中国系の攻撃者がDeepSeekとHermesで攻撃工程を自動化、企業インフラの脆弱性対応が急務に
2026年8月21日 10:52
米サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)は2026年8月18日、Windows、Microsoft SharePoint Server、VMware vCenter、macOSに影響する4件の脆弱性を、悪用確認済み脆弱性(KEV)カタログに追加した。米連邦民間行政機関のうち、BOD 26-04が定める条件に該当する資産には、8月21日までの修正とフォレンジックトリアージが求められる。
4件はいずれも、実際の悪用を示す証拠に基づいてKEVへ登録された。VMware vCenterへの攻撃について、QUIRSOは中国に関連する攻撃者の活動と評価している。また、Windows IKEを含む複数製品への別の攻撃では、中国語を使用する攻撃者がDeepSeekなどを攻撃活動に組み込んでいた。CISAは民間組織にも、KEV掲載情報を脆弱性対応の優先順位付けに活用するよう促している。
■vCenterはパッチ公開5日後から悪用、361の被害IPを観測
VMware vCenter Serverの「CVE-2026-59310」は、Syslogサーバーに存在するディレクトリトラバーサルの脆弱性である。BroadcomはCVSS基本値を9.8と評価しており、vCenterへネットワーク経由で到達できる攻撃者が任意のコードを実行できる可能性がある。認証や利用者の操作は必要ない。
Broadcomは7月29日、セキュリティアドバイザリ「VMSA-2026-0006」を公開した。8月19日に更新された同アドバイザリでは、vCenter 9.1系の9.1.0.0300、9.0系の9.0.2.0100、8.0系の8.0 U3kまたは8.0 U2fなどが修正版として示されている。回避策は提供されていない。
ドイツのインシデント対応企業QUIRSOは、修正公開から5日後の8月3日以降、侵害されたとみられるvCenterから攻撃者のインフラへの通信を観測した。8月7日までに確認された被害IPアドレスは47カ国の361件で、ドイツ55件、米国41件、トルコ38件、イラン26件、フランス25件だった。IPアドレス数と被害組織数は一致しないため、「361組織が侵害された」とは断定できない。
8月4日だけで151件の新たな被害IPが確認され、8月5日までに最終集計の約95%に達した。攻撃者は侵害後、オープンソースの「reverse_ssh」を配置し、感染したvCenterから外部へSSH接続を確立することで、継続的な遠隔操作経路を構築していた。
QUIRSOは、中国語で記述された攻撃用スクリプト、中国語ツールや管理ソフトウェアの使用、中国本土を除外する標的選定、UTC+08:00の勤務時間帯と整合する活動などを根拠に、中国語話者の攻撃者による活動と中程度の確信度で評価している。
調査対象となった少なくとも1件の侵害では、Babukを基にしたとみられるランサムウェアがESXiホストへ展開され、ファイルに「.babyk」の拡張子が付けられた。ランサムウェアが当初からの目的だったのか、侵入後に追加されたものだったのかは明らかになっていない。
■更新後も侵害の有無を確認する必要
今回の事例では、脆弱性と修正版が公開されてから、実際の悪用が観測されるまでの期間が5日だった。通常の検証や変更管理に数週間をかける運用では、インターネットへ公開された重要システムの修正が攻撃に間に合わない可能性がある。
一方、公開情報だけから、Broadcomのアドバイザリが攻撃開始の直接的な原因だったとは断定できない。QUIRSOは、公開時期と悪用開始時期の強い相関から、アドバイザリの公開が攻撃活動の起点になった可能性を指摘している。
8月3日以降に脆弱な状態で到達可能だったvCenterは、更新するだけでなく、侵害調査も必要になる。不審な管理者アカウント、cronジョブ、reverse_sshに関連するファイルや外向き通信、ESXiホスト上の「.babyk」ファイルなどを確認し、必要に応じてネットワーク隔離や認証情報の変更を行うべきである。reverse_sshは正規用途にも使えるツールであり、ファイルの存在だけでは侵害と断定できないため、実行履歴や通信先と併せて判断する必要がある。
■macOSの画面共有ではMoneroマイナーを設置
macOSの「CVE-2026-65400」は、画面共有機能の認証処理に関する脆弱性である。Appleによると、ネットワーク上の攻撃者が有効な認証情報を持たずに画面共有へ認証できる可能性があった。Appleは状態管理を改善し、macOS Tahoe 26.6.1、Sequoia 15.7.9、Sonoma 14.8.9で修正した。
オランダ国立サイバーセキュリティセンター(NCSC-NL)は、TCPポート5900へインターネットから到達できる複数のシステムで悪用が確認されたと報告した。同機関が把握したすべての事例で、攻撃者は対象システムのrootアクセスを取得し、暗号資産Moneroのマイニングソフトウェアを設置していた。
