Visa Ventures、ステーブルコイン基盤のVelocityに出資 シリーズAは総額4800万ドルに

2026年9月16日 23:29

Visa Venturesは、ロンドンを拠点にステーブルコインを活用した決済・資金管理基盤を開発するVelocityの追加資金調達に参加した。Velocityは2026年9月15日、シリーズAに1000万ドル(約15億5000万円、1ドル=155円換算)を追加し、同ラウンドの総額を4800万ドル(約74億4000万円)に拡大したと発表した。

Visaはステーブルコイン分野で複数の提携やサービス開発を進めている。従来提携していたBVNKをMastercardが買収したことを受け、新たな決済・相対取引パートナーを探しているとも報じられているが、Velocityがその選定先になったとの発表はない。今回確認されたのは、Visa VenturesによるVelocityへの投資参加である。

■シリーズAにVisa、Circle、Rippleなどが参加

追加ラウンドにはVisa Ventures、Circle Ventures、Haun Ventures、Ripple、Translink Capital、Mirana Venturesが参加した。1000万ドルは追加ラウンド全体の調達額であり、Visa Ventures単独の投資額は公表されていない。

VelocityのEric Queathem CEOによると、今回の調達後企業価値は2億ドル(約310億円)となった。追加調達に先立ち、同社は2026年7月に3800万ドル(約58億9000万円)のシリーズAを発表していた。

Velocityは、銀行、決済事業者、金融機関、加盟店などが、既存の財務・決済システムを全面的に置き換えることなく、ステーブルコインを決済、流動性管理、資金管理に利用できる基盤を構築している。新たな資金は、こうした法人向けインフラの拡充に充てられる。

■既存システムとステーブルコインをつなぐ

国際送金では、送金元と受取先の銀行の間に複数の金融機関が介在する場合がある。取引経路や通貨、各国の制度によっては、決済完了までの時間、手数料、事前の資金手当て、照合作業などが企業の負担になる。

ステーブルコインはブロックチェーン上で継続的に移転できるため、銀行の営業時間や国境をまたぐ既存の決済工程を補完する手段として注目されている。一方、企業が実際に利用するには、法定通貨との交換、資産管理、本人確認、マネーロンダリング対策、会計処理、既存システムとのデータ連携が必要になる。

Velocityが担うのは、こうした複数の工程をまとめるオーケストレーション層である。同社の基盤は、ステーブルコインのネットワークを銀行口座や流動性提供者、カストディ、コンプライアンス機能などに接続し、既存の財務業務に組み込めるようにすることを目指している。

VelocityのQueathem CEOは、Worldpayで約10年間、決済と事業戦略に携わった。Velocityの公式説明では、同氏は消費者が目にする決済体験に比べ、実際に資金を移動させるバックオフィス基盤への投資が遅れてきたと指摘している。

■Visaは複数のステーブルコイン施策を展開

VisaとBVNKは2026年1月、Visa Directの一部の試験プログラムにBVNKのステーブルコイン基盤を導入すると発表した。対象となる法人顧客がステーブルコインで送金原資を用意したり、受取人のウォレットへステーブルコインを送ったりできる仕組みで、両社の関係はVisa Venturesが2025年5月にBVNKへ出資したことに続くものだった。

Mastercardは2026年3月、BVNKを最大18億ドル(約2790億円)で買収する契約を発表した。金額には最大3億ドルの条件付き支払いが含まれる。買収は同年8月3日に完了し、BVNKはMastercard傘下となった。

その後、Visaが米国、英国、カナダ、シンガポールで必要な認可を持つステーブルコイン決済・相対取引パートナーを探しているとCoinDeskが報じた。報道はVisaの関連文書に基づくもので、Visaはコメントを控えた。Velocityがこの提案依頼の選定先になったことや、BVNKを直接代替することは、今回の資金調達発表では示されていない。

Visa VenturesによるVelocityへの投資は、こうした動きとは区別して見る必要がある。そのうえで、VisaがBVNKの買収完了後も、外部のステーブルコイン基盤企業との関係を広げていることを示す事例とはいえる。

VisaのRubail Birwadkerは今回の資金調達に際し、ステーブルコインがVisaのエコシステム内で価値を移動させる方法を変えるうえで、重要性を増していると説明した。Velocityは、ステーブルコインを既存の銀行、資金管理、決済システムにつなぐ企業の一つに位置付けられる。

