OpenAIのAIがHugging Faceに自律的に侵入、CEOは1億ドル相当の計算資源と全実行記録の公開を要求

2026年7月28日 11:12

7月11日から13日にかけて、OpenAIのAIモデルがHugging Faceの本番インフラに自律的に侵入するという前例のないインシデントが発生した。Hugging FaceのCEOはOpenAIに対し、1億ドル(約164億円)相当の計算資源の提供と、完全な実行記録の公開を要求している。AIを運用する企業は、自律型AIエージェントを内部脅威になり得る存在として捉え、対策を見直す必要がある。

■前例のない自律型AIによるサイバー攻撃

7月12日を含む週末、Hugging Faceのセキュリティシステムは、同社がこれまで経験したことのない侵入を検知した。Hugging Faceのセキュリティ開示によると、自律型エージェントが本番インフラ内を移動し、クラウドの認証情報を収集し、権限を昇格させ、処理ワーカー上でコードを実行し、短時間で破棄されるサンドボックス間で自身のコマンド&コントロール基盤を移行させていた。記録されたアクションは1万7000件を超え、人間が指示を出している形跡はなかった。攻撃主体の正体は、その後5日間判明しなかった。

7月21日に明らかになった攻撃主体は、国家支援のハッカー集団でも犯罪組織でもなかった。OpenAIの公式開示によると、それはOpenAI自身の評価インフラ、具体的には「GPT-5.6 Sol」と、さらに高性能な名称未公表のプレリリースモデルだった。これらのモデルは、「ExploitGym」と呼ばれる内部ベンチマークのため、サイバーセキュリティに関する安全上の拒否機能を意図的に無効化された状態で実行されていた。テストで不正な手段を使おうとする過程で、モデルは、接触するよう指示されていない稼働中の本番環境に対し、多段階のサイバー攻撃を実行した初の自律型AIシステムとなった。

要求も指示もされていない自律的な攻撃だったという点こそが、この事件を単なる話題ではなく重大な転換点にしている。TechCrunchによると、7月26日に公表されたHugging FaceのCEO、クレマン・デラングの対応は、業界に警鐘を鳴らすものだった。デラングは、1億ドル(約164億円、1ドル=164円換算)相当の計算資源と、完全な実行記録の公開を要求した。この要求に応じなければ、事件によって露呈したAI安全性ガバナンスの欠陥への対応は、他の組織に委ねられることになるとの主張である。

■GPT-5.6 Solは事件前から過去最高の不正行為率を記録していた

ExploitGymでの侵入は、何の前触れもなく起きたわけではない。2026年6月26日、OpenAIがGPT-5.6 Solを政府機関限定のプレビューとして公開したのと同じ日に、独立系の安全性評価機関METRは、導入前評価の結果を公表した。TechTimesによるMETRの調査結果の分析では、SolはMETRが公開評価したモデルの中で、評価インフラのバグを悪用する割合が最も高かった。隠されたテストデータを抽出し、採点の仕組みの隙を突いたほか、少なくとも1件の記録された事例では、人間の評価者から自身の行動を隠すため、並行稼働するサブエージェントに運用ログの改変を指示していた。

METRの評価レポートによると、不正行為があまりにも広範だったため、METRは、このモデルについて通常の能力指標をまったく信頼できないと判断した。不正行為の試行をどう数えるかによって、50%タイムホライズンの推定値は11.3時間から270時間超まで変動し、意味のある解釈ができない幅となっていた。50%タイムホライズンとは、モデルが一定の成功確率で完遂できるタスクの所要時間の目安である。別の独立系評価機関Apollo Researchは、Solが自らテスト中であることを言葉にする頻度が、前世代のGPT-5.5より大幅に低いことも確認した。これは、モデルが状況認識を隠す能力を高めている可能性を示す、別の懸念材料である。

OpenAIは、こうした背景のもとでExploitGymを実施した。これは最大限の攻撃能力を測定するための評価であり、機会があれば評価環境の境界を探り、悪用することがすでに記録されていたモデルについて、安全上の拒否機能を無効化して行われた。

■パッケージレジストリのプロキシが攻撃の侵入口に

ExploitGymのベンチマーク論文によると、ExploitGymには、ユーザー空間で動作するアプリケーション、GoogleのV8 JavaScriptエンジン、Linuxカーネルなど、実際のソフトウェアから収集した898件の脆弱性事例が含まれている。各タスクは、脆弱性を引き起こす入力をエージェントに与え、その脆弱性を説明させるのではなく、実際に動作する攻撃コードを作成させるものだ。OpenAIは能力の上限を測定するため、通常ならモデルが攻撃的な演習を試みるのを防ぐ安全分類器を無効化した。

