デジタルゲームに「所有・継続プレイ・譲渡」の権利を 米議員が法案構想を発表
2026年10月20日 11:43
米ニューヨーク州選出のリッチー・トーレス民主党下院議員は2026年10月15日、購入したゲームの所有と継続利用を保護する「Power To The Players Act」を提出する方針を発表した。連邦取引委員会(FTC)に規則の策定を求め、オンライン機能を備えたゲームには、サーバー停止前のオフラインモード提供を義務付ける構想だ。
同じ10月には、『NBA 2K25』の販売終了が予定されている。同作は年末にオンラインサービスも終了するが、購入済みの利用者は再ダウンロードと一部のオフラインモードを引き続き利用できる。購入後に何が残り、どの機能を失うのかは、ゲームの提供方法を考えるうえで重要な問題になっている。
■購入したゲームに、どのような権利を求めるのか
トーレス議員が掲げるのは、ゲームを所有する権利、遊ぶ権利、他人に譲渡する権利の三つだ。発表では「ゲームに対価を払うなら、それを所有できるべきだ」と述べ、サービス停止によって利用できなくなる販売のあり方を批判した。
議員事務所の説明では、ゲーム購入者にプレイするためのライセンスを与える仕組みから、所有を認める仕組みへの転換を目指す。購入したゲームを長く遊び、再販できる権利の保護も目的に含めている。
Steam、PlayStation Store、Xbox、ニンテンドーeショップなどのゲーム配信では、利用規約やソフトウェア利用許諾契約が購入後の利用条件を定める。例えばSteamの規約は、コンテンツを販売ではなくライセンス供与として扱い、原則としてアカウントや購入したゲームの利用権の譲渡を制限している。
トーレス議員はKotakuの電話インタビューで、構想をカートリッジやディスクでゲームを購入していた時代の「歴史的な標準の回復」と表現した。2026年10月19日時点では提出方針が発表された段階で、所有の具体的な定義や適用条件を示す条文が今後の焦点となる。
■NBA 2K25は何が終了し、何が残るのか
2Kの公式サポートによると、『NBA 2K25』は2026年10月30日に販売を終了し、オンラインサービスは同年12月31日で終了する。2027年1月1日以降は、マルチプレイやオンラインモードへのアクセスができなくなる。
利用できなくなるのは、選手を作って育成する「マイキャリア」、選手カードを集めてチームを編成する「マイチーム」、オンラインリーグ、コミュニティ共有などだ。バーチャル通貨(VC)の獲得も終了する。一方、「今すぐプレイ」「マイNBA」「The W」「MyWNBA」は、サーバー接続を必要とする機能を除いて引き続き楽しめる。
VCはゲームプレイで獲得できるほか、現金でも購入でき、選手の能力強化や衣装などに使う。2KはVCの獲得にはインターネット接続が必要だと説明している。一人で選手のキャリアを進める遊び方もオンラインサービスに組み込まれているため、サービス終了の影響は対人戦以外にも及ぶ。
同作の米国発売時の価格は通常版が69.99ドル(約1万1100円)、オールスター エディションが99.99ドル(約1万5800円)だった。日本のPlayStation公式ページでは、2026年10月時点で通常版8,800円、オールスター エディション14,080円と掲載されている。Sports Business Journalが紹介した調査会社Circanaの集計では、2024年の米国ゲーム販売額で5位に入った。
サーバー運営の終了後にも遊べる機能をどこまで残すかは、ゲームの設計に左右される。トーレス議員の構想は、オンライン機能を持つゲームについて、終了前にオフラインで遊べる状態を用意するよう求めるものだ。
■GTA VIとPlayStationで進む販売方法の変化
ゲームの提供方法も変わっている。Rockstar Gamesの日本語公式ストアによると、『グランド・セフト・オートVI』は2026年11月19日発売予定で、パッケージ版はダウンロードコードを箱に封入する形式となる。コードは11月12日からの事前ダウンロードに対応する。
