中国、自動車各社に海外での過度な値下げ回避を要請―価格・労働・データの20項目指針

2026年9月3日 10:26

中国政府は、自国の自動車関連企業が海外で事業を展開する際の競争行為とコンプライアンスについて、20条からなる新たな指針を公表した。価格設定や販売促進に加え、労働者保護、データ処理、知的財産、反独占、環境対応などを広く対象とする。法的な罰則を伴う規制ではなく、企業が海外事業で参照する一般的な指針と位置付けられている。

■海外事業を対象とする20条の指針

中国商務部、工業情報化部、国家市場監督管理総局は2026年9月1日、「自動車業界の海外における競争行為およびコンプライアンス整備に関する指針」を公表した。文書の日付は8月24日で、国際的な生産・販売活動に取り組む中国の自動車関連企業を対象としている。

指針は全4章20条で構成される。海外市場での価格設定や販売促進をはじめ、生産工程の安全、品質管理、アフターサービス、労働者保護、コネクテッドカーや自動運転に関するデータ処理、知的財産、反独占、環境対応などを取り上げている。

商務部によると、中国は2025年に832万台の自動車を200以上の国・地域へ輸出した。中国企業は80以上の国・地域で自動車製造に投資しており、完成車の輸出だけでなく、海外での生産やサプライチェーン構築も広がっている。

海外展開の規模が大きくなるほど、現地の雇用、税制、環境規制、データ保護といった幅広い制度への対応が必要になる。今回の指針には、こうした事業環境の変化に対応し、中国企業の海外での競争をより秩序あるものにする狙いがある。

■過度な価格変動を避け、販売の透明性を確保

価格に関する規定では、企業がコストを基礎とし、国際市場の需給を踏まえた価格戦略を構築できるとしている。そのうえで、不当な競争上の優位を得る目的で市場秩序を乱さないよう求めた。

海外市場で希望小売価格を設定する場合は、進出先の法令、市場原則、商慣行に従い、車両の仕様ごとに明確な価格体系を設ける必要がある。頻繁または大幅な価格変動によって、消費者の利益やブランドイメージを損なうことも避けるよう促している。

国や地域による価格差については、現地の市場環境、税制、物流費などを総合的に考慮し、販売秩序を乱さない範囲で合理的に設定するとした。メーカーには、現地の販売店や代理店による自主的な価格設定を尊重し、販売奨励金などの条件を明確かつ合理的に定めることも求めている。

価格の表示は透明で分かりやすいものとし、表示価格以外の不明確な料金を徴収してはならない。値引き、無料試用、景品、ローン優遇などの販売促進策についても、現地の法令や商慣行、文化的な慣習に従う必要がある。広告やブランド展示では、正確で完全な情報を開示し、虚偽または消費者を誤認させる表現を避けるとしている。

この方針は、中国国内で進められている自動車価格競争への対応とも共通する。国家市場監督管理総局は2026年2月、競争相手の排除や市場独占を目的として、生産コストを下回る価格で自動車や部品を販売する行為に重大な法的リスクがあるとする国内向けの価格行動指針を施行した。

中国国内では2023年から2025年にかけて、自動車メーカーと販売店による大規模な値下げ競争が続いた。中国自動車流通協会関係者の試算では、この間の値下げによって業界全体で最大4,710億元、約10兆8,000億円相当の売上高が失われたという。今回の海外向け指針は一律の値下げ禁止ではないが、国内市場で問題となった頻繁で大幅な価格変更を、海外で繰り返さないよう促す内容となっている。

■現地生産の拡大で重要になる労働者保護

指針は、中国企業に対し、進出先の労働法令を順守し、機会均等と公正な待遇の原則に基づいて従業員を採用するよう求めている。職業技能訓練やキャリア形成の機会を整え、従業員の権利を保護する仕組みを充実させることも盛り込んだ。

こうした規定は、中国メーカーが海外で完成車の販売にとどまらず、工場建設や現地生産に乗り出すなかで重要性を増している。建設会社や人材仲介会社を含む多層的な契約関係では、発注元の自動車メーカーがサプライヤーや請負業者の労働環境をどこまで監督するかも問われる。

ハンガリーでは、労働問題を調査する非営利団体China Labor Watchが2026年4月、BYDのセゲド工場の建設に従事した中国人労働者50人への聞き取りなどに基づく報告書を公表した。報告書は、一部の請負労働者について、長時間労働や連続勤務、賃金の一部留保、採用手数料、不適切な就労資格といった問題を指摘した。現地の労働当局は、これらの申し立てに関する調査を進めていると報じられている。

ブラジルでは、バイーア州カマサリにあるBYD工場の建設現場で、2024年に中国人労働者163人が労働当局によって保護された。ブラジル労働雇用省は2026年4月、強制労働や劣悪な住環境、過度に長い労働時間が確認されたとして、BYDの現地法人を「奴隷労働に類似する状態」に労働者を置いた雇用主の登録簿へ追加した。

BYDは以前、ブラジルの建設現場で問題が明らかになった後、関係する請負業者に是正措置を求めたと説明していた。請負業者側は、当局による労働状況の評価に反論している。これらの事例は、海外事業の拡大に合わせて、メーカーが請負先を含めた労務管理体制を整える必要性を示している。

■生産からアフターサービスまで現地法令を順守

新指針は、現地調査、商談、工場建設、生産、価格設定、調達、サービスまで、海外事業の全工程でコンプライアンスを確保するよう求めている。輸出する製品についても、対象市場の需要や使用環境に適しているかを事前に評価するとした。

