EUの衛星通信網IRIS²、LEO衛星264機をベルギー新興企業が受注 Airbusは66機

2026年9月19日 09:19

欧州連合(EU)の衛星通信網「IRIS²」で、低軌道(LEO)衛星330機のうち264機をベルギーの衛星メーカーAerospacelabが製造することになった。残る66機はAirbus Defence and Spaceが担当する。Eutelsatは既存のOneWeb衛星網を補充・拡充しながら、2030年代前半にIRIS²の商用サービスへつなぐ計画だ。

■OneWebを補充しIRIS²へつなぐ計画

Eutelsat Groupのジャン=フランソワ・ファラシェCEOは9月15日、パリで開かれたWorld Space Business Weekで、OneWebの稼働衛星を2030年までに約1300機へ増やし、その後、顧客をIRIS²へ順次移行させる構想を説明した。

OneWebは、欧州の事業者が運用する唯一の世界規模のLEO通信衛星網である。現在は高度約1200キロの12軌道面に600機を超える衛星を配置し、企業、政府、通信、航空、海運などに接続サービスを提供している。

既存衛星が設計寿命を迎えるのに備え、EutelsatはAirbus Defence and Spaceから衛星を段階的に調達している。2024年12月に100機を発注し、2026年1月には340機を追加した。

さらにEutelsatは2026年9月10日、229機について初期の産業活動を開始するための許可書をAirbusと締結したと発表した。これを含めると、Airbusが担当する新しいOneWeb衛星は計669機となる。229機への投資額は約10億ユーロと見積もられている。

この229機は、OneWebの補充と容量拡大を2034年まで段階的に続けるためのものだ。先に発注した440機のうち最初の機体は、2026年10~12月期に納入される見込みである。Eutelsatは2027年と2028年に、Arianespaceの大型ロケットAriane 64を使う専用打ち上げを1回ずつ予定している。

■デジタル処理で軌道上の柔軟性を高める

追加するOneWeb衛星には、高度なデジタル・チャネライザーが搭載される。チャネライザーは、衛星が受信した広帯域の信号を複数の周波数帯に分け、必要な経路へ振り分ける装置である。

EutelsatはRamon.Spaceと契約し、同社の「NuComm」を基にしたデジタル通信チャネライザーを採用した。最初の契約は70機分で、搭載衛星は2026年末から打ち上げられる予定だ。

従来の固定的なアナログ処理に比べ、デジタル処理では信号のフィルタリングや入力・出力の切り替えを柔軟に行える。打ち上げ後もソフトウェアを再設定できるため、需要や運用条件の変化に合わせて衛星の通信機能を調整しやすくなる。

Ramon.Spaceは、NuCommの主な機能として、デジタルフィルタリング、入力と出力を柔軟に接続する切り替え機能、軌道上での再プログラミングを挙げている。Eutelsatは、新衛星に外部機関の機器を載せるホステッドペイロード機能も持たせるとしている。

こうしたソフトウェア定義型の技術は、EutelsatがLEO部門を主導するIRIS²でも重要になる。Eutelsatは、OneWebを維持するための更新を進める一方、将来のIRIS²につながるネットワーク機能を段階的に取り込む方針だ。

■AerospacelabがLEO衛星の8割を担当

IRIS²のLEO部門では、2018年設立のAerospacelabが264機の衛星プラットフォームを設計・製造する。通信ペイロードを統合した完成衛星の引き渡しまで担い、契約額は24億ユーロとなる。

264機はIRIS²全体の348機の約76%、LEO衛星330機に限ると80%に相当する。選定に当たっては、IRIS²のLEO部門を主導するEutelsatとの競争的対話が行われた。

Aerospacelabの創業者兼CEOであるブノワ・ドペールは9月10日の発表で、同社の選定について、衛星インフラを大規模かつ迅速に提供する新世代の宇宙メーカーに欧州の機関が信頼を寄せたことを示すものだと述べた。

Aerospacelabは、ベルギーのシャルルロワに衛星量産工場「Megafactory」を建設している。2026年の稼働開始を予定し、年間最大500機の生産能力を掲げる。個別案件ごとに衛星を一から設計する従来型の生産だけでなく、標準化した設計と連続生産を組み合わせることが同社の戦略である。

Airbus Defence and Spaceは、IRIS²のLEO衛星のうち66機を製造する。これらは政府、防衛、治安、緊急対応向けの通信能力を強化する層を構成し、2029年の納入が予定されている。

既存のOneWeb衛星を製造し、補充用衛星669機の生産にも関与するAirbusではなく、LEO部門の大半をAerospacelabが受注したことは、欧州の衛星製造業にとって大きな転換点となる。今後は、同社が新工場の生産能力を予定通り立ち上げ、264機を計画に沿って供給できるかが焦点となる。

