FX版「ファークライ」が撮影開始、ゲームを直接翻案しないアンソロジーに

2026年9月16日 20:37

FXによる実写ドラマ版「ファークライ」の撮影が始まった。撮影監督のポリー・モーガンが2026年9月14日付のカチンコを公開したことで、制作が実写撮影の段階に入ったことが明らかになった。

本作はUbisoftのゲームシリーズを基にしながら、既存作品の物語をそのまま映像化するのではなく、各シーズンで舞台と登場人物を一新するアンソロジー形式を採用する。ロブ・マック、リジー・キャプラン、スティーヴ・ブシェミの出演が発表されているが、役柄や第1シーズンの舞台、配信開始日は明らかにされていない。

■各シーズンで異なる物語を展開

シリーズを手掛けるのは、「FARGO/ファーゴ」「レギオン」「エイリアン:アース」で知られるノア・ホーリーと、「フィラデルフィアは今日も晴れ」「神話クエスト」のロブ・マックである。マックは制作総指揮に加えて出演も務める。

Ubisoftの発表によると、実写版はゲームと同じく、シーズンごとに新しい舞台と登場人物を設定する。米国ではFXとHulu、米国外ではDisney+で展開される予定である。日本での配信時期や提供形態については、現時点で個別の発表はない。

ホーリーは、既存のゲームを特定して直接翻案するのではなく、「ファークライ」というフランチャイズとの対話を通じて、自身が考える物語を構築する方針を示している。また、アンソロジーであることがシリーズに引かれた理由だと説明し、文明的な人々が極限状況に置かれ、次第に非文明的な行動へ向かう物語をシーズンごとに描く考えを明らかにしている。

この方針により、ドラマ版はバース・モンテネグロやパガン・ミンといった既存キャラクターの再現を中心に置かず、シリーズに共通する状況や主題を新たな人物と舞台で展開できる。プレイヤーが知る物語をなぞるのではなく、孤立した土地、権力を握る人物、外部から来た主人公、秩序が崩れていく過程といった構造をテレビドラマ向けに組み直す試みとなる。

■急進化研究と重なる「欲求・物語・集団」

「ファークライ」シリーズでは、強い影響力を持つ指導者が、個人的な喪失や不満を大きな物語へと変換し、周囲の人々を組織していく構図が繰り返し描かれてきた。この構造を読み解く補助線となるのが、社会心理学における急進化研究である。

心理学者アリー・クルグランスキらが提示した「3Nモデル」は、暴力的急進化に関係する要素を、個人的な重要性を求める欲求、行動の意味や手段を示すナラティブ、そのナラティブを承認して報酬を与えるネットワークの三つに整理する。重要性を失った経験だけでなく、喪失への脅威や、英雄になるなどの重要性を得る機会も、こうした欲求を活性化させる要因になり得る。

ゲームの悪役をこのモデルの「臨床例」とみなすことはできないが、個人的な傷や使命感、暴力を正当化する物語、従う者に役割を与える集団という共通構造は見いだせる。「ファークライ5」のジョセフ・シードとその教団は、とりわけ欲求、ナラティブ、ネットワークが結び付く過程を考える手掛かりになる。

同時に、歴代作品の悪役を一つの理論だけで説明する必要もない。「ファークライ3」のバース、「ファークライ4」のパガン・ミン、「ファークライ6」のアントン・カスティロは、それぞれ異なる来歴と政治的、社会的背景を持つ。共通するのは、個人的な経験から築かれた物語が権力の行使と結び付き、周囲の人々の選択にも影響を及ぼす点である。

■ゲームが描いてきた支配の仕組み

シリーズでは心理的、政治的な支配に加え、薬物や条件付け、身体改変といった架空技術も、人間の意思を揺さぶる装置として使われてきた。

初代「ファークライ」では、孤島で進められるクリーガー博士のトライジェン計画が、身体能力の強化と攻撃性の増大をもたらす研究として描かれる。ここで現実の研究と重ねられるのは、ゲーム内の血清を特定の遺伝子治療技術と同一視することではなく、重大な影響を持つ生命科学研究が外部から隔離された私的施設で進められるという構図である。研究を誰が管理し、どのような監督を受けるべきかという生命倫理上の問いを連想させる。

