ESA「Cluster」4機の再突入完了、上層大気モデルの最大20%差を検証へ

2026年9月3日 18:11

欧州宇宙機関(ESA)の「Cluster(クラスター)」を構成した最後の衛星Tangoが、2026年9月1日に南太平洋上空で大気圏へ再突入した。前日のSambaと合わせ、航空機に搭載した観測機器で再突入時の発光や分解過程を記録し、2000年に打ち上げられた4機すべての処分が完了した。

先行するSalsaの再突入観測では、予測した上層大気の密度と実際の飛行状況から推定される値との間に最大20%の不一致が確認され、機体の分解も予測よりわずかに早く始まったように見えた。ESAはSambaとTangoの観測データを詳しく解析し、大気モデルと衛星の分解予測を改善する考えだ。

■26年にわたったCluster衛星の運用

Rumba、Salsa、Samba、Tangoの4機からなるClusterは、2000年7月16日と8月9日に2回に分けて打ち上げられた。4機が編隊を組んで地球磁気圏を立体的に観測し、太陽風と地球周辺の磁場や荷電粒子が相互作用する仕組みを調べることが主な目的だった。

科学観測は2024年9月に終了したが、その後も各衛星を安全な海域へ再突入させる処分作業が続いた。Salsaは2024年9月、Rumbaは2025年10月に再突入した。

3機目のSambaは2026年8月31日午後9時39分38秒(協定世界時、日本時間9月1日午前6時39分38秒)、最後のTangoは9月1日午後9時30分31秒(協定世界時、日本時間9月2日午前6時30分31秒)に再突入した。これにより、打ち上げから約26年に及んだ4機の運用と処分作業が完了した。

Sambaでは、観測直前に更新された再突入時刻の予測が実際の時刻と秒単位で一致した。ESAは、先に再突入したSalsaとRumbaから得た経験に加え、衛星からのテレメトリや地上望遠鏡による追跡結果を組み合わせた成果だとしている。

■高楕円軌道を利用した「ターゲット再突入」

多くの低軌道衛星は、希薄な大気による抵抗で軌道エネルギーを徐々に失い、高度を下げて再突入する。Clusterの4機は、地球からの距離が大きく変化する高楕円軌道を飛行しており、軌道の大部分では大気抵抗の影響が小さかった。

一方、地球、太陽、月の重力による長期的な軌道変化は計算できる。この自然な変化を利用しながら小規模な軌道修正を加え、再突入する時期と地域を遠隔の海域へ誘導する手法が「ターゲット再突入」である。

SambaとTangoは、2024年に南太平洋の人口が少ない地域へ向かう軌道に変更され、2026年1月に追加の軌道修正を受けた。この修正には安全な処分に加え、同じ航空観測チームが約24時間おきに両機を捉えられるよう、2本の再突入経路を近づける目的があった。

ESAのスペースデブリシステムエンジニア、Beatriz Jileteは、遠隔海域で航空機と衛星の経路を合わせる複雑な運用には、それに見合う再突入データを得る価値があると説明している。

■30台の機器を搭載したROSIE観測

再突入の観測には、「ROSIE」と呼ばれる航空観測キャンペーンが用いられた。研究チームはトンガを拠点に2日続けて飛行し、指定された飛行禁止空域の外縁からSambaとTangoを観測した。

航空機には可視光カメラ、赤外線カメラ、分光器など30台の科学機器が搭載された。両機の再突入では、このうち29台が観測に成功し、科学者はそれぞれ平均約50秒にわたって発光する衛星を追跡した。Tangoの観測では、機長が適切なタイミングで機体を旋回させたことで、衛星を視野内に捉えられる時間が数秒延びた。

カメラ画像からは、衛星がどの位置で分解し、破片がどのように広がったかを調べられる。分光器は発光に含まれる材料固有の特徴を捉えるためのもので、画像や軌道データと組み合わせれば、各部品が加熱、溶融、気化する過程を分析できる。

ESAでスペースデブリ部門責任者代行を務めるStijn Lemmensは、再突入する衛星がいつ、どのように加熱され、どの材料が地上へ到達し得るのかを把握することが、より安全な衛星設計と大気への影響の研究に役立つとしている。

