SpaceXの次世代「Starlink V3」、通信容量を約10倍に Starshipでの本格展開近づく
2026年9月4日 20:39
SpaceXが、衛星インターネット網「Starlink」の主力を、Falcon 9で打ち上げてきたV2世代から、Starshipで展開する次世代の「Starlink V3」へ移行する準備を進めている。V3は1機当たり1Tbpsのダウンリンク容量を目標とし、V2の約10倍に相当する。StarshipのFlight 14に関連する申請では9月15日が衛星展開予定日として示されているが、SpaceXによる正式な打ち上げ日時の発表には至っていない。
Starlinkの衛星はインターネット接続だけでなく、既存のLTE対応スマートフォンと直接通信する「Starlink Mobile」にも利用されている。日本ではKDDI、NTTドコモ、ソフトバンクが対応サービスを展開しており、V3への移行は衛星通信網全体の容量拡大を考えるうえで日本の利用者にも関係する動きとなる。
■Falcon 9によるV2衛星の展開
SpaceXは2023年から、Falcon 9を使ってStarlink V2世代の衛星を継続的に打ち上げてきた。V2 Miniは、より大型のStarlink衛星をStarshipで運ぶ構想に先立ち、Falcon 9のペイロードフェアリングに搭載できるよう小型化された設計である。
SpaceXの公式打ち上げ情報では、9月6日にヴァンデンバーグ宇宙軍基地から27機のStarlink衛星を打ち上げるミッションが予定されている。Falcon 9の第1段ブースターは、段分離後に太平洋上のドローン船へ着陸する計画だ。
V2世代では、衛星間をレーザー通信で結ぶ光衛星間リンクや、軌道制御に使うアルゴン式ホールスラスターなどが導入された。光衛星間リンクは、衛星同士でデータを中継し、近くに地上のゲートウェイがない地域にも通信経路を延ばす役割を担う。
アルゴン式ホールスラスターは、電力で推進剤を加速して小さな推力を継続的に発生させる電気推進装置である。衛星の軌道上昇や位置調整、運用終了後の軌道離脱などに利用される。
■スマートフォンと直接つながる「宇宙の基地局」
Starlink V2世代の一部には、一般的なLTE対応スマートフォンとの直接通信に対応するペイロードが搭載されている。Starlinkは、この仕組みを「宇宙の携帯電話基地局」に相当するものと説明している。
地上のモバイル通信で使われる周波数帯と通信方式に対応した設備を衛星側に搭載することで、対応するスマートフォンは専用の衛星アンテナを追加せずに通信できる。衛星は地上約340kmの低軌道を高速で移動するため、通信を成立させるには電波の減衰やドップラーシフト、衛星間の切り替えに対処する必要がある。SpaceXは、フェーズドアレイアンテナ、専用半導体、ソフトウェアによってこれらを処理している。
もっとも、すべてのLTE端末で、世界のどこでも同じ機能を無条件に利用できるわけではない。実際の利用には、通信事業者との提携、対応する端末やOS、周波数、サービス地域などの条件がある。利用可能な機能も通信事業者によって異なり、テキストメッセージや一部アプリのデータ通信を中心とするサービスと、アプリを介した音声通信に対応するサービスがある。
■日本では主要3社が直接通信を提供
日本ではKDDIが「au Starlink Direct」、NTTドコモが「docomo Starlink Direct」、ソフトバンクが「SoftBank Starlink Direct」を提供している。いずれも、地上の携帯電話網やWi-Fiが届かず、衛星との見通しを確保できる屋外での利用を主な対象としている。
対応機種、必要なOS、利用できるアプリや通信機能は各社で異なる。例えばSoftBank Starlink Directでは、SMS、MMS、RCSや一部アプリのデータ通信を利用できる一方、音声通話と緊急通報には対応していない。docomo Starlink Directも対応アプリによるデータ通信やメッセージ、位置情報の送受信などを提供しているが、音声通話は利用できない。
KDDIのau Starlink Directでは、メッセージ送受信や対応アプリによるデータ通信に加え、アプリを利用した音声通信も提供されている。山間部、島しょ部、海上など、地上網の整備が難しい地域での連絡や情報収集が主な用途となる。
このように、衛星側がLTE基地局に相当する役割を担うという基本構造は共通しているが、端末を変更せずに利用できるかどうかは、契約する通信事業者と対応機種によって決まる。
■V3は1機当たり1Tbpsのダウンリンク容量
