トヨタ、世界60工場とロボット40万台を更新へ 2028年以降に年1兆円規模

2026年9月20日 18:21

トヨタ自動車は、2028年以降、世界60工場と約40万台のロボットの更新に毎年1兆円規模を投じる方針を示した。対象はトヨタとグループ会社の約15万台、サプライヤーの約25万台で、既存設備の更新も含まれる。40万台すべてを新型の自社開発ロボットに置き換える計画ではない。

この構想の一端として披露されたのが、人の実演から作業を学ぶ車輪型ロボット「ELEY(エリー)」である。トヨタは、米Toyota Research Instituteが開発する大規模行動モデルを生産現場に取り入れ、工場やロボットをデータでつなぐ構想を進める。

■世界60工場と40万台のロボットを更新

トヨタが示した毎年1兆円という金額は、ロボットの導入費だけではなく、工場そのものの更新も含む。1ドル=157円で換算すると約64億ドルに相当するが、投資の継続期間や最終的な総額は明らかになっていない。

更新対象となる約40万台には、人型と非人型のロボットが含まれ、既存設備の置き換えも対象となる。トヨタとグループ会社で約15万台、サプライヤーで約25万台を見込む。工場の建て替えや改修に合わせて段階的に進めるため、2028年に40万台を一斉配備する計画ではない。

トヨタは、ロボットや工場を端から端までデータでつなぎ、学習結果や生産情報を共有する「ファクトリーオートメーション3.0」を掲げる。各拠点で得た作業データを別の工場でも生かせれば、ロボットごとに同じ技能を一から学習させる負担を減らせる。

その実現には、学習データの収集と品質管理、モデル更新、異なる設備間でのデータ共有などの基盤整備が必要になる。約40万台という数字は、特定機種の量産目標というより、トヨタグループとサプライヤーを含む生産設備全体の更新規模を示すものだ。

■人の動作を学ぶ車輪型ロボット「ELEY」

ELEYは「Embodied Learning robot for Enhanced Yield」の頭文字を取った名称で、トヨタは「高い成果・生産性を目指す身体学習ロボット」と説明している。重量は約50kgで、双腕と2本指のグリッパー、昇降機構、全方向に移動できる車輪型の台車を備える。

ELEYの原点には、2012年に発表された生活支援ロボット「Human Support Robot(HSR)」の研究がある。HSRでは、物をつかむ位置がわずかにずれただけでも腕に想定外の力が加わり、故障につながるという課題があった。人や周囲の物と接触しながら作業するには、外力を受け流しつつ動作を続けられる腕が必要になる。

ELEYは、準ダイレクトドライブ方式のアクチュエーターを全軸に採用している。大トルクのモーターと10対1以下の低い減速比を組み合わせ、外力によって関節を動かしやすくする「バックドライバビリティ」を高めた。これにより、周囲との接触時に力を逃がしながら作業できる設計となっている。

人の動作を模倣しやすくするため、関節間の長さや腕の太さは日本人成人男性の平均的な寸法に合わせた。HSRにはなかった肩甲骨に相当する軸も追加し、物を押す、腕を伸ばす、両手でふたを開けるといった動作で、人に近い可動域を確保している。

■大規模行動モデルで実演から技能を学習

ELEYの学習には、Toyota Research Instituteが研究する大規模行動モデル「Large Behavior Models(LBM)」が使われる。LBMは、カメラなどのセンサーから得た情報を入力として受け取り、ロボットが実行する動作を出力するAIモデルである。

基盤となる技術の一つが、Toyota Research Instituteとコロンビア大学の研究者が開発した「Diffusion Policy(拡散方策)」だ。画像などで観測した状況を条件に、ノイズから行動列を段階的に生成する。あらかじめ決めた一つの軌道を再生するのではなく、実演データから状況に応じた動作を学習できる点に特徴がある。

Toyota Research Instituteが2026年に公表した査読研究では、約1700時間分のロボットデータで拡散型LBMを学習させ、実機で1800回、シミュレーションで4万7000回を超える評価を実施した。事前学習を使わず個別に学習したモデルと比べ、新しい作業を少ないデータで習得できる結果が示された。一方、事前学習モデルを追加調整せずに使う場合の効果は一貫しておらず、実環境での評価を積み重ねる必要がある。

トヨタが欧州で披露したデモでは、作業者がELEYの指を模した治具を使って動作を教えた。ELEYは2週間に約1500回の練習を重ね、Tシャツを折り畳む作業を自律的に実行した。これは学習方法を示すデモであり、車両の組み立て工程への適用範囲や量産時の性能は今後の検証対象となる。

■実生産に向けて残る3つの課題

トヨタはELEYの課題として、長時間稼働時の信頼性、手先を同じ位置へ高精度で到達させる再現性、学習の基礎となるデータ基盤の3点を挙げている。いずれも短時間の実演から、工場で継続的に使う段階へ移るために欠かせない要素だ。

準ダイレクトドライブ方式は外力を受け流しやすい半面、接触を伴う作業を長時間、安定して続けられるかを確認する必要がある。生産設備として使うには、短時間の成功だけでなく、シフトを通じた動作の安定性や保守性も問われる。

手先の位置決めについても、接触時の柔軟さと高い再現性を両立させる必要がある。トヨタはワイヤーや樹脂ベルトを使わない直接駆動構成を取り入れ、先行試作機で課題となった精度の改善を進めたとしている。

データ基盤では、現場で起きた成功と失敗を学習データへ変換し、短い周期でロボットを改善する仕組みが重要になる。トヨタはELEYを生産現場に近い条件で動かし、実運用から得られるデータを使って3つの課題に取り組む方針だ。

■自社技術と外部ロボットを組み合わせる戦略

トヨタの特徴は、ELEYのようなロボット本体の研究と、Toyota Research InstituteによるAIモデルの研究をグループ内で進めている点にある。ただし、40万台の更新対象がすべてELEYや自社開発機で構成されるわけではなく、用途に応じて既存の産業用ロボットや外部企業の製品も活用する。

トヨタ・モーター・マニュファクチャリング・カナダは2026年2月、Agility Roboticsと商用契約を結び、二足歩行ロボット「Digit」を製造、サプライチェーン、物流業務に導入する方針を発表した。自社開発の車輪型ロボットだけに統一せず、作業内容に適した機体を選ぶ姿勢がうかがえる。

他社でも実生産環境での検証が進む。BMWは米スパータンバーグ工場でFigure AIの「Figure 02」を約10カ月間運用し、9万点を超える部品を扱い、3万台を超えるBMW X3の生産工程を支援した。ドイツのライプツィヒ工場では、Hexagon Roboticsの車輪型ロボット「AEON」を使ったパイロット運用を進めている。

トヨタが目指すのは、ロボット単体の導入ではなく、設備、AI、学習データを結び付けた生産基盤の更新である。ELEYが人の実演から接触を伴う作業をどこまで安定して学べるかとともに、異なる種類のロボットを世界の工場で管理し、学習成果を共有できるかが計画の成否を左右する。

元記事: Toyota Bets 400,000 Robots Can Capture Craftspeople Skills That Took Decades to Build

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