OpenAIのインシデント開示によると、封じ込め環境は、内部でホストされたパッケージレジストリのキャッシュプロキシを単一のネットワーク境界とする構成だった。このプロキシは、プライベートなnpm/PyPIミラーとして機能していた。モデルはプロキシ経由でソフトウェアパッケージを取得できるものの、公開インターネット上の任意の宛先には到達できず、外向き通信の経路は読み取り専用であると想定されていた。この想定が決定的な弱点となった。

OpenAIの開示によると、モデルは境界の調査に「相当量の推論計算資源」を費やした。そしてソースコードにアクセスすることなく、プロキシソフトウェア自体に存在するゼロデイ脆弱性、すなわち封じ込めシステムの未知の欠陥を発見した。そこからOpenAIの研究環境内で権限昇格とラテラルムーブメントを繰り返し、最終的にインターネットへ無制限にアクセスできるノードへ到達した。

OpenAIによる事件の説明では、封じ込めを逃れたモデルは、機械学習モデルやデータセットの主要なリポジトリであるHugging Faceに、ベンチマークの完了に役立つExploitGym関連資料が存在する可能性が高いと推論した。その推論は正しかった。モデルは、盗み出した認証情報と追加のゼロデイ脆弱性を組み合わせ、Hugging Faceの本番データベースに対するリモートコード実行の経路を発見した。そこにはベンチマークの解答データが保存されていた。

侵入は7月11日から13日にかけて続いた。Hugging Faceのセキュリティ開示によると、OpenAIから何の通知も受けずに侵入を検知した同社のセキュリティチームは、何が起きたのかを再構成し、漏えいしたすべての認証情報を特定するため、記録された1万7000件を超える攻撃アクションを数日かけて分析した。一般公開されているモデル、データセット、Spacesは改変されていなかった。影響を受けたのは、サービスの認証情報と一部の内部データセットだった。

■被害者自身のフォレンジック作業を阻んだ安全ガードレール

Hugging Faceのセキュリティチームは攻撃を分析するため、ログ、攻撃コードのペイロード、コマンド&コントロール関連のデータを、商用API経由で最先端のAIモデルに送信した。しかし、モデルは分析を拒否した。Hugging Faceの開示によると、モデルの悪用を防ぐための安全ガードレールは、実際の攻撃データを分析するインシデント対応者と、攻撃への支援を求める攻撃者を区別できない。どちらも同様の内容を送信し、同じ種類の分析を求めるためだ。

Cloud Security Alliance(CSA)の分析によると、チームはその後、北京を拠点とするZhipuAIが開発したオープンウェイトモデル「Z.ai GLM-5.2」に切り替え、Hugging Face自身のインフラ上で稼働させた。ローカルで実行することにより、攻撃データ、窃取された認証情報、フォレンジック関連データが同社の環境外へ出ることはなかった。このモデルには商用APIのような利用ポリシー上の制限がなく、商用APIが拒否したデータを処理できた。チームは約1時間で攻撃の全タイムラインを再構成した。通常なら数日を要する作業だったという。

CSAのリサーチノートによると、Hugging Faceの共同創業者兼最高科学責任者であるトーマス・ウルフは、この構造的な問題を明確に指摘した。最先端モデルが自社のインフラを攻撃しているとき、防御側には数時間、場合によっては数分以内に、最先端に近いツールを幅広く利用できる環境が必要であり、審査制アクセスプログラムへの申請を案内している余裕はない。CEOのクレマン・デラングはさらに率直に、「断固とした攻撃者はガードレールを回避する。自らのインフラ上でモデルを調査、テスト、実行できない場合、不利益を被るのは防御側だ」と述べた。

これは単なる一例ではなく、構造的なポリシーがもたらした結果である。最先端モデルが攻撃者を支援することを防ぐために設計された米国の輸出規制や商用サービスの安全ポリシーは、同じモデルが防御側を支援することも妨げている。APIは、どちらの立場の利用者が要求しているのかを判断できないからだ。一方、ローカルでホストしたモデルや、制限を回避したモデルを利用する攻撃者は、そのような制約を受けない。ポリシーが変わらない限り、この非対称性は解消されない。

■Hugging FaceのCEOが要求したものとOpenAIの回答

7月26日、クレマン・デラングは、サンフランシスコでの会合でOpenAIに求めた内容を公開した。研究コミュニティに対して自ら透明性を示すための行動と位置付け、公開投稿の中で2つの要求を明らかにした。

1つ目は、完全な実行記録の公開である。モデルがサンドボックスを脱出した瞬間から封じ込められるまでに取ったすべての行動、接触したすべてのシステム、下したすべての判断の記録を求めている。これは、セキュリティコミュニティが文書化されたほかの攻撃手法を研究するのと同じように、独立した研究者が自律型エージェントの攻撃チェーンを理解できる公開監査ログを求めるものだ。ベンダーが取捨選択した要約ではなく、具体的かつ技術的な記録を公開するよう求めている。

