小野測器と名古屋大、廃車残渣「ASR」の防振材活用へ共同研究
2026年8月12日 23:53
自動車の廃車処理で発生する自動車破砕残渣(ASR)を、新たな自動車材料として活用する研究が進んでいる。電子計測機器メーカーの小野測器は、東海国立大学機構 名古屋大学ナショナルコンポジットセンター(名古屋大学NCC)と、ASRとリサイクル炭素繊維を用いた新構造「3Rコンポジット」の音・振動特性を解明する共同研究を始めた。
研究名は「複合・積層材料における敏感度解析研究」。2026年4月1日から3年間の計画で実施する。ASRの材料組成や配合を検討し、プラスチックや炭素繊維材料などと組み合わせることで、自動車用防振材としての性能を持たせられるかを調べる。将来は自動車のルーフ材や内装部材などへの応用を視野に入れる。
■自動車リサイクルの難題「ASR」
使用済み自動車は、エンジンやドアなどの再利用可能な部品を取り外した後、車体を破砕して鉄や非鉄金属を回収する。そこで最後に残るのがASRである。プラスチック、発泡ウレタン、ゴム、繊維、ガラス、金属片などが混在する不均一な材料で、使用済み自動車の重量の2割弱を占めるとされる。
ASRのマテリアルリサイクルが難しい最大の理由は、組成が均一ではないことにある。一般的なプラスチックの再生では、樹脂を種類ごとに分け、できるだけ性質のそろった原料にする必要がある。しかし、ASRには複数の樹脂や異物が混ざり、廃車の車種や年式などによっても構成が変わる。
日本では2005年1月に自動車リサイクル法が全面施行され、自動車メーカーと輸入業者に、ASR、エアバッグ類、フロン類の引き取りと再資源化などを義務付けた。これにより最終処分量は大きく減少したものの、ASRは現在も熱回収を伴う処理が中心である。
環境省と経済産業省の資料によると、2024年度に引き取られたASRは約42万4000トン。再資源化率の内訳は熱回収が67.8%、マテリアルリサイクルが28.8%で、プラスチックとしてのマテリアルリサイクルは1.5%にとどまった。ASRを再び自動車材料として利用するには、材料の品質や生産工程の安定性を高める必要がある。
■「3Rコンポジット」の仕組み
名古屋大学NCCは、産学連携プロジェクト「nccPrime(Project for Recyclable Innovative Materials Experimental Proof)」で、自動車用プラスチックの資源循環技術を研究している。
プロジェクトが掲げる「3Rコンポジット」は、次の3種類の再生材料を組み合わせる構想である。
・ASR再生材料
・ポリプロピレンなどの再生樹脂
・リサイクル炭素繊維(rCF)
ASRを単独で均質な樹脂に戻すのではなく、再生樹脂やリサイクル炭素繊維と組み合わせ、それぞれの特性を補完させる。炭素繊維の使用量を抑えながら必要な機能を持たせ、ASRを含む材料を自動車部品へ利用することを目指す。
NCCは、射出成形、圧縮成形、繊維材料を必要な位置へ配置するFiber Tape Placement、長繊維熱可塑性樹脂を直接成形するIntegrated LFT-Dなど、複数の成形法への応用を想定している。適用候補としては、外装樹脂部品、クラッシュ構造、外板部品などを挙げている。
一方、今回の小野測器との共同研究では、3Rコンポジットのなかでも音・振動に関する機能に焦点を当てる。ASRの組成や配合を調整し、自動車用防振材として利用できる可能性を探る。
■小野測器が担う音・振動特性の評価
自動車材料には、強度や剛性だけでなく、振動の伝わり方や減衰のしやすさ、音の吸収・透過特性なども求められる。材料の組成が変われば、車内へ伝わる振動や騒音、部品の共振特性も変化する可能性がある。
こうした騒音・振動・乗員が感じる不快感を扱う分野は、一般にNVH(Noise, Vibration and Harshness)と呼ばれる。電気自動車ではエンジン音が小さくなるため、ロードノイズやモーター、空調機器、車体から生じる音や振動が相対的に認識されやすくなる。
小野測器は、開発される材料について振動減衰性能や音響特性を測定・解析し、評価手法や評価ソリューションを提供する。材料開発と性能評価を並行して進め、ASR由来材料に資源循環という環境面の価値だけでなく、防振・音響性能という機能面の価値を持たせることを目指す。
小野測器は1954年設立で、FFTアナライザー、マイクロホン、加速度センサー、騒音計、レーザードップラー振動計などを手掛けている。自動車向けには音響・振動解析装置や実車走行騒音測定システムなどを展開し、受託試験やコンサルティングサービスも提供する。
共同研究には、名古屋大学NCCの吉村彰記センター長・教授と漆山雄太特任教授、小野測器の大越祐史代表取締役社長らが関わる。
■研究が解決すべき課題
