フィリピン最大規模のGCash IPO、焦点は最終価格と既存株売り出しの多さ

2026年9月15日 19:23

フィリピンの大手電子ウォレット「GCash」を運営するMynt Inc.は、2026年10月1日に新規株式公開(IPO)の最終価格を決定し、同月6日から一般向け募集を始める予定だ。1株当たりの上限価格は10ペソに設定されているが、市場関係者からは、足元の利益成長と評価倍率を踏まえると7~8ペソ前後が投資家に受け入れられやすいとの見方が出ている。

今回のIPOは、最大で923億2000万ペソを調達するフィリピン史上最大規模の新規上場となる可能性がある。一方、募集株式の約8割を既存株主による売り出しが占めるため、最終価格だけでなく、調達資金の配分や上場後の成長性も重要な判断材料となる。

■市場では7~8ペソを妥当とする見方

MyntはIPOの上限価格を1株10ペソとしている。ただし、これは最終価格ではなく、機関投資家への需要調査を通じて実際の売出価格が決まる。

独立系投資調査会社Trading Edgeのロン・アコバは、7~8ペソが現実的な価格帯との見方を示している。8ペソでは、年率換算した2026年利益に対する株価収益率が約24.7倍となり、GCashの市場での存在感と長期的な成長余地を織り込みながら、足元の利益成長の鈍化も反映した水準になるという。

7ペソの場合、同倍率は約21.6倍まで下がり、投資家にとって価格面の余裕が広がる。一方、10ペソでは2025年利益に対して約38.8倍、年率換算した2026年利益に対して約30.9倍となる。アコバは、9~10ペソの価格を正当化するには、利益成長が過去の水準へ再加速することに対する、より強い確信が必要だとしている。

国内共同主幹事のBDO Capital & Investment Corp.からも、上限を下回る価格が投資家の需要を集めやすいとの見方が示されている。ブックビルディングは継続中であり、最終的な売出価格は10月1日に決定され、翌2日に公表される予定だ。

慎重な評価の背景には、Myntの利益成長率が直近で低下していることがある。同社の純利益は2023年の63億8000万ペソから2025年には172億5000万ペソへ大きく伸びた。一方、2026年上期の純利益は前年同期比約7.8%増にとどまり、第2四半期は同約6%減となったと報じられている。

もっとも、評価には幅がある。Myntがデジタル金融市場で築いた規模や収益力、今後の融資事業の成長余地を考慮し、10ペソに近い評価にも一定の根拠があるとする分析もある。したがって、10ペソという上限そのものが不合理と確定したわけではなく、成長期待をどこまで価格へ織り込むかが市場の焦点となる。

■募集株式の約8割は既存株主による売り出し

基本募集の対象となる株式は約80億2741万株で、このうちMyntが新たに発行する株式は約16億548万株、既存株主が売却する株式は約64億2193万株となる。株数で見ると、基本募集の約80%が既存株式の売り出しである。

Myntが新株発行によって得る手取り資金は、上限価格で約149億5000万ペソを見込む。同社はこの資金を、融資を中心とするデジタル金融サービスの拡大、製品開発、一般的な事業目的などに充てる計画だ。

残る大部分は、既存株主が保有株式を売却して得る資金となる。さらに、需要に応じて最大約12億411万株の既存株式を追加売却するオーバーアロットメント・オプションも設定されている。

既存株の売り出しが多いこと自体は、企業の将来性を直ちに否定する材料ではない。ただし、IPO全体の調達額と、Mynt自身が成長投資へ利用できる資金は区別して見る必要がある。

Myntの主要株主には、Globe Telecom、Ant International、Ayala Corporationおよび関連会社、三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下の企業などが含まれる。IPO後の株主構成は、最終的な売り出し株数やオーバーアロットメントの行使状況によって変わる。

■GCashは約3910万人が毎月利用

GCashは、フィリピン国内で決済、送金、融資、貯蓄、保険、投資などのデジタル金融サービスを提供している。2025年末時点の登録利用者数は約9000万人、月間アクティブユーザー数は3910万人だった。

