防衛省、NTTデータと「戦術AI衛星」試作契約 衛星上で情報処理、装備品と双方向通信

2026年9月6日 23:47

防衛省は、各種衛星が収集した情報を衛星上で統合処理し、自衛隊の装備品と双方向通信する「戦術AI衛星実証機」の試作をNTTデータに発注した。大量の情報を短時間で処理・解析し、シューターまで連接する指揮統制能力の強化を目指す。一方、AIによる処理結果が実際の意思決定にどう組み込まれるかなど、具体的な運用設計は公表されていない。

■NTTデータと実証機の試作契約

防衛省は2026年2月13日、戦術AI衛星の実証事業についてNTTデータとの契約が成立したと発表した。事業名は「戦術AI衛星実証機の試作(その1)」で、契約日は同年1月8日である。

実証事業は、各種衛星によって収集した情報を衛星上で統合処理する技術と、自衛隊の各種装備品との双方向通信技術の確立を目指す。防衛省は、大量の情報を極めて短時間のうちに衛星上で処理・解析し、シューターまで連接する指揮統制能力を強化すると説明している。

ここでいうオンボード処理とは、衛星が取得したデータをそのまま地上へ送るだけでなく、衛星に搭載した計算機で処理・解析する仕組みを指す。必要な情報を軌道上で抽出できれば、地上との通信量を抑えながら、情報を必要とする部隊や装備品へ迅速に届けられる可能性がある。

ただし、防衛省の発表は、地上局を指揮統制の経路から完全に除外するとは説明していない。また、衛星が攻撃対象を最終決定したり、兵器の使用を自動的に承認したりするとも明らかにしていない。公表資料から確認できるのは、衛星上の統合処理と装備品との双方向通信に関する技術実証である。

■宇宙領域防衛指針に沿った取り組み

戦術AI衛星は、防衛省が2025年7月に策定した「宇宙領域防衛指針」に沿った事業である。同指針は、移動目標や極超音速滑空兵器の探知・追尾、AIやデジタルツインを使った戦況の可視化、AIを活用したオンボード処理と戦術通信などを、今後必要となる技術に挙げている。

情報を取得してから分析し、指揮官や装備品へ届けるまでの時間は、移動する対象を継続的に把握するうえで重要になる。特に、高速で飛行する物体や位置を変える車両・艦艇を追跡する場合、取得した情報を短時間で処理し、通信網を通じて共有する能力が求められる。

戦術AI衛星が目指すのは、こうした情報処理の一部を衛星上へ移し、情報の収集、処理、伝達を一体化する技術基盤である。防衛省の説明では、衛星上でどの種類の情報を処理するのか、AIがどの段階を担当するのか、処理結果がどの装備品へ送られるのかといった詳細は示されていない。

■国内で進む衛星上のAI処理

衛星上で画像などを処理する技術については、国内で複数の実証が進んでいる。三菱重工業は、オンボードAI物体検知機「AIRIS」を使い、軌道上で撮影した洋上画像から船舶を検知する実験に成功したと2026年5月に発表した。

AIRISは、AIを搭載したデータ処理装置と地球観測カメラで構成される。衛星画像を軌道上で処理して物体を検知し、必要な領域を選んで地上へ送信する。三菱重工業は今後、取得した画像を使って地上でAIを再学習させ、更新したAIを軌道上の機器へ送る一連のサイクルを検証する計画である。

防衛省は2024年2月、QPS研究所とも「宇宙領域の活用に必要な共通キー技術の先行実証に向けた衛星の試作」を契約した。この事業では、小型衛星が取得した画像などを衛星上で処理するオンボードデータ処理と、光通信による高速データ伝送の宇宙実証を行う。

これらは個別の実証事業であり、戦術AI衛星と同一のシステムではない。一方、データの取得、衛星上での処理、必要な情報の選別、高速な伝送という共通構造を持ち、戦術AI衛星が必要とする技術を理解する手掛かりになる。

■宇宙領域の体制を拡充

防衛省は、衛星コンステレーションや宇宙領域把握、衛星通信、妨害状況の監視など、宇宙を利用した防衛能力の拡充を進めている。2026年度からは、民間事業者が保有する衛星コンステレーションの段階的な運用も予定している。

宇宙領域を担当する部隊は、2020年に約20人の宇宙作戦隊として発足した後、順次拡充された。防衛省の計画では、2026年度末に宇宙作戦集団を新編し、宇宙領域を担当する体制を約880人に拡大する。

航空自衛隊についても、2026年度中に「航空宇宙自衛隊」へ改編する予定である。防衛省設置法などの改正法は2026年6月に成立しており、英語名称は「Japan Aerospace Self-Defense Force」、略称は従来と同じ「JASDF」となる。

こうした体制整備の背景には、衛星による情報収集、通信、測位が部隊運用の重要な基盤になっていることがある。防衛省は、中国の軍用衛星が2012年からの12年間で約6倍に増加したとの認識も示し、宇宙領域における情報収集能力や衛星の防護能力を強化している。

■AI利用では人間の関与を確保

防衛省は2024年7月に策定した「防衛省AI活用推進基本方針」で、目標の探知・識別、情報の収集・分析、指揮統制など7分野をAIの重点的な活用対象に位置付けた。AIによって意思決定を迅速化し、情報収集・分析能力を高める考えである。

同方針は、AIが行うのは人間の判断の支援であり、利用に当たって人間の関与を確保する必要があるとしている。AIには誤りや学習データの偏り、誤用・悪用などのリスクが伴うため、人間中心、安全性、公平性、透明性、アカウンタビリティーなどの考え方を踏まえてリスクを低減する方針も示した。

一方、この基本方針は、戦術AI衛星を高リスクまたは低リスクに分類する制度や、個々の事業に義務付ける3段階の審査手続きを定めたものではない。戦術AI衛星について、AIの出力を誰が確認するのか、処理結果から部隊の意思決定までにどのような承認過程を設けるのかは、公表資料では確認できない。

防衛省の方針に照らせば、AIによる衛星上の情報処理は人間の判断を支援するものとして設計・運用される必要がある。実証が進むにつれ、処理結果の検証方法、人間が関与する段階、誤認や通信障害が発生した場合の対応などを、機密性とのバランスを取りながらどう説明するかが課題となる。

■同盟国・同志国との連携

日本は米国や同志国とも宇宙分野で連携している。米軍は2024年12月、横田飛行場に在日米宇宙軍を新編した。防衛省は、日米共同による宇宙を含む領域横断作戦を円滑に実施するため、協力と相互運用性を高めるとしている。

日本は2023年、多国間枠組みの「連合宇宙作戦イニシアチブ」に参加した。参加国は日本、米国、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、ニュージーランド、ノルウェー、英国の10カ国で、宇宙安全保障に必要な政策、運用、体制、法的課題などを協議している。

宇宙領域防衛指針も、同盟国・同志国と相互運用性を持つ通信の確保を掲げている。ただし、戦術AI衛星が米国や同志国の指揮統制システムと接続されるかどうかや、その場合の情報共有・承認系統は明らかになっていない。

戦術AI衛星は、現段階では実証機の試作事業である。今後は、衛星上での処理性能や通信技術だけでなく、AIの出力を人間の意思決定へ安全かつ適切に組み込む運用設計が、事業を評価する重要な要素になる。

元記事: Japan Contracts AI Targeting Satellite: Human Authorization Not Disclosed

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