米国市場から事実上撤退するポールスター、ボルボとの認可判断に明暗
2026年9月10日 00:31
米商務省産業安全保障局(BIS)は、ポールスターに対し、接続車両規則の下で必要となる個別認可を付与しなかった。これにより同社は、米国で2027年モデルイヤー以降の新車を販売できなくなり、既存在庫の販売と既存オーナーへの支援に事業を絞る。
一方、同じく中国の浙江吉利控股集団との資本関係を持つボルボ・カーズは、米当局との協議を経て個別認可を取得した。両社に異なる判断が出た技術的、手続き的な理由の詳細は公表されておらず、データの送信経路だけが決定要因だったと断定できる状況にはない。
■2027年モデル以降の米国販売を断念
米商務省のBISは2026年6月、ポールスターに対し、接続車両規則に基づく個別認可を付与しないと決定した。ポールスターは6月25日、米国で2027年モデルイヤー以降の車両を販売できなくなったことを公表し、欧州市場への注力を強める方針を示した。
同社は米国に残るPolestar 3とPolestar 4の在庫については販売を継続する。規制の対象となるのは2027年モデルイヤー以降であるため、2026年モデルイヤーまでの在庫が直ちに販売禁止になるわけではない。
接続車両規則は、米国が外国の敵対勢力と指定する中国またはロシアと一定の関係を持つ企業による接続車両や、対象となるソフトウェア、ハードウェアの輸入・販売を段階的に制限する制度である。中国またはロシアが所有、支配、管轄、指示する接続車両メーカーについては、対象ソフトウェアの供給元にかかわらず、2027年モデルイヤーから米国内での販売が原則として禁止される。
規則の対象となるVehicle Connectivity System(VCS、車両接続システム)には、セルラー通信や衛星通信に対応するテレマティクス制御ユニットなど、車両と外部ネットワークを接続するためのシステムが含まれる。位置情報や車両情報の送受信、外部との通信といった機能が国家安全保障上のリスク評価の対象となる。
ポールスターは、浙江吉利控股集団との資本関係を持つ自動車メーカーである。一方、Polestar 3は米サウスカロライナ州リッジビルにあるボルボ・カーズの工場で生産され、同工場で生産されるVolvo EX90とSPA2アーキテクチャーを共有している。
この事例は、米国内での生産が接続車両規則への適合を自動的に意味するわけではないことを示している。規則では組立地だけでなく、メーカーの所有・支配関係と、車両に搭載される接続技術の供給関係が審査される。
■ボルボ・カーズは個別認可を取得
ボルボ・カーズは2026年5月26日、米商務省の情報通信技術・サービス局から、接続車両規則に基づく個別認可を取得したと発表した。同社によると、認可はガバナンス、技術、データセキュリティーをめぐる米商務省などとの協議を経て、個別審査によって付与された。
これによりボルボ・カーズは、米国で接続車両の輸入と販売を継続できる。ポールスターとボルボ・カーズはいずれも吉利との資本関係があり、米サウスカロライナ州の生産拠点も共有するが、認可の結果は分かれた。
もっとも、ボルボ・カーズの公式発表は、認可に先立ってデータ管理や技術構成を中国から切り離したとは説明していない。BISも、ポールスターへの不認可とボルボ・カーズへの認可を分けた具体的な技術条件を公表していない。
ポールスターは当初、米当局との従来のやりとりから認可を得られると見込んでいたが、申請は認められなかった。同社はその後、決定への異議申し立てを行わず、米国以外の市場へ経営資源を集中する方針を選んだ。
■規則が問題視する接続車両のリスク
BISは接続車両規則の制定理由として、外国の敵対勢力と関係する企業が、車両から機密性の高い情報を収集したり、車両やそのシステムに遠隔でアクセスしたりするリスクを挙げている。
中国の国家情報法第7条は、組織と国民に対し、法律に基づいて国家情報活動を支持、援助、協力し、知り得た秘密を守るよう求めている。こうした法制度も、中国の管轄下にある企業や技術を通じたデータへのアクセスを米政府が警戒する背景の一つになっている。
一方、同法第10条は国家情報機関が必要な手段や経路を用いて国内外で活動できることを定め、第11条は中国の国家安全や利益を害する行為に関する情報の収集、処理について規定している。両条が企業に対する追加の協力義務を直接定めているわけではない。
接続車両規則は、データセンターの所在地だけで適用の可否を判断する制度でもない。メーカーの所有・支配関係、対象ソフトウェアやVCSハードウェアの設計・開発・製造・供給主体などを含めて適用関係が判断される。
■米国販売の比重は限定的
ポールスターによると、2026年第1四半期の世界小売販売台数のうち、米国外が94%を占めた。欧州は世界販売の約80%を占めており、同社は米国での認可不取得を受け、最大市場である欧州を成長の中心に据える。
2026年上期の小売販売台数は3万423台だった。売上高は前年同期比4%減の13億6000万ドル(約2094億円、1ドル=154円換算)となり、純損失は8億4200万ドル(約1297億円)だった。営業損失は6億2900万ドルで、前年同期から43%縮小した。
もっとも、前年同期の損失には多額の減損費用が含まれていたため、損失の縮小だけで基礎的な収益力が同じ割合で改善したとは評価できない。ポールスターは価格競争、米国事業の再編、残価保証に関連する費用などが業績に影響したと説明している。
同社は2026年の販売台数見通しを、従来の低い2桁成長から、1桁台前半から半ばの成長へ引き下げた。米国の規制による影響を含む厳しい事業環境が、成長見通しを圧迫している。
■「Formula 2030」で次世代デザインを提示
