LGエナジー・ソリューションとソウル大、LMR電池のガス発生を抑制 40Ah級セルで883サイクル後も92.2%維持
2026年9月8日 12:51
LGエナジー・ソリューションとソウル大学の共同研究チームは、リチウム・マンガンリッチ(LMR)電池で課題となるガス発生を抑える充放電条件を明らかにした。コバルト含有量を0.27重量%に抑えたLMR正極を使い、40Ahを超える大型セルで883サイクル後も初期エネルギーの92.2%を維持した。
研究成果は2026年8月4日付で英科学誌Nature Communicationsに掲載され、LGエナジー・ソリューションが9月7日に発表した。材料組成の変更だけに頼らず、充電上限電圧と放電下限電圧、初期充放電を行うフォーメーション工程を組み合わせて、大型セルの長期安定性を高めた点が特徴となる。
■低コバルトで高容量を目指すLMR正極
LMRは、リチウムとマンガンを多く含む層状酸化物を正極に用いる電池材料である。マンガンは比較的豊富で価格を抑えやすく、ニッケルやコバルトの使用量を減らしながら高いエネルギー密度を目指せることから、次世代のEV用電池材料として研究が続けられている。
今回の研究で使用した正極材料の組成はLi1.14Ni0.312Mn0.544Co0.004O2で、コバルト含有量は0.27重量%だった。コバルトを完全に使わない組成ではないが、従来の高ニッケル系正極より使用量を大幅に抑えた「低コバルト」のLMR材料に位置付けられる。
LMR正極は、ニッケルなどの遷移金属による酸化還元反応に加え、結晶格子内の酸素が関与する酸素レドックスを利用する。これにより高い容量を引き出せる一方、酸化された酸素が放電時に十分に還元されないと、酸素の不可逆的な損失やガス発生、結晶構造の変化につながる。
大型セルでは内部の空き空間が限られるため、ガスが発生すると内圧が上昇し、性能や信頼性に影響する可能性がある。このため、酸素レドックスの可逆性を高め、充放電を繰り返しても酸素の状態を安定させることが重要になる。
■充電上限と放電下限を一体で設計
研究チームは、X線分光法、電子顕微鏡観察、質量分析などを組み合わせ、異なる電圧範囲で酸素の酸化還元状態とガス発生を調べた。その結果、酸素の回復を左右するのは充電上限電圧だけではなく、放電時にどこまで電圧を下げるかという放電下限電圧も重要であることが分かった。
充電上限電圧を4.6Vから4.3Vへ下げると、放電時に還元された酸化酸素の割合は86%から97%に高まった。高電圧域で酸素を過度に酸化させないことで、放電時に元の状態へ戻りやすくなったと考えられる。
さらに、グラファイト負極を使うセルの放電下限電圧を3.0Vから2.0Vへ下げると、酸化された酸素をほぼ元の状態まで還元できた。研究チームは、4.3~2.0Vの電圧範囲によって酸素に残る電子不足を抑え、酸素放出や結晶構造の劣化を軽減できると説明している。
深い放電は一般に電池の運用条件との調整が必要になるが、今回のLMR材料では、低電圧域まで放電することが酸素の還元を完了させ、容量とサイクル寿命の両方を引き出す方向に働いた。LMRの性能評価では、充電側と放電側を別々に扱うのではなく、酸素レドックスの一連の反応に合わせて電圧範囲全体を設計する必要があることを示している。
■40Ah超の大型セルで長期サイクルを確認
研究チームは、この知見を40Ahを超える大型セルに適用した。動作電圧範囲を見直すとともに、製造時に最初の充放電を行うフォーメーション工程を低温化し、初期段階でのガス発生を抑えた。
最適化したセルは、正極活物質の重量を基準として1kg当たり663Whの比エネルギーを示し、883サイクル後も初期エネルギーの92.2%を維持した。正極活物質だけを基準とする数値であり、セル全体や電池パック全体の重量を基準としたエネルギー密度とは区別する必要がある。
研究では、酸素レドックスの状態を分光・顕微鏡分析で追跡するとともに、充放電中のガス発生も測定した。大型セルのサイクル試験だけでなく、酸素の可逆性、ガス発生、構造劣化の関係を複数の分析手法で調べたことで、電圧条件が性能改善につながる仕組みを示した。
研究を主導したソウル大学化学科のJongwoo Lim教授は、酸素の可逆性という観点からLMR電池の劣化原因を調べ、電気化学的なプロトコルの設計によってセルの安定性を改善できることを示したと説明した。また、長期安定性の確保には充電条件だけでなく、放電条件も包括的に考慮する必要があるとしている。
LGエナジー・ソリューションは、ガス発生を効果的に抑えることで、大型セルでも安定した寿命を確保できる可能性を示したとして、次世代LMR電池の大型化に向けた基盤になるとの見方を示した。
■2028年の商用生産を目指すGMとの計画
LGエナジー・ソリューションとGeneral Motors(GM)は、将来の電動トラックとフルサイズSUV向けに、LMR角形セルの商用化を共同で進めている。両社の合弁会社Ultium Cellsは、米国で2028年までに商用生産を始める計画で、LGエナジー・ソリューションの施設では2027年末までの試作生産開始を見込む。
GMによると、同社とLGエナジー・ソリューションが開発しているLMRセルは、同程度のコストを想定した高性能なリン酸鉄リチウムイオン(LFP)セルと比べ、エネルギー密度を33%高めることを目標としている。これは両社が開発中のセルについて示した値であり、今回の学術論文でセル全体の比較性能として検証された数値ではない。
GMはLMRセルを将来の電動トラックとフルサイズSUVに採用する方針を示しているが、2026年9月8日時点で最初に搭載する市販車種は正式に発表していない。研究段階のサイクル性能を量産品でも再現するには、セル設計の最終検証や生産工程の最適化が必要になる。
■量産化には高電圧運用や製造工程の開発も必要
今回の研究は、LMR大型セルにおけるガス発生と酸素レドックスの不可逆性に対し、電圧範囲とフォーメーション条件の設計が有効であることを示した。一方、LMR電池の製品化には、目標とする容量、出力、急速充電性能、安全性、製造コストを満たすセル全体の設計が求められる。
LGエナジー・ソリューションは、LMR電池の今後の課題として、4.5V以上の高電圧域でも性能と寿命を安定させるセル設計や、LMR正極材の製造コストを抑える新しい工程技術を挙げている。今回有効性が示された4.3~2.0Vの運用条件についても、実際の車両で求められる利用可能エネルギーや充電時間、制御方法との両立が今後の検討対象となる。
Nature Communicationsに掲載された成果は、大型LMRセルの安定性を材料組成だけでなく、酸素反応に合わせた充放電プロトコルから改善できることを示した。2028年の商用生産計画に直結する量産仕様を確定したものではないが、LMR正極の高容量を生かしながら長期サイクルとガス抑制を両立するための具体的な設計指針となる。
元記事: LMR Battery Breakthrough: Voltage Protocol Fix Achieves EV-Grade Cycle Life