ロボット向け半導体のD-Roboticsが4億ドル調達、米国では海外製ロボット規制も

2026年9月20日 18:21

AIロボット向けの演算基盤を開発する中国のD-Roboticsは、2026年9月17日、シリーズCで4億ドル(約628億円、1ドル=157円換算)を調達したと発表した。資金はSunriseチップの製品拡充と、ロボット開発の全工程を支えるソフトウェアプラットフォームの構築に充てる。

同社によると、2026年上半期の売上高は前年同期の数倍に増え、Sunriseシリーズの累計出荷数は800万個を超えた。高性能モデルのSunrise S600も、発売後6カ月以内に20社を超える顧客に採用されたとしている。

■自動車向け技術からロボット開発基盤へ

D-Roboticsは、自動運転・運転支援向け半導体を手掛けるHorizon Roboticsの事業部門を母体として、2024年に独立した。現在は、SunriseチップとRDK開発キットを中心に、ヒューマノイド、四足歩行ロボット、家庭用サービスロボット、物流用自律搬送ロボットなどの開発基盤を提供している。

同社が対象とするのは、カメラや各種センサーから得た情報を機体内で処理し、認識や行動につなげるエッジAIの領域だ。姿勢制御や障害物回避など、短い応答時間が求められる処理では、クラウドだけに依存せず、ロボット側で推論や制御を実行する必要がある。

シリーズCの公式発表では投資家名を明らかにしていないが、複数の報道によると、韓国の金融グループMirae Assetが主導し、Meituanの投資部門や中国の政府系投資会社、既存株主などが参加した。過去に公表・報道されたラウンドを合計すると、累計調達額は約7億7000万ドル(約1209億円)となる。

■Sunrise S600は推論とリアルタイム制御を統合

Sunriseシリーズは、用途や必要な演算性能に応じた複数の製品で構成される。軽量な家庭用ロボットから高度な認識・制御を行うヒューマノイドまで、異なる消費電力や処理性能の要件に対応することを狙っている。

2025年11月に投入されたSunrise S600は、INT8で最大560 TOPSのAI演算性能を掲げる。18基のArm Cortex-A78AE CPUコア、6基のArm Cortex-R52+リアルタイム制御用コア、4基のNashアーキテクチャBPUを搭載し、最大64GBのLPDDR5メモリーに対応する。

D-Roboticsはこの構成を、人間の脳と小脳になぞらえた「Brain-Cerebellum」アーキテクチャと説明する。認識や計画、VLAモデルなどを扱う処理系と、モーターや関節を即時制御する処理系を分けながら、単一のプラットフォームに統合する設計思想である。

VLAは、視覚情報と言語による指示を行動へ結び付けるAIモデルを指す。S600はVLA、視覚言語モデル、大規模言語モデルに加え、ロボットの運動制御を1台の計算基盤上で扱えることを特徴としている。

■Jetson Thorとは演算精度が異なる

ロボット向けの高性能エッジAI基盤では、NVIDIAのJetson AGX Thorも有力な選択肢となる。Jetson AGX ThorはBlackwell GPU、14コアのArm Neoverse-V3AE CPU、128GBのLPDDR5Xメモリーを搭載し、40~130ワットの電力枠で最大2070 FP4 TFLOPSを提供する。

S600の560 INT8 TOPSとJetson AGX Thorの2070 FP4 TFLOPSは、演算形式と測定条件が異なるため、数値だけでは性能の優劣を判断できない。実際の処理性能は、使用するモデル、量子化方式、メモリー帯域、ソフトウェアの最適化、必要な入出力などによって変わる。

NVIDIAはGPUを中心とする幅広いAIソフトウェア環境と大容量メモリーを強みとする。一方、D-RoboticsはAI推論とリアルタイム制御用マイクロコントローラー、多数のカメラやCAN FDなどの接続機能を統合し、ロボットへの組み込みから量産までを支える構成を打ち出している。

■調達資金でチップとソフトウェアを拡充

D-Roboticsは、今回の資金をSunriseチップの演算性能帯の拡大と、ロボット開発の全工程を支えるソフトウェア基盤の整備に投じる。データ収集、モデルの学習と実装、検証、推論、機体制御までを共通環境で扱える開発基盤を目指す。

