米出版大手ハーパーコリンズ、米国でマンガ専門レーベル「KAZÉ」始動へ 第1弾7作品は年内発表
2026年8月18日 20:01
ハーパーコリンズは、米国市場向けのマンガ専門インプリント「KAZÉ」を立ち上げる。子どもから成人まで幅広い読者層を対象とし、第1弾となる7作品のラインナップを2026年中に発表する予定だ。作品名や刊行時期などの詳細は、現時点では明らかにされていない。
KAZÉは新たに作られた名称ではなく、1994年にフランスで始まったマンガ・アニメブランドを源流とする。ハーパーコリンズは2025年にクランチロールのフランスおよびドイツにおけるマンガ出版事業を買収し、欧州でKAZÉブランドを復活させた。今回の米国進出は、そのブランドを英語圏へ広げる動きとなる。
■欧州で30年以上の歴史を持つ「KAZÉ」
KAZÉは1994年、セドリック・リッタルディによってパリで設立された。初期にはVHS版『ロードス島戦記』を扱うなど、日本のマンガやアニメをフランス語圏へ届けた先駆的な企業の一つとして事業を広げた。
2009年にはVIZ Media Europeの傘下に入り、その後、欧州のクランチロール事業へ統合された。2022年には出版ブランドがCrunchyroll Mangaへ変更され、KAZÉの名称はいったん使われなくなった。
ハーパーコリンズは2025年9月30日付で、クランチロールがフランスとドイツで展開していたマンガ出版事業の買収を完了した。傘下のPegasus Mangaは同年12月、Crunchyroll Mangaを創業時の名称であるKAZÉへ戻すと発表した。
欧州では2026年4月以降に出版される新刊へKAZÉのブランドを使用する一方、それ以前からCrunchyroll Mangaとして刊行されているシリーズは、装丁を変えず同じブランドのまま完結させる方針だ。長期シリーズを巻ごとに収集する読者に配慮し、刊行の継続性を保つ形となっている。
■欧州事業の取得を足掛かりに英語圏へ
ハーパーコリンズは、クランチロールの欧州出版事業の買収を発表した2025年7月の時点で、マンガ事業を欧州だけでなく英語圏にも広げる意向を示していた。
同社は世界各地で一般書や児童書を出版し、書店、図書館、学校などへつながる販売・流通基盤を持つ。専門インプリントを設けることで、マンガを独立した出版分野として扱い、作品の選定やマーケティングを進めやすくなる。
米国ではVIZ Media、Yen Press、Kodansha USA Publishing、Seven Seas Entertainmentなどが日本マンガの英語版を刊行している。KAZÉが既存各社とどのように差別化するかは、今後発表される7作品の対象年齢、ジャンル、刊行形態から見えてきそうだ。
ハーパーコリンズはすでに米国でマンガを刊行しており、mamakariによる『Plus-Sized Misadventures in Love』などを扱っている。新たなKAZÉは、子ども向けから成人向けまでを対象とする専用の出版枠として展開される。
■メディアドゥによるSeven Seas買収も進展
北米のマンガ出版を巡っては、日本企業による事業拡大も進んでいる。メディアドゥは2026年3月、米国子会社Media Do Internationalを通じて、Seven Seas Entertainmentの全持分を取得し、連結子会社化した。取得価額は8,000万ドルで、1ドル159円で換算すると約127億2,000万円となる。
Seven Seasは2004年設立の出版社で、日本のマンガやライトノベルに加え、中国発の小説、韓国発のウェブトゥーンなどを幅広く扱う。メディアドゥによると、これまでに1,300以上のシリーズのライセンスを取得し、5,000点以上を刊行してきた。
買収後もSeven Seasは既存の経営陣とチームの下で運営され、出版方針、刊行スケジュール、流通などを継続している。メディアドゥは、同社が培ってきた編集上の独立性や翻訳品質を維持しながら、日本を含むアジアの作品を英語圏へ届ける基盤を強化する考えだ。
■AI翻訳とKAZÉの米国展開は別の動き
