「ストレンジャー・シングス: 1985年の冒険」シーズン2、怪物設定を現実の科学から読み解く

2026年9月19日 16:26

Netflixのアニメシリーズ「ストレンジャー・シングス: 1985年の冒険」シーズン2が、2026年9月17日に全8話一挙配信された。リッチやゴーレム、青く光る花、恐怖を引き起こすヘイト・スプライトが登場し、菌根ネットワーク、発光植物、寄生菌、ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)を連想させる設定が物語の核となっている。

■植物ネットワークを舞台にした新たな危機

物語の舞台は、実写版「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のシーズン2と3の間に当たる1985年冬のホーキンスだ。イレブン、マイク、ウィル、ダスティン、ルーカス、マックス、新たな仲間のニッキーから成るホーキンス探偵クラブが、バレンタインデーを前に起きる怪現象を調査する。

事件の背後にいるのは、肉体を裏側の世界に閉じ込められた科学者ダニエル・フィッシャーだ。フィッシャーは町に広がる植物状のネットワークを介して意識を投射し、人々の恐怖を利用して新たなゲートを開こうとする。

シーズンを象徴する怪物が、フィッシャーの移動する意識を指す「リッチ」と、彼が遠隔操作する巨大生物「ゴーレム」である。さらに、裏側の世界の影響を家々へ持ち込む青い花や、人々を怖がらせるヘイト・スプライトの群れが、バレンタインデーの華やかな町を侵食していく。

本作はフライング・バーク・プロダクションズが制作し、ショーランナーのエリック・ロブレスやダファー兄弟らが製作総指揮を務める。1980年代の土曜朝アニメを思わせる映像と、身体や意識をめぐる暗いSFホラーが組み合わされている。

■D&Dのリッチとユダヤ伝承のゴーレム

登場人物が未知の怪物を「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(D&D)の名称で呼ぶ手法は、実写版第1シーズンのデモゴルゴンから続く伝統だ。理解できない存在に出会った子供たちが、よく知るゲームの類型を手掛かりに、その性質や攻略法を整理していく。

D&Dのリッチは、1975年のサプリメント「Greyhawk」で初登場した、知性と魔法能力を保つアンデッドである。その後の設定では、生命力や魂をフィラクテリーと呼ばれる器に結び付け、肉体を破壊されても存続できる存在として描かれるようになった。

フィッシャーの構造は、この類型を反転させている。裏側の世界に残された肉体が意識のよりどころとなり、意識の側が町を移動しているからだ。肉体と意識の所在を分けることで、伝統的なリッチを現代的な情報伝達のイメージへ置き換えている。

一方、ゴーレムはユダヤの伝承に現れる、土や粘土などの無生物から作られた人造の存在だ。詩編139編16節にあるヘブライ語の「形のないもの」に由来し、後世には神秘的な知識や聖なる言葉によって動く存在として物語が発展した。

プラハのラビ、ユダ・レーヴ・ベン・ベザレルが共同体を守るゴーレムを作ったという物語は、特に広く知られている。ただし、レーヴ本人とゴーレムを結び付ける物語は後世に成立した伝説である。本作のゴーレムも独立した意思を持つ怪物というより、外部から送られる命令によって動く身体として描かれる。

■菌根ネットワークは何を運ぶのか

植物の根には菌根菌が共生し、その菌糸が複数の植物を結ぶ共通菌根ネットワークを形成する場合がある。こうした地下のつながりでは、炭素やリンなどの物質が移動し得るほか、植物間の相互作用に関する研究が続いている。

森林生態学者スザンヌ・シマードらの研究を通じ、この仕組みは「ウッド・ワイド・ウェブ」として広く知られるようになった。大木がネットワークの中心となって苗木を支える「母なる木」という説明も、一般向けの書籍や報道で注目を集めた。

一方、ジャスティン・カーストらが2023年に「Nature Ecology & Evolution」で発表した論考は、森林の共通菌根ネットワークについて広まった主張の一部は、野外研究の証拠を超えて一般化されていると指摘した。ネットワークが森林にどの程度広がり、資源移動が苗木の生存や成長にどう寄与するかについては、研究結果にばらつきがある。

成熟木が子孫へ優先的に資源や防御信号を送るという主張についても、同論考は査読済みの公表証拠がないとしている。菌糸による植物同士の接続と物質移動は研究対象として実在するが、それを意図的な通信や協力と表現すると、確認された範囲を超えやすい。

本作は、この地下ネットワークを意識の伝送路へと拡張する。現実の研究との共通点は、離れた場所を生物的な網で結び、信号や物質を運ぶ構造にある。フィッシャーの記憶や人格がネットワークを移動する設定は、その情報伝達構造を人間の意識まで広げたSF的な想像である。

■恐怖を集める怪物の仕組み

フィッシャーは、ヘイト・スプライトによって住民に恐怖を引き起こし、新たなゲートを開くために利用する。恐怖を町全体から集める仕組みは、感情を資源として扱う本作独自の設定だ。

