NASA、地形画像の自律処理カメラを気球実験―月・火星探査車の安全な着陸へ

2026年8月26日 15:35

NASAは2026年8月24日、月や火星を探査するローバーの安全な着陸地点の判断に役立つ小型カメラシステム「CLIC 2」の気球飛行試験を実施した。カメラで取得した画像を機上でリアルタイム処理する技術を、高高度で検証する取り組みである。

■高度約3万8400メートルで3時間41分飛行

CLIC 2は「Compact Large-sensor Imaging Camera」の略称で、今回が2回目の飛行となった。ニューメキシコ州フォートサムナーにあるNASAの施設から、8月24日午前7時16分(山岳部夏時間、日本時間同日午後10時16分)に科学気球で打ち上げられた。

気球と搭載機器は約12万6000フィート(約3万8400メートル)の浮遊高度に到達し、飛行時間は合計3時間41分だった。NASAによると、CLIC 2は画像をリアルタイム処理し、将来の月・火星探査車が安全な着陸地点を判断するのを支援する小型カメラシステムである。

科学気球は、地上から約30~40キロメートルの成層圏まで実験機器を運び、実際の飛行環境で機器やソフトウェアを試験できる。ロケットや着陸船による飛行試験に進む前に、比較的低コストで設計上の課題や動作状況を確認できる点が利点となる。

■地球からの指示を待たずに画像を処理

CLIC 2の特徴は、カメラで撮影するだけでなく、取得した画像を機上でリアルタイム処理できることにある。月や火星への着陸では、地球との通信を介して一つ一つの判断を下すのではなく、探査機が搭載センサーの情報を使って自らの位置や周辺地形を把握する必要がある。

こうした着陸技術の一つが、地形相対ナビゲーション(TRN)である。TRNは、降下中に撮影した地形の特徴を事前に搭載した地図と照合し、探査機の現在位置を推定する。得られた位置情報は、目標地点への誘導や、事前に地図へ登録された危険区域を避けるために利用できる。

NASAの火星探査車Perseveranceは、2021年2月のジェゼロ・クレーターへの着陸でTRNを使用した。搭載されたランダー・ビジョン・システムが地表画像と地図を照合し、安全な候補地点を選択して誘導システムへ渡した。着陸後の画像を用いたNASAの解析では、選択された目標地点から実際の着陸地点までの距離は約5メートルだった。

Perseverance以前のCuriosityでは、2012年の着陸に際して約20キロメートル×7キロメートルの着陸楕円が設定されていた。TRNの導入によって、着陸予定地域内の地形を降下中に認識し、より安全な地点を選ぶ仕組みが実運用された。

■精密着陸を支えるカメラ、ライダー、搭載コンピューター

将来の月・惑星ミッションでは、位置の推定に加えて、岩や急斜面などの危険を検出し、安全な着陸地点を選ぶ技術が重要になる。NASAは精密着陸の一例として、指定した目標から50~100メートル以内へ安全に着陸する能力を挙げている。

NASAの「SPLICE(Safe and Precise Landing-Integrated Capabilities Evolution)」は、精密着陸と危険回避に必要な複数の技術を統合する開発プロジェクトである。構成技術には、レーザー光の反射を利用して速度と高度を推定するナビゲーション・ドップラー・ライダー、地表を走査して着陸候補地域の3D地図を作るハザード検出ライダー、センサー情報を処理して安全な着陸地点を計算する降下・着陸用コンピューターなどがある。

カメラを使うTRNと、地形の立体形状を計測するライダーは、異なる情報を着陸システムへ提供する。CLIC 2のようなリアルタイム画像処理技術は、こうした自律的な位置推定や着陸地点判断と共通する情報処理の流れを持つ。

一方、NASAが公表した今回の飛行結果は、CLIC 2が所定の高度に達して3時間41分飛行したことと、同システムが将来のローバーの安全な着陸地点判断を支援する画像処理カメラであることを示している。個別の危険物検出精度や、着陸船の進路変更まで含めた統合性能は明らかにされていない。

■2026年フォートサムナー気球キャンペーンの2回目

CLIC 2は、NASAがフォートサムナーで実施する2026年の科学気球キャンペーンで、2回目に打ち上げられたミッションである。

キャンペーン最初の飛行となったSalter Test Flightは8月22日午前8時31分(山岳部夏時間)に打ち上げられ、約12万3000フィート(約3万7490メートル)の高度に到達した。飛行時間は4時間8分で、将来の気球ミッションに向けた機器の試験が行われた。相乗りする「Cubes in Space」の搭載機器には、11~18歳の生徒が設計した約100件の実験も含まれていた。

