日欧の水星探査機「ベピコロンボ」、推進モジュールを分離 11月の軌道投入へ
2026年9月5日 00:37
欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)による水星探査ミッション「ベピコロンボ」は、2026年9月3日、約8年にわたる惑星間航行を支えた水星遷移モジュール(MTM)の分離に成功した。2024年に発生した電力供給上の問題を受けて接近軌道を変更し、当初より約11カ月遅い2026年11月21日の水星周回軌道投入を目指す。ミッションの本格的な科学観測は2027年4月に始まる予定だ。
■推進モジュールの分離に成功
MTMは9月3日午後9時(日本時間)、ベピコロンボを構成する2機の科学探査機から分離された。ESAは同日午後10時52分、スペインのセブレロス局とアルゼンチンのマラルゲ局で信号を受信し、分離の成功を確認した。分離後のテレメトリーでは各システムが正常に作動し、ESAの水星表面探査機(MPO)の太陽電池パネルがバッテリーに電力を供給していることも確認された。
探査機は地球から2億キロメートル以上離れており、通信には片道約11分半を要する。地上から状況を見ながらリアルタイムで操作することはできないため、一連の動作は事前に送信された指令に基づいて進められた。
MTMは太陽電気推進によってMPOとJAXAの水星磁気圏探査機「みお」を水星近傍まで運ぶ役割を担ってきた。分離によってベピコロンボの長期航行段階は終わり、ミッションは水星到着に向けた重要な運用段階に入った。
■電力問題を受けて接近軌道を変更
ベピコロンボでは2024年4月、MTMの太陽電池パネルで発電した電力を各システムに供給する過程に問題が発生し、電気推進システムへ十分な電力を送れなくなった。調査の結果、イオンスラスター自体ではなく、MTMの電力調整・分配系統に関連する問題であることが分かった。
ESAと関係企業は同年5月までに利用可能な推力を部分的に回復させたが、従来の計画に沿って2025年12月に水星周回軌道へ入るには不足していた。このため、ESAの運用チームは使用可能な推力に合わせて接近軌道を再設計した。
新しい軌道への移行では、2024年9月4日に実施した4回目の水星フライバイが重要な役割を果たした。ベピコロンボは当初予定の高度約200キロメートルより低い約165キロメートルまで水星に接近し、重力を利用して進行方向と速度を調整した。その後も2回の水星フライバイを行い、計6回の水星フライバイを完了した。
軌道変更によって水星到着は約11カ月遅れたものの、ESAは計画していた基本的な科学目標を維持できるとしている。
■小さな推力を長期間積み重ねる電気推進
MTMには、キセノンを推進剤とするQinetiQ製T6イオンスラスターが4基搭載されていた。太陽電池で得た電力を使ってキセノンをイオン化し、電圧をかけたグリッドで加速して後方へ放出することで推力を生み出す。
イオンスラスターの推力は化学ロケットより小さい一方、少ない推進剤を効率よく利用できる。短時間に大きな速度変化を与えるのではなく、数週間から数カ月に及ぶ噴射区間を組み合わせ、長い時間をかけて探査機の軌道を変えていく。
水星へ向かう探査機は、太陽の重力によって加速されるため、水星に対する速度を十分に落とす必要がある。ベピコロンボはイオン推進に加え、地球で1回、金星で2回、水星で6回の計9回のフライバイを利用して速度と進行方向を調整してきた。
MTMの太陽電気推進システムは2026年6月15日に最後の噴射区間を終えた。スラスターを約8年間連続して噴射していたのではなく、飛行計画に応じて繰り返し設けられた長期間の噴射区間を通じて、惑星間航行を支えた。
■MPOと「みお」が異なる位置から水星を観測
ベピコロンボは、ESAのMPOとJAXAの「みお」という目的の異なる2機の科学探査機で構成される。MTMの分離後はMPOが結合体への電力供給を担い、両機は連結された状態で水星周回軌道への投入に臨む。
MPOは水星の表面、内部構造、組成、重力場、磁場などを調べる。カメラや分光計、レーザー高度計、磁力計など11の観測装置・装置群を搭載し、最終的には高度約480~1500キロメートル、周期約2.3時間の極軌道で観測する計画だ。
「みお」は水星の固有磁場、磁気圏、プラズマ環境を主な観測対象とする。磁力計、プラズマ粒子観測装置、プラズマ波動観測装置、水星ナトリウム大気分光撮像装置、ダストモニターを搭載し、高度約590~1万1640キロメートルの細長い極軌道を周回する。
異なる軌道を回る2機が同時に観測することで、太陽風の変化と水星磁気圏の応答を複数地点から捉えられる。一方が太陽風を観測し、もう一方が磁気圏内部を測定する配置になれば、時間と場所による変化を区別する手掛かりが得られる。
NASAのメッセンジャーは2011年から2015年まで単独で水星を周回した。ベピコロンボでは、役割と軌道の異なる2機による同時観測を通じて、水星とその周辺環境を総合的に調べる。
■水星に一時的な放射線帯
水星は地球と同様に、内部のダイナモ作用による固有磁場を持つ岩石惑星である。磁場の強さは地球よりはるかに弱く、太陽に近いため、磁気圏は強い太陽風の影響を受ける。
2026年7月にNature Astronomyで発表された研究では、メッセンジャーの観測データの再解析や粒子シミュレーションなどから、水星の磁気圏に高エネルギー電子を一時的に閉じ込める放射線帯が形成されることが示された。形状や持続時間は太陽風の状態によって変化し、条件によっては数日間持続する。
MPOと「みお」の観測は、水星の磁場がどのように生じているのかに加え、磁気圏と太陽風の相互作用や、高エネルギー粒子が変動する仕組みを調べるうえでも重要になる。
■11月21日に水星周回軌道へ
次の大きな節目は2026年11月21日の水星周回軌道投入である。MPOの化学推進システムを使ってMPOと「みお」の結合体を減速させ、水星の重力に捕捉される軌道へ移行する。
軌道投入後、両機は当初、約60時間周期の軌道を周回する計画だ。続いて2026年12月9日から10日にかけて「みお」をMPOから分離し、それぞれの科学観測軌道への移行を進める。
MPOはその後も化学スラスターを使って段階的に軌道を下げる。両機は2027年4月までに所定の軌道へ入り、本格的な科学観測を開始する予定である。基本ミッションの観測期間は地球時間で1年間とされ、探査機の状態などに応じて延長される可能性がある。
■9回のフライバイを経て到着段階へ
ベピコロンボは2018年10月20日、仏領ギアナのギアナ宇宙センターからアリアン5ロケットで打ち上げられた。名称は、水星の自転と公転の関係を研究し、NASAのマリナー10号による水星フライバイ軌道の実現に貢献したイタリアの数学者ジュゼッペ・コロンボに由来する。
打ち上げ後は地球、金星、水星の重力を利用しながら太陽系内側を飛行し、約8年をかけて水星へ接近した。途中で電力供給上の問題が発生したものの、軌道の再設計と追加運用によって科学ミッションを維持したまま到着段階へ移行した。
MTMを切り離した現在、MPOと「みお」は水星周回軌道への投入に向かっている。11月の軌道投入と12月の探査機分離を経て、2機による水星の表面、内部、磁場、磁気圏の総合観測が始まる。
元記事: BepiColombo Jettisons Ion Drive After Power Fault Forced Redesign of Mercury Arrival