■Salsaで確認された最大20%の不一致

今回の観測で注目される課題の一つが、上層大気の密度予測である。2024年に行われたSalsaの再突入観測では、予測された大気密度との間に最大20%の不一致が確認された。機体の分解も、モデルによる予測よりわずかに早く始まったように見えたという。

再突入時刻や分解高度の予測には、上層大気の密度が重要になる。密度が変われば機体に働く抗力や加熱の程度も変化するため、衛星がどこで減速し、どの高度で壊れ始めるかの計算に影響する。

Salsaの観測だけでは、この不一致が特定の日時や条件によるものなのか、モデルを継続的に調整すべき傾向なのかは判断できない。ほぼ同じ構造を持つSambaとTangoを異なる日時に観測したデータは、その要因を切り分け、再突入モデルを改善するための比較材料になる。

ESAの宇宙デブリ低減方針では、対象となるESA宇宙システムについて、再突入に伴う死亡または重傷のリスクを1万分の1以下に抑えることを求めている。リスク評価には、機体の構成、再突入経路、分解後に残る破片などとともにモデルの不確実性も考慮される。Clusterで集めたデータは、こうした解析手法の検証と改善に利用される見通しだ。

■燃え尽きやすさを設計段階で考慮

再突入研究の成果は、「Design for Demise」と呼ばれる設計手法にも利用される。衛星に必要な強度や耐久性を確保しながら、大気圏再突入時には部品が早い段階で熱にさらされ、地上まで残りにくい構造を目指す考え方である。

推進剤タンクや光学部品、リアクションホイールのように、熱に強く地上まで到達する可能性がある部品は、再突入時のリスク評価で重要になる。材料の選択に加え、外装が開く順序、内部部品の配置、接合部が溶融する温度なども、機体全体の分解過程を左右する。

ROSIEの分光観測を解析すれば、どの種類の材料がどの時点で発光し、気化したかを実際の再突入条件に沿って調べられる。地上試験や数値シミュレーションと実測データを組み合わせることで、衛星の分解と燃え尽きやすさをより現実に近い条件で評価できるようになる。

■高度約123kmでも運用を継続

SambaとTangoは、再突入直前の一つ前の近地点通過でも運用を続けていた。Sambaは高度約123km、Tangoは約130kmまで降下し、秒速10kmを超える速度で飛行しながら地上との通信を維持した。

低高度を通過した際には太陽電池アレイの温度上昇によって電力が不足し、衛星が再起動した。このため、機体内部に記録されていた詳細なデータは保存、回収できなかったが、その後は通常の制御を再開できた。

運用チームは低高度で取得した衛星内部のデータをROSIEの外部観測と組み合わせることを期待していた。詳細な記録は失われたものの、再起動前までに地上へ届いたテレメトリは、位置と再突入時刻の予測精度向上に役立った。

■次は衛星内部から記録するDraco

4機の再突入により、ESAは構造がほぼ同じ衛星を異なる日時と大気条件で繰り返し観測するデータセットを得た。まずは各機の画像や分光データを解析し、機体の分解過程と大気モデルの予測を照合する。

次の計画が、2027年の打ち上げを予定している再突入実験衛星「Draco」である。Dracoは200台を超えるセンサーと4台のカメラを搭載し、温度や圧力、構造の変化を衛星内部から記録する。

収集したデータは、機体の分解に耐えるよう設計されたカプセルに保存される。カプセルは衛星本体から分離した後、パラシュートで降下しながら、海面に到達するまでに静止衛星を経由してデータを送信する計画だ。ESAは航空機からもDracoを観測し、内部センサーの記録と外部から見た発光や分解を同じ時間軸で対応させる予定である。

これらの研究は、ESAが2030年に向けて進める「Zero Debris」方針の技術的な基盤にもなる。ClusterとDracoから得られる実測データを大気モデルや分解モデルに反映し、運用終了後に軌道上へ物体を残さず、再突入時の地上リスクと大気への影響を抑えられる衛星設計につなげる方針だ。

元記事: Cluster Final Reentries Reveal Models Underestimate Atmospheric Density by 20 Percent

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