■348機で構成する欧州の主権的衛星通信網

IRIS²は「Infrastructure for Resilience, Interconnectivity and Security by Satellite」の略称で、EUが整備する安全で強靱な衛星通信網である。政府、防衛、治安、緊急対応向けの通信に加え、企業や市民向けのブロードバンド接続にも利用する計画だ。

運営を担うのは、Eutelsat、SES、Hispasatで構成するSpaceRISEコンソーシアムである。欧州委員会は2024年12月、SpaceRISEと12年間のコンセッション契約を締結した。2026年8月には実施内容に関する合意が成立し、計画は本格的な配備段階へ移った。

現在の計画では、IRIS²はLEO衛星330機と中軌道(MEO)衛星18機の計348機で構成する。2029年に最初の衛星を打ち上げ、2030年から政府向けサービスを段階的に開始する予定である。Eutelsatは、商用Kuバンドサービスが2032年半ばに利用可能になるとの見通しを示している。

LEO部門では、AerospacelabがKuバンドとKaバンドに対応する264機のプラットフォームを、AirbusがKaバンドに対応する66機を担当する。Thales Alenia Spaceは330機分の通信ペイロードを供給する。当初発注額は約5億ユーロで、契約全体の価値は30億ユーロを超える見通しとされている。

MEO部門では、SESがドイツのOHBに18機の衛星プラットフォームを発注した。契約額は約10億ユーロである。またHispasatは、アンテナ、管制システム、地上ネットワークなどの政府向け地上部門を主導する。

IRIS²の総投資額は約156億ユーロで、このうちSpaceRISEの民間3社が約40億ユーロを負担する計画だ。2024年のコンセッション契約時点では約106億ユーロとされていたが、衛星66機の追加やシステム強化によって事業規模が拡大した。

■フランス軍はOneWebの利用を拡大

OneWebは商用ブロードバンド網であると同時に、フランス軍の衛星通信能力を補完する役割も担う。

フランス国防装備総局(DGA)は2025年6月、Eutelsatと上限10億ユーロのNEXUS枠組み契約を締結した。NEXUSは、フランスの軍事通信衛星SyracuseとOneWebの民間LEO衛星網を組み合わせ、安全で強靱な通信能力を確保する取り組みである。

2026年6月には、NEXUSに基づく最初の個別契約「CENTAURE」が締結された。契約期間は最長8年間、上限額は約3億5000万ユーロで、最初の4年間について1億3800万ユーロの発注が確定している。

CENTAUREにより、フランス軍は戦略的に重要な地域でOneWebの通信容量を優先的に利用できる。契約には、OneWebサービスの安全性を高める初期作業も含まれる。フランス軍は、IRIS²の配備が進むまでの期間に利用できる衛星通信基盤としてOneWebを位置付けている。

■量産体制の立ち上げが焦点

Aerospacelabにとって、264機のIRIS²衛星はこれまでにない規模の案件となる。同社はMegafactoryにより大量生産へ移行する計画だが、工場の本格稼働と生産ペースの確立はこれからである。

通信事業者にとっては、IRIS²が欧州による管理や安全性を備えるだけでなく、価格や通信性能でも競争力を持てるかが重要になる。Starlinkが1万機を超える規模へ拡大する中、IRIS²とOneWebは、企業や政府機関に対して、管理されたサービス、セキュリティ、欧州の管理下にある通信基盤を提供することで差別化を図る。

EutelsatはStarlinkと同規模の独自第2世代OneWeb衛星網を構築するのではなく、既存網を補充・拡充しながらIRIS²へつなぐ戦略を採っている。同社によると、IRIS²を通じて利用できる容量は、現在のOneWebの2倍を超える見込みだ。

2026年6月期のEutelsatのLEO事業売上高は、為替変動などを除いた実質ベースで前期比69.5%増の2億9700万ユーロとなり、グループ売上高の25%を占めた。一方、従来の静止軌道衛星事業は縮小が続いている。

Eutelsatは約50億ユーロ規模の借り換えを完了し、財務基盤を強化した。フランス政府は同社株式と議決権の約29.65%を保有する最大株主となっている。

既存のOneWebを維持しながら衛星を約1300機へ増やし、最終的にIRIS²へ顧客を移行させる計画は、欧州が独自に管理できる衛星通信基盤を構築するための具体的な道筋となる。その成否は、複数の衛星メーカーや通信事業者が計画通りにシステムを統合できるか、なかでもAerospacelabが大規模な量産体制を確立できるかに左右される。

元記事: EU Picks Belgian Startup Over Airbus to Build Its Sovereign Satellite Constellation

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