マンガの海外展開では、翻訳、編集、写植などを効率化する技術の開発も進んでいる。OCRによる文字認識、フキダシや描き文字の検出、翻訳支援、文字配置といった個別工程をソフトウェアで補助する取り組みがある。
一方、ハーパーコリンズはKAZÉの米国向け作品にAI翻訳を利用する方針を発表していない。KAZÉの立ち上げを、AIによる翻訳時間の短縮が直接後押ししたと判断できる公式情報も確認されていない。
メディアドゥも、同社が開発するAI支援システム「MDTS」をSeven Seasの翻訳業務へ導入する予定はないと明言している。MDTSは、日本の翻訳者が日本文学などを翻訳する際に、翻訳済み文章の管理を支援するためのシステムであり、Seven Seasのマンガを自動翻訳する仕組みとして位置付けられてはいない。
AIを利用したマンガ翻訳については、日本のスタートアップOrangeが、翻訳や画像処理の一部を支援する技術を開発している。同社は2024年、AIの活用によって従来より5倍速く、コストを最大90%削減することを目標として掲げた。これは同社が示した事業上の目標であり、マンガ翻訳全般の作業時間が一律に90%短縮されたことを意味するものではない。
マンガのローカライズでは、原文の意味だけでなく、登場人物の口調、関係性、言葉遊び、背景知識、オノマトペ、ページ上の視覚表現を考慮する必要がある。技術による支援が広がっても、作品に応じて表現を選び、英語版として整える翻訳者、編集者、レタラーの役割は引き続き重要になる。
■第1弾7作品が米国での方向性を示す
KAZÉの米国展開で注目されるのは、ハーパーコリンズの流通基盤と、欧州で蓄積されたマンガ出版の経験をどのように組み合わせるかだ。一般書や児童書と同じ販売網を利用できれば、書店だけでなく公共図書館や学校図書館など、幅広い場所で作品に触れる機会が生まれる可能性がある。
マンガでは、一つのシリーズを長期間にわたって刊行することも多い。そのため、新作の獲得だけでなく、翻訳や装丁の一貫性、巻ごとの刊行間隔、シリーズを最後まで継続する編集体制が読者の信頼を左右する。
欧州のKAZÉは、Crunchyroll Manga名義で始まった既刊シリーズについて、ブランドや装丁を途中で変更せず完結させる方針を示している。米国の新レーベルは新規ラインナップから始まるため、まずは第1弾7作品の内容と刊行計画が、KAZÉの対象読者や編集方針を判断する材料となる。
■注目ポイントQ&A
●米国向けマンガレーベル「KAZÉ」とは何ですか?
ハーパーコリンズが米国で展開するマンガ専門インプリントです。全年齢を対象とし、第1弾として7作品を予定しています。作品名や発売時期などの詳細は、2026年中に発表される予定です。
●KAZÉは新しいブランドですか?
いいえ。1994年にフランスで設立されたマンガ・アニメブランドを源流とします。VIZ Media Europeや欧州のクランチロール事業を経て、ハーパーコリンズによる事業買収後の2026年に欧州で名称が復活しました。米国向けの専門インプリントとして展開されるのは今回が初めてです。
●KAZÉの米国向け作品にはAI翻訳が使われますか?
ハーパーコリンズは、KAZÉの米国向け作品にAI翻訳を利用するとは発表していません。レーベルの立ち上げと、他社が開発するAI翻訳支援技術を直接結び付けられる公式情報も現時点ではありません。
●メディアドゥはSeven Seasのマンガ翻訳にAIを使いますか?
メディアドゥは、Seven Seasの翻訳業務にAIを使用する予定はないと説明しています。同社のMDTSもSeven Seasへ導入せず、従来の翻訳基準と既存チームによる制作体制を維持するとしています。
●欧州で刊行中のシリーズはKAZÉへの変更で装丁が変わりますか?
Crunchyroll Manga名義で刊行が始まったシリーズは、中断せず、現在の装丁を変更しないまま同じブランドで完結する方針です。欧州で2026年4月以降に出版される新刊には、KAZÉのブランドが使用されています。
元記事: HarperCollins Opens First Big Five Manga Imprint as AI Cuts Translation Time 90%