同社によると、2026年上半期の売上高は前年同期の数倍に増え、Sunriseシリーズの累計出荷数は800万個を超えた。この数字にはS600だけでなく、従来モデルを搭載した家庭用、産業用など幅広いロボット製品が含まれる。

S600は発売後6カ月以内に、TARS、Spirit AI、X Square Robot、UBTECH、PaXini Tech、Astribot、FOURIER、Booster Roboticsなど20社を超える顧客に採用された。D-Roboticsは、これらの顧客の大半が量産段階に入っているとしているが、個別の採用数量や売上高は公表していない。

同社のプラットフォームは、20カ国以上の500校を超える大学と10万人以上の開発者に利用されているという。これらも同社発表に基づく数字であり、今回の投資では半導体だけでなく、開発キット、ツールチェーン、ソフトウェアを含むエコシステムの拡大が焦点となる。

■ヒューマノイド向け半導体市場への期待

ロボットの高度化に伴い、演算用半導体やセンサーが製造コストに占める割合は高まると予想されている。Morgan Stanleyは、ヒューマノイド向けAIプロセッサーとセンサーを含む半導体市場が、2045年に3050億ドル(約47兆8850億円)へ達する可能性があると予測している。

同社の予測では、ヒューマノイド1台当たりの部材費は約13万1000ドルから2045年に約2万3000ドルへ低下する一方、部材費に占める半導体の割合は4~6%から24%に上昇する。半導体コストのうちAIプロセッサーが占める割合も、約67%から約93%に拡大すると見込む。

一方、TrendForceは、ヒューマノイド向けチップ市場が2028年に4800万ドルを超えると予測している。予測額には大きな差があるが、対象範囲と予測時点が異なるほか、ヒューマノイド市場そのものが初期段階にあるため、長期的な市場規模には高い不確実性がある。

2026年上半期の市場調査では、中国企業が世界のヒューマノイド出荷台数の大半を占め、中国市場が世界需要の85%超を吸収したとの推計もある。こうした生産・需要の集中は、中国のロボットメーカーを主要顧客とするD-Roboticsに事業機会をもたらしている。

■米FCC規制は中国製に限らず海外製の新モデルが対象

米連邦通信委員会(FCC)は2026年7月28日、海外で生産された「高度ロボット機器」をCovered Listに追加した。対象には、ネットワーク接続機能を備える一定の移動ロボットが含まれ、ヒューマノイドや四足歩行ロボットも例として挙げられている。

この措置は中国製品だけを名指ししたものではなく、原則として生産国を問わず海外で製造された対象機器に適用される。対象となる新モデルは、米国での販売に必要となる新たなFCC機器認証を取得できない。

一方、2026年7月28日より前にFCC認証を受けたモデルの販売、輸入、利用には影響しない。また、安全保障上の許容できないリスクがないと判断された機器については、米政府機関による条件付き承認を申請できる仕組みが設けられている。

Covered Listへの追加は完成した海外製ロボットを対象としており、D-Roboticsの半導体を単体で米国企業へ販売することを直接禁止するものではない。米国内で製造されるロボットにSunriseチップを採用できるかどうかは、完成品の生産地や機能、認証要件、条件付き承認の有無など、個別の構成によって判断される。

このため、FCCの措置によってD-Roboticsの米国事業が一律に閉ざされたとはいえない。ただし、海外製ロボットの認証規制や供給網の審査は、米国向け製品を開発する顧客にとって、性能、消費電力、価格と並ぶプラットフォーム選定上の検討要素になる。

■開発基盤としての普及が焦点

D-Roboticsは今回の調達を通じ、半導体単体の供給から、ロボットの学習、推論、リアルタイム制御を支える統合開発基盤へ事業範囲を広げようとしている。Sunriseの製品群を増やすことで、家庭用ロボットから産業用ロボット、ヒューマノイドまで共通の開発環境で支える構想だ。

ロボットメーカーにとっては、理論上の演算性能だけでなく、使用するAIモデルとの適合性、制御のリアルタイム性、消費電力、センサーやモーターとの接続性、量産時の供給体制が重要になる。D-Roboticsがチップとソフトウェアの両面でこうした要件に対応できるかが、今後の普及を左右する。

元記事: D-Robotics Raises $400M for Humanoid Chips as US Bans Chinese Robot Imports

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