NASAのVenSAR納入は困難に ESA、金星探査機Envision向け欧州製レーダーを開発

2026年9月13日 00:16

欧州宇宙機関(ESA)は、金星探査ミッション「Envision」に米航空宇宙局(NASA)が提供する予定だった合成開口レーダー「VenSAR」について、納入が困難になるとの見通しを示し、欧州製の代替レーダー開発を進めている。NASAとの協議は続いており、同機関がEnvisionから正式に離脱したわけではないが、ESAはレーダーを欧州で確保するための設計・技術開発に着手している。

■NASA製レーダーの代替開発を本格化

ESAとNASAは2024年、Envisionに関する協力覚書を締結した。ESA側は探査機、欧州提供の観測装置、Ariane 64による打ち上げなどを担当し、NASAはジェット推進研究所(JPL)が開発する二重偏波Sバンド合成開口レーダー「VenSAR」と、重要な飛行段階におけるディープスペース・ネットワーク(DSN)の支援などを提供する計画だった。

オランダ・ハーグで開催されたEuroplanet Science Congress 2026(EPSC2026)で、ESAのEnvisionプロジェクト・サイエンティストであるAnne Grete Straume-Lindnerは、NASAとの合意を最終調整しているものの、レーダーを提供できない見通しになっていると説明した。そのためESAは、欧州側の代替案を本格的に進めている。

ESAは2026年、欧州製合成開口レーダー「EuroSAR」の競争的なPhase B1活動を開始した。Phase B1では、候補となる設計の比較と技術成熟、装置の詳細な仕様策定を進める。実施期間は6~9カ月を見込み、欧州の産業チームが設計を検討しているほか、ESAはレーダーの定義作業を支援する科学チームも設置した。

ESAが示した要件では、EuroSARはVenSARと同等の科学観測能力と、Envision探査機とのインターフェース互換性を目指す。ESAの技術情報では、欧州製の後継レーダーは「VeraSAR」とも表記されている。

■金星の地表を捉える合成開口レーダー

金星は厚い雲に覆われているため、可視光を使う通常のカメラでは周回軌道から地表の地形を観測できない。合成開口レーダーはマイクロ波を地表へ送り、その反射信号を処理することで、雲の下にある地形や表面特性を画像化する。

VenSARと欧州製の代替レーダーには、二重偏波のSバンド合成開口レーダーが想定されている。選定した地域を30mの分解能で観測し、その一部を10mの高分解能で撮像するほか、異なる角度からのステレオ観測による地形計測、レーダー高度計測、偏波観測、放射計測を行う計画である。

繰り返し観測した画像や、NASAの金星探査機「Magellan」が1990年代初頭に取得したレーダー画像と比較することで、火山活動や地殻変動などに伴う地表変化を調べる。Envisionの観測計画では、広い範囲を一律に最高分解能で撮像するのではなく、科学的に重要な地域を選び、複数の観測モードを組み合わせる。

Straume-Lindnerは、欧州製レーダーの最終設計はまだ決まっていないものの、要求仕様をVenSARと同等に設定することで、同じ科学目標を達成できると期待していると説明した。観測モードは維持する一方、装置の細部には違いが生じる可能性がある。

■NASA予算をめぐる不透明感

米政権は2026会計年度の予算要求で、NASAの科学部門を大幅に縮小する案を示した。議会は削減案の多くを退けたものの、国際共同ミッションへの拠出を含む一部の計画では、予算上の不透明感が残った。

NASAが2025年までにVenSARを含むEnvisionへの分担に5000万ドル超(約77億円、1ドル=154円換算)を投じていたとの報道もある。しかし、NASAはレーダーを予定どおり完成させて提供することが難しいと判断したと報じられている。

ESA科学部長のCarole Mundellは、ESAが約束を履行する信頼できるパートナーであると強調する一方、NASAが置かれている困難な状況にも理解を示した。NASAとの協議は継続しているが、ESAはその結論を待たず、欧州製レーダーの技術開発と調達準備を進めている。

NASAの予算問題は、ESAが主導するほかの計画にも影響する可能性がある。重力波観測計画「LISA」や次世代X線観測計画「NewAthena」では、NASAが提供を予定していた機器や技術協力の範囲が検討対象となっている。

■欧州製レーダーに求められる性能

惑星探査用の合成開口レーダーでは、大型アンテナ、送信時の電力、観測データの処理と地球への伝送を、探査機全体の質量や電力、熱設計の範囲内に収める必要がある。

当初のVenSARには、打ち上げ時に折り畳み、金星到着後に展開するアンテナが想定されていた。欧州製レーダーでも、Ariane 64のフェアリング内に収納できる構造と、金星周回軌道で確実に作動する展開機構が重要になる。

合成開口レーダーは大量の観測データを生成する。Envisionでは限られた通信容量のなかで、レーダー撮像、分光観測、地下探査、電波科学などのデータを地球へ送らなければならない。このため、観測地域や撮像回数、分解能を組み合わせた運用計画がミッション全体の科学成果を左右する。

Phase B1の完了後、採用された設計は本格的な製造・試験段階へ進む。レーダーは、Thales Alenia Spaceが主契約者として開発しているEnvision探査機に統合される。

■Envision探査機の建造も進行

ESAは2025年1月、Envision探査機の開発について、Thales Alenia Spaceと3億6700万ユーロの契約を正式に締結した。同社は探査機の設計、製造、組み立て、試験を主導する。

OHB Space UKは、探査機の組み立て、統合、包括的な試験を担当する。2026年5月に事業開始のための予備承認が署名され、契約額は約2400万ユーロになる見込みとされている。

ESAの公式日程では、Envisionの基本打ち上げ時期は2031年末で、2032年が予備日程として示されている。一方、NASAの協力をめぐる不透明感を受け、ESA関係者は2033年を越えると次の適切な機会まで長期間待つ可能性があるとして、日程上の制約を強調している。

打ち上げ後、Envisionは金星へ向かい、到着後には大気抵抗を利用して軌道を徐々に下げるエアロブレーキングを行う。その後、低高度の極軌道から約4年間にわたり、金星の内部、地表、地下、 атмос気を一体的に観測する計画である。

■欧州の科学目標を維持できるか

ESAと中国科学院が共同で進めた宇宙科学ミッション「SMILE」は、2026年5月に欧州のVega-Cロケットで打ち上げられた。SMILEは太陽風と地球磁気圏の相互作用を観測する計画で、ESAにとって中国との大規模な共同科学ミッションとなっている。

ESAはNASAを引き続き重要な協力相手と位置付ける一方、欧州域内やほかの宇宙機関との協力も広げている。EuroSARの開発は、NASAのVenSAR提供が難しくなった場合でも、Envisionの中心的な科学目標を維持するための対応である。

欧州製レーダーが要求どおり完成すれば、Envisionは金星表面を最大10mの分解能で観測し、Magellan以降の変化を探る能力を確保できる。ESAにとっては、一つのミッションを守るだけでなく、将来の惑星探査にも利用できる合成開口レーダー技術を欧州内に蓄積する機会にもなる。


元記事: ESA Builds Own Venus Radar After NASA Spent $50M and Still Cannot Deliver

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