NASAは同年のフォートサムナー・キャンペーンで、科学実験、技術実証、学生開発機器を運ぶ計6回の気球飛行を計画している。複数の技術実証機器を一つの気球にまとめる「BOOP!」や、高精度指向プラットフォーム「WASP」を使った太陽コロナ観測機器などが予定されている。

また、高高度学生プラットフォームは2026年に20回目の飛行を迎える。NASAによると、過去20年間に米国の約25機関から1900人を超える学生が参加しており、今回のキャンペーンでは17の学生チームが将来のCubeSatや宇宙機搭載機器の試作機を飛行させる。

■気球試験で確認できること

フォートサムナーで使われるゼロ圧気球は、上昇に伴って周囲の気圧が低下すると、開口部からガスを排出する構造を持つ。気球内部と外部に大きな圧力差を生じさせず、機体を高高度まで運ぶ方式である。

科学気球では、実際の惑星への突入・降下時に生じる速度や加速度、宇宙空間の真空環境をそのまま再現することはできない。それでも、実験機器を高高度で一定時間飛行させ、温度や気圧の変化を受ける環境でハードウェアとソフトウェアの動作データを取得できる。

同じ設計を改良しながら繰り返し飛行させられるため、より費用のかかる弾道飛行や実際の宇宙機への搭載へ進む前の技術検証に適している。CLIC 2の飛行も、画像取得と機上処理を将来の着陸技術へつなげていくための試験の一つとなる。

■Blue Ghostも画像を使った自律着陸を実施

画像処理を利用した着陸技術は、すでに月面ミッションでも使われている。Firefly Aerospaceの月着陸船Blue Ghost Mission 1は2025年3月2日、月の危難の海に着陸した。

同機の画像航法システムは、航法カメラの画像を機上で生成した月面画像と比較して位置と姿勢を推定した。Firefly Aerospaceによると、降下中には未登録のクレーター、岩、傾斜を検出し、2回の危険回避操作を行って安全な着陸地点へ進路を変更した。

Blue Ghostに搭載されたNASAの「SCALPSS 1.1」は、これとは目的が異なる観測装置である。SCALPSSは着陸時のロケット噴射と月面のレゴリスとの相互作用をカメラで撮影し、重複する画像から地表の3D形状を調べるために開発された。Blue Ghostの航法・危険回避システムそのものと、NASAの科学観測機器であるSCALPSSは区別する必要がある。

CLIC 2、TRN、ライダーを含む精密着陸技術、Blue Ghostの画像航法には、センサーから得た情報を機上で処理し、位置や周辺地形に関する判断へ結びつけるという共通構造がある。地上との通信を待たずに必要な情報を処理する能力は、着陸地点の選択肢を広げる重要な要素となっている。

■注目ポイントQ&A

●地形相対ナビゲーションとは何ですか?

降下中にカメラで撮影した地形の特徴を、宇宙機に事前搭載した地図と照合して現在位置を推定する技術です。得られた位置情報を使って目標地点へ誘導したり、地図に登録された危険区域を避けたりできます。

●CLIC 2は着陸船を自動操縦するシステムですか?

NASAが今回公表した情報では、CLIC 2は画像をリアルタイム処理し、将来の月・火星探査車が安全な着陸地点を判断するのを支援する小型カメラシステムと説明されています。着陸船の誘導や進路変更を含む統合システム全体を今回の飛行で実証したとは発表されていません。

●アポロ計画の着陸方法とは何が違いますか?

アポロ計画では、宇宙飛行士が地形やランドマークを目視し、最終降下でクレーターや岩を避けながら着陸地点を選びました。TRNでは、カメラ画像と搭載地図の照合によって位置情報を自動的に算出し、誘導システムへ渡します。無人探査機でも利用できる点が大きな違いです。

●気球試験だけで月や火星への着陸に使えるようになりますか?

気球試験は、高高度の実飛行環境でカメラや画像処理装置の動作データを取得する段階の一つです。実際の惑星降下で生じる速度、加速度、真空などをすべて再現するものではないため、実用化までには用途に応じた追加試験とシステム統合が必要です。

●NASAはアルテミス計画で誤差50メートル以内を正式目標にしていますか?

NASAの精密月面着陸に関する資料では、精密着陸の例として目標地点から50~100メートル以内への着陸が示されています。一方、今回のCLIC 2に関するNASA発表では、アルテミス有人ミッションの正式な着陸誤差目標や、CLIC 2をアルテミス着陸船へ搭載する計画は示されていません。

元記事: NASA Tests Self-Guided Terrain Camera in Near Space: Second Balloon Flight Clears Artemis Milestone

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