米ITC、音響技術の特許侵害疑惑でApple、Samsung、Googleを調査
2026年9月20日 00:39
米国際貿易委員会(ITC)は、音響技術を搭載した電子機器を巡り、Apple、Samsung Electronics、Samsung Electronics America、Googleを対象とする調査を開始した。米音響技術企業BoomCloud 360が、3社の輸入・販売する機器が同社の米国特許3件を侵害していると申し立てたことを受けたものだ。
BoomCloud 360は、特許侵害が認定された場合の救済措置として、対象製品の米国への輸入を制限する限定的排除命令と、販売などを制限する停止命令を求めている。ただし、調査開始は侵害認定を意味せず、具体的にどの製品が救済措置の対象になるかも決まっていない。
■米ITCがSection 337調査を開始
ITCは2026年9月15日、1930年関税法Section 337に基づく調査「337-TA-1521」の開始を決定した。調査開始の通知は9月16日に発表され、9月18日付のFederal Register(連邦官報)に掲載された。
申立ては、カリフォルニア州エンシニータスに拠点を置くBoomCloud 360が8月14日に提出し、8月31日に補充した。被申立人にはApple、Samsung Electronics、Samsung Electronics America、Googleが指定されている。
ITCの通知によると、対象となる製品カテゴリーは、特定の音響技術を搭載する携帯電話、タブレットなどの電子機器である。通知は特定の製品モデルを列挙しておらず、現段階でiPhone、Galaxy、Pixel、AirPods、Beatsなどの各シリーズ全体が輸入制限の対象になると決まったわけではない。
BoomCloud 360は、対象機器の米国への輸入、輸入を目的とする販売、輸入後の米国内販売が特許権を侵害し、Section 337に違反すると主張している。ITCは今後、侵害の有無に加え、救済を受けるための要件となる米国内産業が存在するかを調べる。
■争点となる3件の音響関連特許
ITCの調査対象となるのは、米国特許第10,524,078号、第11,533,560号、第11,051,121号の3件である。調査では、それぞれの特許に含まれる所定の請求項について、被申立人の輸入・販売する製品が侵害しているかが審理される。
対象技術には、空間成分と非空間成分のゲイン調整に、左右スピーカー間の非対称性を補正する処理を組み合わせたステレオ音響の空間強調が含まれる。また、音声の再生システムに関する情報や、オーディオアプリを示すメタデータに基づいて処理を変える動的音響強調も対象とされている。
このほか、スピーカーの一方から出た音が反対側の耳にも届くクロストークを処理し、それによって生じる周波数特性上の変化を補正する空間音響技術も挙げられている。いずれも、単に「空間オーディオ」と呼ばれる機能全般ではなく、各特許の請求項で定められた具体的な処理が争点となる。
BoomCloud 360は、クラウドベースで機器やコンテンツに合わせた音響処理プラットフォームを開発していると説明している。スマートフォン、Bluetoothスピーカー、テレビ、ヘッドホン、タブレット、ノートPC、サウンドバー、自動車などを対象分野として掲げている。
■輸入制限の可否を判断するITCの手続き
Section 337は、知的財産権を侵害する製品の米国への輸入や、輸入後の販売などを調査する制度である。ITCが違反を認定した場合、侵害品の輸入を阻止する限定的排除命令や、米国内での販売などを制限する停止命令を出すことができる。
BoomCloud 360は今回、限定的排除命令と停止命令を求めている。もっとも、これらは申立人が請求した救済措置であり、ITCが発令を決めたものではない。
事件はITCの行政法判事に割り当てられ、証拠に基づく審理を経てSection 337違反の有無に関する初期判断が示される。その後、ITCが初期判断を審査し、最終判断を行う。
ITCは調査開始から45日以内に、調査を完了する目標日を設定する。救済命令が出された場合は発令時に効力を生じ、60日以内に米通商代表部が政策上の理由で不承認としなければ最終的なものとなる。
■公共利益とSonos対Google事件
ITCは今回の調査で、行政法判事に対し、救済措置が公共利益に及ぼす影響についても証拠や意見を検討するよう指示した。考慮対象には、公衆の健康と福祉、米国経済における競争条件、米国内での競合品または代替品の生産、米国の消費者への影響が含まれる。
過去には、SonosがGoogleを相手取った音響機器関連のSection 337調査がある。ITCは2022年、GoogleがSonosの特許を侵害したと認定し、侵害する音響プレーヤーやコントローラーなどを対象とする限定的排除命令と停止命令を出した。
同事件では、大統領審査期間中に輸入される侵害品について、通関価格の100%に相当する保証金も設定された。またITCは、公共利益上の要素は救済命令の発令を妨げないと判断した。
もっとも、過去の事件で排除命令が出たことだけから、今回も同じ結論になるとは限らない。対象特許の請求項、各社製品の実装、特許の有効性、米国内産業の要件などが個別に審理される。
■Apple、Google、Samsungも確認判決を求める
Appleは2026年8月5日、BoomCloud 360を相手取り、カリフォルニア南部地区連邦地裁へ確認判決訴訟を起こした。事件番号は3:26-cv-04492で、米国特許第10,313,820号、第10,721,564号、第10,757,527号について、Apple製品が侵害していないことの確認を求めている。
この訴訟で扱われる3件は、ITCが今回の調査対象に指定した3件とは異なる。BoomCloud 360とAppleの間では、関連する音響処理技術を巡り、複数の特許について並行した紛争が進んでいることになる。
Googleも8月18日、BoomCloud 360に対する非侵害確認訴訟をカリフォルニア北部地区連邦地裁へ提起した。Samsung ElectronicsとSamsung Electronics Americaも9月3日、カリフォルニア南部地区連邦地裁に確認判決訴訟を起こしている。
したがって、ITCの調査だけでなく、Apple、Google、Samsungがそれぞれ提起した連邦地裁での訴訟も並行して進む。各手続きでは対象特許や請求内容が必ずしも同一ではないため、それぞれの判断を区別して見る必要がある。
■調査開始時点では侵害認定なし
ITCは、調査を開始した段階では事件の実体について何ら判断していないと明記している。現時点で、Apple、Samsung、Googleによる特許侵害が認定された事実も、特定のスマートフォンやヘッドホンに輸入制限が決まった事実もない。
今後は、BoomCloud 360が主張する特許の有効性や請求項の範囲、被申立人の製品がその範囲に含まれるか、BoomCloud 360が米国内産業の要件を満たすかが主要な争点となる。公共利益を踏まえ、仮に違反が認定された場合にどのような救済措置が適切かも審理される。
ITCは45日以内に調査完了の目標日を設定する予定だ。最終判断の時期や、輸入制限、設計変更、ライセンス契約などによる解決の可能性については、調査開始時点では確定していない。
元記事: Apple, Samsung, Google Face iPhone Import Ban Risk Over Spatial Audio Patents