■大手決済企業による基盤確保が進む

ステーブルコイン関連企業を巡っては、大手決済企業による投資や買収が相次いでいる。Stripeは2024年10月に、ステーブルコイン基盤を手掛けるBridgeを11億ドル(約1705億円)で買収する契約を結び、2025年2月に取引を完了した。MastercardもBVNKの買収により、法定通貨とブロックチェーン上の資産を接続する機能を自社グループに取り込んだ。

こうした取引は、ステーブルコインがカード決済を一律に置き換えるというより、企業間送金、資金供給、決済、財務管理などで既存の金融基盤と併用される方向を示している。Velocityも、既存システムを残したままステーブルコインを決済層として利用できることを自社サービスの特徴としている。

米国では2025年7月18日、決済用ステーブルコインの連邦規制枠組みを設けるGENIUS Actが成立した。同法は、認可を受けた発行者に対して、発行残高と同額以上の適格準備資産を維持することや、準備資産の構成を毎月公表することなどを求める。

ただし、制度の実施に必要な規則の策定は段階的に進んでいる。2026年には米財務省や米通貨監督庁が施行規則案を公表しており、企業による利用条件や発行者の実務対応は、今後確定する規則にも左右される。

■実需決済は総取引量の一部

McKinseyとArtemis Analyticsの共同分析によると、2025年にブロックチェーン上で記録されたステーブルコイン取引は最大約35兆ドル規模に達した。ただし、その大半は暗号資産取引、事業者内部での資金移動、自動化されたブロックチェーン処理などで、商品代金や送金などの実需決済とは異なる。

同分析は、実際の決済に相当する年間取引額を約3900億ドル(約60兆4500億円)と推計している。このうち企業間決済は約2260億ドル(約35兆300億円)で、実需決済全体の約58%を占めた。企業間決済額は前年比733%増となったが、実需に基づくステーブルコイン決済全体は、世界の決済額の約0.02%にとどまる。

このため、ブロックチェーン上の総取引額だけを基に、ステーブルコインが既存の決済網と同じ規模で利用されていると評価することはできない。一方、企業間決済が実需用途の最大区分となっていることは、Velocityのような法人向け基盤企業が注目を集める背景になる。

■導入では送金回廊と規制対応の確認が必要

ステーブルコインを使った取引自体が短時間で完了しても、送金先で法定通貨に交換して銀行口座へ入金するまでの所要時間や費用は、対象通貨、地域、利用事業者、現地の銀行網によって異なる。

企業が導入を検討する際は、自社が利用する送金回廊で法定通貨への交換経路が確保されているか、必要な事業認可やカストディ体制が整っているかを確認する必要がある。AMLやKYCに加え、制裁対応、取引監視、資金の分別管理なども重要になる。

会計や照合の面でも、ブロックチェーン上の取引データをERPやトレジャリー管理システムで扱える形式に変換しなければならない。既存業務との統合が不十分であれば、決済部分の高速化だけでは財務部門全体の作業時間を短縮できない可能性がある。

Velocityは、こうした銀行接続、コンプライアンス、資産管理、データ連携をまとめて提供することを目指している。もっとも、処理速度やコストは送金経路ごとに変わるため、導入企業には対象市場での実証と運用条件の比較が欠かせない。

■投資家構成が示す業界横断の関心

Velocityは2025年5月、1000万ドルのプレシード調達とともにステルス状態から事業を公開した。今回のシリーズA拡張を含めると、公表された累計調達額は5800万ドル(約89億9000万円)となる。

今回の追加ラウンドでは、カードネットワーク系のVisa Venturesに加え、Circle Ventures、Ripple、Haun Venturesなどが参加した。2026年7月に発表された当初のシリーズAには、Dragonfly、FirstMark、Activant Capital、Capital One Ventures、QED Investors、Coinbase Ventures、Wintermute Venturesなどが参加していた。

Velocityへの投資には、従来型決済、銀行、ステーブルコイン、暗号資産の各分野に関係する企業や投資家が加わっている。同社への出資だけでVisaの新たな決済提携先が決まったとはいえないが、既存の決済網とブロックチェーン上の資産を結ぶ技術が、決済各社にとって重要な投資領域になっていることは明確である。

元記事: Visa Finds New Stablecoin Partner in Velocity After Losing BVNK to Mastercard

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