オリヴィア・ロドリゴの女性支援フェスが約32億円を調達、音楽と寄付を結んだ仕組み
2026年9月1日 13:00
2026年8月29日、米カリフォルニア州アーバインで、オリヴィア・ロドリゴが創設した音楽フェス「Daisy Chain Fields」が初めて開催された。チケット販売などで集めた1000万ドルに、メリンダ・フレンチ・ゲイツが同額を拠出し、女性や少女を支援する10の非営利団体への寄付総額は2000万ドル(約32億円、1ドル=160円換算)となった。
女性アーティストを中心に世代を超えた出演者を集め、音楽と社会活動を結びつけた今回のフェスは、1990年代のLilith Fairが切り開いた流れを現代的な形で受け継いだ。会場には約4万5000人が集まり、各団体の活動を知るための機会も設けられた。
■1000万ドルを同額寄付で倍増
Daisy Chain Fieldsは8月29日、アーバインのグレートパークで開催された。6月に発表されたチケットは約30分で完売し、Chappell Roan、Doechii、Mitski、Bikini Kill、Garbage、The Breeders、Santigoldらが出演した。Sarah McLachlan、Alanis Morissette、Stevie Nicksも特別ゲストとしてロドリゴのステージに参加した。
ロドリゴは開催前日の記者会見で、チケット購入者や出演料を受け取らずに参加したアーティスト、スポンサー、寄付者の協力により、1000万ドルを用意できたと発表した。フェスの純収益は、女性や少女の権利、健康、経済的自立などに取り組む非営利団体へ充てられる。
さらに当日、フレンチ・ゲイツがステージに登場し、自身の組織Pivotalを通じて1000万ドルを上乗せすると表明した。これにより総額は2000万ドルとなり、10団体に均等に配分されることになった。1団体当たりの配分額は200万ドルとなる。
■女性の健康や権利に取り組む10団体を支援
支援先は、Baby2Baby、Black Mamas Matter Alliance、Center for Reproductive Rights、FreeFrom、Jhpiego、Johns Hopkins Center for Indigenous Health、National Domestic Workers Alliance、National Institute for Reproductive Health、National Women's Law Center、Planned Parenthoodの10団体である。
活動分野は、母子への生活必需品の提供、黒人妊産婦の健康、リプロダクティブ・ヘルスと権利、家庭内暴力などの被害からの経済的自立、先住民の健康、家事労働者の権利擁護、法制度を通じたジェンダー平等の推進など多岐にわたる。
会場には各団体の活動を紹介する場も設けられた。来場者は公演を楽しむだけでなく、フェスが支援する課題や団体について知り、開催後も直接支援できる構成となっていた。
■Lilith Fairから受け継いだ発想
Daisy Chain Fieldsの構想には、Sarah McLachlanらが1997年から1999年にかけて開催した巡回型音楽フェスLilith Fairの影響がある。女性アーティストを前面に出したLilith Fairは、3年間で約5200万ドルの興行収入を上げ、1000万ドル以上を慈善団体へ寄付した。
ロドリゴはLilith Fairを扱ったドキュメンタリーを通じてその歴史を知り、Daisy Chain Fieldsを構想した際、最初に連絡した人物の一人がMcLachlanだったと説明している。初開催のステージで両者が共演したことは、1990年代に生まれた女性主体の音楽フェスと、新しい世代による取り組みを直接つなぐ場面となった。
フェス名の「Daisy Chain」は、ヒナギクなどの花を茎でつないで作る花輪を意味する。ロドリゴは、個々の要素がつながることで強く壊れにくいものになるという考えを、この名称に込めたと語っている。
Bikini KillやGarbage、The Breedersといった1990年代を代表する女性主体のバンドと、ロドリゴ、Chappell Roan、Doechii、Mitskiら現在の音楽シーンを担うアーティストが同じフェスに出演したことも、この世代間のつながりを示していた。
■音楽と共通の目的が生む一体感
大勢の人が同じ場所に集まり、注意や感情を共有することで強い一体感が生まれる現象は、社会学ではエミール・デュルケームの「集合的沸騰」という概念を手掛かりに論じられてきた。社会学者ランドール・コリンズも、対面での交流や共通の関心、共有された感情が、集団の連帯や象徴の形成につながるという理論を展開している。