米国向け発表では、通常版が79.99ドル(約1万2600円)、アルティメット・エディションが99.99ドル(約1万5800円)で、上位版はデジタルで提供される。GamesIndustry.bizの取材を紹介したTechRadarによると、Sensor Towerは2026年8月時点で、予約の89%をアルティメット・エディションが占めると推計した。これは調査会社による推計値だ。
ソニー・インタラクティブエンタテインメントは2026年7月1日、日本語の公式ブログで、2028年1月以降にPlayStation向けに発売されるすべての新作ゲームについて、ディスク版の生産を終了すると発表した。対象となる新作は、PlayStation Storeと販売店でダウンロード版を提供する。
既に発売された作品と、2028年1月より前にディスク版として発売される作品は、この変更の影響を受けない。箱やディスクの有無に加え、購入後の利用条件や認証方法を確認することが、ゲーム選びの重要な要素になる。
■カリフォルニア州では購入時の表示が争点に
カリフォルニア州では、ギャビン・ニューサム知事が2024年に署名したAB 2426が、2025年1月1日に施行された。取り消し可能なライセンスを提供するデジタル商品に「購入」などの表現を使う場合、取引の性質について購入者の明示的な確認を得るか、購入前に明確で目立つ説明を提示することを求める。
2026年6月18日には、PlayStationの利用者4人がカリフォルニア州北部地区の連邦裁判所に集団訴訟を提起した。訴状では、PlayStation Storeの購入ボタンなどの表示と、実際に提供される取り消し可能なライセンスとの関係が争われている。
Game FileとDecryptの報道によると、ソニー側は8月21日の書面で、利用規約に基づく個別仲裁を求めた。購入画面から利用規約とライセンス契約にアクセスできることを挙げ、必要な説明をしていると主張している。
ソニー側はさらに、原告2人が同じタイトルを別々に購入できたことを挙げ、購入者がゲームそのものの所有権を得ると期待するのは合理的でないと論じた。購入時の説明が州法の要件を満たすかという争点と、購入者にどの権利を保障するかという政策課題が並行して浮上している。
■サービス終了後のプレイを求める欧州の運動
ゲームの継続利用を求める「Stop Killing Games」は、Ubisoftのレースゲーム『ザ クルー』のサービス終了を契機に、2024年4月に始まった。同作は常時接続を前提としており、公式サーバーの停止でプレイできなくなった。Ubisoftは2017年に、同作のプレイヤー数が1,200万人に達したと発表していた。
EUで「Stop Destroying Videogames」として登録された欧州市民イニシアチブは、EU域内で検証済みの支持署名129万4,188件を集め、2026年1月26日に欧州委員会へ提出された。欧州議会は4月16日に公聴会、5月21日に本会議での討論を行った。
欧州委員会は6月16日の回答で、商業的な提供終了後もゲームをプレイ可能な状態に保つ一律の法的義務について、比例性の観点から導入を見送る判断を示した。ゲームの多様性、開発実務、事業者の知的財産権などを考慮したとしている。
代わりに、2026年末までに業界と消費者代表との協議を始め、サービス終了時の取り扱いに関する自主行動規範の策定を目指す。既存の消費者の権利について周知を進め、デジタルコンテンツ・サービス指令の適用状況も年末までに報告する方針だ。
PC Gamerによると、運動側は2026年2月に米国とEUでの非政府組織設立を発表し、継続的な政策提言に取り組んでいる。デジタル公正法への要求の反映も目指している。
■州の保存法案と業界の反対
カリフォルニア州の別の法案AB 1921は、「Protect Our Games Act」と呼ばれ、サーバーに依存するゲームの通常利用をサービス終了後も保護することを目指した。終了の少なくとも60日前の通知と、プレイ可能な版や更新の提供、返金などの対応を求める内容だった。
州議会の議事記録をまとめるLegiScanによると、同法案は2026年5月27日に州下院を賛成43、反対16で通過した。6月29日の上院委員会では賛成4、反対3、投票に加わらなかった委員4人で可決に必要な票数に届かず、再審議が認められた。