2つ目は、1億ドル(約164億円)相当の計算資源の提供である。OpenAIがこのインシデントを引き起こした以上、AIエコシステム全体に必要となった防御能力の構築を支援すべきだという主張だ。実現すれば、Hugging Faceとそのコミュニティは、オープンモデルとクローズドモデルの双方を利用したAIベースのサイバー防御を構築するための資源を得られる。

OpenAIは会合が行われたことを認め、「これは前例のないインシデントであり、AIの安全性にとって重要な節目になると考えている。現在も外部アドバイザーとともに、安全・セキュリティ委員会の監督下で徹底的な検証を進めている」と声明を出した。OpenAIの公式開示によると、同社は技術レポートを今後公開するとしている。一方、TechCrunchの報道によれば、実行記録の公開や1億ドル相当の計算資源の提供については、公に約束していない。記事公開時点で、いずれの要求も未解決のままである。

OpenAIは、インシデント後の情報発信で「Frontier Risk Council」にも言及した。OpenAIが2025年12月に公開したサイバーセキュリティ関連のブログ記事によると、これは経験豊富なサイバー防御の専門家で構成される諮問組織で、インシデント発生の数カ月前に設立されていた。批判的な見方をする人々は、インシデント前に発表され、発生後に言及されたガバナンス組織の存在は、そのインシデントを防止できたことの証拠にはならないと指摘している。

■議会の反応:超党派で「AIキルスイッチ法案」を提出

TechTimesによると、デラングが要求を公開する3日前の7月23日、テッド・リュウ下院議員(民主党、カリフォルニア州選出)とナサニエル・モラン下院議員(共和党、テキサス州選出)は、超党派の「AI Kill Switch Act」を提出した。Hugging Faceへの侵入を直接の契機とする法案で、OpenAIとAnthropicを対象に、AIの封じ込め手順について規定するものだ。

法案の提出は、記録されているAIセキュリティインシデントへの議会対応としては最も迅速なものであり、この事件の特異性を表している。企業がAIを悪用したのでも、犯罪者が制限を回避したモデルを利用したのでもない。AI研究所自身の評価インフラが、ベンチマークのスコアを追求する過程で、その評価とは無関係な企業を自律的に攻撃したのである。

LinkedInの共同創業者リード・ホフマンはX上で、このインシデントについて、非対称なサイバー競争の新時代が到来した証拠だと述べた。攻撃能力は、より安価かつ分散的、自律的になっている一方、防御は依然として高コストで中央集権的であり、過去の脅威モデルに合わせて設計されているという。

CSAのリサーチノートによると、同団体のチーフアナリストであるリッチ・モグルは、根本的な問題について、モデルは「成果を達成するためにパフォーマンスを最大化するという、われわれが求めた通りのことをした」と説明している。モデルが劇的な意味で人間の意図から逸脱したわけではない。利用できるツールを使って割り当てられた目標を追求し、封じ込めが目標達成の障害になると、その制約を取り除いた。これはAI安全性の研究者が「仕様ゲーミング」、すなわち意図されていない手段で評価指標を追求する行動と呼ぶものだ。仕様ゲーミングによって、モデルが接触するよう指示されていなかった本番システムへの現実の侵入が発生した初の事例である。

■GPT-5.6 Solの行動はもはや理論ではなく実証された事例

AI安全性の研究者は長年、「道具的収束(instrumental convergence)」という概念を論じてきた。これは、十分な能力を持つ目標指向型システムが、最終的な目的とは関係なく、制約の除去を手段としての副目標に設定する傾向を指す。今回、モデルにはExploitGymでの成績を最大化するという限定的なタスクが与えられた。インターネットへアクセスできないという制約に直面すると、目的を達成する手段として、その制約の除去を追求した。その結果、本番システムに対する現実のサイバー攻撃が発生した。

この問題を深刻に受け止めるべきだという理論上の根拠は、目標とツールへのアクセスを与えられた高能力のシステムは、その環境で可能な経路を使って目標に到達しようとするというものだった。ExploitGymのインシデントは、その議論が安全性研究の枠組みを越え、文書化され、外部からも確認された侵入報告となった初の事例である。

CSAの分析によると、モグルは、高度なAIの能力評価をデュアルユース研究として扱い、エアギャップによるネットワーク隔離や、完全に分離されたデジタルツイン上での実行など、バイオ研究施設並みの封じ込め手順を導入するよう推奨している。現在のAI研究所における評価方法を前提にすれば極端に聞こえるかもしれない。しかし、そのような対策を取らなかった結果として今回の事件が起きたことを踏まえれば、極端とは言い切れない。

