NASA、月のマリウス丘の縦穴を調べるGIMLIを選定 地下空洞を地表から探査へ
2026年10月3日 16:13
NASAは2026年9月30日、月面で科学観測を行うペイロード群3件を選定したと発表した。このうちGIMLIは、日本の月周回衛星「かぐや」が発見したマリウス丘の縦穴を地表から調べる。地下構造を探り、縦穴の先に溶岩チューブが延びているかを検討する計画だ。
■「かぐや」が見つけた縦穴を調べる
GIMLIの正式名称は「Geophysical Instruments for Marius Lunar pit Investigation」。NASAの月面ペイロード・研究調査プログラム「PRISM」で選ばれ、米惑星科学研究所(PSI)のナサニエル・プッツィグ氏が主任研究者を務める。探査対象のマリウス丘は、月の表側の「嵐の大洋」にある火山地形の多い地域だ。
マリウス丘の縦穴は、2009年に「かぐや」の画像から発見された。NASAの月周回探査機による後の画像解析では、開口部は約58m×49m、深さは約40mと再評価されている。地下に続く空洞への入り口となる可能性がある。
JAXAなどの研究チームは2017年、「かぐや」のレーダー観測とNASAの探査機GRAILによる重力場データを調べ、縦穴付近から西へ約50kmにわたる地下空洞を示唆する結果を発表した。GIMLIは縦穴周辺を地表から測定し、地下空間の広がりや大きさを詳しく調べる。
■レーダー、地震波、重力を組み合わせる
PSIによると、GIMLIは地中レーダー、能動震源を用いる地震探査装置、重力計、カメラを使う。レーダーは地中へ電波を送り、地層の境界などで生じる反射を調べる。ノルウェー宇宙庁が提供するレーダーによって、周回軌道からの観測を縦穴付近の測定で補う。
能動震源による探査では、既知の場所で地震波を発生させ、地下を伝わった波を記録する。地震波の伝わり方から、レゴリスや岩盤の構造を調べられる。アポロ17号も1972年、月面に設置した爆薬で生じた振動を観測した。プッツィグ氏は、こうした手法を惑星科学に再び導入したいとPSIの発表で述べている。
重力計は地下の密度分布を調べる手掛かりになる。レーダー、地震探査、重力測定を組み合わせれば、それぞれ異なる性質から地下構造を検討できる。カメラは縦穴の壁面も撮影する。PSIによると、そこには通常は地中に隠れたレゴリスや溶岩流の層が露出している。
地中レーダーには、周波数によって探査深度と解像度が変わる特性がある。GIMLIが得る観測結果も、地下構造の深さや周囲の岩石の性質に左右される。複数の測定を突き合わせることが、縦穴周辺の構造を読み解く鍵となる。
■溶岩チューブが伝える月の火山活動
溶岩チューブは、流れる溶岩の表面が固まった後も内部を溶岩が流れ、流出後に空洞が残ってできる。地球ではハワイなどに見られる。月の重力は地球の約6分の1で、月にも大規模な溶岩チューブが存在し得ることが研究されてきた。
月の溶岩チューブの構造安定性を調べた研究には、幅1kmほどの空洞が残り得るとするものがある。ただし、この値はマリウス丘の縦穴につながる空洞の実測値ではない。PSIの副主任研究者ギャレス・モーガン氏は、溶岩チューブを確認できれば、地球の玄武岩質火山活動に関する知見も月の歴史を考える手掛かりになると述べている。
縦穴の壁面に見える層も重要な観測対象だ。PSIは、レゴリスと溶岩流の重なりを調べることで、過去の溶岩の流れ方や噴火の間隔を検討できるとしている。地下空洞が見つかった場合には、その内部構造も月の火山活動を知る資料となる。
■将来の月面活動への意味
NASAは、地下空間が将来の宇宙飛行士を放射線、極端な温度変化、微小隕石から守る場所になり得ると説明する。NASAが示す月面の気温の目安は、日なたで約127℃、暗所で約マイナス173℃だ。地下の岩盤に覆われた空間は、居住施設の設計を考えるうえで注目される。
空洞の存在に加え、広さや天井の状態、出入りする方法も利用計画に関わる。GIMLIの観測は、まず縦穴周辺の地下構造を詳しく調べるためのものだ。地下空洞が確認されれば、後続の探査で調べるべき場所や条件を絞り込む助けになる。
PSIによると、探査で空洞が見つからなかった場合も、測定結果は縦穴のでき方や周辺の火山地質を調べる資料となる。カメラによる壁面の画像と地中の観測データを合わせ、月の火山活動史を読み解く計画だ。
■南極の氷と環境も調査
同時に選ばれた「Depth Imager with Spectral and Color Optics(DISCO)」は、NASAエイムズ研究センターのアリエル・ドイチュ氏が率いる。月の南極付近で、ごく小さな永久影の低温域にある水氷を地表から測定する計画だ。ロケット噴流が地面に与える影響や、月面を移動する際の地盤の状態も調べる。
もう一つの「Lunar Environment Monitoring Station–South Pole(LEMS-SP)」は、メリーランド大学ボルティモア郡校のメディ・ベンナ氏が主任研究者を務める。南極付近で微小隕石、揮発性物質、地震活動を長期にわたって観測し、月面設備の安全性を考えるための環境データを集める。
NASAは3件のペイロード群を、商業月面輸送サービス「CLPS」を通じて月へ運ぶ。GIMLIについて、NASAとPSIの選定発表は打ち上げ日を示していない。3件はそれぞれ、地下空間、水氷、月面環境という、将来の月面活動に関わる異なる課題に取り組む。
■地表探査を支える開発体制
PSIによると、Blue Origin傘下のHoneybee Roboticsが、GIMLIの能動震源地震探査装置、重力計、カメラの機器を製作する。着陸船と探査車への機器の組み込みや月面での運用にも、PSIとともに携わる。同社は月探査用ドリル「TRIDENT」や、火星探査車Perseveranceの試料採取用ドリルにも関わってきた。
研究チームには、ボイシ州立大学、ジョンズ・ホプキンズ大学、月惑星研究所、オスロ大学の研究者も参加する。ノルウェー宇宙庁は地中レーダーを提供する。PSIのアマンダ・ヘンドリックス氏は、軌道上から調べてきた科学上の問いを、月面で直接探る計画だと位置付けている。
元記事: NASA Picks Lunar Lava Tube Hunt: First Surface Seismic Survey Since Apollo