CVSS評価は情報源によって異なり、NCSC-NLは7.1、CISAの脆弱性情報では9.8と評価されている。対象組織はスコアだけでなく、画面共有が有効か、ポート5900へどこから到達できるか、修正版が適用されているかを基に優先度を判断する必要がある。
Tahoeについては、セキュリティ修正を含む26.6.1より新しい26.6.2も公開されている。利用中のmacOS系列で提供されている最新バージョンへ更新し、画面共有が不要な端末では機能を無効にすることが望ましい。インターネットへ画面共有を直接公開していた端末では、更新に加えて侵害の有無も確認する必要がある。
■SharePoint Serverでは認証トークンの検証を回避
Microsoft SharePoint Serverの「CVE-2026-55040」は、JWTトークンの検証処理に複数の問題があり、認証を受けていない攻撃者がSharePoint利用者を偽装できる脆弱性である。MicrosoftによるCVSS基本値は9.1で、機密性と完全性への影響が高いと評価されている。
Rapid7によると、攻撃者は偽装したい利用者のActive Directoryセキュリティ識別子(SID)またはユーザープリンシパル名(UPN)を事前に把握する必要がある。条件を満たすと、その利用者や管理者の権限でSharePoint上の操作を行える可能性がある。
Rapid7は技術分析と実証コードを公開し、その後、Defused CyberがSharePointのハニーポットに対する実証コードの使用を観測した。CISAは8月18日、実際の悪用を示す証拠があるとして同脆弱性をKEVへ追加した。
影響を受けるのはSharePoint Server 2016、SharePoint Server 2019、SharePoint Server Subscription Editionである。Microsoft 365で提供されるSharePoint Onlineは、Microsoftが示した影響対象には含まれていない。オンプレミス版では、該当するセキュリティ更新を適用し、インターネット公開の必要性や管理機能への外部アクセスを見直す必要がある。
■Windows IKEの脆弱性も実際の攻撃で悪用
Windows Internet Key Exchange(IKE)サービス拡張機能の「CVE-2026-33824」は、同一のメモリ領域を二重に解放するダブルフリーの脆弱性である。MicrosoftによるCVSS基本値は9.8で、認証を受けていない攻撃者がネットワーク経由でコードを実行できる可能性がある。
Microsoftは2026年4月のセキュリティ更新で修正した。CISAは8月18日、同脆弱性をKEVへ追加しており、IKEやIPsecの通信を受け付ける未更新のWindowsシステムでは、公開範囲と更新状況を優先的に確認する必要がある。
Palo Alto NetworksのUnit 42は、中国語話者の脅威アクターが、この脆弱性を含む複数の脆弱性を手動で調査、攻撃していたと報告した。Unit 42が確認した範囲では、3台のIKE VPNエンドポイントに対するリバースシェル接続の試行が記録されている。
このIKEを狙った活動と、同じ攻撃者がDeepSeekを利用して実行した自律的な攻撃セッションは区別する必要がある。Unit 42の調査では、IKEへの試行は従来型の手動作業に分類されており、DeepSeekがIKEの脆弱性を自律的に悪用したことを示すものではない。
■DeepSeekとHermes Agentが攻撃工程を自律実行
Unit 42が調査した中国語話者の脅威アクターは、「knaithe」や「KnYuan」の別名を使用し、DeepSeekを推論エンジンとしてオープンソースの「Hermes Agent」へ接続していた。Hermes Agentには、端末の操作、インターネット上の資産検索、実証コードの取得、コマンド実行などの機能が組み込まれていた。
攻撃者はTelegramを介してHermes Agentへ指示を送り、インターネット資産検索サービス「FOFA」や独自の攻撃用スキルを利用できるよう設定していた。2026年5月7日のセッションでは、Unit 42が確認できた人間からの入力は最初の指示だけだった。
エージェントはまず、FOFAで84件のLangflowインスタンスを列挙し、公開された実証コードを使って攻撃を試みた。必要な設定が対象側で有効になっていなかったため成功せず、その後は10の製品群について公開台数や脆弱性、実証コードの注目度などを調べ、n8nを次の標的として選んだ。
FOFAの検索結果では、世界で64万7,017件、中国で2万5,209件のn8nインスタンスが検出された。これはインターネット検索サービスが返した資産数であり、そのすべてが脆弱だったことや、すべてに攻撃を送ったことを意味しない。エージェントは中国にある50件超の候補を調べたが、攻撃に必要な認証なしのフォームが見つからず、Unit 42が回収したセッションでは侵害に成功していない。