「ファークライ5」に登場する薬物「ブリス」は、幻覚や認知の混乱を通じて人々を支配する道具として描かれる。現実の抗コリン薬であるスコポラミンには、量や投与条件によって混乱、見当識障害、記憶障害などを引き起こす作用がある。一方、人を意のままに服従させる薬として語られる通俗的なイメージには十分な裏付けがない。ブリスの描写は、薬理作用の正確な再現というより、知覚や記憶を乱すことで判断力を奪うという物語上の発想に通じている。

同作でジェイコブ・シードが音楽を合図として反応を引き出す場面は、反復される刺激と反応を結び付ける条件付けを連想させる。音楽と記憶の関係については、アルツハイマー病が進行した人でも音楽に関する記憶が部分的に保たれる場合があることが研究されている。ただし、こうした知見は、ゲーム内で描かれる複雑な行動操作の仕組みをそのまま説明するものではない。音が記憶や感情、学習された反応を呼び起こすという映像表現を読み解く手掛かりになる。

■先史時代と言語を結び付けた「ファークライ プライマル」

「ファークライ プライマル」は、紀元前1万年ごろの中央ヨーロッパを思わせる架空のオロスを舞台とする。銃器や現代的な乗り物を取り除き、狩猟、採集、拠点づくり、動物との協力をゲームの中心に据えた作品である。

特徴の一つが、登場する部族のために作られた言語だ。開発チームは言語学者と協力し、インド・ヨーロッパ祖語を手掛かりにしながら、作品の時代設定に合わせた架空言語を構築した。インド・ヨーロッパ祖語は比較言語学によって再構される言語だが、一般に想定される年代はゲームの舞台より新しい。そのため作中言語は、確認された先史時代の言語を再現したものではなく、祖語の特徴をさらに古い時代へ投影した創作となっている。

ここで重要なのは、作品が正確な先史言語を提示したかどうかではなく、言葉の違いを部族の文化や社会関係の表現に組み込んだ点である。プレイヤーが聞き慣れない言語を通じて世界を理解していく仕組みは、外部者が未知の土地へ入り、その秩序を読み解くというシリーズの構造にも通じている。

■1980年代の未来像を映す「ブラッドドラゴン」

「ファークライ3 ブラッドドラゴン」は、1980年代のアクション映画やゲームが思い描いた未来を、ネオンカラーやVHS風の映像、シンセサイザー音楽によって再構成した作品である。主人公レックス・コルトは身体の一部を機械化した兵士として登場し、レーザー兵器やサイボーグ、巨大生物が存在する世界で戦う。

現実にも、装着者の移動や重量物の運搬を支援する外骨格、義肢を制御する神経インターフェースなどの研究分野がある。ブラッドドラゴンとの共通点は個々の性能ではなく、人間の身体と機械を接続し、意思を機器の動作へ変換するという発想にある。

同作の誇張された未来像は、当時の作品が技術革新に抱いていた期待と不安を映し出す。実在の技術を予測した作品としてではなく、過去の人々がどのような未来を想像していたかを振り返る作品として読み解ける。

■ホーリーが引き継ぐもの

ホーリーは「FARGO/ファーゴ」や「レギオン」「エイリアン:アース」で、犯罪劇やスーパーヒーロー、SFホラーといったジャンルの枠組みを使い、人間の欲望や権力、組織を描いてきた。「ファークライ」でも、ゲームの設定を再現することより、極限状況に置かれた人物がどのように変化するかを中心に据えるとみられる。

ゲームシリーズが扱ってきた主題を一つの科学理論に還元することはできない。それでも、個人の欲求が物語によって方向付けられ、集団によって強化され、やがて支配や暴力へ結び付くという構造は、複数の作品に共通している。薬物、条件付け、身体改変、言語といった設定も、意思を制御する側と、それに抵抗する側の関係を描くための異なる装置として機能してきた。

実写版がこうした要素のどれを引き継ぐかは、まだ分からない。第1シーズンの舞台や人物、物語は未公表であり、既存ゲームの悪役や設定が登場するとの発表もない。現時点で明らかなのは、同じ物語を再現する映像化ではなく、「ファークライ」に通底する人間と権力の関係を、新たな舞台と登場人物で描く作品を目指していることである。

元記事: Far Cry FX Series Starts Production: Radicalization Psychology Built Every Villain

関連記事

最新記事