現実の恐怖反応では、扁桃体を含む脳内の回路が脅威の処理に関わり、視床下部や自律神経系を介して心拍、呼吸、発汗、血流などに変化が生じる。アドレナリンやノルアドレナリンの働きにより、身体は脅威へ素早く対応できる状態へ移行する。

こうした反応は身体内部でエネルギーの利用方法を変えるが、恐怖が外部から回収可能な動力源として放出されるわけではない。本作との接点はエネルギー量そのものではなく、目に見えない感情が全身の生理状態を一斉に変え、それを怪物が検知して利用するという発想にある。

住民一人一人の反応を植物ネットワークが拾い上げ、町全体の現象へまとめる構図は、シーズンの脅威を個人の恐怖だけで終わらせない。バレンタインデーという感情を共有する行事が、逆方向の感情を増幅する舞台として使われている。

■光る花と行動を操る寄生菌

本作の青い花は、マックスとニッキーがバレンタインデーの贈り物として売るほど人目を引く一方、裏側の世界のネットワークを家庭内へ運ぶ役割を果たす。魅力的な外見が拡散手段になる点が、物語上の重要な仕掛けだ。

自ら発光する植物は、すでに遺伝子工学の研究で作られている。2020年に「Nature Biotechnology」で発表された研究では、発光キノコ由来の遺伝子を導入したタバコが、植物内のコーヒー酸を利用して、人の目で確認できる光を持続的に発した。

この研究で作られた植物は、外部からルシフェリンを与えなくても自律的に発光した。作品の青い花と同じ種類や発光色ではないが、植物本来の代謝経路と真菌の発光系を組み合わせるという発想は、光る花のイメージに現実の補助線を引く。

花とヘイト・スプライトが人間の行動を利用して勢力を広げる構造は、宿主の行動を変える寄生菌も連想させる。いわゆるゾンビアリ菌として知られるOphiocordyceps属の菌はアリに感染し、宿主の行動を変化させることで、胞子を散布しやすい位置へ移動させる。

研究では、分泌タンパク質や二次代謝産物、腸毒素に似た物質などが、行動操作に関与する候補として調べられている。ただし、一連の行動を生み出す分子機構の全体像が解明されたわけではない。本作では、贈り物として運ばれる花と恐怖を誘う小型生物に、宿主や社会行動を拡散へ利用する生物学的戦略のイメージを重ねられる。

■ゴーレムとBCIに共通する信号の流れ

フィッシャーがゴーレムを操る構図は、脳信号を読み取り、外部の機器や身体の動作へ変換するBCIの情報処理構造と共通する。基本的な流れは、神経活動の取得、アルゴリズムによる運動意図の解読、外部装置への指令出力である。

BrainGateをはじめとする研究では、麻痺のある参加者が脳活動を使ってコンピューターのカーソルやロボットアームを操作してきた。意図した運動に対応する神経信号を解読し、電気刺激によって本人の腕や手の筋肉を動かす研究も行われている。

本作では、電極やコンピューターに相当する役割を、裏側の世界の植物ネットワークが担う。出力先もロボットや本人の筋肉ではなく、フィッシャーとは別の生物であるゴーレムだ。意図を読み取り、通信路を介して別の実行器を動かすという点がBCIに通じる。

ゴーレムを単なる怪物ではなく、誰かの命令を出力する身体として見ると、物語の焦点も変わる。フィッシャー自身もマインド・フレイヤーに利用されており、ホーキンス探偵クラブは怪物の破壊だけでなく、背後にいる人間を救う道を探す。

伝承上のゴーレムとBCIには、創造者や使用者の命令を、別の身体の動作へ変換するという共通構造がある。本作はその構造を利用し、怪物の外見ではなく、誰が意思を持ち、誰が動かされているのかという問題を物語の中心に据えている。

■科学は作品設定を読み解く補助線

シーズン2が取り入れた菌根ネットワーク、発光植物、寄生菌、BCIは、いずれも現実に研究されている。ただし、これらが作品内と同じ一つの仕組みを構成しているわけではない。共通するのは、信号を受け取り、ネットワークで運び、別の場所や身体へ出力するという情報処理の形だ。

植物状の網を通信路とし、意識を入力、ゴーレムを出力と見ると、本シーズンの怪物設定は一つの構造にまとまる。光る花とヘイト・スプライトは、そのネットワークを町へ広げ、人間の行動や感情を取り込むための接点として機能する。

菌根ネットワークに関する論争も、作品を否定する材料ではなく、森林の地下で実際に何が起きているのかを考える手掛かりになる。生物同士のつながりを通信や意思になぞらえるとき、どこまでが観察された現象で、どこからが人間による解釈なのかという問いが生まれるからだ。

「ストレンジャー・シングス: 1985年の冒険」シーズン2は、現実の研究をそのまま再現するのではなく、複数の科学的イメージを怪物譚へ組み替えた。地下のネットワーク、行動を変える生物、意図を動作へ変換する技術という共通点を追うことで、リッチとゴーレムの関係をより立体的に読み解ける。

元記事: Tales From ‘85 Season 2 Drops Today: Its Monster Science Is Unsettled, Not Invented

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