音楽フェスでは、演奏に合わせて歌ったり体を動かしたりすることによって、同じ場にいる人々の注意と感情がそろいやすい。Daisy Chain Fieldsでは、その一体感に女性や少女を支援するという共通の目的を重ね、ステージ上の発言や非営利団体の活動紹介を通じて、フェスの理念を来場者が共有できるようにした。
この共通構造は、音楽イベントが娯楽の場にとどまらず、特定の社会課題への関心や参加を促す場として機能する理由を考える手掛かりになる。一方で、今回集まった寄付額は、チケット販売、アーティストの協力、スポンサー、個人からの寄付、フレンチ・ゲイツによる同額拠出を組み合わせた結果であり、群衆の心理だけで説明できるものではない。
■音楽による感情の高まりと向社会的行動
音楽を聴いた際に起きる鳥肌や身震いは、心理学や音楽認知研究で「フリッソン」や「チル」と呼ばれる。感情を強く動かす音楽がこうした反応を引き起こすことは知られており、音楽による感情の変化と、人を助けようとする向社会的行動との関係も研究されている。
2014年に発表された実験では、大学生と大学院生の計22人が、自ら選んだ強い感情反応を引き起こす音楽を聴いた後、実験上の金銭配分で他者に渡す金額を増やす傾向が示された。限定された条件と少人数による実験ではあるが、好みの音楽による感情の高まりが、その直後の利他的な判断に影響する可能性を示した研究である。
この結果だけで、特定の演奏が実際の寄付行動を引き起こしたと判断することはできない。それでも、音楽による感情の共有、支援対象を知る機会、寄付しやすい仕組みを一つのイベントに組み込むというDaisy Chain Fieldsの構成を読み解く補助線にはなる。
■フェスの収益を大きくしたマッチング寄付
Daisy Chain Fieldsが大きな寄付総額を実現した直接的な要因は、フレンチ・ゲイツによるマッチング寄付である。参加者や関係者が集めた1000万ドルと同額を追加することで、支援先に届く金額を一度に2倍にした。
マッチング寄付は、一定額の寄付に対して別の寄付者が同額または一定割合を上乗せする仕組みである。すでに集められた資金の効果を増幅するとともに、寄付への参加を促すためにも利用される。
原文が関連づけていた「触媒的フィランソロピー」は、寄付者が資金提供にとどまらず、関係者を巻き込み、知識や非金銭的な手段も活用しながら社会課題の解決を主導する考え方を指す。今回確認できる中心的な仕組みは同額拠出であるため、Daisy Chain Fieldsの成果は、まずマッチング寄付とフェスの収益構造によって説明するのが適切である。
■一夜限りの公演を継続的な支援へ
Daisy Chain Fieldsでは、出演アーティストが報酬を受け取らず、フェスの純収益を支援団体へ振り向けた。そこにフレンチ・ゲイツの1000万ドルが加わったことで、初開催ながらLilith Fairが3年間で慈善団体へ寄付した額を上回る規模に達した。
ただし、Lilith Fairは北米各地を巡回した複数年のフェスであり、Daisy Chain Fieldsは1会場で開かれた1日限りのイベントである。開催形態や収益構造が異なるため、単純な優劣ではなく、それぞれの時代に女性アーティストと社会活動を結びつけた取り組みとして捉える必要がある。
ロドリゴは公演の最後に「また来年会いましょう」と観客へ呼びかけ、その後の発信でも翌年への意欲を示した。2027年の開催日や会場、出演者などの詳細は発表されていないが、Daisy Chain Fieldsを継続的な活動に育てる意思をうかがわせている。
■ドリー・パートンにささげた「Angel」
フェスの4日前にあたる8月25日、カントリー音楽界を代表する歌手ドリー・パートンが80歳で死去した。ロドリゴとMcLachlanはステージで「Building a Mystery」と「Angel」を共演し、「Angel」をパートンにささげた。
パートンは音楽活動と並行して慈善事業にも取り組み、幼い子供へ無償で本を届けるImagination Libraryを長年運営してきた。女性アーティストが自らの影響力と仕組みを使って社会的な支援を広げるという点で、その歩みはDaisy Chain Fieldsが掲げた理念とも重なる。
多世代のアーティストが集まり、音楽を楽しむ場を女性や少女への具体的な支援につなげたことが、Daisy Chain Fieldsの最大の成果である。2000万ドルという金額だけでなく、出演者、企業、寄付者、非営利団体、観客がそれぞれの役割を担う構造を一つのフェスとして形にしたことが、今後の展開を考えるうえで重要になる。
元記事: Rodrigo Raised $20M at Daisy Chain Fields: Goosebumps, Crowd Science, and Gates’ Match