ASRを原料として安定的に利用するには、いくつかの技術的課題が残る。NCCは、ASRに含まれる金属片が成形装置を傷める可能性や、除外すべき残渣を高速に検出する技術の必要性を挙げている。
また、臭気の抑制、材料の組成管理、適切な成形工程の構築、生産性の向上も課題となる。実際の廃車から得られるASRは組成が一定ではないため、配合の違いが振動減衰性能や音響特性にどのような影響を及ぼすかを把握することが重要になる。
nccPrimeは2023年10月に第1期を開始し、2025年3月には成形実験を行った。ASRを単なる廃棄物として処理するのではなく、性質を管理しながら利用できる自動車材料へ転換するための研究を進めている。
■EU規則が再生プラスチックの需要を後押し
欧州連合(EU)では、車両設計の循環性と使用済み自動車の管理に関する新規則が2026年7月に公布され、同年8月13日に発効する。
同規則は、発効から6年後の2032年に、新車へ使用するプラスチックの少なくとも15%を再生プラスチックとするよう求める。発効から10年後の2036年には25%へ引き上げ、その再生プラスチックの少なくとも20%を、使用済み自動車または車両の使用段階で取り外された部品に由来する材料とする。
規則は発効から2年後に適用が始まり、リサイクル材の含有率に関する要件は、その後段階的に導入される。EU域外で生産され、EU市場へ投入される車両も対象となる。
ただし、3Rコンポジットに含まれるASR由来材料のどの部分が、規則上の再生プラスチック含有率として算入されるかは、材料の構成や算定方法に左右される。研究成果を実用化へ結び付けるには、技術面に加え、規則に基づく再生材の認証や算定方法への対応も必要になる。
■廃車残渣を「機能を持つ材料」へ
2024年度に日本の自動車リサイクル制度で引き取られた使用済み自動車は約256万台に上り、このうち約221万台分のASRが自動車メーカーなどへ引き渡された。
ASRの熱回収は、埋め立て量の削減やエネルギー利用に寄与してきた。一方、プラスチックなどを材料として循環させるには、用途に応じて安定した性能を与え、製品の原料として再利用する必要がある。
3Rコンポジットは、ASRだけですべての性能を担わせるのではなく、再生樹脂やリサイクル炭素繊維を組み合わせることで、利用可能な材料の範囲を広げようとする構想である。
今回の共同研究は、ASR由来材料がどのような音・振動特性を持ち、配合や積層構造の変更によって性能がどう変化するかを読み解く取り組みとなる。防振性能などの付加価値を示せれば、これまで主に熱源として利用されてきたASRを、自動車部品の材料として循環させる可能性が広がる。
■注目ポイントQ&A
●自動車破砕残渣(ASR)とは何ですか?なぜ再利用が難しいのですか?
使用済み自動車から部品を取り外し、車体を破砕して鉄や非鉄金属を回収した後に残る混合物です。プラスチック、発泡ウレタン、ゴム、繊維、ガラス、金属片などが混在しています。樹脂の種類や異物の割合が一定ではなく、均質な再生原料を作りにくいことが、マテリアルリサイクルを難しくしています。
●「3Rコンポジット」とは何ですか?
ASR再生材料、再生樹脂、リサイクル炭素繊維という3種類の材料を組み合わせる複合材料の構想です。それぞれの長所を生かして短所を補い、炭素繊維の使用量を抑えながら、ASRを自動車部品の材料として利用することを目指しています。
●今回の共同研究では何を調べるのですか?
ASRの材料組成や配合、プラスチックや炭素繊維材料との組み合わせを検討し、振動を減衰させる性能や音響特性を評価します。自動車用防振材としての機能を持たせられるかを調べ、将来はルーフ材や内装部材などへの応用を検討します。
●なぜ音や振動の評価が必要なのですか?
自動車部品は、強度を満たすだけでは実用化できません。振動の伝わり方、共振、音の吸収や透過などが、車内の静粛性や快適性に影響します。特にASR由来材料は組成が変動する可能性があるため、配合と音・振動性能の関係を調べる必要があります。
●EUの新規則は、この研究とどのような関係がありますか?
EUの新規則では、新車に使うプラスチックのうち、2032年に15%、2036年に25%を再生材とする目標が定められました。さらに、その再生材の一部を使用済み自動車などに由来する材料とすることが求められます。自動車への再生材利用が制度上必要になることで、ASRを品質の管理された材料へ転換する技術の重要性が高まります。
●実用化に向けて、どのような課題がありますか?
金属片などの異物による成形装置への影響、臭気、原料組成のばらつき、量産時の生産性や品質の安定が課題です。材料性能に加え、EU規則などで再生材としてどのように算定・認証されるかも確認する必要があります。
元記事: Ono Sokki Brings Sound and Vibration Testing to Composites Made from Unsorted Car Scrap