料に機密情報が含まれる場合は、その部分を明示し、公表できる非機密版も用意する。Microsoftは、契約上の秘密保持条項を使って関係者の協議への回答を妨げないとCMAに確認している。具体的な移行費用や連携上の支障、契約条件を示す資料は、CMAが市場の実態を評価する材料となる。

Microsoftには2026年11月、指定案について口頭で意見を述べる機会が設けられる。意思決定に関わる委員会には、CMA最高経営責任者のサラ・カーデル、デジタル市場担当のウィル・ヘイターら計5人が参加する。CMAは追加の証拠収集などを経て、2027年2月に最終判断を公表する予定だ。

カーデルは、企業や公共機関が必要に応じて供給者を切り替え、Microsoft製品と他社サービスを組み合わせられる環境を重視している。複数年の契約や業務システムとの深い連携を伴う企業向けソフトウェアでは、こうした選択の自由が調達費用や運用方法にも関わる。

指定された場合、CMAはロードマップに沿って調査を進め、必要性と法定要件を満たす措置を検討する。Microsoftは最終的な指定や後続の措置について競争控訴審判所に不服を申し立てることができる。今後の焦点は、顧客が製品の統合による利便性を享受しながら、競合のソフトウェアやAI、クラウドも選びやすくする具体策に移る。

元記事: UK Regulator Finds Microsoft Lock-In Across 5 Enterprise Markets, Proposes New Powers

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