ロシアの静止気象衛星「エレクトロL」が4機体制に、制裁下の次世代開発はなお課題
2026年8月10日 13:02
ロシア国営宇宙企業ロスコスモスは8月6日、最新の静止気象衛星「エレクトロL 5号機」を正式にシステムへ編入した。これにより、同シリーズは2号機から5号機までの4機体制となった。西側諸国による宇宙関連部品の輸出規制が続く中で既存設計の大型衛星を配備できた一方、現在の条件下で次世代衛星を継続的に製造できるかは、なお明らかになっていない。
■エレクトロL 5号機が運用開始、4機体制に
ロシア国営宇宙企業ロスコスモスは8月6日、最新の静止気象衛星「エレクトロL(Elektro-L)5号機」について、技術状態の確認を終え、同名の宇宙システムへ正式に編入したと発表した。これにより、運用中のエレクトロLは2号機、3号機、4号機、5号機の4機となった。
ロスコスモスの発表によると、5号機は赤道上空約3万5786kmの静止軌道上、東経76度に配置された。現在、3号機も同じ東経76度付近で運用されており、今後は3号機を別の経度へ移す可能性が示されている。
エレクトロLが取得するマルチスペクトル画像は、気象予報や海洋・氷雪の監視などに利用できる。こうした広域の地球観測データは軍民両用となり得るが、ロシア国防省による具体的な利用方法は、今回のロスコスモスの発表では示されていない。軌道上で稼働する衛星から独自にデータを取得できることは、国外の観測システムへの依存を抑えるという点でロシアに一定の自律性をもたらす。
■打ち上げから運用開始までの約6カ月間
エレクトロL 5号機は2月12日、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地81/24発射台から、プロトンMロケットで打ち上げられた。プロトンの打ち上げは2023年3月以来、約3年ぶりだった。
NPOラボーチキンが宇宙プラットフォーム「ナビゲーター」をベースに製造した5号機は、同社公表値で質量1640kg、設計上の運用期間は10年以上である。プロトンMの第3段から分離された後、ブロックDM-03(Blok DM-03)上段はRD-58Mエンジンを複数回噴射し、待機軌道、静止トランスファ軌道を経て、衛星を静止軌道へ投入した。5号機は打ち上げから約6時間37分後にブロックDM-03から分離された。
打ち上げから正式編入までの約6カ月間には、軌道上での技術状態の確認や観測機器の試験が行われた。ロスコスモスは、東経76度の静止位置で一連の確認を完了したとしている。なお、原文が述べるマルチスペクトルスキャナの詳細な較正手順や、基準機器との比較方法については、今回確認できた公式発表では明らかにされていない。
■MSU-GSマルチスペクトルスキャナの仕組み
衛星の主要観測機器は、MSU-GSマルチスペクトル走査放射計である。3つの可視・近赤外チャネルと7つの赤外チャネルを備え、計10の波長帯で地球を観測する。
可視・近赤外チャネルの地上分解能は、衛星直下点で約1kmである。赤外チャネルの分解能は約4kmとなる。こうした分解能の違いは、赤外線の波長、検出器の感度、受光量、光学系、S/N比などを含む観測装置全体の設計上のトレードオフによるものであり、光子1個当たりのエネルギー差だけで説明できるものではない。静止軌道からは、衛星から見える地球のほぼ全円盤を継続的に観測できる。
エレクトロLは、画像をHRIT(High Rate Information Transmission、高速情報伝送)およびLRIT(Low Rate Information Transmission、低速情報伝送)形式で配信する。HRITとLRITは、静止気象衛星のデジタルデータ配信について衛星運用機関が採用するCGMS規格であり、名称の違いは主に伝送速度を示している。
エレクトロLのLバンド画像伝送には1691MHz帯が使われている。NOAAのGOES-RシリーズもHRIT形式を使用するが、現在のHRIT/EMWIN放送周波数は1694.1MHzであり、周波数や具体的な実装まで同一というわけではない。エレクトロLの暗号化されていない信号は、衛星の可視範囲内で、対応するアンテナ、低雑音増幅器、ソフトウェア無線受信機などを用いて受信できる。ただし、必要な機器や受信条件は地域と衛星の仰角によって異なる。