企業は進出先の政治情勢、経済、社会の安全、自動車産業の動向を分析し、生産事故に備えた緊急対応計画を整える必要がある。海外での品質管理とアフターサービスの体制を構築し、市場調査や現地向けの製品開発を進めることも掲げている。

中国メーカーは欧州を含む各地で現地生産を拡大している。BYDはハンガリーのセゲド工場で2026年1月に試験生産を開始した。吉利汽車はFordのスペイン・バレンシア工場を運営する合弁事業への出資を決め、欧州で吉利ブランド車を生産するための基盤を確保しようとしている。奇瑞汽車はスペインのEbroとの提携を通じて、バルセロナの旧日産工場を活用した生産を進めている。

こうした現地生産への移行によって、関税を含む貿易上の障壁への対応だけでなく、雇用、環境、税務、製品安全、サプライチェーン管理など、現地企業と同様の幅広い責任を負うことになる。

■コネクテッドカーのデータ処理にも規定

指針は、コネクテッドカーと自動運転に関連する情報の収集、利用、保護、越境移転について、必要な措置を講じて適法性を確保するよう企業に求めている。個人情報の処理に関する法令を守り、消費者のプライバシーを保護することも明記した。

中国では2026年1月、工業情報化部など8部門が「自動車データ越境安全指針2026年版」を公布した。中国国内で自動車の設計、生産、販売、利用、保守などを通じて収集・生成した個人情報や重要データを国外へ提供する際の手続きを定めたものである。

同指針では、重要データを国外へ提供する場合や、一定数以上の個人情報を移転する場合に、安全評価を申請する仕組みが設けられている。対象は自動車メーカーだけでなく、部品・ソフトウェア供給会社、通信事業者、自動運転サービス事業者、販売店、修理会社、移動サービス事業者などにも及ぶ。

一方、海外市場で収集されたデータには、進出先の個人情報保護法やデータ移転規則が適用される。今回の指針は、中国企業に各市場の規則を順守するよう求めることで、海外での事業運営にデータ保護を組み込む方針を示した。

中国の国家情報法第7条は、組織と国民に対し、法律に従って国家情報活動を支持、援助、協力し、知り得た秘密を守るよう定めている。この規定を中国企業の海外事業へ具体的にどのように適用するかは、個別の状況や関連法令によって判断される。海外当局にとっては、中国企業が現地のプライバシー規制に適合したデータ管理や情報開示の体制を構築できるかが、引き続き重要な審査項目となる。

■EUの追加関税と価格約束

欧州連合は2024年10月、中国製のバッテリー式電気自動車を対象に、5年間の相殺関税を導入した。追加税率はBYDが17.0%、吉利汽車が18.8%、上海汽車が35.3%で、通常の自動車輸入関税に上乗せされる。

欧州委員会は同時に、中国側との間で世界貿易機関の規則に適合する代替策を協議し、個別企業による価格約束の提案を受け付けてきた。価格約束は、輸出企業が最低輸入価格などの条件を受け入れる代わりに、相殺関税の免除を受ける制度である。

2026年2月には、欧州委員会がVolkswagen安徽とスペインのSEATによる価格約束を受け入れた。対象は中国で生産されるCUPRA Tavascanで、合意した最低輸入価格以上で販売し、輸入台数や欧州での投資に関する条件を守ることで、追加の相殺関税が免除される。

今回の中国側の指針とEUの価格約束制度は、法的に同一の枠組みではない。中国の指針は自国企業の海外事業全般を対象とする一方、EUの価格約束は反補助金措置の対象企業が個別に申請し、欧州委員会の審査を受ける制度である。それでも、急激な価格変更を抑え、市場原則や現地法令に沿った価格設定を求めるという点では、共通する方向性がみられる。

米国では、中国製EVに対する通商法301条に基づく追加関税率が2024年に25%から100%へ引き上げられた。欧米市場で貿易上の制約が続くなか、中国メーカーは輸出価格の管理と現地生産の拡大を同時に進める必要に迫られている。

■法的拘束力を伴わない一般的な指針

今回の指針には、違反した企業に対する具体的な罰則や執行手続きは定められていない。第19条は、海外での競争行為とコンプライアンス整備に関する一般的な指針であり、企業が業務上参照するものだと明記している。

企業は中国の対外投資や貿易に関する制度だけでなく、進出先と関係する国際機関の最新の法令や政策を確認し、自社の事業に合わせて対応を調整しなければならない。現地法令上の義務に代わるものではなく、企業の海外コンプライアンス体制を整えるための基準として機能する。

BYDの2026年上半期の海外輸出台数は、前年同期比67.8%増の約79万2,000台に達した。一方、同社全体の売上高は7.13%減の3,448億元、約8兆900億円相当となり、純利益も20.54%減少した。海外事業は成長したものの、中国国内での新エネルギー車販売の低迷や為替差損などが業績を圧迫した。

中国自動車メーカーの海外進出は、完成車の輸出から、現地工場、販売網、アフターサービス、データ基盤を含む事業へ移りつつある。新指針が示す価格、労働、データ、品質管理の各項目は、その移行に伴って企業が直面する主要な課題をまとめたものといえる。今後は、各社が指針を実際の経営や取引先管理にどこまで反映させるかが焦点となる。

元記事: China Bans Overseas Price Wars for Automakers With Sweeping Compliance Code

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