SpaceXが公表した仕様によると、Starlink V3は1機当たり1Tbpsのダウンリンク容量と160Gbpsのアップリンク容量を目標としている。V2との比較では、ダウンリンクが約10倍、アップリンクが約22倍となる。
通信ビームの数も大幅に増える。V2はダウンリンク192本、アップリンク144本だったのに対し、V3はそれぞれ2048本をサポートする。多数のビームを個別に制御することで、利用者が集中する地域と人口の少ない地域の間で通信容量を動的に配分しやすくなる。
各V3衛星には、1本当たり400Gbpsの光衛星間リンクが6本搭載される。無線によるバックホール通信にはKa、E、V、Wの4周波数帯を使い、合計1.2Tbpsの容量に対応する設計だ。これらはいずれもSpaceXが公表した設計上の目標値であり、運用開始後の実効速度や利用者が得られる通信速度を直接示すものではない。
V3の太陽電池アレイは、V2の約2倍の電力を生み出すよう設計されている。通信容量、ビーム数、衛星間リンクが増えることで消費電力も大きくなるため、発電能力の拡張が必要になる。
■StarshipがV3展開の中核に
V3はStarshipでの打ち上げを前提とした大型衛星である。SpaceXは、Starshipによる1回の打ち上げでStarlinkコンステレーションに追加できる通信容量を、Falcon 9でV2衛星を運ぶ場合の約20倍に高められるとしている。
この比較は、衛星1機の性能だけでなく、Starshipが一度に運べる衛星群全体を含むものだ。実際の追加容量は、1回のミッションに搭載する衛星数や投入軌道、運用開始までの状況などによって変わる。
V3の性能向上は、個々の利用者の通信速度が直ちに10倍になることを意味しない。利用時の速度は、ユーザー端末の性能、同じ通信ビームを共有する利用者数、ネットワークの混雑、地上側の接続設備などにも左右される。一方で、衛星側の総容量が増えることは、利用者が集中する地域での混雑緩和や、より多くの端末を収容するための基盤となる。
■Flight 14に向けた申請と準備
SpaceXが米連邦通信委員会に提出した一時的な周波数利用の申請では、次世代の高容量衛星について、9月15日を予定展開日として認可を求めている。Starship Flight 14に関連する別の申請にも、軌道飛行を想定した上段機の記載がある。
9月15日は規制申請に記載された予定であり、確定した打ち上げ日時ではない。9月4日時点でSpaceXはFlight 14の正式な打ち上げ時刻やミッションページを公表しておらず、実施には米連邦航空局による打ち上げ承認や射場の準備も必要になる。
Flight 14に使われる予定のSuper HeavyブースターとStarship上段機については、8月に静止燃焼試験が実施された。これらは主要な地上試験だが、試験完了だけで打ち上げ日が確定するわけではない。
先行するFlight 13ではStarlink V3衛星が試験的に放出されたが、コンステレーションに恒久的に加わる運用衛星として投入されたものではなかった。Flight 14で計画どおりの軌道展開が行われれば、Starshipを使ったV3衛星の本格配備に向けた次の段階となる。
■Starlinkの容量拡大を左右する転換点
Starlinkはすでに1万機を超える衛星が軌道上にある世界最大規模の衛星コンステレーションとなっている。ただし、「打ち上げ済み」「軌道上に存在」「運用中」では集計対象が異なるため、衛星数を比較する際には定義と集計時点に注意が必要だ。
今後の焦点は、衛星数そのものに加え、1回の打ち上げでどれだけの通信容量を追加できるかに移る。Falcon 9とV2衛星の組み合わせは高頻度の打ち上げによってStarlinkを拡大してきたが、V3では衛星1機当たりの容量とStarshipの輸送能力を組み合わせて、ネットワークの拡張速度を高める構想である。
Falcon 9によるStarlink衛星の打ち上げが直ちに終了するわけではない。Starshipの飛行頻度やV3衛星の生産、規制当局の認可が整うまで、Falcon 9は引き続きコンステレーションの構築と更新を担うとみられる。
V3への移行は、Starlinkの通信容量を一段引き上げるとともに、衛星インターネットとスマートフォン直接通信の利用範囲を広げる基盤となる。日本でも主要通信事業者によるサービスが始まっており、StarshipによるV3の運用展開がいつ、どの規模で始まるかが次の焦点となる。
元記事: Starlink V2 Mini Twilight: Falcon 9 Launches Friday as Starship V3 Nears