気象観測機器に加えて、エレクトロLにはGGAK-E太陽地球物理観測機器群が搭載されており、太陽X線、太陽放射、地球周辺の磁場などを観測する。これらは、衛星運用や電力網に影響を与える可能性がある宇宙天気の把握に利用される。
また、GEOSARペイロードは、国際的な捜索救助システム「コスパス・サーサット(COSPAS-SARSAT)」の一部として、406MHz帯の遭難信号を受信し、地上局へ中継する。
■プロトンによる最後のブロックDM-03ミッション
エレクトロL 5号機の打ち上げは、プロトンMとブロックDM-03上段を組み合わせた最後のミッションとなった。ブロックD系上段とプロトン系ロケットの組み合わせは、ソ連時代から長期間にわたって使用されてきた。
ブロックD系は、もともとソ連のN1月ロケットの上段として開発された。N1は打ち上げに成功しなかったが、ブロックD系はその後、7K-L1月周回飛行計画の試験機、ルノホート月面車、火星・金星探査機、静止通信衛星などの打ち上げに使用された。改良型のブロックDM-03は、2023年のエレクトロL 4号機と、2026年2月の5号機の打ち上げにも用いられた。
ブロックDM-03の初飛行となった2010年のミッションでは、推進剤の搭載量に関する誤りにより、衛星を予定軌道へ投入できなかった。2013年のミッションでは、プロトン第1段の角速度センサーが誤った向きで取り付けられていたことなどから、ロケットが打ち上げ直後に墜落した。その後のブロックDM-03使用ミッションは連続して成功している。
今後のプロトンの打ち上げにはブリーズM(Briz-M)上段が使用される予定である。一方、ブロックDM系を基礎とする上段は、アンガラA5向けに「ペルセイ(Persei)」や「オリオン(Orion)」などの名称で開発・運用が進められている。
プロトン系ロケットの累計打ち上げ回数は、集計対象や試験飛行の扱いによって公開資料間に差がある。このため、原文にある「431回、成功率88.9%」という数値は、特定の集計に基づく参考値として扱う必要がある。
■4機体制がもたらすものと今後の課題
エレクトロL 5号機は東経76度、4号機は東経約165.8度で運用されている。2号機は西経14.5度、3号機は5号機と同じ東経76度付近にあり、4機でロシアの静止軌道上の気象衛星群を構成している。
ロスコスモスは、今後エレクトロL 3号機を、現在2号機が運用されている西経14.5度へ移す可能性があるとしている。2号機はすでに設計上の運用期間を超えている。一方、原文が述べる2号機のLバンド送信機の故障と電源系統の不具合については、衛星受信愛好家向けサイトでは報告されているものの、今回確認できたロスコスモスの発表では説明されていない。
3号機が西経14.5度へ移され、Lバンド画像伝送が行われれば、英国、アイルランド、アイスランド、フランス西部、スペイン、ポルトガルなどで、エレクトロLの信号を受信しやすくなる可能性がある。ただし、移動の実施時期は公表されていない。
4機体制の完成だけでは、現在の輸出規制下でロシアが次世代の大型静止衛星を継続的に生産できるかは判断できない。5号機の設計や部品調達の多くは、2022年2月以前に進められていたとされるためだ。
ナショナル・インタレスト誌は、ロシア最大の通信衛星運用会社が、輸出規制の影響を受けた西側製部品の約60%を2024年半ばまでに国内製または非西側製の代替品へ置き換えたと報じている。一方、米国外交政策研究所(FPRI)は、耐放射線性を備えた宇宙用電子部品の不足に対応するため、ロシアが民生用部品を使った小型で低コストの衛星を重視する方向へ移っていると分析している。これらはロシアの宇宙産業全体に関する分析であり、エレクトロL 5号機の個々の部品構成を直接示すものではない。
■多軌道気象観測体制の構築
