【分析】AI投資が世界経済を下支え、イラン戦争のエネルギーショックを緩和

2026年8月29日 02:21

 地政学的な混乱や借り入れコストの上昇にもかかわらず、世界経済は予想外の底堅さをみせている。人工知能(AI)を巡る大規模な投資が、その主な要因の一つとなっている可能性がある。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、AIブームは世界経済に対する下支えとしての役割を強めている。米国で投資を押し上げるとともに、アジアからの技術関連輸出を拡大させ、本来なら一段と深刻な景気減速につながりかねない衝撃を先進国が吸収する助けとなっている。

 米国とカナダの間では貿易摩擦が激化し、ドナルド・トランプ米大統領はイランへの圧力を強めている。国債利回りも上昇し、政府や企業、消費者の資金調達コストを押し上げている。

 それでも金融市場と経済活動は持ちこたえている。原油相場は1バレル90ドル前後で推移し、株式市場は最近の高値圏にある。世界貿易も比較的堅調で、企業景況感調査は先進国の経済活動が夏場に加速したことを示している。

 その底堅さの中心にあるのが、AIを巡る異例の投資サイクルである。企業は、性能が高度化するAIシステムの構築・運用に必要なデータセンター、半導体、サーバー、電力インフラなどに数十億ドル規模の資金を投じている。

 こうした支出は米国経済を直接支える一方、半導体やその他の技術部品を生産するアジア諸国に新たな需要をもたらしている。

 国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエワ専務理事は今週、記者団に対し、「中東から生じた負の供給ショックと、AIによる正の需要ショックが、文字通り綱引きをしている」と述べた。

 ゲオルギエワ専務理事は、米国を中心に始まったAI投資が他国にも広がり、データセンターや関連インフラの建設が増えていると指摘した。そのうえで、AIは「世界経済の成長エンジンになりつつある」と語った。

 AI投資の波が重要性を増しているのは、世界経済が同時に中東発のエネルギーショックに直面しているためである。

 米国とイスラエルがイランとの軍事衝突に入った2026年2月28日以降、ホルムズ海峡の通航が大幅に制限され、当初は深刻な世界的エネルギー危機への懸念が高まった。しかし、これまでの影響は一部の分析で予想されたほど破壊的なものにはなっていない。

 各国は石油・天然ガス備蓄を取り崩すとともに、米国など湾岸地域以外の供給国からの調達を増やした。

 中国も重要な役割を果たした。世界最大の原油輸入国である中国は価格上昇を受けて輸入を大幅に減らし、備蓄を取り崩した。米エネルギー情報局(EIA)によると、中国の2026年第2四半期の原油輸入量は日量810万バレルとなり、前四半期から32%減少した。輸入の縮小は世界の原油需要を抑え、ホルムズ海峡の供給障害による価格上昇圧力を和らげた。

 INGのチーフエコノミスト、マリケ・ブロム氏はWSJに対し、「中国の石油備蓄は世界全体にとって緩衝材になった」と語った。

 構造的な変化も影響を和らげている。各国経済は、原油1バレル当たりからより多くの経済価値を生み出せるようになった。各国政府は補助金や金融支援を通じ、エネルギー価格上昇による家計への影響を抑えている。

 欧州では、防衛やインフラに対する政府支出の増加も景気を支えている。欧州連合(EU)加盟国の防衛支出は2025年の4180億ユーロから、2026年には4540億ユーロに増えると予測されている。こうした支出は、ロシアによる2022年のウクライナ侵攻を受けたエネルギー危機で打撃を受けた欧州経済の下支えとなっている。

 しかし、新たな需要源として特に大きな存在感を示しているのがAIである。そのため、AIブームがどこまで持続するかは、世界経済の先行きを左右する重要な要素となっている。

 企業がデータセンター、半導体、コンピューティング基盤への大規模な支出を続ければ、AI投資はエネルギー供給の混乱や貿易摩擦、金利上昇による経済への下押し圧力の一部を引き続き相殺する可能性がある。

 一方、この投資サイクルが急速に弱まれば、世界経済は極めて不都合な時期に、最も強力な支えの一つを失うことになる。

 ムーディーズ・アナリティクスのアジア太平洋地域経済責任者、ステファン・アングリック氏はWSJに対し、「われわれは単に、猶予を与えられた時間を生きているだけなのかもしれない」と述べた。

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