ポールスターは9月7日、コンセプトカー「Formula 2030」を発表した。これは2030年に向けた事業戦略の一環で、今後のブランドデザインの方向性を示すモデルと位置付けられている。
フィリップ・ローマースが率いるデザインチームは、既存のデザインを全面的に置き換えるのではなく、ポールスターのスカンジナビアンデザインを発展させた。現行車に共通するDual Bladeヘッドライトなど、ブランドを特徴付ける要素も引き継ぐ。
Formula 2030は、2027年の投入を計画する次世代Polestar 2と、今後登場するPolestar 7のデザイン要素を先行して示す。まずスウェーデン・ヨーテボリの本社で投資家、小売事業者、一部顧客に披露し、その後、年内にPolestar 4 SUVの国際メディア試乗会に合わせて世界公開する予定である。
新たなコンセプトは、米国以外の市場で商品開発を続ける意思を示すものとなる。ポールスターは欧州のほか、東南アジア、東欧、ラテンアメリカ、カナダを成長機会のある市場として挙げている。
■既存オーナーへの支援を継続
ポールスターは米国事業の移行後も、既存オーナーとリース利用者への支援を続けるとしている。「Polestar Promise」と呼ぶ方針の下、保証、カスタマーサポート、認定サービス網、純正部品を使った修理、無線ソフトウェア更新を維持する。
米国での新車限定保証は4年または5万マイルである。高電圧バッテリーについては8年保証が設定されているが、具体的な距離や条件は車種と保証規定によって確認する必要がある。
当面は既存のサービス拠点を利用できるものの、新車販売の終了後も同じ規模や利便性が長期間維持されるかは不透明である。ポールスターは技術者と純正部品による支援を今後も提供するとしているが、拠点数や部品供給期間の具体的な長期計画までは公表していない。
同社の米国サイトでは、2026年9月時点で、Polestar 4の現金購入者を対象とする最大2万5000ドル(約385万円)の購入支援策などが案内されている。大幅な値引きは既存在庫の販売を促す一方、中古車価格や将来の再販価値に影響する可能性がある。
■販売店との訴訟も発生
ニュージャージー州でポールスターの販売拠点を運営するPrestige Importsは2026年8月12日、ポールスターを相手取り、少なくとも2500万ドル(約38億5000万円)の損害賠償を求める訴訟を州裁判所に起こした。
同社は、ポールスターが米国撤退を以前から計画しながら販売店に投資を促し、BISの決定後は不可抗力を理由にフランチャイズ上の義務から離脱しようとしたと主張している。また、ボルボ・カーズが個別認可を得た一方で、ポールスターが異議申し立てを行わなかったことも問題視している。
これらは販売店側の主張であり、裁判で事実として認定されたものではない。ポールスターは訴訟の具体的内容へのコメントを控え、既存顧客へのサービスと支援を優先するとの立場を示している。
公開情報から確認できるのは、ボルボ・カーズが米当局との協議を経て個別認可を取得したこと、ポールスターは認可を得られず、その決定に異議を申し立てなかったことである。ポールスターが意図的に不認可を招いたとの主張や、ボルボと同じ条件を受け入れれば必ず認可されたとの見方は、現時点では確定していない。
■2030年モデルイヤーからハードウェアも規制
接続車両規則は段階的に適用される。中国またはロシアとの関係が規制対象となるメーカーや、対象ソフトウェアを搭載する接続車両については2027年モデルイヤーから販売が禁止される。
VCSハードウェアに対する輸入規制は2030年モデルイヤーから適用される。モデルイヤーの指定がない機器については、2029年1月1日から対象となる。規制対象には、セルラー通信装置など、外部との無線接続を可能にするVCSの構成部品が含まれる。
規則は新たな輸入や販売を対象としており、既に米国で登録され、使用されている車両を走行不能にするものではない。既存車の修理部品が将来どのように扱われるかについては、個々の部品や取引が規制上の禁止対象に該当するかを確認する必要がある。
現時点で、2030年以降に既存ポールスター車のVCS部品交換が困難になると判断できる具体的な公式情報はない。既存オーナーにとっては、ポールスターが示しているサービス網と純正部品の供給方針が今後どのように具体化されるかが焦点となる。
■欧州を中心に製品計画を継続
ポールスターは米国での2027年モデル以降の販売断念後も、他地域で製品展開を続ける。韓国・釜山ではPolestar 4 SUVの生産が拡大され、2026年第4四半期から顧客への納車が予定されている。Polestar 5も近く最初の顧客への納車が始まる見通しである。
次世代Polestar 2は2027年の投入が計画されている。コンパクトSUVのPolestar 7については欧州で生産する方針であり、同社は販売の中心である欧州市場に合わせて生産体制を地域化する。
欧州生産への移行だけで、将来のポールスター車が米国の接続車両規則に適合するとは限らない。同規則は最終組立地だけではなく、メーカーの所有・支配関係、接続ソフトウェア、VCSハードウェアなどを審査するからである。
将来、ポールスターが米国市場への再参入を目指す場合には、当時の製品と企業構造について個別認可を得るか、規制上の禁止対象に該当しないことを示す必要がある。現時点で同社は、米国向け認可の再申請や2027年モデル以降の販売再開計画を発表していない。
元記事: Polestar Banned From US New-Car Sales as Data Routing Exposes Geely China Connection