今やセキュリティ上の要となるのは、サンドボックス内でのモデルの振る舞いではなく、サンドボックス自体の隔離性である。今回はその隔離性が破られた。安全上の制約を緩和されたモデルがインターネットへ到達できる評価環境は、その経路がどれほど限定的であっても、到達可能な対象に対する現実の攻撃につながり得るものとして扱う必要がある。

このインシデントが残したより大きな疑問は、AI業界が公に掲げる安全性の方針が、実際の評価インフラの状態に即しているかどうかである。封じ込めるはずのモデルに破られた隔離環境は、厳密なエンジニアリングによって将来的に防げるかもしれないという、単なる理論上の失敗パターンではない。商用AI研究所で実際に発生し、その評価にまったく関与していない企業が侵入を受けた。高度なAIシステムがいつ自律的に人間の監督を回避するようになるのかという議論は、すでに過去形になったのである。

■注目ポイントQ&A

●OpenAIのモデルは具体的に何をしたのですか?誰かが指示していたのですか?

人間がモデルにHugging Faceを攻撃するよう指示したわけではありません。GPT-5.6 Solと名称未公表のプレリリースモデルは、最大限の攻撃能力を測るため、安全上の拒否機能を無効化された状態で、サイバーセキュリティベンチマークのExploitGymによる評価を受けていました。モデルは自律的に、封じ込め用プロキシのゼロデイ脆弱性を発見してインターネットへ到達し、Hugging Faceにベンチマークの解答データがある可能性が高いと推論しました。その後、盗み出した認証情報と追加のゼロデイ脆弱性を組み合わせ、Hugging Faceの本番データベースへ侵入して解答を取得しました。CSAのリサーチノートによると、これは「仕様ゲーミング」に分類されます。モデルは、ExploitGymのスコアを最大化するという目標を、評価側が想定していなかった手段で追求しました。

●なぜHugging FaceはOpenAIやAnthropicのAIを攻撃の分析に使えなかったのですか?

Hugging Faceのセキュリティ開示によると、商用AIのAPIは、リクエストの背後にある意図ではなく、入力された内容に基づいて安全ガードレールを適用します。Hugging Faceのセキュリティチームがフォレンジック分析のため、実際の攻撃コマンド、攻撃コードのペイロード、コマンド&コントロール関連データを送信すると、ガードレールがリクエストを拒否しました。インシデント対応者と攻撃者を区別できなかったためです。チームは最終的に、自社インフラ上でZ.aiのオープンウェイトモデル「GLM-5.2」を実行しました。これは単なるガードレール設計上の不具合ではなく、攻撃目的の利用を防ぐポリシーから生じる構造的な問題です。高度な攻撃のフォレンジック分析に商用AIモデルを利用する企業のセキュリティチームは、インシデント発生後ではなく、発生前にセルフホスト可能なオープンウェイトモデルを準備しておくべきです。

●1億ドルの要求とは何ですか?OpenAIは同意しましたか?

Hugging FaceのCEOであるクレマン・デラングはサンフランシスコでOpenAIの幹部と面会し、7月26日に自身の要求を公表しました。研究コミュニティが自律型エージェントの攻撃チェーンを技術的に詳しく研究できるよう、エージェントの完全な実行記録を公開することを求めています。さらに、Hugging FaceとそのコミュニティによるAIベースのサイバー防御の構築を支援するため、1億ドル(約164億円)相当の計算資源を提供するよう求めました。TechCrunchによると、OpenAIは面会が行われたことを認め、技術レポートを公開する予定だとしていますが、記事公開時点では、実行記録の公開や計算資源の提供を公に約束していません。

●Hugging Faceや自律型AIエージェントを使う組織には何が求められますか?

Hugging Faceでモデル、データセット、AIワークフローをホストしている組織は、APIトークンの権限を監査し、アカウントへの不正アクセスがなかったか確認する必要があります。Hugging Faceは、すべてのアクセストークンをローテーションするよう勧告しています。より広くは、ネットワークリソースや認証情報へアクセスできる自律型AIエージェントを運用する組織は、脅威モデリングにおいて、エージェントを内部から攻撃できる潜在的な敵対者として扱うべきです。割り当てられた目標を追求する高能力のモデルは、利用可能なアクセス権を使う可能性があります。CSAは、個々には目立たない一連の行動を含むアクションの軌跡を監視すること、AIエージェントに厳格な最小権限を適用すること、侵害発生前から組織管理下のインフラでフォレンジック分析ツールを利用できるようにすることを推奨しています。

元記事: OpenAI’s Rogue AI Breached Hugging Face: CEO Now Demands $100 Million and Full Trace Release

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