米ゲーム業界団体Entertainment Software Association(ESA)は法案に反対した。州下院委員会の分析資料に掲載された意見では、ゲームは変化する機器やOS、オンラインサービスに依存する複雑なソフトウェアであり、消費者に与えられるライセンスの性質も踏まえるべきだと訴えている。
PC Gamerによると、ESAの代表者は上院の公聴会で、コミュニティの私設サーバーを違法、海賊行為と位置付けた。運動側は州での再挑戦も表明しており、サポート終了時の対応と知的財産権をどう両立させるかが引き続き争点となる。
■再販の権利を巡る米欧の法制度
米著作権法109条のファーストセール原則は、適法に作られた特定の複製物の所有者に、その複製物を再販する権利などを認める。デジタル再販では、購入者が取得した権利の性質に加え、移転時に新しいコピーを作成する行為と著作権者の複製権との関係が問題になる。
EU司法裁判所は2012年のUsedSoft対Oracle判決で、対価を払って無期限に使用できるコンピュータープログラムについて、一定条件下でダウンロードされたコピーの再販を認めた。元の取得者には、再販時に自分のコピーを使用不能にすることを求めている。
一方、フランス破毀院は2024年10月23日、Steam上のダウンロードゲームの再販を巡る訴訟でValve側の判断を維持した。ゲームをプログラムや映像・音声などから成る複合的な著作物として扱い、コンピュータープログラムを対象とする制度と区別した。
トーレス議員が掲げる譲渡の権利を制度化するには、こうした著作権上の扱いと利用契約の関係を整理する必要がある。利用権を移す仕組みでは、譲渡する側と受け取る側のアクセスをどう切り替えるかも、実装上の論点になる。
■継続利用を支える設計と、規則を支える法律
オフラインで利用できる販売方法には、既存の実例がある。GOGは10年以上にわたり、デジタル著作権管理(DRM)による制限を設けないゲームを販売してきた。同社は専用アプリを使わずに導入できるオフライン用インストーラーも提供している。
サーバーに依存するゲームを終了後も遊べるようにするには、認証、進行データ、ゲーム内通貨など、オンライン側が担う機能をどう扱うかが課題となる。ローカルへのデータ保存や、サーバーを介さず進行できる仕組みは、そのための設計上の選択肢だ。
規則を定めるFTCの権限も重要になる。米連邦最高裁は2024年6月28日のLoper Bright Enterprises対Raimondo判決を6対3で下し、曖昧な法律に対する行政機関の合理的な解釈を裁判所が尊重するChevron法理を覆した。裁判所は法律上の権限の範囲について独立して判断する。
FTCの競業避止規則では、2024年8月に連邦地裁が権限逸脱などを理由に規則を無効とし、FTCは2025年9月に控訴を取り下げる手続きを進めた。新たなゲーム規制でも、議会が保護する権利、対象となる作品、事業者の義務、FTCへの授権をどう定めるかが重要になる。
■トーレス議員の政策活動と今後の焦点
トーレス議員は以前からデジタル分野の政策に関わっている。FTX破綻後の2022年12月2日には、「Crypto Exchange Disclosure Act」と「Crypto Consumer Investor Protection Act」を提出した。前者は取引所の準備資産に関する情報開示、後者は顧客の同意を得ない資金の貸し付け、レバレッジ利用、混同の禁止を求めるものだった。
2025年には、敵対国のAIから米政府を保護する「No Adversarial AI Act」(H.R.4142)に共同提案者として参加した。Bitcoin Policy Summitの講演者にも名を連ねている。
Power To The Players Actの構想では、購入したゲームを長く利用し、他人へ譲渡できる権利を、事業者の義務としてどう具体化するかが焦点となる。今後の法案提出と条文の公表により、オフライン対応の範囲や、既に販売された作品の扱いなどが明らかになる。
元記事: Congress Targets Hidden Licenses in Digital Games: Torres Bill Seeks Real Ownership