2025年の総取引額は17兆ペソに達し、1日当たりの平均取引件数は5670万件だった。利用者の約78%がメトロ・マニラ以外に居住していることも、同社の国内展開の広さを示している。

Myntは2025年通期に798億ペソの売上高と172億5000万ペソの純利益を計上した。2023年の純利益は63億8000万ペソであり、2025年までの2年間で2倍を超える水準に拡大した。

こうした利用者基盤と収益力はIPOの主要な評価材料となる。一方、事業規模の拡大に伴って利益の伸び率が落ち着き始めているため、上場時の評価額には将来の成長をどの程度織り込むべきかという課題もある。

GCashの起源は、Globe Telecomが2004年に開始したSMSベースの決済サービスにさかのぼる。その後、事業主体となるMyntは複数企業の出資を受け、2024年の資金調達時には約50億ドルの企業価値で評価された。

■フィリピン資本市場で過去最大規模に

Myntは、オーバーアロットメントを含めて最大約92億3152万株を1株10ペソで売り出した場合、最大923億2000万ペソを調達する。実際の調達額は、最終価格と追加売り出しの実施状況によって変わる。

上限価格を基にした上場時の想定時価総額は約6689億6000万ペソとなる。計画どおり実施されれば、フィリピン証券取引所における過去最大規模のIPOになる見通しだ。

フィリピンの株式発行市場では近年、大型IPOが限られてきた。GCashの知名度とMyntの事業規模を背景に、今回の上場は、同国市場が大規模な株式売り出しを吸収できるかを測る案件としても注目される。

Myntは、東南アジアの一部デジタル金融企業とは異なり、米国市場ではなくフィリピン証券取引所への上場を選んだ。利用者の大半がフィリピン国内にいることを考えると、国内の個人投資家が自国市場を通じて参加できる点にも意味がある。

引受団には、共同グローバル・コーディネーター兼共同ブックランナーとしてMorgan Stanley、J.P. Morgan、UBS Singaporeが参加する。Jefferies Singapore、CLSA、HSBC Singaporeは国際共同ブックランナー、BPI Capital Corp.とBDO Capitalは国内共同主幹事兼共同ブックランナーを務める。

■大型上場向けの浮動株比率規則を初適用

フィリピン証券取引委員会は、Myntに対して12%の当初浮動株比率を認めた。Myntは、2026年に導入された大型発行体向けの最低公開株式比率に関する規則を利用する最初の企業となる。

新規則では、上場時の想定時価総額が500億ペソを超える企業には原則として15%以上の公開株式比率が求められる。ただし、想定時価総額が2000億ペソ以上となる特に大規模な案件では、流動性や投資家保護などの条件を踏まえ、12%まで引き下げることができる。

Myntの想定時価総額は上限価格ベースで約6689億6000万ペソとなり、2000億ペソの基準を大きく上回る。基本募集後の浮動株比率は約12%で、オーバーアロットメントが全て実施された場合は約13.8%となる見込みだ。

公開する株式の比率を抑える仕組みは、大型案件で一度に市場へ供給される株式数を調整する役割を持つ。一方、上場後の売買の厚みや価格形成が十分に確保されるかは、実際の投資家需要と取引状況によって評価されることになる。

■価格決定は10月1日、上場は10月20日を予定

フィリピン証券取引委員会は2026年9月、Myntの登録届出書を、残る要件の充足を条件として有効とする判断を示した。

今後は10月1日に最終価格を決定し、10月2日に当局へ通知する。一般向け募集期間は10月6日から12日までを予定している。

フィリピン証券取引所メインボードへの上場予定日は10月20日で、銘柄コードは「GCASH」となる。日程や募集条件は、最終的な目論見書や会社からの開示で確認する必要がある。

元記事: GCash IPO Prices October 1: Analysts Say 10-Peso Ceiling Is Too High to Clear

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