この事例で注目されるのは、標的の列挙、脆弱性の比較、実証コードの取得、攻撃条件の確認、失敗後の標的変更という一連の判断が、最初の指示後に自動で進んだ点である。生成AI単体ではなく、外部ツールを操作できるエージェント基盤と組み合わせることで、攻撃候補を調べる工程の速度と規模が拡大し得ることを示している。
同じ攻撃者はAIエージェントとは別に、従来型の手動攻撃も行っていた。Unit 42は、Citrix NetScalerの脆弱性を悪用した3組織からのデータ流出、Marimo Notebookの11インスタンスでのコマンド実行、Apache TomcatやWindows IKEに対するリバースシェル接続の試行などを確認している。
Unit 42が活動の詳細を把握できたのは、Hermes Agentが攻撃者のホームディレクトリを起点にHTTPファイルサーバーを誤って起動したためである。これにより、APIキー、攻撃用スクリプト、標的リスト、シェル履歴、AIセッションログなどがインターネット上に露出した。
■対象組織が優先すべき対応
CISAがKEVへ追加した4件について、まず自組織の資産とバージョン、外部からの到達可能性を確認する必要がある。インターネットに公開された管理サーバー、VPNエンドポイント、画面共有サービスは優先度が高い。
VMware vCenterでは、Broadcomの最新アドバイザリに従って修正版を適用する。脆弱な期間に外部または侵害済みの内部端末から到達できた場合は、不審なアカウント、cronジョブ、reverse_sshに関連する通信やファイル、ESXi上の「.babyk」ファイルを調査する。
macOSでは、Tahoe 26.6.1以降、Sequoia 15.7.9以降、Sonoma 14.8.9以降となる最新更新を適用する。画面共有が不要なら無効にし、ポート5900をインターネットへ直接公開しない。公開していた端末では、マイニングソフトウェアや不審なroot権限での活動がないか確認する。
SharePoint Serverでは、使用しているエディションに対応したMicrosoftのセキュリティ更新を適用する。管理機能を含めて不要な外部公開を停止し、更新前の期間について、不審な利用者偽装、ファイルへのアクセス、データ変更などがないかログを確認する。
Windows IKEでは、対象OSに該当するMicrosoftのセキュリティ更新が適用済みか確認する。IKEやIPsecを利用するVPNサーバーなど、外部から関連通信を受け付けるシステムを優先し、不要な公開経路は閉じる。更新前に外部公開されていた場合は、IKE関連ログや不審な外部接続も調査する。
■注目ポイントQ&A
●CISAのKEVカタログとは何ですか?
CISAが、実際の攻撃に使われた証拠のある脆弱性を掲載するカタログです。脆弱性の深刻度だけでなく、現実の悪用状況を踏まえて対応の優先順位を決めるための情報として利用できます。
●民間企業にも8月21日の期限が適用されますか?
BOD 26-04に基づく期限は、米国の連邦民間行政機関を対象としています。日本を含む民間企業に同じ法的義務が直接課されるわけではありませんが、CISAはすべての組織にKEV掲載脆弱性を優先して修正するよう促しています。
●361組織がvCenter攻撃の被害を受けたのですか?
確認されたのは361の被害IPアドレスです。1つの組織が複数のIPアドレスを使用する場合や、共有・ホスティング環境が含まれる場合があるため、361組織と読み替えることはできません。
●更新を適用すれば対応は完了しますか?
脆弱性の悪用前であれば、更新は最も重要な対策です。一方、脆弱な期間に外部から到達可能だったシステムでは、更新前に侵入されている可能性があるため、アカウント、プロセス、ファイル、通信、ログなどの侵害調査も必要です。
●AIによる自律型攻撃で侵害は成功しましたか?
Unit 42が回収したDeepSeekとHermes Agentによる自律セッションでは、Langflowとn8nへの攻撃は条件が合わず、侵害に成功していません。ただし、標的調査から実証コードの取得、攻撃試行、別の標的への切り替えまでが自動で進んだことが確認されています。
●AIがWindows IKEの脆弱性を自動で悪用したのですか?
Unit 42は、Windows IKEへのリバースシェル接続試行を手動攻撃として分類しています。DeepSeekを用いた自律セッションとは並行していましたが、AIエージェントがIKEの脆弱性を自律的に悪用したとは説明されていません。
元記事: China Hackers Breached 361 Networks in 5 Days; CISA Sets 3-Day Patch Window for Enterprise Flaws