エレクトロLによる静止軌道からの観測に加えて、ロシアは長楕円のモルニヤ軌道で2機の「アルクティカM(Arktika-M)」を運用している。アルクティカMは、赤道上空の静止衛星から低い角度でしか見えない北極圏やロシア北部を長時間観測するための衛星である。
ロシアの気象観測体制には、中緯度・低緯度を継続観測するエレクトロL、北極圏を観測するアルクティカM、太陽同期軌道から観測するメテオールM(Meteor-M)シリーズが含まれる。静止軌道、長楕円軌道、太陽同期軌道を組み合わせる点では、複数種類の軌道を利用する他国の気象衛星システムと共通している。ただし、アルクティカMのモルニヤ軌道と、NOAAのPOES/JPSSが使用する極軌道は異なるため、両者の構成がそのまま対応するわけではない。
これらのセンサーから得られる海面水温、雲頂高度、氷雪域などの情報は、気象・気候監視に利用できるほか、安全保障分野でも利用される可能性がある。もっとも、今回確認できた公式資料は、エレクトロLの主な目的を気象・海洋・宇宙天気の観測、データ中継、捜索救助信号の中継としており、国防機関による具体的な運用内容までは示していない。
エレクトロL 5号機のシステム編入は、ロシアが既存設計を基礎とする4機の静止気象衛星を同時に運用する段階へ到達したことを示す。一方で、輸出規制の影響を受ける部品を置き換えながら、次世代の大型衛星を安定的に生産できるかは、今後の衛星計画によって評価する必要がある。
■注目ポイントQ&A
●ロシアのエレクトロLは、NOAAのGOESと比べてどうですか?
エレクトロLのMSU-GSは、可視・近赤外3チャネルと赤外7チャネルの計10チャネルを備えています。地上分解能は可視・近赤外で約1km、赤外で約4kmです。これに対し、NOAAのGOES-Rシリーズに搭載されたABIは16チャネルを備え、可視光の一部では最大約500mの分解能を持ちます。このため、観測チャネル数と最高空間分解能ではGOES-Rシリーズの方が高性能です。
エレクトロLとGOES-RシリーズはいずれもHRIT系のデータ配信を利用していますが、エレクトロLの画像伝送は1691MHz帯、GOES-RシリーズのHRIT/EMWINは1694.1MHzであり、具体的な無線仕様は同一ではありません。
●西側の輸出規制はロシアの宇宙プログラムを減速させましたか?
エレクトロL 5号機だけから判断するのは困難です。5号機は2022年2月以前に設計と部品調達の多くが進められていたとされるため、制裁後に大型衛星を一から製造する能力を直接示す事例ではありません。
ロシア企業による西側製部品の代替が進んだとの報道がある一方、耐放射線性を備えた宇宙用電子部品の不足により、民生用部品を利用した小型衛星を重視する動きがあるとの分析もあります。現在の条件下で次世代の大型静止衛星を製造できるかが、より重要な試金石になります。
●エレクトロL 3号機は今後どうなりますか?
ロスコスモスは、3号機を東経76度から西経14.5度へ移す可能性があるとしています。西経14.5度では、設計上の運用期間を超えた2号機が稼働しています。
3号機が移動してLバンド伝送を行えば、西ヨーロッパやイギリス諸島、アイスランドなどで信号を受信しやすくなる可能性があります。ただし、移動の実施時期は発表されていません。
●HRITとLRITはどのような規格ですか?
HRITは「High Rate Information Transmission」、LRITは「Low Rate Information Transmission」の略で、日本語ではそれぞれ高速情報伝送、低速情報伝送と訳されます。静止気象衛星からデジタルデータを直接配信するために、気象衛星運用機関の国際調整組織であるCGMSが定めた規格です。
名称が示す通り、主な違いは伝送速度です。一般にLRITでは、HRITで提供されるデータの一部を抽出したり、解像度を下げたり、圧縮したりして伝送する場合があります。衛星ごとの周波数、変調方式、暗号化の有無などは運用機関によって異なります。
元記事: Russia Completes Geostationary Weather Fleet Despite Space-Grade Export Controls